今回は恋姫無双におけるキーキャラクター…もとい、『種馬』などと呼ばれる事もある北郷一刀君を登場させてみました。なお、この小説での一刀君は戦闘面で強化されています。原作とは違う一刀君を表現できたかは疑問ですが、どうかご覧ください。
現代の日本。その首都・東京にある『聖フランチェスカ学園』の敷地内にある剣道場……放課後で生徒たちが帰途についている中、その道場内で一人の青年ーこげ茶色の短髪と、琥珀を思わせる淡い黄色の瞳が印象的ーが只管に竹刀を振るっていた。
「98,99,100!…ふう」
やがて一通り素振りを終えた青年は息を整えていたのだが…その貌に浮かんでいるのはやり遂げた事による喜色ではなく『苦悩』…何かに悩み、苦しんでいる姿だった。
「…やっぱり駄目だな。素振りをしていても、心の靄が晴れてない」
そう言いながらため息をついた青年は竹刀を道場内の竹刀入れに戻すと、更衣室で着替えを済まし、道場を出た。すると…。
「…むっ。そなた一刀か?」
「えっ?あっ、如耶(きさや)先輩」
道場から出た青年ー一刀と言う名前らしいーは誰かに声を掛けられたので声の方を向くと、そこにいたのは濡れ羽色の流れるような黒の長髪に紅色の瞳と言う、『眉目秀麗』を絵に描いたような女性だった。
「こんな時間まで素振りをしていたのか?我ながら感心してしまうな…」
「いや…別に褒められた事じゃないですよ。心の迷いを晴らしたいって言う私事で残っていたようなものですから…」
一刀の沈み込むような言葉を聞いた先輩の女性ー如耶と言う名前らしいーは、そんな一刀を見て、同情するような顔をし、言葉をかけざるを得なかった。
「やはり…そなたは悩んでいるのか?自分の中にある天賦の才が自分を苦しめている事に……」
如耶の言葉に…一刀は重々しく頷くしかなかった。
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北郷一刀。恋姫†無双と言う物語において『外史の開き手』と呼ばれる事の多い彼は、この外史では天に愛されたとしか言えないほどの『天賦の才』を持っていた。幼い頃から剣道場を開いている祖父の影響を受けてか、自身も剣を振るう事を楽しいと思う活発な少年時代を送っており、祖父の厳しくも温かい鍛錬を受けてめきめきとその実力を増して行った。
しかしそんな日々は長く続かなかった。一刀が中学生の頃に出た全国大会で、彼は並み居る相手を討ち倒して優勝を掴んだのだが……それを見ていた同門の視線は『畏怖』しか感じられない物だったからである。いつもは気さくに声を掛け合う様になっていた同門の仲間も、その大会以来一刀を避ける様になった。
いや、避ける様になった位ならまだしも…ある大会で優勝した際、相手の選手から『化け物…!』と心無い口を聞かされることもしばしばだった。一刀には分からなかった…。
ー俺は特別な事なんてしていない。剣を振るう事が楽しいから、もっと上を目指したいと思ったから剣の腕を磨いた。なのになんでそんな言葉をかけるんだ…?なんでみんな俺を避けるんだよ……?
その想いが一刀の心に暗い影を落とす様になった。だが、それでも剣の鍛錬を怠る事をしなかった。剣を振るっていた方が悩みも晴れるのではないかと言う打算と、それ以上に剣を振るう事が好きと言う想いゆえに。しかしそんな一刀の想いとは裏腹に周りの人間は一刀の強さを見て、却って彼から距離を取る様になった。
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九州にある一刀の祖父が開いている剣道場…大会に出た後、夏休みを利用して訪れた一刀はそこでも剣の腕を磨く日々を送っていた。だがそこでも彼の強さは異彩を放っていた…何せ相手になるのは彼の祖父ぐらいであり、祖父が教えている教え子たちは殆ど相手にならなかったのである。それどころか自身を『畏怖』の視線を向ける様になり、ますます彼は悩みを深める様になっていた。
その夜一刀は、剣道場の隣に建つ祖父の家の縁側に座禅をしながら夜空を眺めていた。彼が見据える先には雲一つない夜空に満月が淡く輝く…。一般の感性から見れば美しい、綺麗だと言える光景が広がっていた。しかし、今の一刀にはその光景を見ても心が安らぐ事が無かった。
「どうした一刀よ?」
「あっ…爺ちゃん」
そんな一刀に声をかけたのは…一刀の祖父であり、この剣道場を開いている『北郷直刀』その人であった。直刀は一刀の隣に座って座禅を組むと一刀に再び語りかけた。
「…一刀、どうやらひどく悩んでいるみたいじゃな?」
「えっ…分かるの?」
「当たり前じゃ、これでもお前の祖父じゃぞ?…それも、己の強さの事でじゃろう?」
直刀がそう言うと、一刀は一瞬顔を強張らせたかと思うと深く頷いた。
「…爺ちゃん。俺は、剣を振るう事がとても楽しかった。剣を振るう事に強くなっていくのがとても嬉しくて、もっと上を目指したいって思って剣の腕を磨いてきた」
「なのに…俺が強くなればなるほど、皆は俺から遠ざかっていくんだ。『化け物』なんて呼ばれもしたっけ…」
「そうか…儂から見ればお前は化け物ではないぞ。お前は儂にとって掛け替えのない孫であり、同時にたぐいまれな才気の持ち主じゃと思っておる。じゃが…人と言うのは『自分達よりも力を持っている存在を恐れる』性分じゃ」
「一刀…お前は儂の眼から見ても天に愛されたとしか言えぬほど『天賦の才』に溢れておる。そんなお主が強くなろうとすればするば、他の人間から見れば恐ろしいとしか見えぬじゃろうよ。今剣道をやっておる者達でお前のように純粋に強くなりたいと、剣を楽しいと思っておる人間の方が少ないのだから…のお一刀」
「?何、爺ちゃん?」
「…お前は何故そうまでして剣の腕を磨く?そうして磨いた剣の腕で『何をしたい?』」
「えっ…?」
祖父・直刀の問いかけに、一刀は答える事が出来なかった。自分が剣を磨く理由…それは剣を振るう事が楽しいからと言うのが自分の理由だ。しかし、祖父の問いかけはそれとは違う物だというのを彼はうすうす感じ取っていた。だから分からない…そんな一刀の心境を見越しているかのように、直刀は自らの理由を語りだした。
「儂が剣の腕を磨くのはな…『大切な人を護りたいから』なんじゃよ」
「誰かを護る為…。それが爺ちゃんが剣を振るう理由なのか?」
「そうじゃ…ただ楽しいから、強くなりたいからと言う理由で剣の腕を磨くのは剣士としては二流じゃ。何かを護る為に剣を振るってこそ剣士としては一流…それが儂の持論じゃ。一刀…お前にも『誰かを護る』為に剣を振るえる様になってほしいのお…」
そう言って直刀は彼の頭を撫でるのを、一刀は心地よく感じていた…。
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それから時が経ち、一刀は聖フランチェスカ学園に入学して剣道部に入って修練に励んだ。そこでは先輩であると同時に剣道部の部長として自身の悩みを見抜き、その心配をしてくれる不動如耶(ふゆるぎきさや)や同年で誰に対しても物怖じせず、気さくに自身に接してくれる及川祐(おいかわたすく)と言った面々との交友をする事ができたのだが…それでも心の内には『自身の力量がある事への悩み』がしこりとして残っていた。
「…如耶先輩。俺、一度剣の道から離れてみようと思うんです」
「!!…北郷、それは本気なのか?」
「ええ…この学園に入って少しは変われるかと思ってたんですけど、それでも同じ剣道部の皆からは畏怖の視線で見られる事が多いんです……。だから…」
だがその言葉を紡ぎ終わる前に…如耶は静かではあるが強い口調で彼を諭していた。
「…北郷、それは『逃げ』でしかないぞ?それがしはそなたの事をよくは知らぬ…だがな、人生とは悩み、苦しみながらも前に進む事が大事だと思っておる。もう少し、考えてみたらどうだ?」
「先輩…」
「ふっ。とはいえ、それがしもそのように言えるほど練達してるわけではないのでな。また明日会おう」
「…はい!」
そうして如耶先輩と別れた北郷はそのまま自身が住んでいる学生寮に戻っていた時の事である…。
「…?あいつ、何を…?」
そう呟いた一刀の視線の先には学園内にある、閉館時間を過ぎている筈の歴史資料館で周囲を見回しながら布で包んでいる何かを持ちだそうとしている誰かの姿だった。それを見た一刀は瞬時にその男がしている事を感じ取り、呼びかけた。
「おいっ!そこで何してる!!」
「っ!」
だが呼びかけられた男は返答せずに駈け出して彼を撒こうとした為一刀は即座に後を追った!そしてしばらく追いかけっこをした末…その男は足を止めて振り返った。その男は白が強い薄緑の短髪に紫の瞳、自身と同じ聖フランチェスカ学園の制服を纏っているが、額と目の部分に朱色の染料を使った隈取と紋章が描かれているという風貌をしていた。
「っ!貴様……北郷一刀か!?」
「え?俺の事を知ってるのか…?」
一刀は目の前にいる男と会った事もない。なのに自分の名前を言い放った相手に戸惑いを覚える中…その男はその眼に強い殺意を宿して睨み付けた。
「ここで貴様に逢えるとは好都合…新たな外史を作り出す前に、貴様には死んで貰う!!」
そう言うが早いか、その男は一刀に対して飛び掛かったかと思うと猛然と蹴りを繰り出した。その一撃はかなりの速さであり、込められた力も相当な物だろう。これに対し一刀は…。
ーガッ!!
「な、何ぃっ!?」
一刀に蹴りを放った男は信じられない物を見ているような顔をした。何故なら目の前にいる一刀を殺すつもりで放った脚撃を
「…強いな。相当の実力者みたいだな、お前。悪いけど…そっちがその気なら、こっちも全力で行かせてもらう!!」
そう言うと一刀は受け止めた足を弾き飛ばすと、瞬時に男の懐に入り…。
「せいっ!」ードゴ!!
「ぐうっ!?」
そのまま彼に対して拳による一撃を見舞ったのである!その一撃により彼はかなりの距離を後ずさった。
「…受け止めたか。お前、同じ聖フランチェスカの制服を着てるけど何者だ?この学校に通ってるけどお前のような手練れは見た事『くそっ、鏡が…!』えっ?」
その男の呻くような声に一刀が反応し彼の胸元を見ると…その胸元に入れていたのだろうか?古ぼけた鏡が割れて破片が彼の足元に落ちていた。そして…その直後、周囲が眩い光に包まれ始めていた。
「こ、これって…!?」
「くそっ、またしても…またしても外史が作られるのか!?くそおおおおおおおおおお!!!」
「う、うわああああ!?」
一刀の戸惑い混乱する声と、鏡を持っていた男の怨嗟が宿った咆哮が放たれる中で…その光は男と一刀を飲み込んだ。やがて光が収まると…そこには割れた鏡の欠片だけが残っていた。
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突然の発光に目を瞑り、腕で光を遮らざるを得なかった一刀…だが、やがて光が収まったと見て腕をのけると…。
「…そ、空?」
一刀の目に飛び込んできたのは雲一つない青空だった…それはまだいい。問題は…
「……う、うわあああああああああ!??」-ヒュウウウウウウウウ!!!
一刀が目の前の光景を受け入れる事も出来ず、彼はそのまま頭から真っ逆さまに眼下に見える地上に落ちて行った!
「ま、まずいまずいまずい!!何とかしないとこれ死ぬって!?」
そう口にしながら一刀は何とかしようと考えるが…何せ持っているのは身に纏っている制服と携帯電話、そして筆記用具を入れてある通学バックぐらいしかない!!
(やばい、これ積んだ…って思ってる場合じゃない!!何とかしないと!)
一刀は一瞬目を瞑って諦めかけるも即座にその考えを捨てる!この状況下で諦める事=死は明確なのだ。そう思って再び目を開けると…。
「…っ!?人…?」
一刀の目に飛び込んできたのは複数の人間に囲まれている、手に長柄の戦斧を持った薄紫色の髪が印象的な少女がこちらを見上げている光景だった。
「よ、避けてくれええええええええ??!?!?!?」
「…………わー」
一刀は自身が眼下にいる少女に向かって落ちているのが分かり、彼女に対して避ける様に叫ぶも少女の方は呆けたような表情をしながら呆けたような声を出すだけで避ける事もしない。そして…。
ーゴイ―――――――――ン!!
そんな音が響いたのと、一刀の頭に衝撃が走ったのはほぼ同時であった…。
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「痛てて…!?」
暫く一刀は頭を押さえて転がりながら悶絶をしていたのだが…やがて鼓膜に響いてきた声に思わず動きを止めた。そして視界に飛び込んできたのは下卑た表情を見せながら手には剣や槍と言った武器を持ち…そして自身の後ろにいる、先ほど頭をぶつけてしまったと思われる、今だ頭を抑えながら悶絶して武器を手放してしまっている少女に近づこうとしている光景だった。それを見て一刀は思わず立ち上がって彼女を庇う様にして彼らの前に立ちはだかった。
「おいお前、そこを退けよ…?」
「悪いけど退けないね。退いたらこの子に危害を加えるんだろう?なら尚更だ」
「はっ、馬鹿じゃねえのかお前!?素手で何が出来るってんだよ!」
「…っ、逃げて。このままじゃ…」
目の前にいる男たちの嘲笑が響く中、後ろにいる少女が逃げるように言ってくるも…一刀は受け入れなかった。『義を見てせざるは、勇無きなり』、一刀には少女を見捨てて逃げるという選択肢は一切なかった。逃げれば、それは自身が弛まぬ鍛錬を以て磨いてきた自身の力を裏切る事に他ならなかったからである。そもそもか弱い女性を置いて逃げるという選択肢を一刀は一切持っていないのだから…。
「それは出来ないよ。君の様な少女をよってたかって甚振ろうとしているのを見て見ぬ振りをするほど、俺は人として堕ちてはいない積りだから。だから…安心してほしい」
一刀は後ろの少女の方に顔を向け、彼女を安心させるように微笑みながら語りかける。そうして再び前を向くと、自らが長年修練を磨いてきた剣術…九州は薩摩隼人達が学び、かの新選組を率いた局長・近藤勇曰く『薩摩者と勝負する時には初太刀を外せ』と隊士達に言い聞かせるほどに畏れられた『示現流』の構えたる蜻蛉を為す。刀はおろか竹刀すら持っていないが…この構えをしていると、不思議と怖いという気持ちは起こらない。
「はっ、馬鹿野郎が!剣も持ってねえのに何やってんだ!?野郎どもやっちまええええ!!!」
『うおおおおおおおおおおっ!!!!』
これに対し賊達は自分が武器も持たず、妙な態勢になった事にすっかり頭から食って掛かっている。それを見て一刀はすっかり目の前の相手がとるに足らない連中である事を悟っていた。ならば…自分がする事はただ一つ。眼前の相手を、全力を以て叩き潰す事のみ!!
「キィエ―――――――――イ!!!」
示現流において叫び声をあげながら吶喊し、相手を怯ませる技…『猿叫』。一刀が挙げた叫び声は、英雄豪傑の大喝にも引けを取らない強烈な物だった。その証拠に眼前の賊達は自身の叫び声にすっかり戦意を削ぎ落されていた。その隙を一刀は見逃さなかった。
「っ!せいっ!」
「ぐばっ!?」
瞬時に槍を持っている賊に対して肩からぶつかる様に体当たりを喰らわせて吹っ飛ばし、落とした槍を拾うと…。
「ふんっ!」-べきっ!
その穂先部分を膝を使ってへし折って落とす!その行為に賊達はおろか後ろにいる少女も驚きを隠せないようだが、自身にとっては慣れない槍を振るうよりもちょうど良い長さとなった槍の柄を振るった方が遥かに戦いやすい!そして…一刀は再び蜻蛉の構えを以て相手を迎え撃った。
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それから暫く戦いは続いたが、一刀は見事に賊達を完膚なきまでに討ち倒す事に成功した。最後の所で彼女(と、彼女が乗っていたと思われる馬)の助けを受けたが…。ともかく、一刀は今負傷した賊達を積み重ねた山の近くで先ほどの少女と話をしていた。
「さっきはありがとう…。えっと、それとごめん。頭をぶつけちゃって…」
「大丈夫…もう平気になったから。それよりも、ありがとう。私を助けてくれて…」
「いや、いいよ別に。えっと…」
「私の、名前?私は…徐晃、徐晃公明。貴方の…名前は?」
(徐晃!?それって…三国志の武将の名前じゃないか!?それに男のはずなのに…!?)
一刀は目の前の少女が徐晃と名乗った事に驚きを隠せなかった。一刀はこう見えて勉学も相当の物であり、特に鍛錬の合間に読書をする事も趣味としており、愛読書の一つが『三国志演義』だった。この為三国志の出来事や武将などもある程度知っており、当然徐晃の人となりも知ってはいたが…そう思案していたが、やがて彼女がその紫の瞳でこちらを眺めて来た為、自身の名を告げる。
「俺は…一刀。北郷一刀だ」
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こうして降り立った天の御遣いは、正史における五将軍の一人と出会う。そうして会話をしていく中でこの世界が自身の知識とは違う事を知るが、その時思いもよらぬ襲撃を受ける事になる…。続きは次回のお楽しみ。
どうもふかやんです。読んでいただきありがとうございます。
ここでの一刀君は魏ルートを歩んでいますが、原作とは違う終幕を目指すつもりですのでどうかお待ちいただければと思います。
それと今回の投稿に登場している一刀の祖父・直刀さんは『小説家になろう』で『恋姫†無双 ~北郷一刀争奪戦?!~』を投稿している『一斗缶』さんから許可を得て採用しました。一斗缶さん、ありがとうございました。