真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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 お待たせいたしました…!最新幕の投稿です!


 そして今回登場したオリジナル武将の設定を後書きに載せておこうと思います!


山賊討伐(後)

 愛用の得物である大戦斧の鋼鎌武断を構え、背後にいる蓮華には一歩も近づけさせはしない…そんな覚悟を示すかのように、壮也は郭石達を睨みつけていた。

 

 

 ふと、自分に対して蓮華が声を投げかけてきた。

 

 

「壮也…!」

 

 

「蓮華、安心しろ。俺がいる限り、君には火の粉一つかかる事はない」

 

 

「…っ!ええ、分かったわ」

 

 

 不安を感じさせる声をしている事に気づいた壮也は、彼女の方に振り向く事は無かったものの、安心させるかのように、穏やかで力強く返答をする。そうすると、蓮華もその声を聴いた途端、安堵の声を出して見せた…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 蓮華にとって壮也…徐寧と言う人物は恩人だった。血気盛んでもあった母の孫堅…炎蓮が黄祖の策謀によって窮地に陥った時、彼は姿を現すと黄祖の手勢を蹴散らし、母が黄祖を追い詰め、九死に一生を得させてくれた相手なのだから。

 

 

 だが、彼女はふと考えた事がある。『どうして彼は、母様を救ってくれたのだろう?』と。わざわざ追い詰められた母を救おうと、危険を分かっているにも拘らず黄祖達に挑んでくれた事に彼女は興味を抱いたのだ。

 

 

 それに姉である孫策…雪蓮が彼の事を話す時、いつも陽気で気さくな彼女が不思議と頬を赤く染めながら語るのを見て、彼女はますます彼の事を知りたいと思う様になっていたのである。

 

 

 そしてその機会はすぐ訪れた。徐寧が母が拠点を置いている長沙の町に鍛冶場を備えた家屋に腰を下ろす事になったのを母から聞いた彼女は、さっそく思春を連れて赴いたのである。そこで彼女が見たのは、鍛冶場を丹念に掃き清め、道具も丹念に手入れしている、自分と同い年位の青年の姿だった。

 

 

 彼女は警護に同行してきた思春に気配を隠す様に命じると、さっそく声をかけた。

 

 

『貴方が徐寧殿かしら?』

 

 

『…?君は?』

 

 

『私は孫権、字は仲謀。母様の命を救ってくれた事に、一言礼を言いたくて来たの』

 

 

 自分が名乗ると、青年もまた拱手をしながら返答をしてきた。

 

 

『文台殿の…。これはご丁寧に。如何にも、俺が徐寧だ』

 

 

 それを見た彼女の第一印象は『礼節を重んじる人』と言う感じだった。そうして暫くとりとめのない話をしていたのだが、やがて彼女は前々から抱いていた疑問を彼にぶつけた。

 

 

『一つ質問があるの。どうして貴方は、母様の命を救ってくれたの?』

 

 

『どうして、とは…?』

 

 

『人間は見返りを求めて何かを成す者よ。決して無償で他者を助ける事を何よりとする人間はいないもの。孫呉への仕官を求めて?それとも…』

 

 

 そう言って蓮華は暫し沈黙する。自分達を目当てに助けたのではないかと、勘ぐったからだ。だが…彼の答えは、予想の遥か斜め上の物だった。

 

 

『うーん…俺自身が、助けたいと思ったから助けた…じゃ、駄目か?』

 

 

『えっ?助けたいから、助けた…?』

 

 

『ああ。確かに人は見返りを求めて何かを成す者かもしれないだろう、それは事実だ。けどこの世の中、自分が助けたいと思って誰かを助ける。そんな人間が一人いても、罰は当たらないんじゃないのか?』

 

 

 そうあっけらかんと答えた徐寧に、蓮華は暫しぽかんとしていたが、やがて愉快になって笑いだしていた。

 

 

『……ぷっ、あはははは!!確かに、そんな人間がいてもいいかもしれないわね。御免なさい、笑いだしてしまって』

 

 

『気にしてないさ』

 

 

『…私、貴方の事気に入ったわ。御礼と言っては何だけど、私の真名を受け取ってくれる?母様の命を救ってくれた恩人に、ぜひとも受け取ってほしいの』

 

 

『いいのか?そんな簡単に真名を明らかにするなんて』

 

 

 徐寧は驚いた様に問いかけてくるが、彼女自身すでに決めていた。彼は心から信頼に値する人であると分かったのだから。

 

 

『ええ、私はあなたの事を心から信用できると思ってるもの。…私は蓮華(レンファ)、それが私の真名。よかったら、貴方の真名も教えてくれるかしら?』

 

 

『…わかった。俺は壮也って言うんだ。これから宜しくな、蓮華』

 

 

『ええ、壮也…』

 

 

 こうして二人は互いに真名を交換する事になり、その直後に蓮華が真名を明かした事に驚きを隠せず、潜んでいたのも忘れて姿を見せてきた思春が問い詰めてきた一幕もあったが、それ以降蓮華は宗也の事を『心から信頼のおける人物』として心を許す事になったのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 

 そして今、そんな青年は自分を護る様にして得物の大戦斧を構えながら立っている。そう思うと、不思議と先ほどまでの恐怖心が霧散していくのが分かって来た。

 

 

 彼が護ってくれるのなら、きっと自分はこの窮地を切り抜けられる。そんな安堵が彼女の心に生まれていたのだ…。そんな彼女に穏が不安そうに声をかけてきた。未来の孫呉の主君になるであろう彼女を、避難させられなかったことを悔やんでいるようだった…。

 

 

「蓮華様…」

 

 

「穏、大丈夫よ。彼が…壮也が私達を護ってくれている…だから安心して」

 

 

「は、はい~…!」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「本来なら死兵当たるべからずというんだろうが…生憎、俺の後ろには護るべき人達がいる。ならば、俺もまた死兵となってお前達を迎え撃とう……参れ!!」

 

 

「ひ、怯むなぁ!!こいつをどうにかすりゃあ、後は大将一人だけなんだ!一気に突き進め!!」

 

 

 壮也が大戦斧を構えながら宣言するのと、後がない事を誰よりも知っている郭石が部下達に号令したのは、ほぼ同時だった。

 

 

 号令と共に怒号を上げながら武器を構えて襲い掛かる賊兵たち…しかし、壮也の目に迷いはなかった。ここで怯めば自分も死ぬ。そして自分が死ぬという事は、背に護っている蓮華にも彼らの刃が襲い掛かるという事にもなる。

 

 

 それだけは断じてさせはしない…その覚悟と決意を込めて握りしめた大戦斧を、壮也は横薙ぎに振り抜いた。果たしてその一撃は…数人の賊兵を上下泣き別れにし、地面に臓物と血飛沫を巻き散らかした!

 

 

 その後何人も続けて飛び掛かっていくも、壮也は次々と賊兵を上下泣き別れにしたり、頭を刎ね飛ばしたりして討ち倒していき、とうとう郭石自身と副将だけが残るありさまとなっていた。

 

 

「……何て、野郎だ!」

 

 

「頭…もう後ろの方も!!」

 

 

 副将の悲痛な声に郭石が後ろの方を見ると、若武者達の方に充てていたはずの手勢の者達が一人、また一人と討たれていっており、もはや猶予はなかった。

 

 

「…頼むぞ」

 

 

「言われるまでもねえでさぁ!!」

 

 

 言葉少なげに郭石が副将に声をかけると、彼は威勢よく答えながら大刀を振り回しながら壮也に向かっていく。

 

 

 その実力は確かだったようで、壮也と数合ほど打ち合っていたが、次第に副将は疲弊の色を隠せなくなっていた。その隙を狙い、壮也が止めを刺そうと身構えた瞬間…。

 

 

ー副将の胸を貫く様に現れた槍の穂先が壮也の顔面に向かって真っすぐに飛んできた!!

 

 

「…っ!?」

 

 

「ごぷっ…頭、後を、頼みます!!」

 

 

「っ…済まねえ!!」

 

 

 槍で貫かれ、口から鮮血があふれ出ながらも郭石と言葉を交わす副将を見て、壮也はこれが二人の考えた最後の手だと察した…!!そうして、槍は吸い込まれるように宗也の顔面に向かっていった…!

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

「壮也っ!?」

 

 

 その光景は、彼の後ろにいた蓮華の目にも映っていた。このままでは宗也が危ない…そう思った彼女が宗也から贈与された『白焔皇狼剣』と銘打たれた焔刃剣を手にかける。だが、その手が唐突に止まった。

 

 

 何故ならば…郭石の放った刺突が、壮也の命を奪っていなかったからだ。

 

 

「…んっ?!な、何だ…!?槍が、動かねえ…!?」

 

 

 一方の郭石もまるで予想がつかないでいた。副将と共にとっさに思いついた攻撃だった、間違いなく意表を突いていただろうし、それに対応できるとは思えなかったのだ。だから仕留めている…そう思っていたのだが、槍を抜こうとしてもまるでビクともしなかったのである。

 

 

「…部下が自らの命を賭しての攻撃、か。その覚悟は大したものだろう。だが…惜しかった!」

 

 

 そう…あの時壮也は襲い掛かってくる槍の穂先を、柄を掴む事で指先三寸ほどの距離で食い止めていたのだ。壮也自身、妹である香風や想い人である愛紗らと共に鍛錬に明け暮れ、力作業である鍛冶場の仕事もこなしており…その膂力は相当の物だった。

 

 

 それこそ、重量武具である大戦斧を片手で振り回せるぐらいには…!!

 

 

「郭石…武人として、せめて一撃で終わらせよう!!」

 

 

 そう言い放った壮也が左手で掴んでいる槍を思いっきり自身の方に引っ張り、槍を掴んだままの郭石はそれに釣られて前に体勢が崩れそうになるのを必死に堪えていたが、次に顔を上げた時に彼が見たのは、自身の頭上に振り下ろされる大戦斧の刃だった。

 

 

「…終わり、って奴かぁ。悪ぃな周朝、今そっちに行くからよ…」

 

 

 それが、頭蓋に大戦斧の刃を叩きこまれ地面に叩きつけられて命を落とす事になる郭石の、最後の言葉であった…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 こうして戦いは幕を閉じた。本陣に切り込んだ郭石率いる賊軍は文字通り壊滅、主将である郭石も討死し…ここに山賊討伐は完遂されたのであった。

 

 

 そうして本陣で負傷した将兵らの手当てなどに奔走していた蓮華達の下に、山塞を落とした雪蓮達が戻ってきたのだが…眼前に広がっていたその光景に思わず絶句していた。

 

 

 あの後本陣などを調べていた雪蓮達は、城を抜け出したのが郭石とその手勢が五十ほどだった事。そして自分達孫呉の軍勢が本陣を構えている場所の近くに通じる隠し通路を通り、奇襲を仕掛けようとしている事を察知したのだが、その本陣には新進気鋭と言える若武者達を含めた数百の精兵に警護させていた為そこまでの被害は出ないだろうと思っていたのだが…そこに広がっていたのはたった五十ほどの賊徒によって、百以上もの兵士達の屍が転がっていたのである。

 

 

「なんてこと…蓮華、大丈夫!?」

 

 

「姉様!…ええ、私は大丈夫です。椿をはじめとする若武者達も、負傷はしていますが命に別状はありません。ただ、将兵の何人かが命を…申し訳ありません。姉様から本陣を護る役目を任されたというのに…」

 

 

 そう言って失意に沈む蓮華を見て、雪蓮は彼女を優しく抱きしめて慰め始めた。

 

 

「…いいえ、貴方は十分に役目を果たした。よくやってくれたわ、蓮華。壮也が護ってくれたのね?」

 

 

 雪蓮が問いかけると、蓮華も頷いた。

 

 

「はい。彼が奇襲に備えた方がいいと忠告してくれて、それを穏にも相談して備えていたのが功を奏しました。……まさか逃散する事なく、そのまま死兵と化して襲い掛かってくるとは思いませんでしたが」

 

 

「そうだったか…壮也には頭が上がらなくなったな、雪蓮」

 

 

「ええ。母様はおろか、蓮華の事も護ってくれたんだから…そういえば壮也は?」

 

 

「彼なら…」

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 

 本陣から離れた場所にある、郭石らが奇襲を仕掛けてきた森の近く…そこに壮也は大きな穴を掘ると、命を落とした賊兵らの亡骸を埋めていた。

 

 

 死者を弔う…それこそ、生き残った者が行う責務だと思っている壮也は蓮華だけに断りを入れて一人で行っていた。だが、そんな彼に声をかけて来た者がいた。

 

 

「ここにいたのね、壮也」

 

 

「雪蓮か?どうしてここに?」

 

 

「蓮華から聞いたのよ。貴方が賊達の亡骸を葬る許可を求めてきて、それを受け入れた後に本陣を出て行ったってね……律儀なのね、貴方って」

 

 

「…そう、だろうか?」

 

 

 雪蓮にそう言われ、壮也は首を傾げながら困ったような表情を浮かべていたが、雪蓮は微笑みながら続ける。

 

 

「そりゃそうよ。賊の亡骸なんて、大抵野晒しにするのが当たり前だってのに…わざわざ許可を得てまで弔おうなんて、これで律儀でないなら何だって言うのかしら?」

 

 

 そう言うと雪蓮は愉快そうに笑い始め、壮也もまたつられて笑い始た事で、森の中には暫しの間二人の笑い声が響き続けた。だが、それから少しして笑い声が収まると…雪蓮は真剣な表情をして問いかけた。

 

 

「…ねえ壮也、どうして貴方は、そいつらを弔いたいって願ったの?」

 

 

 そう言って雪蓮は、賊の亡骸の方に目をやる。その目には嫌悪感がありありと宿っている…それを壮也はひしひしと感じとっていた。

 

 

「そいつらは賊よ。無辜の民草に対して牙を剥き、その命を奪う獣共…情けをかける資格も無い痴れ者でしかない。わざわざ弔う事もないんじゃ…」

 

 

 雪蓮はそう言い放ち、さらに続けようとするが…それは首を横に振る壮也の姿を見て止まってしまう。

 

 

「…生ある物、死ねば等しく骸となる。それが民草から敬愛される名君だろうと、民草から嫌悪される暗君だろうと、戦場で華々しく活躍するであろう英雄豪傑であろうと、そして…人々から忌み嫌われるであろう賊徒であろうと、死ねば皆同じだ。そしてそうした亡骸を弔い、魂の安寧を祈る…それが出来るのは、生き残った者達の務め。俺は誰よりもそう思っているぞ」

 

 

 そう答えて見せた壮也に、雪蓮は返す言葉も出なかった。そう答えて見せた壮也の瞳には、誰に何を言われようともそれを成し遂げると言う、強い決意がありありと感じられたからだ。

 

 

 やがて壮也は再び鍬を振り下ろしながら地面を掘り進め、やがてそれなりの広さの穴を作り上げると穴から這い出て、賊の亡骸を一体ずつ背負うと穴の中に横たえ始める。

 

 

「雪蓮は見ているだけでいい、これは俺の我が儘みたいなものだからな。まあ出来うるなら、野犬とかが来ないように見張ってくれれば『いいわ、私も手伝う』…いいのか?」

 

 

 驚く壮也に対し、雪蓮もまた賊の亡骸を肩に背負うと穴に降りて来た。

 

 

「貴方一人でこれだけの亡骸を穴の中に運んでまた穴から出てきて…何てしてたら日が暮れちゃうもの。二人でやれば早く終わるでしょ?」

 

 

「…雪蓮、礼を言う」

 

 

 …その後、壮也と雪蓮はともに賊の亡骸を穴の中に横たえ続けていたが、戻ってこない事に気になった冥凛や蓮華達も駆け付けた事でさらに作業は捗り、全ての亡骸を穴の中に横たえた後、壮也は穴を埋めると墓石代わりに用意した程々の大きさの石を据え、手を合わせて彼らの冥福を祈ったのである…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 そうして賊達の供養を終えた壮也が孫呉の本陣に戻ると、陣中では負傷した将兵の手当てや賊達が蓄えていたと思われる武具などを徴収する為、将兵らが忙しなく動き回っていた。

 

 

 やがて壮也の目に飛び込んできたのは、恐らく将軍見習いだろうか?飾り気のない黒い長髪を真っ直ぐに下ろし、藍色の瞳を持つ意志の強さを感じさせる整った顔立ちの少女が、黄色みがかった白色の髪をボブカットに切り揃え、左サイドだけ巻き髪と赤いリボンで飾った髪型をしている、緋色の瞳を持つ活発そうな雰囲気を感じさせる少女に肩を借りながら歩いていた。

 

 

 壮也が肩を借りている少女の方に足を向けると、どうも足を負傷したのか巻かれた包帯は血で染まっており、痛々しい雰囲気が嫌と言うほど感じとれていた…。

 

 

菖蒲(あやめ)大丈夫?無理に歩かなくてもいいんだよ?」

 

 

「平気です千束(ちさと)…。この程度で休んでいては、祭様や千冬様、粋怜様に届きませんから…」

 

 

「そこまで意地を張らなくてもって、あれは…」

 

 

 やがて菖蒲と呼ばれた少女に肩を貸している、千束と呼ばれた少女が壮也に気づくと、壮也は拱手をしながら頭を下げてその場を後にする。その後ろ姿を、千束は暫く眺めていた。

 

 

「あの人…蓮華様を護ってくれた人だよね?すっごく強かったなぁ…」

 

 

「ええ、私も見ていました。一歩も退く事なく蓮華様を護り抜いたその覚悟、私も武人として見習わなければいけません…」

 

 

「そう言えば椿達、あの人に武具を作ってもらったんだって。私達も頼んでみよっか?」

 

 

「いいかもしれません。この戦いで私たちの武具も損傷してしまいましたし、雪蓮様にも相談してみましょう」

 

 

 そう言いながら、二人は治療を行う将兵らが集まる天幕に向かっていったのである…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 その後壮也が本陣の天幕から出ると、必要の無くなった武具や兵糧などを荷車に運んでいる光景が広がっており、椿達も兵士達に混ざって参加していた。

 

 

 それを見て壮也も手伝おうと声を掛けようとして…その前に自身が声を掛けられた。

 

 

「あっ、やっと会えた!」

 

 

 壮也が声の響いた方に顔を向けると、そこには雪蓮や蓮華らに付き従って従軍した将軍見習いと思われる、褐色の肌に水色の瞳と髪色のミドルヘアーを後ろで束ねた闊達そうな雰囲気を感じさせる少女と、同じく褐色の肌をし、深緑色のボブカットに紫色の瞳を持つ、思慮深さを感じさせる少女が立っていた。

 

 

 壮也は拱手をしながら頭を下げ、さっそく名乗った。

 

 

「これは失礼した。俺は徐寧、字を芳明と言う。…察するに貴公らも椿達と同じで、雪蓮や蓮華らに従軍した将軍見習いだろうか?」

 

 

 そう問いかけたのだが、水色の髪色をした少女は陽気そうに笑い声をあげると、手をひらひらさせながらそれを止めたのである。

 

 

「あはは、そう畏まらなくてもいいよ!蓮華様を護る為に単騎で賊を寄せ付けなかった貴方に挨拶がしたかっただけだもん!それと貴方の言うとおり、私達も椿達と同じで将軍見習いだよ!私は呂岱、字は定公って言うんだ。これから宜しく!」

 

 

 水色の髪色をした少女…呂岱がそう名乗ると、もう一人の深緑色の髪色の少女も拱手をしながら名乗りを上げた。

 

 

「…私も、蓮華様をお護り下さった貴公に対して敬意を表したいと思っただけです。お気になさらず…私は全琮、字は子璜と申します。お見知りおきのほどを…」

 

 

 彼らの名乗りを聞いて、壮也は内心では目を瞠っていた。目の前にいる二人はいずれも将軍見習いではあるが、三国志においては後期…即ち劉備や曹操と言った英雄達が世を去り、諸葛亮や司馬懿と言った英雄達が活躍する事になった頃に名を馳せた武将たちだったからだ…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 呂岱。字を定公と呼ばれたこの武将は三国志演義においては孫権の臨終の際に、諸葛亮の兄である諸葛瑾の息子である諸葛恪と共に後事を託されたと書かれているだけで、他の三国志の武将に比べると名前負けしている様に思えるが、正史三国志では孫呉において各地で起きる反乱鎮圧によって功績を挙げた人物である。

 

 

 時が経ち、陸遜と共に武昌を護るなどしておりこの時彼は80歳であったとされているが、質素な生活の中で仕事にはげみ、みずからその職務を処理した。さらに呉の皇帝となった孫亮と言う人物から大司馬…現在の役職でいえば国防長官に任じられる程の信頼を預けられた。

 

 

 本人はこの後96歳で逝去してしまうのだが、三国志において戦場を駆け抜けながらも長寿を保った武将は中々いないかもしれない。

 

 

 また呂岱と言う人物は清潔な行動によってひたすら公のために尽くし、さまざまな部面で取り上げるに足りる功績を挙げたのだが、交州に赴任した際に仕事熱心である余り、家族に対して仕送りを怠ってしまい家族が困窮している事を知った孫権が、彼ではなく臣下を責め年毎に銭や米や反物を年毎に呂岱の家族の元に送らせたというエピソードがある。

 

 

 そして呂岱には徐原と言う親友がおり、彼はずけずけと意見を言う難のある性格をしていたが呂岱はそれを気に入っており、彼の栄達のための便宜をいろいろと働き、彼が死ぬと痛惜した事から、二人の友情は後世において美談として語り継がれたと言う。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 全琮。字を子璜…彼もまた孫権の下で活躍を成した将軍であり、孫権の娘である『孫魯班』を妻に娶った人物でもある。しかし縁故故に厚遇されたと言う訳ではなく、確かな実力を持ち合わせてもいた。

 

 

 三国志演義においても石亭の戦いにおいて、陸遜の指揮の元で大いに活躍し勝利に貢献した。また諸葛亮が命を落とすと孫権は魏の動きを牽制しようと全琮を派遣して呉蜀国境の巴丘に駐屯させるなど、彼に対する信頼が厚かったのは言うまでもないだろう。

 

 

 また孫権が珠崖や夷州と言う異境の地に軍を送ってそれらの土地を占領しようと企てたとき、全琮は、『異域の土地の風土は毒気を含み、疫病が発生して伝染する恐れがあり、多くの利益を求めることはできません』と諌めたのだが、孫権はその訴えを退けて兵を送ってしまう。

 

 

 果たしてその一年後になると、送った士卒達は次々と疫病にかかり、その九割の者が命を落とした事を聞いた孫権は、全琮の意見が正しかったと深く後悔した。

 

 

 その性格は温厚恭順であり、言辞は未だ嘗て失礼だった事がなかった。人に接する際は謙虚で、傲慢な態度がない一方で部将として大きな勇気と決断力とを備え、敵に当たり難事に取り組む時には奮い立って我が身の安全などは顧みなかった。

 

 

 しかし軍の総指揮に当るようになると、威儀を大切にして慎重に行動を取り、軍を動かすにあたっては、必ず万全の作戦を立てて、小さな利益などを追うことはしなかった。

 

 

 この事から伏龍鳳雛の片割れである鳳雛こと龐統は全琮の事を『汝南の樊子昭に似て、良い名声がある。当代の俊才としても十分だ』と評しており、後世において正史三国志を著した陳寿も『時代を背負う才能が有った』と評したのだが、その一方で『子の悪事を野放しにし、世間から謗られ名誉を失った』とも評している。

 

 

 これは全琮の息子が孫呉におけるお家騒動と言える『二宮事件』において悪事を働いた事、そしてそれを諫めなかった為である。この為さらに後世の人物である裴松之には同じく『通語』において孫覇派の一員として挙げられた呂岱と共に、「論ずる必要もない悪人」とまで蔑まれてしまう事になる…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「それにしても、君の戦いぶりはすごかったよねー!蓮華様の前に仁王立ちして、並み居る敵兵をばったばったと薙ぎ倒していってさ!」

 

 

 やがて呂岱が先ほどの、壮也の戦いぶりを思い出したのかいつになく興奮した様に声を発すると、全琮の方も頷いて感心していた。

 

 

「ええ、私も同感です。さながら古の悪来もかくや…と言えるほどでした。私達も見習わねばなりません」

 

 

 二人が褒め称えるのを聞いて、照れ臭く思いながらも壮也は拱手をして頭を下げた。

 

 

「いや、褒め称えられる様な事をした積りはないさ。あの時俺がやらなければ、蓮華の身が危うかった。護るべき人を護ろうと思ったからこそ、俺は戦った…ただそれだけの事さ。寧ろ、孫呉はこの先きっと強い国になる事だろう。何せ、椿達の様なこれからの孫呉を支えられる若き将星が育ちつつあるんだから」

 

 

 壮也がそう答えると、二人はぽかんとしたような表情を浮かべていたが、やがて心底嬉しそうな笑顔を浮かべながら笑い出した。

 

 

「…あっはっは!まさかこうもさも当然の事をしただけだって返されるとは思ってなかったけど、これは蓮華様も信頼を置くわけだね白鶴!」

 

 

「全くです…己が功績を誇る事もせず、私達の事を称賛してくださるとは思いもよりませんでした。ですが、そう言われて悪い気はしませんよ凌霄…徐寧殿、私達の真名を受けて頂けないでしょうか?」

 

 

「…貴公らの真名をか?」

 

 

 全琮の提案に宗也は驚きを隠せなかったが、二人は満面の笑みを浮かべながら頷いていた。

 

 

「もっちろん!椿達も信頼してるってんなら、私達も安心できるってものだよ!私は凌霄(りょうしょう)って言うの!宜しくね!」

 

 

「私は白鶴(しらつる)と申します。宗也殿、どうか暫しの間宜しくお願いします」

 

 

「…礼を尽くされては、こちらも返すべきだろう。改めて…俺は徐寧、字を芳明。真名は宗也だ…暫しの間、よろしく頼む」

 

 

 そうして互いの真名を交換し合った後、壮也は椿達と共に陣地の片づけ作業を協力する事になる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 その後壮也は、長沙に戻る事になった雪蓮達とは一旦別れ、雪蓮達によって落とされた山塞に足を運んでいた。

 

 

 山塞からは未だに激闘が起こった事を如実に示す破壊の痕…そして地面や建物などに返り血が飛んでおり、まだ乾いてもいないのが容易に伺えた。

 

 

 壮也がここに来たのは、文字通り亡くなった者達の弔いの為である。ここに立て籠もった賊徒達は元より、彼らと戦って命を落とした孫呉の将兵の菩提を弔おうと思ったからだ。因みに山塞に向かう事を雪蓮に伝えた時、雪蓮は自分が何をしようとしているのかを察したのか共に行くと願い出たのだが、それは壮也によって止められた。

 

 

『雪蓮達は討伐が終わった事を炎蓮殿に伝える義務があるだろう?なに、俺一人でも時間はかかるが終わらせられるし、終わったら後を追いかけるから心配しないでくれ』

 

 

 そう言われた雪蓮は不満そうに頬を膨らませていたが、蓮華や冥凛らに諭されると漸く観念したのか、将兵を引き連れて長沙に帰還する事となったのである…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 そうして日が傾き、夕方位になって漸く亡くなった者達の弔いが終わり、手を合わせて菩提を弔った壮也がその場を立ち去ろうとした時の事である…。

 

 

「…?これは…」

 

 

 宗也の目に留まったもの、それは建物の中で命を落とした賊兵の亡骸だった。まだ埋めていない亡骸があったのか…。そう思って近づいてみたのだが、その賊兵の頭に……。

 

 

ー黄色に染め上げられた鉢巻が巻かれていたのである。

 

 

 これだけでも壮也は目を疑ったのだが、さらに壮也が亡骸に手を合わせてから懐を探ってみた所…。

 

 

ー蒼天已死 黄天當立 歳在甲子 天下大吉

 

 

 ……と言う、16の文字が書かれた布切れが出てきたのである。

 

 

「っ!?…そう言えば、確か今年は光和7年。…天和、地和、人和。早まった真似をしないでくれ」

 

 

 壮也は自分を庇う為に罪を被った少女達の事を案じて言葉を漏らしたが…彼の願いも空しく、歴史の歯車は確実に動こうとしていた…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 賊との戦いが終わった後、新たに自分のもとを訪れた少女達の為に武具を作った壮也は再び旅立つことを決意する。しかしそれと同時期、とうとう三国志の始まりと言える反乱の狼煙が上がろうとしていた…続きは次回の講釈で。




 今回登場したオリジナル武将


『呂岱・定公』(外見などはインフィニットストラトス アーキタイプブレイカーに登場していた『グリフィン・レッドラム』を参考にしました!)

 炎蓮よって引き立てられた将軍見習い。徐州広陵郡海陵県の出身で、中原の騒乱から家族と共に疎開し、孫堅軍に加入して研鑽を積んでいた時に炎蓮の目に留まり、将軍見習いとして引き立てられた。


 姉御気質で面倒見の良さもあり、非番の時には子供達と遊んであげる事も。


 史実において孫呉において勃発していた反乱鎮圧に尽力した人物であり、96歳と言う長寿を誇った武将。


『全琮・子璜』(外見などはインフィニットストラトス アーキタイプブレイカーに登場していた『ヴィシュヌ・イサ・ギャラクシー』を参考にしました!)

 炎蓮によって引き立てられた将軍見習い。揚州呉郡銭唐県の出身であり、父は霊帝の時代に孝廉に推挙され、尚書郎右丞にも任じられていた全柔。しかし王室内で蔓延している不正などに失望して官職を辞し、故郷に戻っていた。


 やがて孫堅の大望を抱く姿に共感した全柔が、娘である全琮を従軍させた事が縁となり、彼女自身の非凡な才能も炎蓮の目に留まった事で将軍見習いとして雪蓮の下に着く事になる。


 基本的に無口で言葉少なげではあるが頭脳明晰で思慮深く、血気盛んな一面を覗かせる鈴音などを宥める事も。


 史実において孫堅の娘である孫魯班を娶った武将でもあり、石亭の戦いにおいては陸遜の指示に従って攻め寄せた曹休の軍勢を打ち破って見せた。


 しかし後年、孫呉で起きたお家騒動と言える『二宮事件』において息子である全奇の悪行を諫めなかった事で後世において芳しくない評価を下されてしまう事になる。
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