真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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 どうも、お久しぶりです…!長らくお待たせしまった事をまずはお詫び申し上げます…!


 最新幕、投稿させていただきました!どうぞ…!


山賊討伐(前)

 孫堅が本拠としている長沙から少し離れた山中、そこには荊州南部を荒らしまわる賊の根城があった。…無論今となっては孫策率いる孫呉の軍勢によって完膚なきまでに殲滅させられてしまったが。

 

 

 その戦場に壮也は戦装束を纏い、得物である鋼鎌武断を手に立っていた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 事の始まりは丁奉らの武具を作って少し経った頃、雪蓮が自身の鍛冶場を訪れた事が切っ掛けだった。

 

 

「賊の討伐に?」

 

 

「ええ。母様がこの長沙に赴任する前、この辺りは区星という男が周辺の賊を纏め上げて暴れまわっていたのよ。それを母様が叩き潰した事で四散したんだけど…時折こうして残党が集まってくるの。それで母様は私や蓮華とかに経験を積ませる為、討伐に向かわせる事があるのよ」

 

 

 そう言いながら、持参したと思われる酒瓶を口に運んで中の美酒を味わうと、雪蓮は徐に問いかけてきた。

 

 

「それでなんだけど、貴方も一緒に来てくれないかしら?母様も一目置いた貴方の武勇を改めて見てみたいし、以前貴方が作ってくれた私の新しい得物…この虎双焔棍(こそうえんこん)の手入れとかもしてくれると嬉しいんだけど…駄目かしら?」

 

 

 そう言いながら雪蓮が腰に交差させるようにして下げている武具ー旋棍と呼ばれる、現在でいうトンファーにあたる武器で、雪蓮に対し壮也が送った武具であるーを叩きながら問いかけてきたので、宗也も頷いてこれに答えた。

 

 

「そうだな…いつも鍛冶作業ばかりをしているし、戦いの勘を取り戻すのもいいかもしれない。分かった、同行させてもらうよ」

 

 

「っ!そう、良かった!それじゃあ『雪蓮、ここにいたのか?』冥琳?あなたどうしてここに…」

 

 

 壮也の返答に喜びを露にした雪蓮が早速連れ出そうとした時、入口の方から雪蓮に呼びかける声が響く。これに雪蓮が振り返ると、そこには雪蓮と同じく褐色の肌をし、腰よりも下まで伸ばした黒髪を靡かせた、知的な雰囲気を醸し出す翡翠の瞳に眼鏡をかけた女性が立っていた。

 

 

「ああ、冥琳か。雪蓮を迎えに来たのか?」

 

 

「戻ってこないから探しに来たんだが、壮也の下に来ていたのか?まったく…済まないな壮也。雪蓮が迷惑をかけてなかったか?」

 

 

「ちょっと冥琳!迷惑なんてかけてないわよ!賊の討伐があるから一緒に来ないかって誘っただけよ!?」

 

 

 冥琳と呼ばれた女性の呆れた様な指摘に、雪蓮が異議を唱えだしたのを見た壮也は苦笑しながらも二人を宥めた。

 

 

「雪蓮、冥琳。二人ともその辺にしといたほうがいいぞ?…そろそろ出陣なんじゃないのか?」

 

 

「え、ええそうね!先行ってるわよ、冥琳!!」

 

 

 そう言いながら、城外の集合地点に向かっていった雪蓮の背中を見送りながら、壮也は残された冥琳と呼ばれた女性に声をかけていた。

 

 

「それじゃあ、俺も準備をして来るよ。冥琳…いや、周瑜殿」

 

 

「おや…?壮也よ、私はすでに真名を預けたのだぞ?その様に他人行儀で呼ばれるのは少し不満なのだがな」

 

 

「それはそうなんだけど…。雪蓮、もとい孫策と断金の交わりを結び、彼女にとって掛け替えのない戦友でもある周瑜殿を真名で呼びかけるのは、流石に無礼じゃないかと思ってね。今も無礼じゃないかと内心ひやひやしていたんだぞ?」

 

 

 壮也がそう言いながら照れ臭そうに頬を指で掻いていると、冥琳…周瑜は困ったような笑みを浮かべながら答えた。

 

 

「ふふふ…大殿の命を救い、戦場をかけた豪傑がここまで謙虚だったとはな。安心してくれ、私も大殿を救い、そして孫呉の危機を救ってくれたお前に感謝しているのだ。少なくとも、真名を授けるぐらいには信頼しているつもりだ。…では壮也よ、私も軍の指揮を執らなければならないからな。先に行っているぞ」

 

 

「ああ、わかったよ冥琳」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 さて、改めて説明すると冥琳と言う真名で呼ばれたこの女性…彼女こそ三国志は孫呉において、劉備や曹操も一目置いた軍師である『周瑜公瑾』その人である。

 

 

 本来の歴史において孫堅が黄祖との戦いの中で討死し、遺された孫策らは袁術の下で雌伏の時を余儀なくされる。

 

 

 やがて孫策は父である孫堅が見つけた、反董卓連合に参加した時に廃墟となった洛陽に一番乗りした際、市内にあった古井戸の中に埋もれていた『伝国璽』を代価として差し出す事で、袁術から独立のための兵馬を借り受け、後世において小覇王と讃えられる程の快進撃を成し遂げる事になるのだが、その孫策の腹心として彼を支えたのが、その美麗な顔立ちから『美周郎』とあだ名される事もあった『周瑜・公瑾』である。

 

 

 孫策と周瑜は幼少時、孫策が母と共に江東は廬江郡に移り住んだ時から家族同然の付き合いをしていた。やがて孫策が袁術から兵馬を借り受けて立ち上がった時には、一番に駆け付けて彼の快進撃を大いに支えた。

 

 

 その後孫策が急逝し、弟の孫権が後継者となると、孫呉の諸将や食客達は若い孫権の事を軽んじていたのだが、周瑜は孫権に率先して臣下の礼を取り、規範を示したため、周囲もそれに従うようになった。

 

 

 そして赤壁の戦いでは、自らが指揮を執り攻め寄せた曹操軍の大船団を火計を駆使した軍略を以て撃退し、天下にその名を轟かせた。しかし周瑜はその後荊州争奪戦において曹仁らと激闘を繰り広げる中で、右のわき腹に流れ矢を受けて傷を負ってしまう。

 

 

 その後周瑜は曹操が赤壁での疲弊から軍事行動を起こせないと考え、劉璋の支配が動揺していた益州を占領し、益州は孫瑜に任せた上で、関中の馬超と同盟を結び、自らは襄陽から曹操を攻めるという計画を立て、孫権の元に出向き、その同意を取り付けた。しかし、その遠征の途上に巴丘にて36歳という若さで急逝してしまう事になる。

 

 

 その死を知った孫権は大いに嘆き悲しみ、後に孫権が帝位に昇った時には『周瑜がいなければ私は皇帝にはなれなかっただろう』と嘆いたほどだった。

 

 

 三国志演義では一国を担う将器・常人に勝る才幹を持つ人物として描かれているものの、それを更に圧倒する鬼謀を備えた諸葛亮の、引き立て役にされてしまったというイメージが強く、臨終の際にも諸葛亮からの挑発的な書状を読み、天を仰いで「既に周瑜を生みながら、何故諸葛亮をも生んだのだ!(既生瑜、何生亮)」と血を吐いて憤死するという最期となってしまった。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 鍛冶場の傍に建てられた家屋に戻った壮也は、戦装束を身に纏うと得物である鋼鎌武断を手にし、厩に繋げている黒風の下に赴くとこれに跨り、早速城門の方へ向かっていった。

 

 

 そこには既に賊徒討伐の準備を整えた将兵ー中には椿達将軍見習いの者達も、自分が作った武具を手に活躍をせんと意気込んでいるーらが集合しており、その将兵が視線を向ける先には馬上の人となっている雪蓮と、蓮華の姿があったのである。それを見た壮也は彼女たちの傍に馬を寄せた。

 

 

「待ってたわよ宗也!」

 

 

「済まない雪蓮。今回は蓮華も共に行くのか?」

 

 

「ええ。私も今回の討伐に参加するように母様から言われてね。…姉さま、そろそろ」

 

 

「そうね……聞け、皆の者!これより我らは長沙の近隣に割拠する賊の討伐に向かう!情け容赦は無用!罪無き民を手にかけんとする賊共に、我らの刃を突き立ててやれ!!」

 

 

 そして雪蓮が腰に刺している、孫呉に代々伝わっているという『南海覇王』と呼ばれる宝剣を引き抜いて高らかに号令をかけると、将兵らもそれに応えるかの如く手にしている武具を高々と掲げながら咆哮を轟かせた…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 そうして出発した雪蓮、蓮華率いる孫呉の将兵で構成された討伐隊は長沙から少し離れた山中に隠す様にして建てられた山塞を発見する。

 

 

 この山塞に陣取っていたのは、炎蓮によって討伐された区星を首領として戴いていた、零陵郡を根城にして暴れ回っていた賊の頭目である周朝と、桂陽郡を根城にして暴れ回っていた賊の頭目である郭石と言う二人組だった。

 

 

 彼らは区星が長沙で賊徒1万人を率いて城を攻撃した際、区星に呼応して攻め寄せたのだが、朝廷から長沙郡の太守に任じられた炎蓮こと孫堅によって文字通り一蹴されてしまい、頭目の区星は賊ではあったが、頭目として逃げる事を潔しとせずに炎蓮に向かっていくも、一合も交える事もなく炎蓮に頭蓋を叩き割られて命を落としてしまった一方で、この二人は自分達によく似た他人に自分達の兜を被らせる事で討死を装って逃げ延びていたのである。

 

 

 その後自分達が根城としている零陵郡と桂陽郡で息を潜めていたのだが、漸く先の敗戦の痛手が回復した事で再び長沙郡を襲おうと考え、こうして山塞を築いて攻め寄せる機会を狙おうとしていたのだが…すでに彼らの動きは、密偵の役割も担っている思春と明命らによって悟られてしまっており、気づいた時には要塞内部で兵糧庫が燃やされるなどの混乱が起こった直後に、山塞に討伐隊が攻め寄せている有様となっていた…!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 山塞の奥ばった場所に建てられた立派な建築の家屋。それがこの山塞を根城にし、長沙郡を襲撃しようと画策していた賊徒の頭目である周朝と郭石が詰めている本陣であるのだが…、

 

 

「や、やべえぞ周朝!?孫呉の奴ら、俺達の動きを読んでやがった!??逃げる事も出来なさそうだし…ど、どうすんだよぉ!?」

 

 

「馬鹿野郎、取り乱すんじゃねえよ郭石!?聞きゃあ今回の討伐隊を率いてんのは孫堅の娘って話じゃねえか!?あの化け物女が出張ってきてねえのなら勝機はあるんじゃ…」

 

 

 疾風迅雷と言う感じで攻め寄せてきた討伐隊の襲撃に、長身痩躯に青い頭巾をかぶっている、短い顎髭を生やしている風貌の男性…頭目の一人である郭石は頭から冷水をかけられたかのように混乱を隠し切れないでいた。

 

 

 一方の背は低いのだが、現代の相撲取りを彷彿とさせる体格をした男性…郭石と同じく賊の頭目の一人である周朝も動揺しているという点では同じではあるものの、攻め寄せてきた討伐隊の大将が、かつて自分達を纏め上げていた頭目の区星を文字通り一太刀で頭蓋を叩き割って仕留めてしまったあの化け物女…孫堅ではないと言うので楽観視していたのだが…。

 

 

「お頭ぁ!?城門が破られそうになってやす!?城壁にも次々と取りつかれていて、本陣に乗り込まれるのも時間の問題ですぜぇ!?」

 

 

 …直後に本陣に乗り込んできた賊兵の一人の悲痛さがひしひしと感じさせる報告が響いた途端、とうとう郭石は両手で頭を抱えて膝をついてしまった。

 

 

「も……もう駄目だぁ!??あの化け物女が来てなくても、孫呉の奴らべらぼうに強えじゃねえかぁ!?」

 

 

「落ち着け郭石!!……かくなる上はこれしかねえな」

 

 

 絶望に打ちひしがれた郭石を叱り付けた周朝は…やがて何かを決意したかのような表情を浮かべる。

 

 

「な、何だよ?!何か起死回生の一手でもあんのかよ!?」

 

 

「この山塞を作る時、周辺の地形とかを調べておいたんだよ。…地図持ってこい!」

 

 

 周朝が部下に命じ、部下がこの近くの地形を記した地図を持ってこさせると机に地図を広げて、ある地点を指さした。

 

 

「今孫呉の討伐隊ってのが本陣を置いてんのがここだ…実は山塞を作った時、この近辺に出られる抜け道を作っておいたんだよ。だから俺かお前のどっちかがこの抜け道を通って本陣に奇襲を駆けんだ!!」

 

 

「は、はあああああ!??あの化け物女が来てなくてここまで追い詰められてんだぞ!?そりゃ無理ってもんだろ!?」

 

 

「ここで亀のように籠っててもこうして追い詰められてんだろ!?それなら一発逆転をかけるしかねえだろうが!?…籤を作るからちょっと待ってろ」

 

 

 そう言うと周朝は手ごろな紙を一枚破ってこよりを二つ作ると、それを握りしめながら郭石に握りこぶしを差し出した。

 

 

「長い方を引いた奴が奇襲を駆けんだ。万が一…いや、億が一でも奇襲をかけて大将に手傷を負わせられたのなら、俺達は助かるんだ!!覚悟を決めろ!?」

 

 

「……わ、分かった」

 

 

 周朝の鬼気迫る問いかけに郭石も観念したのか、大人しくこよりの一本を取り上げると…周朝の方が短かった。

 

 

「俺がとりあえず時間を稼ぐ。てめえは手勢を連れて本陣に奇襲をかけてこい!」

 

 

「畜生…運が悪いぜ本当!?死ぬんじゃねえぞ周朝!?」

 

 

 自分の運のなさを悔やみながらも、共に手を組んだ相棒の無事を祈りながら郭石は50名ほどの手勢を引き連れて隠し通路へと入っていった。

 

 

 その後ろ姿を見送りながら周朝が隠し通路の扉を閉め、分からないように戸棚を移動させてふさいだ直後…本陣の扉が破壊され、血飛沫を上げながら賊兵が吹き飛ばされ、地面を転がった。

 

 

 そして本陣の家屋に乗り込んできたのは深紅の戦装束を纏い、血に塗れながらもその鋭さに一切の陰りもない宝剣を手にした女性…雪蓮こと孫策その人だった。彼女は自身の腹心でもあり、親友でもある冥琳。そして手勢の将兵数人を引き連れてきており、恐らく自分以外の手勢は悉くあの世に堕ちたのが容易に伺えた…。

 

 

「貴様が賊の頭目の一人、周朝ね?」

 

 

「…まさか、あの化け物女の娘も化け物だったとはなぁ。俺らも焼きが回ったもんだぜ」

 

 

 自分の手勢もそれなりには腕が経つ連中だったのだが、それがいとも簡単に一蹴された事に乾いた笑みを浮かべる周朝だったが…。

 

 

「…?雪蓮、何かおかしいぞ。周朝、もう一人の頭目である郭石はどこへ行った?」

 

 

「さあな…あの野郎、てめえらの鬼神の如き戦いぶりにぶるって逃げ出しやがったみたいでな。どこ行きやがったのか…」

 

 

 もう一人の頭目である郭石の姿が見えない事に疑問を覚えた冥琳が問いを投げかけるも、のらりくらりと言を左右にする。そうして周朝は得物である砕棒ー巨大な鉄塊を柄の先に取り付けた形状の大型鈍器ーを構えた。

 

 

「さてと…どのみち俺の様な人間は碌な最期を遂げねえんだ。それなら最後くらい、派手に死んでやろうじゃねえか!!」

 

 

「…賊の頭目のくせに、妙に潔いじゃない。いいわ、なら最後は私が止めを刺してあげる。冥琳、これ持ってて」

 

 

 覚悟を決めたかのように得物を向けてくる周朝に、珍しく感心した雪蓮は南海覇王を鞘に納めるとそれを冥琳に手渡した。

 

 

「っ!おい雪蓮、なぜ南海覇王を…まさか宗也から贈与されたそれを使うのか?」

 

 

「ええそうよ。せっかく彼が私に作ってくれたんだもの。使ってあげなくちゃもったいないでしょ?」

 

 

 そう笑みを浮かべながら答えた雪蓮が、腰に交差させるようにして差している得物…宗也が製作した武具の一つである、深紅の色合いをした『虎双焔棍(こそうえんこん)』と銘打たれた旋棍を両手に装備した。

 

 

「はっ!使った事もない様な得物で戦おうってのかよ!俺も甘く見られたもんだなぁ…!」

 

 

「そう思うのなら、懸かってきたらどうかしら?」

 

 

「言われるまでもねえやぁ!!」

 

 

 雪蓮の挑発に応えるかの如く、周朝は手にしている砕棒を振り上げながら突貫する。狙うのは旋棍を構える女の頭蓋!伊達に賊の頭目を張っている訳ではなく、その振り下ろす速さは中々の物だった。

 

 

ードゴンッ!!

 

 

 …重く、硬いものがぶつかり合ったような音が周囲に響き渡った。だが、周朝は分かってしまった。……自分の一撃は、相手の頭蓋を砕く事が出来なかったという事に。

 

 

 その証拠として、自身が振り下ろした砕棒は雪蓮と呼ばれた女が頭上を交差するように構えた旋棍とぶつかっており、並大抵の得物であれば簡単にへし折ってそのまま頭蓋をかち割っていたはずだったのだが…その深紅の色合いをした旋棍は、歪む事は愚か軋む事もなく、周朝の砕棒を完璧に受け止めていたのである。

 

 

「いい一撃だったわ。賊に落ちなかったのなら、いい武人になっていたでしょうに…終わらせてもらうわ」

 

 

 憐憫を込めた呟きをした直後、砕棒を弾き飛ばした雪蓮は、そのまま体勢を崩した周朝の懐に飛び込むとそのまま猛然と連撃を叩きこみ、止めとばかりに後ろ回し蹴りで周朝を吹き飛ばす。しかしこれで終わらず、吹き飛ばされた周朝めがけて、雪蓮は突進飛び蹴りを叩きこんだのであった…!

 

 

 もはや、誰が見ても勝敗はついていた。息をも絶え絶えと言う感じで大の字になって倒れた周朝に、雪蓮は近づいた。

 

 

「……虎の娘も、虎だったって、事かぁ。冥途の土産に、良い物、貰っちまったぜ…」

 

 

「無辜の民草に牙を向ける生き方を選んだが故の末路よ。…次に生まれる時は、真っ当に生きる事ね」

 

 

「そいつは、どうも……けど、せめて道連れは増やしたいんでな。急いで、戻った方が、良いぜ?本陣に、郭石の野郎を、向かわせたから、なぁ…」

 

 

 彼は吐血しながらも、死にゆくものとして最後の忠告を残した。だが…雪蓮は愚かその勝負を見届けていた冥琳。そして将兵らも動揺の気配を見せようとしていなかった。

 

 

「成程ね…貴方の態度はそう言う事。けどお生憎様、蓮華の傍にはこれからの孫呉を支える将軍見習い達がいるんだし、何より…」

 

 

ー江東の虎を窮地から救った、凄腕の勇士がいるんだからね♬

 

 

「っ…何て、こったぁ。畜生め…地獄巡りは、あいつと一緒、かよ…」

 

 

 雪蓮の不敵な笑みと呟きに、自分達の起死回生の一手が対処されていた事を知った周朝は、観念して冥府に旅立っていったのである…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 時間は少々遡る。周朝と別れ、隠し通路を手勢を連れて進んでいった郭石は、長い通路の先にある出口に到達していた。出口は洞窟の一番奥の地面に巧妙に隠す様に土がかけられ、洞窟の外は鬱蒼と生い茂った森の中だった。郭石は周朝の用意周到さに舌を巻いていた。

 

 

 これならば確かにそう簡単にばれる事はないだろう。自身の眼前には孫呉の討伐隊の本陣と思われる陣幕と、深紅に染められた布地に黒字で『孫』『呉』と書かれた旗が風に靡いている。…そして恐らく、既に周朝は攻め寄せて来たであろう孫策に討ち取られているのは間違いない。郭石は薄々察するしかなかった。

 

 

「周朝…自分が捨て石になる事を選びやがってよぉ。馬鹿野郎が…!あの化け物女の娘を死出の道連れに送ってやる。待ってろよ!?」

 

 

 郭石は震える声を出しながらも、既に泉下に旅立ったであろう相棒に伝えるように宣言する。そして一つ深呼吸をした彼は視線を後ろに向けると、自分の命令を待つ子分達に命じる。

 

 

「分かってるなてめえら?目の前には孫呉の奴らの本陣がある。戦場からだいぶ離れている以上、恐らく警備もさほど厚くはねえはずだ。一気に突破して恐らくいるであろう孫堅の娘の片割れの首を取るぞ!!」

 

 

『へいっ!!』

 

 

 自分の指示を受けた子分達が頷くのを見た郭石は、腰に下げている弓を手にすると、背中に背負った矢筒から矢を引き抜き、本陣の護衛をしている兵士目掛けて射放った。

 

 

 矢は風切り音を響かせながら飛んでいくと、警備をしている兵士の一人の首を貫いた…!

 

 

「がっ!?」

 

 

「て、敵襲だ!?」

 

 

「行くぞてめえら!雑魚には構うな!!狙うは大将の首一つ!!脇目も振らずに突っ込め!!」

 

 

 同僚の一人が突然射殺された事に動揺する兵士…。直後、郭石の号令を受けた子分達は怒号を上げながら奇襲を受けて戸惑っている護衛の兵士らには目もくれず、先頭を走る郭石に続く様に駆け抜け、とうとう本陣に切り込んだ!

 

 

 だが、その先の光景に飛び込んだ郭石達は目を疑った。なぜならば…。

 

 

「やはり奇襲を仕掛けてきたのか…(ノン)、貴方の読み通りだったわね」

 

 

「いいえ~、宗也さんが警戒するように忠告をしてくれたおかげですよ~。ありがとうございますね、壮也さん~」

 

 

「いや、杞憂であればそれでよかったと思っていたのを、真摯に聞き入れてくれた蓮華達こそ感謝したいよ。…さて、覚悟はできているな?」

 

 

 本陣の中には動揺は一切見られず、それどころかそれぞれの得物を手に臨戦態勢を整えていた若武者達。その奥で自らも剣を抜き払って身構える大将の少女と、その腹心と思われるやけに胸の大きな女性。そして…純白の戦装束を纏い、大戦斧を構え自分達を射竦める様に濃紫色の瞳をこちらに向けてくる、青年が立っていたのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

『奇襲に備えた方がいい?』

 

 

 山賊達が籠る山塞に向かっていった雪蓮から本陣の警護を任された蓮華は、共に本陣の警護に当たっていた壮也からそう忠告され、目を丸くしていた。

 

 

『ああ。俺の杞憂であればそれでいいんだが…追い詰められた鼠は、天敵である猫にすら飛び掛かっていき、その喉笛を噛み切ってしまう事もある。それは人にだって当てはまるという物。敵の賊達がこの本陣の近くにまで山塞から隠し通路を掘り進めていたとすれば、もし俺が逆の立場であったなら間違いなく、死兵を引き連れて決死の奇襲を行っているだろう』

 

 

『本陣に奇襲を仕掛けて敵の大将の首を取るか、例えいなかったとしても本陣が落とされたとなれば、確実に敵軍を混乱に陥れる事が出来るからな』

 

 

 壮也の指摘に、蓮華は瞑目して考え込んだ。前線から届いた報告では、思春と明命らが敵方に潜入をし、兵糧庫を燃やすなどして攪乱したという報告を受け取った自分の姉である雪蓮とその軍師として共に赴いた冥琳の攻撃により、山塞は制圧寸前まで追い詰めているらしい。…そう思うと、今の本陣ではすでに勝ち戦であると言う雰囲気が蔓延しているのがありありと分かってしまう。

 

 

 もしここで追い詰められた賊達が、『虎穴に入らずんば虎子を得ず』の故事に倣い、秘かに作っていた隠し通路から決死の奇襲を敢行したとすれば…間違いなく本陣は大混乱に陥り、少なくない将兵が犠牲になり兼ねないだろう。

 

 

『………確かに、その考えは抜け落ちていたわね。姉様の方が上手く行き過ぎていたから、油断していたかもしれない。穏!あなたの意見を聞かせて』

 

 

 蓮華がそう言うと、本陣に警護として残っていた、深紅の装束を纏っていても大いに異性の視線を惹きつけてしまうであろう豊満な肢体をしている、緑の入った水色のボブカットにした青い瞳の女性が意見を出した。

 

 

『…そうですね~、壮也さんの指摘は大いに正鵠を得ていると思います~。私が逆の立場でも、逆襲の一手として敵に奇襲をかけると思いますから…蓮華様、一応警備を厳にしておくべきかと~』

 

 

『穏、貴方もそう言ってくれるのなら私も受け入れるわ。…椿達に指示を出して!警戒を厳にし、いつ何が起こってもすぐに対応できるようにと!!』

 

 

『はい~、了解しました~!』

 

 

 蓮華の指示が飛ぶと、穏と呼ばれた女性は拱手をし、本陣で退屈そうにしている紅龍達の方に向かっていった…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ば、馬鹿な…俺達の狙いを、読んでいやがったってのか…!?」

 

 

「ああ、残念なことにな。…隠し通路を作り、敵が本陣を置いている近辺まで繋げておく事で、奇襲を仕掛ける。いい策略だとは思ってはいるが、相手が悪かったという事だ」

 

 

 周朝の考えが看破されていた事に愕然とする郭石に、壮也は静かな声で慰めの声をかけた。実際、周朝が考えていた策略はよく練られており、これが並の凡将や数を頼みに進んで来る様な愚将などであれば上手く行っていたかもしれないのだ。

 

 

 だが何分相手が悪かった。この時孫呉の本陣で蓮華の副官として残っていたのは、生前三国志を愛読していた壮也にとっては、自分が思いを寄せている愛紗…即ち関羽の死に関わっていた智将、『陸遜・伯言』その人だったからだ。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 その生家は嘗て孫策が江東の制圧を成そうとしていた頃に敵対した『陸康』という人物であり、江東でも力のある豪族の一人だったのだが、孫策との戦に敗れた後一時期没落していた。

 

 

 やがて孫策の弟である孫権に出仕する様になり、当初は文官として仕えていた。彼の名が広く知られるようになったのは、呂蒙が荊州攻略を行い、関羽を討ち取った後に勃発した『夷陵の戦い』だった。この時大都督を務めていた呂蒙が逝去した事で後釜に就いた陸遜は、当初老臣である韓当などの諸将から軽視されていた。

 

 

 だが陸遜は『自分はただの書生であったが、主上から命令を受けている。国家が諸君を屈して相い承望させている理由は、僕に尺寸の称えるべきがあり、辱を忍んで重責を負えるからなのだ。各々がその職事に在ってどうして復た辞退できよう』と言って剣に手をかけて軍令を遵守させた。

 

 

 そして劉備軍が疲弊しだしたのを見て取った陸遜が、その隙を突く様にして火計を仕掛けた事により劉備軍は大敗。これによって陸遜は大いに名を知られる事になり、その後孫権に忠節を尽くし、社稷の臣として信頼を向けられる事になったのだが…その晩年は孫呉における継承者争いに巻き込まれての憤死という悲劇的な最期を遂げる事になってしまった。

 

 

 忠誠実直な性格であり、朝廷において厳粛な人物であると同時に倹約家であった陸遜。彼が亡くなった後に調べた所、家に余財は一切なかった。

 

 

 また、夷陵の戦いで諸将が勝手な振る舞いをしていた事を知った孫権が陸遜を呼び出し、なぜ報告しなかったのかと問いかけると『主上の恩を受け、実際の能力より重大任務を背負う事になりました。まして諸将は国を支える功労者です。臣は藺相如・寇恂のような人を慕い、国事を遂げようとする者であります』と言って、自分の非力非才故に諸将は従おうとしなかったのだとして彼らを庇い、孫権は大いに彼の事を気に入ったとされている…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 郭石は自分達が『死地』に飛び込んでしまった事を悟ってしまった。本陣に奇襲を仕掛け、混乱の最中に敵の大将を討ち取る…それが周朝が考えた起死回生の一手だった。

 

 

 しかし自身の眼前には、自分達が奇襲を仕掛けてこようとする事を察知し、万全の態勢で待ち構えていた若武者達と、いつでも避難できる様に馬上の人になりながらも腰に差している剣を引き抜いている大将に同じく馬上の人となっている副官と思われる女性。

 

 

 そして…大将の前に立ちはだかる様に黒馬に跨り、大戦斧を構える純白の戦装束を纏った青年が鋭い視線を向けてくる光景だった。

 

 

「………悪ぃ、周朝。どうにも運が悪かったみたいだ。すぐお前の後を追う事になりそうだぜ?」

 

 

 郭石は溜息を一つ着くと、天を仰いでそう呟いた。だがその瞬間、彼の顔は覚悟を決めた『漢の顔』になっていた。

 

 

「か、頭…!?逃げた方がいいんじゃねえですか!?ほ、ほら!俺達の入ってきた方向が手薄になってますぜ!?」

 

 

「…開けてんだろうよ。下手に逃げ場もなく囲んだら、俺達が死兵になって手痛い目に遭うって分かってんだよ。だから逃げ道を作ったんだろうが」

 

 

 そんな郭石に手下の一人が逃げる事を勧めてきた。現に自分達は包囲されていたのだが、侵入してきた部分だけが何故か手薄になっていたのである。恐らく下手に逃げ場なく包囲したとしたら、自分達が死に物狂いで襲い掛かってくると察していたのであろう事は容易に伺えた。

 

 

 …だからこそ、郭石はその勧めを、蹴った。

 

 

「ここで逃げたってよぉ…こんな生き方選んだ俺達に碌な人生が待ってる訳ねえだろうが。…あいつだってきっとあの世で待ってるんだろうからよぉ…最後くらい、格好つけて死のうじゃねえか!なあ、野郎共!!」

 

 

『っ!?お、おおおっ!!』

 

 

 郭石の覚悟を決めたかのような咆哮に、手勢の者達はいつの間にか得物を掲げて応えていた。そうして彼らはいずれも背を見せるどころか、武器を手に若武者たちに血走った眼をしながら身構えたのである。

 

 

ーっ!?これはまずい…奇襲を看破したうえで逃げ道を示せば逃散すると思っていたが、逆に奴らに決死の覚悟を決めさせたのか!!

 

 

 彼らの様子を見た壮也が冷や汗をかく。間違いない…これは前世において日本軍が行った、『万歳突撃』と同じものだと!!

 

 

「蓮華!すぐに本陣を離れろ!!奴ら、覚悟を決めている!!前線に行って雪蓮の下へ…!?」

 

 

「てめえらぁ!!狙うは大将の首一つ!!突っ込めええええええ!!!」

 

 

 壮也が蓮華を避難させようと声を上げるも、その前に郭石の怒号が響き渡り、手勢の者達が武具を手に蓮華目掛けて襲い掛かった…!!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 本陣の中は文字通り凄惨極まる修羅場と化していた。逃げ道を開けておいたにも拘らず、郭石とその手勢は本陣の大将であった蓮華を死出の道連れにせんとばかりに襲い掛かり、椿達若武者組や本陣に残っていた孫呉の将兵らは、大将である蓮華を前線にいる雪蓮の下へ避難させんがために懸命に防戦を行っていたのである。

 

 

 ここを死に場所と決意した郭石やその手勢の勢いは、たかが賊と侮れるものではなかった。現に孫呉の将兵が何人も殺害、もしくは重傷を負って戦闘不能になっており、少しずつではあるがその刃は蓮華に近づきつつあった。

 

 

 無論、彼女を討たせてはならぬとばかりに防衛側の孫呉の将兵らも奮闘していた…!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「ふっ!!」

 

 

 椿はそう声を発しながら、また一人賊を袈裟斬りに切り捨てた。しかし一人一人が凄まじい執念で食い下がってきており、敵は倒しているのに押されているという状況になっていた。

 

 

 現に自分達の未来の主君となるであろう蓮華の方に目をやっても、少しずつではあるが賊が近づいているのが嫌でも目に入るのだ…!

 

 

「(このままでは蓮華様が…!)『うらああああっ!』しまっ…!?」

 

 

 だが、戦いの場で一瞬でも余所見をしたのが拙かった。声が響き渡り、慌てて前を見た途端、別の賊の一人が剣を振り上げていたのだから…。だがその剣が振り下ろされる事はなかった。

 

 

 何故ならば振り下ろされるより早く、その賊の頭蓋に燃え盛る火矢が突き立ったのだから。矢が突き立った方向から後ろを振り向くと、そこには矢を射放った態勢で立っている蒼蓮の姿があった。

 

 

「椿さん、無事ですの!?」

 

 

「蒼蓮!助かった!!」

 

 

 言葉短くだが謝意を示す椿に、蒼蓮も頷く。そしてすぐさまそれぞれに敵を選び戦い始める。椿は相手の攻撃を躱しながら、手にしている『暁』を使っての居合で次々と敵を両断していき、蒼蓮はバックステップをしながら『鳳焔裂鋼弓』に気を込める事で火矢を作り出し、連射する事で相手を火達磨に変えていた…!

 

 

「ああもう!!しぶとすぎでしょこいつら!!」

 

 

「紅龍姉!ぼやいていても敵は減らないわよ!」

 

 

「分かってるっての!!亜莎、アンタ大丈夫!?」

 

 

「だ、大丈夫!」

 

 

 別の場所では紅龍と紫龍、亜莎が三人で組んで賊達の対処にあたっていた。当然彼女達にも賊達が襲い掛かっていたが、紅龍が宗也から贈呈された『双翅滅閃』を用い、地面を背に回転しながら相手の足元を薙ぎ払う様に切り裂き、それによって体勢を崩した敵に対し、間髪入れずに『大蛇刀』を手にした紫龍と『金剛弦』から鋼線を射出した亜莎が飛び掛かり、敵を討ち倒していく…!

 

 

しかし、豪快さと言う点で抜きんでていたのは黒兎であろう。彼女が得物として使っている断月刃と言う武具は、ハンマー投げの投擲前動作のように重量と遠心力を利用して振り回すのが基本の重量武具であり、並の人間では扱いの難しさも相まって鈍ら以下にその価値が下がってしまう。

 

 

 だからこそ、それを使いこなす事が出来た場合…それを回転させたまま相手に連続で叩き込むという離れ業を成しうる事ができる強力な武器でもあるのだ。そして現に、椿達若武者組の中では背丈が低い黒兎はそれを使いこなしていた。

 

 

「退けっ!蓮華様には近づけさせん!!」

 

 

「畜生!?何だあのチビ!?あの鉄の輪っかみてえな武具をああも軽々と…!」

 

 

「それだけじゃねえ!?あの鉄の輪っかみてえな武具、手から離れたってのにそのまま回転して地面に轍を作ってやがる!!」

 

 

 彼女と戦っている賊が悲鳴を上げたように、黒兎が振るっている断月刃-宗也が製作し、贈与された『百鬼潰断』と銘打たれているーを、彼女が回転させながら投擲したので近づこうとしたのだが、彼女の手から離れた断月刃は、回転を止めるどころかそのまま地面を抉りながら彼女の周囲を薙ぎ払っていくのだ。

 

 

 ましてそれがぶつかった相手は、まるで巨大な獣に引き裂かれたかのような痕を遺して吹き飛ばされて命を落とすのだ。迂闊に近づく事も出来ない…!郭石の号令で一時死兵となって突っ込んだ賊兵もその光景に戦意を削がれてしまっていた。

 

 

 だが、もはや自分達に退路はない事を、他ならぬ彼ら自身が何よりも理解していた。やがて一人の賊が黒兎が再び放った断月刃が自身の眼前を回転しながら通り過ぎた瞬間に彼女に突っ込んだ。

 

 

 この賊兵の決断は、ある意味で英断でもあった。断月刃は回転しながら周囲を薙ぎ払ったり、前方で留め置きながら回転させる事も出来る武具なのだが、回転を終えて手元に戻す隙を突かれるという弱点も存在するのである。

 

 

 そうして一気に懐に入り込んだ賊が黒兎に手にしている斧を振り下ろそうとして…その斧は彼女との間に割り込んだ大楯で阻まれた。

 

 

「黒兎、油断しすぎだよ」

 

 

「白百合か。感謝する!」

 

 

 黒兎を助けたのは白百合だった。彼女は大楯と叉突矛を駆使した攻防一体の戦いを行っており、派手さこそ黒兎に後れを取っているのだが、堅実さと言う点では彼女を大きく上回っていた。

 

 

 しかし白百合とて、ただ堅実なだけではない。相手の攻撃を大楯で防ぎながら弾く事で体勢を崩すと、間髪入れずに叉突矛で相手の首を挟み込むように突き出し、そのままの状態から相手を転倒させる。そして倒れた相手の首元目掛けて大楯の下の部分の縁で叩き潰すかのように振り下ろすのである。

 

 

 盾と言う武具は、敵の攻撃を防ぐためのものと言うイメージが強いかもしれないが、盾の面や端の部分で殴りつける事でも使用される事がある。また、北欧などのヴァイキングが使う楯は端の部分の金属を研磨し、刃の様にすることで切りつけるという事も可能になっている。

 

 

 つまり、彼女の大楯もまた容易に人の命を奪う事が可能だという事だ…。現に彼女の大楯を喉に振り下ろされた賊兵は、喉を潰された事で血反吐を吐いて息絶えている。

 

 

「白百合、だいぶ敵の数が少なくなった気がするが!!」

 

 

「多分そうだね黒兎!けど何人かすり抜けて蓮華様の方に向かったのを見たよ!!」

 

 

「なにっ!?いかん、蓮華様が危ない!」

 

 

 そう言って踵を返して蓮華の下へ向かおうとする黒兎であったが、それを白百合が諫めた。

 

 

「駄目だよ黒兎!ここで僕達が抑えているからこそ、蓮華様の身は守られてるんだ!ここで持ち場を離れたらますます蓮華様の身が危うくなる!」

 

 

「し、しかし…!『心配は無用ですわ!』蒼蓮!?」

 

 

 黒兎が蓮華の身を案じていると、射撃をしながら他の若武者組の援護にあたっていた蒼蓮が近くに来ていた。

 

 

「今の蓮華様の近くには…壮也殿がいますもの!御覧なさい、蓮華様の方を!!」

 

 

 蒼蓮が蓮華の方を指差した為、黒兎らがその指差す方を見ると…そこには、数人の賊の亡骸とその亡骸を前に及び腰となっている郭石と数人の賊兵。そして…馬上の人となっている蓮華と穏を護るかのように、鮮血が滴り落ちている大戦斧を構えながら郭石達賊兵を射抜くように見据えている、壮也の姿があったのである…!

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 激闘の末、賊を討ち倒した壮也達。だが、戦後処理をしていく中で宗也は、三国志に置ける『始まりの大乱』を示すある物を見つけてしまう。そして、その時が訪れようとしていた…続きは次回の講釈で。




 初めての前後編でお送りしますが、次回もお楽しみいただければ幸いです。


 では、失礼いたします…!
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