真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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勇士、孫呉を旅立ち。関羽、窮地の少女を救う。

 壮也の宣言に、室内は暫しの間静寂に包まれた…。やがて炎蓮が溜息をつきながら玉座に腰かけた。

 

 

「そうかよ…。もうそろそろここを発つかとは、薄々感じとってはいたが…今日だったとはな」

 

 

「大殿、よろしいので?この者の胤を孫呉に入れようと考えていたと思っていましたが…?それに自分の下を去ると明言した相手を、引き留めもせぬとは大殿らしくもない」

 

 

 彼女の呟きに、千冬が彼女が狙っていた事…即ち優れた人物の胤を孫呉に組み込もうとしていたにも拘らず、彼が自分の下を去る事を止めない事に疑問を持ち問いかけていた。

 

 

「まあな。こいつの武人としての力量も、その心構えも…手放したとしたら絶対後悔するって頭では分かってんだよ?だが同時に…こいつは筋金入りの頑固者だ。一度こうと決めたら絶対、誰がどうしようと梃子でも曲がる事がねえ。多分俺が『去るなら殺す』と脅しつけたとしても、こいつは自分の決めた事を曲げるつもりなら、俺の刃に懸かって果てるつもりだろうよ?そうだろ?」

 

 

「…そこまでお見通しでしたか。流石は炎蓮殿です」

 

 

 壮也の答えに、炎蓮は鼻を鳴らすと破顔一笑して応える。

 

 

「だったら、気持ちよく別れた方がこいつも未練なく旅立てるってもんだろ。それに…天がこいつを孫呉に導く事もあるかもしれねえ。なら、そいつを待ってみるのも一興だろ?」

 

 

「成程…そこまで仰せられるなら、我らとしても異論は『ま、待ってください壮也殿ぉ!??』…真耶」

 

 

 炎蓮の言葉に千冬も納得し、頷こうとしたのだが…その矢先に真耶が必死の形相で、壮也を引き留め始めた。

 

 

「お、お願いです!?どうかこのまま孫呉に仕えてくれませんか!?大殿が一目置いてる貴方なら、大殿の暴走を止められるかもしれないじゃないですか!?私だけじゃ大殿の暴走を止められないんです!?お願いしますよぉ!?」

 

 

「ま、真耶殿…」

 

 

 その顔はもうなりふり構わずと言う感じで泣きじゃくる始末であり、流石の壮也も躊躇いを見せ始めたのだが…そんな彼女の首根っこを千冬が掴んで無理やり引きはがしていた。

 

 

「諦めろ真耶。徐寧が…こいつが自分の決めた事を曲げないのは知っているだろうが」

 

 

「ウワーン!?嫌ですううううう!??彼が孫呉の下を去るのを黙って見ているなんて、私には出来ませんよぉ!??」

 

 

 千冬が叱りつけるものの、そこだけは譲れないのか真耶はギャン泣きして受け入れようとせず、それを傍から見ていた祭や粋怜も苦笑いをしてみていた。

 

 

「ううむ…よもやここまで真耶が譲ろうとせんとはな」

 

 

「まあ気持ちは分からなくもないわよ…大殿の暴走を止められるかもしれない数少ない人だもの。逃がしたくはないわよね…」

 

 

 だが、そんなギャン泣きは真耶に近づいてきた雷火の拳骨によって中断された。

 

 

ーバコンッ!

 

 

「ぎゃんっ!?」

 

 

「いい加減にせい真耶!大殿が送り出すと決めたのであれば気持ちよく見送ってやらんか!……済まんの壮也よ」

 

 

「いえ、ありがとうございます雷火殿」

 

 

「…正直に言えば、儂もお主に孫呉を離れてほしくはないと思っておるのじゃがな。大殿の命の恩人であり、雪蓮様や蓮華様もお主に信頼を向けておるそなたは、この孫呉が天下に飛翔するための一翼を担うであろうと儂は思っておる。…それでも、お主はここを離れる事を決めておるのじゃろうがな」

 

 

「…その通りです、弁解のしようもありません。如何なる責めも甘んじて受け入れるつもりです」

 

 

 壮也が拱手をしながら詫びを入れたのだが、当の雷火は首を横に振って返した。

 

 

「よいよい、そなたが以前から決めていたのであれば儂らが無理強いしたとて聞き入れる訳もあるまいよ。…すぐに発つ積もりか?」

 

 

「はい。雪蓮や蓮華達にも別れを告げ次第旅立つつもりです」

 

 

 壮也が答えると、祭や粋怜らも名残惜しそうにしていたが…やがて笑顔で彼の手を取り、別れを告げ始めた。

 

 

「宗也よ、お主には感謝の念しか浮かばぬ。お主がおらねば大殿や千冬は今ここにおらなかったであろう…」

 

 

「ええ。それを救ってくれた貴方は私達孫呉にとっての大恩人…もし気が変わって孫呉に仕えたいと思ったのなら喜んであなたを迎える積りよ」

 

 

 二人の言葉に、壮也もまた拱手をしながら頭を下げ感謝の念を示した…。

 

 

「祭殿、粋怜殿…ありがとうございます。あなた方や真耶殿、千冬殿に送った武具をどうか大切にしていただければ幸いです」

 

 

「おうっ!儂には確か鉄鞭じゃったな。それにしても『断海鞭(ダンカイベン)』とは中々に他を圧するかのような銘をくれた物よな!」

 

 

 祭がそう言って腰に差している、漆黒と黄金色が交差している凹凸が特徴的な刀身を持つ、『断海鞭』と銘打たれた鉄鞭を掌で叩きながらからからと笑いだすと、粋怜もまた近くの柱に立てかけている、中央が茜色に染められた緑色の長柄の両端に、穂先に金色が入り混じった波打った刀身の双矛に目をやりながら朗らかに笑みを浮かべた。

 

 

「そうね。私も『豪勇蛇矛(ゴウユウダボウ)』なんて業物を贈呈されたし、こんな物を贈呈されたら活躍しないとあなたに顔向けできないものね!」

 

 

「ははっ…喜んでくださったのならこれに勝る喜びはありません『うー…壮也さーん(つд⊂)エーン』ま、真耶殿…」

 

 

 だが祭と粋怜との会話に花を咲かせていた時、壮也の下に泣きじゃくりながら真耶が近づいてきた。

 

 

「…本当に行ってしまうんですかぁ?行かないでくださいよぉ…(´Д⊂グスン」

 

 

「真耶殿…お気持ちは嬉しいのですが、以前から決めていた事なのでこればかりは…。申し訳ないとは思っているのですが…」

 

 

 壮也がそう答えると、真耶は項垂れてしまったのだが…やがて涙を拭い去ると泣き笑いのような表情を浮かべながら答えた。

 

 

「ここまで決意が固いのなら、もう私も諦めます!けど壮也さん、私達孫呉は貴方が戻ってくるのならいつでも歓迎しますから!!それに、私もあなたに作ってもらったこの『猛吼戟(モウコウゲキ)』に恥じないように頑張っていきますから!」

 

 

 真耶がそう言いながら背中に背負っていた、両刃の斧と矛の穂先を掛け合わせたような形状の刃をし、漆黒の短い柄に取り付けられた短戟を手にそう宣言したのを見て、宗也も笑顔を見せて頷いた。

 

 

「真耶殿、感謝いたします。…千冬殿もどうかご健勝のほどを」

 

 

「ふっ、無論の事だ。私も貴様に鍛えてもらったこの『紅暈神龍爪(コウウンシンリュウソウ)』を手に、これからも大殿の傍で戦い抜くさ。…言っておくが、戦場で敵味方に分かれようとも決して手を抜くつもりはない。それこそ戦場に立った武人としての礼儀故な…貴様も心にとめておけ」

 

 

 千冬は自らの腰に差している、炎を吐く龍の頭部を思わせる形状の火打石が鍔の様になった双刀の柄に手を置きながらそう忠告すると、宗也もまた力強く頷いた。

 

 

「無論です。…では」

 

 

 そう言って壮也は拱手をしながら頭を深々と下げるとそのまま入口の方へ振り返り、振り向く事もせず堂々と立ち去って行った…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

「…行っちまったか。最後の最後まで律儀な奴だぜ、わざわざ許しを得てから立ち去ろうなんてな」

 

 

 壮也が立ち去った後、炎蓮はそのまま壮也が立ち去った入口の方を暫く眺めながら呟いていたが、これに祭や粋怜らが口を挟んだ。

 

 

「全くじゃな…それにしても堅殿。あれほどの男、やはり旅立たせて良かったのか?」

 

 

「そうですよ。いつもの大殿なら何が何でも逃がす訳には行かないって豪語していたのに」

 

 

「ああ?いいんだよ…さっきも言ったがあいつは一度決めたら絶対に梃子でも曲げねえ頑固者だ。無理に止めようとしても…それこそ行けば殺すと脅したとしても、あいつはむしろ自分の命を捧げる事を躊躇なく選ぶだろうからな。それよりは気持ちよく送り出してやるのがいいだろ?」

 

 

 炎蓮がそう言い放つと、千冬も同意する様に頷く。

 

 

「確かに。…それにしても真耶、むしろお前の方が意外だったな」

 

 

「何ですか…?」

 

 

「お前の事だからしがみついてでも止めようとしたと思ったんだが…」

 

 

 千冬がそう問いかけると、真耶は溜息をつきながら答えた。

 

 

「…それで翻意できるなら躊躇なくしましたよ?『したのか…』けど、大殿も言ってたじゃないですか。壮也さんは筋金入りの頑固者だって。無理に止めようとしたって絶対に受け入れるわけないでしょう?だったら、気持ちよく見送ってあげるべきじゃないですか…」

 

 

「そうか…成長したのだな、真耶」

 

 

「そんな風に言わないでくださいよ千冬さん!?本当なら旅立ってほしくなかったのを我慢してたんですからぁ…。(´Д⊂グスン」

 

 

 祭や粋怜、千冬や真耶達の掛け合いを見ながら暫く黙っていた炎蓮であったが、やがて雷火が問いかけて来た。

 

 

「それにしても…今時珍しいぐらいの気骨溢るる男じゃったのぉ。孫呉に腰を落ち着ける事がなかったことが残念じゃったわ」

 

 

「それを言うなよ雷火。それに…あいつとはまた出会える日が来るかもしれねえ、オレはそう思ってるぜ?」

 

 

「大殿の勘、と言う奴かの?では…儂らも期待して待つとするかの」

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 炎蓮達に別れを告げた壮也はそのまま教練場に足を運ぶ。そこでは蓮華と椿達を始めとした、蓮華の下につけられた将軍見習い達が訓練に励んでいたのである。

 

 

「壮也?貴方がここに足を運ぶなんて珍しいわね?…何か、事情があるのね?」

 

 

 やがて蓮華が壮也の姿を見つけて近寄ったのだが、壮也から感じられる雰囲気がただ事ではないと察したのか真剣な表情で問いかけて来たので、壮也も頷いて答えた。

 

 

「蓮華…それに椿たちと過ごした日々はとてもいい物だった。だが、故あって今日ここを発つことにしたんだ。蓮華達にしてみれば突然に切り出してしまった事、心から詫びさせてほしい」

 

 

 壮也の告白が響き渡ると、教練場は暫しの静寂に包まれたが…やがて思春が切り出した。

 

 

「そうか…貴公、ここではない何処へと旅立つのか。寂しくなるな」

 

 

「思春…ああ。以前から考えてはいた事なんだが、この孫呉で過ごした日々が心地よかったからな。少し長引いてしまった」

 

 

「それは嬉しい限りだ。…私はそなたを引き留めるつもりはない、恐らく大殿に既に申し出たのだろう?そして大殿が貴公を送り出した。ならば私は貴公を気持ちよく送り出すつもりだ」

 

 

 思春がそう言い放つと、他の将軍見習い達も頷きながら別れを告げ始めた。

 

 

「壮也よ、湿っぽい別れを告げる…と言うのはどうにもらしくないので、端的に言わせてもらう。お前と過ごした日々は、私にとって充実した日々だった。いつの日か、再会できる事を願っている」

 

 

 椿は凛とした表情をしながら、力強く別れを告げ…。

 

 

「椿さん…ええ、そうですわね。壮也さん。貴方が作って下さった武具のお陰で、先の戦で私達も存分に働く事が出来ましたの。この場を借りて、改めてあなたに心からの感謝を」

 

 

 蒼蓮は深々と頭を下げながら感謝の意を示し…。

 

 

「あんたがいなくなるなんて残念だけど…前々から決めていたってんなら止めたって聞かないんでしょ?だったらアタシ達をいちいち気にしないで旅立てばいいじゃない!」

 

 

「あたしも紅龍姉と同じよ。あんたが作ってくれた得物のお陰で蓮華様を護る事が出来たもん。敵になるか味方になるかは分からないけど、いつかまた会いましょ!」

 

 

 紅龍と紫龍は湿っぽいのが嫌いなのか笑顔を見せながら明るく振る舞い…。

 

 

「僕も寂しいけど…君も考えた末の決断だって言うのなら、それに口を挟む事はしないよ。けどいつか…君と再会できることを願ってる!」

 

 

「…私としては孫呉の敵になるかもしれない貴様を旅立たせるのは気が引けるが、貴様には私達の得物を作ってくれ、そして先の戦いで蓮華様を護ってくれた大恩がある。だからこそ、私は貴様を引き留めはしない。…達者でな、壮也」

 

 

 悲しそうに顔を歪めるも再会を期す事を願う白百合に対し、孫呉の敵になるかもしれないと警戒をするも受けた恩義に報いる事を想い、彼を制止する事をせず送り出す黒兎…。

 

 

「壮也さん…私達もあなたと過ごした日々を、絶対に忘れません…!きっと雪蓮様や薊達も同じ思いのはずです…!」

 

 

「亜莎、泣きすぎですよ…。壮也さん、いつの日かまた再会できる事を願ってます!今度再会できたのならお猫様談議が出来ると嬉しいです!」

 

 

 泣き腫らした顔をし、涙を流しながら壮也と過ごした日々を懐かしむ亜莎と、そんな亜莎をたしなめながらも再会を願う明命…。

 

 

 そして、そんな彼女達と別れの言葉を交わす壮也に対し蓮華もまた感慨深そうに彼に声をかけた。

 

 

「…そう。正直に言うと貴方と別れたくないと思っているけれど、貴方自身が熟考した末の決断だと言うのなら、私も止める事はしないわ」

 

 

「蓮華…本当に済まない」

 

 

「私は大丈夫よ。けど雪蓮姉様の方は心配になるわ…姉さま、壮也のことを本気で好いていたから。壮也、姉様ともしっかり別れの言葉をかけて行ってね」

 

 

「無論だ」

 

 

 壮也もまた雪蓮に別れを告げずに旅立つつもりもない事を伝えると、蓮華も笑顔を見せた。

 

 

「それに妹…シャオを貴方に合わせられなかったのも残念だったわ…。あの子がいたのなら絶対あなたの事、気に入っていただろうし」

 

 

「シャオ?…もしかして、孫尚香の事か」

 

 

 宗也はこの長沙にはいなかったが、蓮華の言葉を聞いて孫権の妹という事は、三国志でも有名な孫夫人こと、『孫尚香』と予期すると、蓮華も頷いた。

 

 

「ええ、今は廬江郡舒県の方で暮らしているの。……壮也、いつの日かまたあなたと会えることを願っているわ。出来うる事なら、味方としてね」

 

 

「ああ、そうなる事を祈っているよ。…じゃあ蓮華、そして皆。またいつの日か」

 

 

 壮也はそう言い放つと踵を返し、その場を後にしたのである…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 教練場を離れた壮也は、住居としていた鍛冶場付きの邸宅を綺麗に掃き清めると旅支度を整え、黒風に跨って城門を通ろうとして…城外で教練をしていた雪蓮らと鉢合わせた。

 

 

「雪蓮!」

 

 

「あら壮也!あなたも城外にって…その恰好、まさか?」

 

 

 壮也と鉢合わせた雪蓮は喜色を露にしたのだが、旅装束を纏っている壮也の姿を見て急に顔を曇らせた。

 

 

「…ああ、雪蓮の予感通りだ。俺は今日ここを旅立つつもりだ、炎蓮殿や蓮華とも別れを済ませて来た」

 

 

「………『雪蓮』冥凛?」

 

 

 壮也の言葉に雪蓮がますます顔を曇らせて黙っていると、冥凛が声をかけて来た。

 

 

「言いたい事があるのなら、今のうちに伝えておけ。何も言わないで別れたとしたら、きっと後悔する事になるぞ」

 

 

「…分かったわ。壮也、出来れば二人きりになりたいのだけどいいかしら?」

 

 

 雪蓮の問いかけに対し、壮也も静かにうなずいた。そして二人は城外の小高い丘に移動した…。

 

 

「……いつかこうなるかもしれないとは思っていたけど、今日になるなんてね」

 

 

「そうだな…雪蓮、その事は済まなかった。だが…」

 

 

 壮也が詫びようとすると、雪蓮は壮也の言葉を遮るように掌を広げて前に出す。

 

 

「謝らないで。貴方自身が決めた事をとやかく言う積りはないもの…でも、私自身心の中は穏やかじゃないわ。貴方を気持ちよく送り出したいって言う想いと、貴方と別れたくないって言う想いがごちゃ混ぜになってる」

 

 

 そう言った瞬間、雪蓮は壮也の胸元に縋りついた。壮也は驚きはしたものの取り乱す事なく、黙ったまま彼女を静かに見据え続けた。

 

 

「壮也…。私は、孫伯符は……貴方の事を一人の男として好いている。貴方は、私の事をどう思ってる?」

 

 

「雪蓮……俺は」

 

 

「分かってるわ。貴方には好きな人がいるって事は…でも、今だけでいいの。…貴方の気持ちを教えて」

 

 

 雪蓮の言葉に、壮也は瞑目していたが…やがて意を決した様に彼女の目を真っ直ぐに見据えながら答えを出した。

 

 

「雪蓮、俺の事を想ってくれた事…とても嬉しく思う。君の想いに一人の男として応えたいと思ってはいるが…それでも、俺は愛紗を裏切れない」

 

 

 そう言い放つと壮也は、雪蓮を抱きしめた。雪蓮は思いもよらぬ出来事に動揺を隠せなかった…。

 

 

「…けど雪蓮、俺は君に会えてよかったと思っている。君と過ごした日々は、流浪の日々を選んだ俺にとって幸せな時間だったから。いつの日か…また会えることを願っている」

 

 

 その言葉に雪蓮は目を見開き、同時にその蒼色の瞳から大粒の涙を流し始める。だがやがて、彼女は涙を拭い去ると笑顔を見せながら返事をした。

 

 

「…っ!私も、貴方と再会できる事を願っているわ壮也。それに…覚悟しておいて?私、諦めがすごく悪いの。もし再会できたのなら、今度は絶対に離れないんだから!」

 

 

 雪蓮の宣言にさしもの壮也も苦笑せざるを得なかったが、同時に『それでこそ雪蓮だな』と思い、力強く頷いたのである。

 

 

「おっと、どうやら雪蓮のやる気に火を付けてしまったかな?けど…いつもの雪蓮に戻ってよかったよ。…じゃあ、戻ろうか」

 

 

「ええ、そうね!」

 

 

 そう言って二人は冥凛達の元へ戻る事にした…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 そうして壮也は冥凛達にも別れを告げて行った。

 

 

「そうか…壮也よ、私達孫呉は受けた恩義を決して忘れはしない。もし孫呉に仕える積りになったのならば、いつでも訪ねてこい。私自身、この『緋湧棍(ヒヨウコン)』を贈呈してくれた恩義もあるのでな」

 

 

 冥凛はそう言って馬に吊り下げていた真紅の色合いをした長棍を手に取りながら、宗也に感謝の意を示し…。

 

 

「うわーん、壮也さんが行っちゃうなんて寂しいよー!でもでも!またいつか会えるよね!?私楽しみにしてるから!」

 

 

「私も…出来うるならばこれからも共に戦いたかったですけど、壮也さん自身が決めたのならそれを尊重します。いつの日か再会できる事を願っています!」

 

 

 千束は涙を流しながら別れを惜しみ、菖蒲もまた悲しそうに顔を歪めながら別れを惜しんでいたが、共に再会を願い…。

 

 

「そっかぁ…行っちゃうんだ壮也。ちょっと残念だけど…でもさ、これで今生の別れじゃないもんね?」

 

 

「その通りですよ凌霄。壮也殿、貴方とはまたいつか再会できる…私達は信じていますので」

 

 

 凌霄は別れを惜しむものの明るく振舞おうとし、白鶴は淡々とした返答をしていたが言葉の端々に別れを惜しみながら再会を願い…。

 

 

「おいおい噓だろぉ?!また私アンタとの立ち合いで勝ててねえんだぞ!?もう少し逗留してくれよ!なっ!?」

 

 

「隼さん、諦めも肝心っスよ?…壮也さん、旅の安全を陰ながらに祈っているっス。また会えた時までに、私達はもっともっと強くなってるっスから!」

 

 

 隼は壮也との練武の立ち合いで勝つ事が出来ないでいた為、何とか引き留めようとしていたのに対し、紫陽花の方はそんな彼女を窘めながら、再びの再会を願って別れを告げ…。

 

 

「ふ、ふんっ!椿の心を掴んでいたお前がいなくなるなら清々するという物だ!?これで再び椿の心を取り戻せるぞぉ!?わっはっは……体には気を付けるんだぞ!」

 

 

「雛菊、アンタって奴は…強がってないで少しは別れを惜しむとかしなさいよ」

 

 

 そんな中で壮也の事を内心敵視していた雛菊は勝ち誇ったような感じで笑っていたのだが、最後の最後で体を労るように声をかけ、薊はそんな雛菊を窘めていた…。

 

 

 そして…孫呉で出会った人達全てに挨拶をできたと考えた壮也は、黒風に跨ると最後に雪蓮の方に顔を向けながら別れを告げたのである。

 

 

「じゃあ雪蓮、短い間だったけど君と出会い、共に過ごせてよかった!またいつか、会える日を願っている!」

 

 

「ええ壮也!私も同じよ!また会える日を楽しみに待っているわ!」

 

 

 二人は互いに言葉を交わし、壮也は再び放浪の旅に出たのであった…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 壮也と別れを告げた後、雪蓮は宮中に戻って来た…。その姿を見た蓮華が彼女に近寄った。

 

 

「姉様!壮也とは…」

 

 

「ええ、別れを告げたわ。…言いたい事も伝えられた、だからそんな悲しそうな顔をしないで蓮華。これが今生の別れじゃないじゃない?ね?」

 

 

「姉様…ええ、そうですね。これから母様に?」

 

 

「そのつもりよ」

 

 

 そうして蓮華と別れた雪蓮は、母である炎蓮の下へ足を運んだ。

 

 

「よう雪蓮?その様子だと…言いたい事は伝えられたみたいだな?」

 

 

「そうよ。……母様達、何かを調べていたみたいね?」

 

 

 ふと雪蓮は、炎蓮の前に置かれている会議用の卓の上に地図などの他に、手配書の様なものも置かれている事に気づいた。

 

 

「ああ…壮也の正体ってのが分かってな。雷火」

 

 

「御意。雪蓮殿、壮也の正体ですが…徐寧とは仮の名、真の名は徐来芳明…河東郡陽県の出自である鍛冶師、徐岳の嫡男でありました。そして十常侍の筆頭である張譲の親族を殺めた事で指名手配となっているとのこと…」

 

 

 それを聞いた雪蓮は初めこそ顔を驚きに染めていたが、やがて平常心を取り戻したのか深呼吸をしていた。

 

 

「……そうだったのね。母様の予感は正しかったって事か」

 

 

「しかし、まさか都を牛耳っている宦官共の親玉の親族を手にかけていたとはなぁ!それだけじゃなく、その殺害動機ってのが、惚れた相手を護る為だったそうだ!ったく、つくづく気骨のある男だったって事だ!」

 

 

 そう言って炎蓮がからからと笑いだしたのだが、それに意見したのが雷火だった。

 

 

「そうですな…。大殿、旅立っていった壮也ですが…網中の大鵬だったやも知れませんぞ?」

 

 

「構いやしねえよ。鵬ってのは一つ所に留まる事のねえ鳥だ!それに…天がそう望むのなら、いつかあいつは誰かの下に羽を休ませに降りてくるだろうぜ!それがこの孫呉になるかは分からねえけどな!はっはっは!」

 

 

 炎蓮が再び大笑いするのを祭達が苦笑いして見守る中、雪蓮は冥凛と共に宮中の建物から外に出ていた。そして空を見上げながら旅立っていった壮也の事を考えていた…。

 

 

「……(壮也、貴方は今頃どこにいるのかしら?貴方がいなくなってしまった事を、寂しいっていう気持ちはまだ残ってるけど、必ず会えるわよね?私、信じているから。そして…いつかあなたと再会できたときに、貴方が驚くくらい…王として成長して見せるわ!)」

 

 

「雪蓮…(やれやれ、あいつの顔…あれは正に『恋する乙女』そのものではないか。だが恋は盲目と言う訳ではなさそうだ…むしろ王としての強い決意を感じさせるようにもなっている。フフッ…壮也、いつか雪蓮と再会したのなら、きっと成長した姿を見て驚くかもしれんぞ?)」

 

 

 こうして雪蓮こと孫策は、後に再会を果たす事になる壮也も一目置くほどの成長を遂げる事となり、かくして……孫呉と言う安寧の場所を離れた壮也は再び流浪の身と相成ったのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 さて、時は壮也が孫堅を窮地から救い、孫呉に迎えられた頃に遡る。壮也との再会を果たそうと旅を続ける愛紗は、その途上で主従の契りを結ぶ事となった紅葉こと周倉と共に旅を続けており、二人は荊州は襄陽郡中廬(ちゅうろ)県を訪れていた。

 

 

 そんな時、紅葉は唐突に口を開き、馬上の人である愛紗に問いかけて来た。

 

 

「そういえば愛紗様、一つ聞きたい事があるんです!」

 

 

「私にか?何だ」

 

 

「愛紗様が河東郡で『黒髪の女傑』って言われていた頃に、愛紗様と肩を並べていた『大斧の勇士』っていたじゃないですか!いったいどんな人なんですか!?」

 

 

 紅葉が目をキラキラさせながら問いかけて来たのを見て、愛紗は苦笑しながらも答えた。

 

 

「…私にとって幼馴染であり、私を咎人にせんがために罪を被った…いや、私の所為で罪を被せてしまった、掛け替えのない大切な人…。それが『大斧の勇士』、徐芳明と言う男さ。私が旅をしているのもあいつと…壮也の隣にありたいと思っての事なんだ。…落胆したか?義侠に厚いとされる私が、恋人の下に行きたいが為だけに旅をしているなどと知って」

 

 

 愛紗がそう答えると、紅葉は首を思いっきり横に振った。

 

 

「そんな事ないです!聞く所じゃ、徐芳明って人は十常侍の親玉である張譲の親族を手にかけたんでしょ!?世の民草を苦しめる悪徳宦官に抗って見せるなんてすごい人だと思いますし、それに…愛紗様を護って罪人になるなんて、素敵な人だと思います!私も会ってみたいなぁ…!」

 

 

 紅葉の溌溂とした返答を聞いた愛紗は、底抜けな明るさを持つ彼女を微笑ましく見た…。

 

 

「ふふっ、そうか…お前のその気性、壮也はきっと気に入ると思うぞ…?」

 

 

 だが、唐突に愛紗は会話を中断し、鋭い目をしながら周囲を見回し始めた。

 

 

「っ?どうしました愛紗様?」

 

 

「微かだが、怒声と剣戟の音が聞こえた。…あちらか!付いてこい紅葉!」

 

 

 そう叫ぶと愛紗は青龍偃月刀を手にし、赤雲に鞭を入れて駆けだした。それを見た紅葉も…。

 

 

「了解です愛紗様!」

 

 

 先に馬で駆け出した愛紗から離れまいと言うばかりに猛然と駆けだした!やがて先んじて馬を走らせた愛紗の目に飛び込んだのは…。

 

 

「この野郎!仲間になったくせに邪魔しやがって!」

 

 

「囲んで嬲り殺しちまえ!」

 

 

 小さな村のはずれ、そこに数十人の黄色い(・・・)鉢巻を頭に巻いている賊徒が、両節棍を手にして孤軍奮闘している…桃色のショートヘアーに琥珀色の瞳をし、頬にそばかすがある少女を取り囲んでいたぶっている光景だった。

 

 

 やがて背中を切りつけられて動きが止まった少女に頭目と思われる男が大剣を振り下ろして吹っ飛ばし、家の壁にぶつかって膝をついた少女に止めを刺そうとしているのを見た愛紗は、猛然と赤雲を走らせた…!

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 ……少女は自分が如何に考えが足らないかを痛感していた。相次ぐ天変地異による凶作が続き、苦しむ民草達。そんな民草の苦しみを一寸も理解せず、徴税と称して僅かばかりの食糧すらも奪い取っていく役人たち…。

 

 

 彼女の出身地である荊州は漢朝の宗室の一人であった劉表が統治をおこなっており、比較的平穏が保たれてはいたのだが…それでも凶作などで故郷を捨て流民となった人々とそんな彼らを弾圧する役人たちを見るとやるせない気持ちが沸き起こっていた。

 

 

 しかし少女には彼らを救う事が出来なかった。武術の才は多少あっても、自分が役人を討ち倒したとなれば追及の手が村に伸び、結局村人たちの迷惑になってしまう事を分かっていた。苦しむ人々すら救う事が出来ない現実に、彼女は慙愧に堪えなかった。

 

 

 そんな時、村にとある旅人が訪れた。『蒼天既に死す、黄天正に立つべし!堕落した漢朝を討ち倒し、新たな世の為に戦おう!』…そんな掛け声とともに役人達に立ち向かおうと呼びかけて来たのだ。その呼びかけに少女は彼らと共に戦う事が、世を正す事に繋がるはず…!

 

 

 そう決意した彼女は老いた母親の反対を押し切って家を飛び出し、『黄巾軍』と呼ばれる集団に参入をしたのである。

 

 

 元々武術には長けていた事から徐々に仲間内で信頼され、荊州北部を中心に役人の邸宅や悪徳富豪の邸宅を襲撃してため込んでいた食料や財貨などを民草に分け与える日々を送っていたのだが…それがある時一変してしまう。

 

 

 自分が属していた集団の頭目が荊州のとある村の略奪を計画したのである。これに彼女は問い詰めた。その村には悪徳役人など一人もいないし、寧ろ細々と日々を過ごす比較的平和な村なのだ。なのになぜその村を略奪しようと言うのだ!?

 

 

 だが頭目の答えはこうだった…。

 

 

ー何でだと?別に理由なんてねえよ。いつまでも偽善的な振る舞いをしてるのが飽きたってだけよ!そろそろ俺達も味わいたいと思ってんだよ…弱い奴らをいたぶる快感って奴をなぁ!!

 

 

 そう言い放ちへらへらと笑っている頭目の男を…気づいた時には彼女は思いっきり殴り飛ばし、野営地を飛び出した。馬を走らせ続け、馬が潰れたのならば野山を必死に駆け続け、全身が擦り傷と泥だらけになりながらも何とか標的としている村に辿り着いた。

 

 

 そして少女は村人達に避難するように説得し始めた。初め村人達は悪徳役人たちを相手に戦い続ける黄巾軍がその様な事をするとは…と疑っていたのだが、少女の必死の説得が実り村人たちは急ぎ避難し始めた。

 

 

 しかし彼女は彼らと避難を共にしなかった。自分が頭目を殴り飛ばして方を飛び出し、標的にしている村にこの事を知らせに言った以上、間違いなくこの村に向かって攻め寄せるはず。

 

 

 …耳障りのいい言葉を唯々諾々と聞き入れ、考える事もせず安易に彼らの仲間になってしまった自分自身への怒り。そしてそんな彼らに協力してきたせめてもの責任を取ろうと、彼女は単身無人になった村に一人で残り、嘗ての仲間たちを待ち受けたのである。

 

 

 やがて黄巾の賊徒どもが姿を見せると、彼女は長らく愛用してきた真紅の色合いをした『波濤』と言う銘の両節棍を手に、刀槍を手に襲い掛かって来た賊達を迎え撃った…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 しかし多勢に無勢…蹴り技を織り交ぜながら両節棍を振るって敵を蹴散らし続けていたものの、やがて後ろから近づいた賊の振るった朴刀に背中を切りつけられてしまう。

 

 

 そして痛みに動きが止まった直後、大剣を手にした方の指揮官…少女が殴り飛ばした男が大剣を振り下ろしたのを何とか防ごうとしたのだが、その勢いは止められず弾き飛ばされ家の壁にぶつかってしまった…。

 

 

「ふんっ、手間取らせやがって…!おい、村人をどこにやりやがった!せっかく略奪しようと息巻いてたのに肩透かしを喰らっちまっただろうが!」

 

 

 人相の悪い、半ば賊そのものと言う風体の男…頭目である男が少女に問い詰めたのだが、少女は口に溜まった血を地面に吐き捨てながら啖呵を切った。

 

 

「(ぺっ!)…言う訳、無いじゃない。あたしは、悪徳役人に苦しめられる民草を救いたいって思ったから、救民を掲げていたあんた達の仲間になった。なのにあんた達は罪もない村人に刃を向けようとした!…殺すなら殺しなさいよ。けどね、あたしはどんな目に…穢されたり殺されたとしても!絶対に村人たちの居場所を吐く事は、しない…!!」

 

 

 彼女はそう言い放つと、あっかんべーをして見せた。当然頭目の男はその顔を朱色に染めると激しく激高し…。

 

 

「いい度胸じゃねえか…!だったらその頭かち割ってやらぁ!!」

 

 

 そう叫びながら大剣を振り上げた。それを見ながら少女はゆっくりと目を閉じながらこれまでの日々を思い返していた…。

 

 

ーあーあ…こんな形で終わっちゃうんだ。母さんの言葉をちゃんと聞き入れとけばよかったかな…けど、苦しむ民草の為に戦いたいって気持ちに嘘はなかったんだけど、もっと考えて行動すればよかった…。

 

 

 そう思いながら来るであろう衝撃に身構えていたのだが…何時まで経っても痛みが来ない。そればかりか…。

 

 

「あ、あれ?俺の手どこ行った?なんで俺の手があっちに…ぴぎゃ!?」

 

 

 呆けた様な頭目の声が聞こえたかと思うと同時に、自分の体に盛大に血飛沫が掛かったのを感じた彼女が目を開けると…そこには大剣を持っていたであろうはずの両手が斬り飛ばされた様になくなり、さらに頭のてっぺんから両断された頭目の亡骸が地面に転がって血の池に沈んでおり、そのすぐ傍には燃え盛る炎を思わせる真紅の毛並みをした駿馬に跨り、青龍の装飾が施された大薙刀を手にした…美しい黒髪を靡かせた女性が威風堂々という表情でこちらを見下ろしていたのであった…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

ー間に合ったか…!

 

 

 愛紗は少女の無事を見て安堵の息を漏らした。見れば腕を抑えつつ立ち上がった少女は、あちこち傷だらけにこそなっているが命に別状はなさそうだ。やがて愛紗は赤雲の向きを変えて賊達の方に向き直ると、大喝一声して見せた。

 

 

「我が名は関羽、字は雲長!貴様らの頭目はこの通り私が討ち取った!まだ命が惜しくない者は懸かってくるがいい!!」

 

 

 その大喝はたちどころに賊達の心を萎縮させた。そもそも賊の頭目が討ち取られたのを間近で見てしまったのだ、これ以上戦おうという気概を持つ者はまずいないだろう…。

 

 

「か、頭が…杜遠様があんな呆気なく…!?」

 

 

「ち、畜生が!頭が討たれて黙っていられるか!一気に斬り懸かって『おりゃおりゃあ!!』な、何だ…ぎゃあっ!?」

 

 

 これに数少ない、心のおれなかった賊の何人かが戦おうとしたのだが…後ろから響いてきた声にその一人が振り向いた瞬間、大きな刃に体を切り裂かれながら吹っ飛ばされ、その命を終える事になる。

 

 

 そうしてその賊の一人を大鍘刀で切り飛ばしながら他の賊達を蹴散らして駆け付けた少女…愛紗を追いかけてきた紅葉が彼女の前に留まると、彼女の前に立ちはだかる様に振り返りながら名乗りを上げた。

 

 

「我こそは関雲長が一の家臣!関西が周倉ここにあり!外道共、ここから先は私が丸ごと相手になってやる!さあさあ、誰からでも懸かって来い!」

 

 

 そう言い放って紅葉が龍の装飾が施された『瞬光(しゅんこう)』と銘打たれた大鍘刀の切っ先を賊達に向けたのだが…。

 

 

「だ、駄目だ…逃げろおおおおおお!??」

 

 

「こんな所で死にたくねえ!?」

 

 

 とうとう賊達の方が心折れたのか、雲の子を散らすように逃げ去っていったのである…。

 

 

「…うー、格好よく名乗りを上げたのに」

 

 

「紅葉、そう不貞腐れるな。村を襲おうとした賊達を蹴散らせた。それだけで十分ではないか?…貴公、大丈夫か?」

 

 

 威勢良く名乗りを上げたのに敵が来なかった事に頬を膨らませながら不満がる紅葉を宥めながら、愛紗は赤雲から降りると膝をつき、腕を抑えながら呆然としている少女の下に近づき、手を差し伸べた…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 少女はこの時の事を決して忘れる事は無いだろう。賊の集団を相手にしながらも威風堂々と名乗りを上げ、村には立ち入らせはしないと言う固い決意を感じさせる立ち振る舞い。そしてそれが終わると、傷を負っている自分にも優しく手を差し伸べる彼女の姿を。

 

 

 そして少女は願ってしまった。もし叶うのならば…この人の臣下になりたいと。そう思いながら彼女は急に意識を失って倒れたのであった…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 村を救う為に単騎で戦った少女の窮地を救った愛紗。やがて意識を取り戻した少女が名乗り、彼女のとある提案を受ける事になる。そしてその頃の中華は風雲急を告げる大乱が始まろうとしていた…。

 

 

 続きは次回の講釈で。




 
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