真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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 どうもふかやんです、今回は一刀君が曹操…華琳と出会い、彼女に従うという感じの流れとなります。

 では、どうぞご覧下さい。 

追記

 読者さんからのご指摘があり、文節の一部を訂正させていただきます。大変失礼いたしました。


覇王との出会い

 互いに名乗りを上げて間もなく、夏候惇は自らが跨る騎馬を駆って一刀と名乗った男に肉薄して行った。

 

 

「馬上にいる者を徒士で相手どろうなど無謀にも等しいぞ!!」

 

 

 夏候惇はそう叫び、自らの豪刀を振り下ろそうと構えたその直後である。

 

 

「キィエ―――――――――イ!!!」

 

 

「なっ!?『ヒヒィーン!??』ぬわっ!?」

 

 

 …眼前で折れた槍の柄を構える男が、自分の心胆をも震えあがってしまうほどの大喝をあげたのは。そしてその途端、彼女の騎馬もそのあまりの大喝に恐れをなしたのか棹立ちになってしまい、彼女は落馬してしまった。慌てて着地をするも、後方を見ると自身が連れていた者達の馬も激しく狼狽して暴れ回り、馬上の者達を振り下ろしているのが見て取れる。

 

 

 ただ…男に槍を投げ渡していた少女と彼女の馬だけは動じる様子が無く、目の前にいる男を注視し続けている。どうやらこの男がこれほどの大喝をする事が出来るというのを分かっていたらしい。だが、それ以上夏候惇は周りの様子を窺えなかった。

 

 

「キィエーイ!!」

 

 

 着地して間もない自身に向かって男が斬り込んできたからである。即座に夏候惇は自らの刀で防ごうとしたが…。

 

 

「…っ!?」-バッ!!

 

 

ービュオンッ!

 

 

 夏候惇はその男の一撃を防ぐ直前、すぐさま彼の攻撃を横に跳ぶようにして回避したのである。その直後男の一撃が振り下ろされたが…その時に起こった音はただの棒となり果てた槍の柄とは思えぬほど、凄まじい風切り音だった。

 

 

 あれをまともに受けていたら…恐らく自身の頭に防御した豪刀の峰の部分がめり込んでいただろう。夏候惇は自らの直感によって九死に一生を得たと悟らざるを得なかった。そして再び男の方を見ると、男は先ほどの構えを再びとっていた…。

 

 

「避けたか…流石だな。並大抵の実力者じゃないとは思ってたよ」

 

 

「ふ、ふん。なるほど…只者ではないとはわかった。だがっ!当たらねば意味はないぞ!!はああああっ!!」

 

 

 男……一刀の賞賛に対し、夏候惇は多少良い気分にはなったが、すぐさま豪刀を構えると彼に斬り懸かる!

 

 

「(凄いな…。多分彼女の剣技も豪勇を以て振るう『豪の剣』だ。まともに受ければ命はないだろうな)」

 

 

 一刀は自身に斬り懸かってくる夏候惇の剣技を見てそう実感し、敬意を以て賞賛していた。だからこそ自分は死ぬ訳にはいかない。そう思い、一刀は襲いかかる刃を紙一重と言うほどの絶妙なタイミングで躱し続けた。

 

 

「くうっ!?何故だ、何故当たらない!!私の刃が貴様のような優男を討ち取れないなどっ!!」

 

 

「…夏候惇、お前の剣技は凄いよ。お前とこんな形でだけど戦えて嬉しいとも思ってる。けど…真っ直ぐすぎるんだよ。どれだけ勢いがあっても、真っ直ぐに斬り懸かってくるだけじゃ本当に強い相手と戦うには力不足だ」

 

 

「な、舐めるなああああ!!!」

 

 

 一刀の指摘に対し、夏候惇は激して咆哮しながら、さながら暴風を思わせるほどの剣技を以て彼に襲いかかった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

 一刀と夏候惇の熾烈な戦いを、徐晃は離れた場所から自身の愛馬たる茉莉と共に注意深く観察していた。そして、彼女は()()()()()()()()事を冷静に把握した。

 

 

「(あの夏候惇って人…かなりの豪の者。一振り一振りが鎧を纏った武者を鎧ごと叩き斬る事も容易だろうな…けど、相手が悪すぎる)」

 

 

 そう思い、徐晃は夏候惇に向けていた視線を彼女の斬撃を見切り、紙一重と言うほど精妙な体捌きを以て回避し続ける一刀に向けた。それにしても…徐晃は一刀の力量の高さを改めて拝見したが、やはり只者ではないとしか思えなかった。

 

 

「(…やっぱりあの人、凄く強い。兄上や愛紗姉上も強かったし、母上も私達三人を軽く相手取ったりしてみせたから強いのは分かってた。けどあの人は兄上達と並ぶくらい強い人だ…ああも凄い体捌きを行うだけじゃない。時折あの夏候惇って言う人が対処できない搦め手の斬撃とかを繰り出してる)」

 

 

 そう思った徐晃は自身が武術の教えを受けていた師父が、自身や兄、愛紗たち門弟に常々語っていた事を思い起こしていた。

 

 

『ただ力だけで剣や槍を振るうだけでは強者同士の戦で勝つ事は出来ぬ。時として相手を惑わすが如き攻撃を出す事も大切だ。突くと見せかけ薙いだり、斬ると見せかけて突きを放つ。そうした搦め手も攻め手に組み込んで戦う事を忘れるな?』

 

 

 ただ刃を振るったり槍を放つだけで勝てる戦などありはしない。卓越した膂力があればそれも別になるかもしれないが、全ての人がそうであるとは限らない。ならばこそ人は『技』を編み出した。『柔よく剛を制す』、今まさに彼女の眼前ではそれが繰り広げられていたのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

「ぜーっ、ぜーっ…!!」

 

 

「…やっぱり疲れ始めて来たな。無理もないけど」

 

 

 戦いが始まって四半刻ほど経った頃だろうか?一刀は目の前で肩を上下させ、息を切らしながらも戦意が衰えていない夏候惇に声をかけていた。だが体に傷をつけていないにも拘らず夏候惇は疲労困憊と言う有様なのに対し、一刀の方は多少息を切らしてはいるもののまだまだ余力を残していた。

 

 

「く…っ!なるほど……認めよう。貴様は大した男だ。だがっ!私は華琳様に仕える将の一人として、このまま負ける訳にはいかぬのだ!!!うおおおおおおおおおお!!!!」

 

 

 そう吠えるが早いか、夏候惇は持てる力を振り絞って駆けだしたかと思った時にはすでに一刀の前に立っており、そのまま残っている力を豪刀を持つ腕に込めながら振り下ろそうとしていた!

 

 

「これで、終わりだ!!!」

 

 

「…悪いが、終わらせない!!」

 

 

 夏候惇の勝利を確信した咆哮の直後に一刀が返答をした瞬間、彼は夏候惇が振るった刃が自身の頭に振り下ろされようとする刹那、流れる様に横に移動したかと思うと長棒となった槍の柄を構える。

 

 

「キィエーイ!!!」

 

 

ーガキイイインッ!!!

 

 

 そして…一刀は大喝と言えるほどの声ー猿叫をあげると、手にしていた長棒を夏候惇が振り下ろした豪刀の峰の部分目掛けて振り下ろす。周囲に凄まじいまでの音が響く中、夏候惇はその振り下ろされた一撃のあまりの強さに手が痺れ、自らの豪刀を落としてしまった。そして一刀はその長棒を返す刃で首に突き付ける態勢となったのである。

 

 

「俺の勝ち、でいいか?」

 

 

「…っ!」

 

 

「か、夏候惇様っ!?」

 

 

 一刀の問い掛けに無念そうに顔をしかめる夏候惇。それを見た彼女の配下が刀槍を構えて襲い掛かろうとするも一分の隙無く構える一刀の姿に迂闊に動けずにいた。

 

 

「ぐうう…この私が、お前の様な賊に後れを取るなんてぇ…!」

 

 

「いやだから賊じゃないって…」

 

 

「ええいまだ言うか!?どう見ても見た事も無い装束を纏っているではないか!!それほどの武を持っていながら賊に身を落とすとは…!?」

 

 

「だから話を聞いてくれって…っ!!」

 

 

 だが一刀は突如として踵を返して手にした長棒を振り下ろした。その振り下ろした長棒の先端部分には…誰かが放ったのだろうか?一本の矢が地面に突き刺さっていたのである。もし一刀がその棒を振り下ろさなければ、その矢は一刀の喉を射抜いていた事だろう…。

 

 

「っ!…誰かが放った弓矢」

 

 

「誰かって…?『姉者、無事か!?』って新手…!?」

 

 

「おおっ、秋蘭か!?」

 

 

 突き立った矢を見て徐晃がつぶやき、一刀が疑問の声をかけた時、新たに響いてきた声に夏候惇が感極まったような声をあげた為一刀が声の方を向くと…一刀達がいる場所からあまり離れていない場所に十騎程の小勢がおり、その先頭には青と紫を基調にし、左肩に髑髏を模した肩当てを着けた装束を纏い、琥珀色の瞳で右目を隠すような感じの水色の髪を持った理知的な顔立ちの女性が、手に豪弓を構え、それに矢を番えていつでも放てる体勢で立っていたのである。

 

 

「そこの男よ!私は夏侯淵妙才、今お前が斬り落とした矢は私が放ったもの!だがこのまま姉者に危害を加える積りならば、今度は貴様の頭蓋をその矢が貫く事になるぞ!それが嫌ならば武器を捨てて投降しろ!!」

 

 

「…一刀、物凄い敵対されてる」

 

 

「好きでこうなったんじゃないんだけどなぁ…。っ、元より俺は抵抗するつもりはない!けど賊と言いがかりをつけられたら黙ってはいられなかったんだ!そっちが危害を加えないのならこっちも大人しくするつもりだ!」

 

 

 徐晃の冷静な指摘に苦笑しながらも、一刀は抵抗の意思を示さぬ様に手にした長棒を地面に突き刺して丸腰となって非戦の意思を伝えた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・

 

「(ほお…中々に堂々とした佇まいと気骨さを持っているようだな)」

 

 

 青年の返答と態度に夏侯淵…秋蘭は内心感心しきっていた。そして同時にあの青年が自身の姉である春蘭……夏候惇を相手取り、これを倒せる実力者である事も察していた。実際あの時秋蘭は長棒と言う殺傷能力が無い物とは言え姉の喉元に突き付けていた青年の姿を見て激昂し、彼の喉を射貫いて殺すつもりで矢を放った。

 

 

 だがあの青年はその矢を斬り落としてみせたのだ。これだけであの青年が並々ならぬ武術の鍛錬を磨いている事の証左に他ならない。もしこれで先刻の言葉通り矢を放ったとしても、あの青年はこれを斬り落として見せる事だろう。

 

 

「さて、どうやら本当に抵抗するつもりはないようだが「終わったのかしら、秋蘭?」っ!華琳様!」

 

 

 夏侯淵が後方から響いてきた声の方を向くと、そこにはブロンドのカールを巻き骸骨をモチーフにした髪飾りを着けたツインテールをし、空色の瞳を持つ凛々しさと覇気を兼ね備えた美貌を持ち、紺と紅紫を基調にした装束を纏った少女が一頭の漆黒の毛並みをした駿馬に跨って現われたのである。それを見た夏侯淵は即座に下馬すると畏まり首を垂れる。

 

 

「はい、あの男はこれ以上の抵抗をするつもりはないようです」

 

 

「そうね、ここからでもよく見えるわ。けど…さすがに驚いたわね、あの春蘭がああもあしらわれた末に刀を取り落とされて負けるなんて」

 

 

「はい…それは私も同感です。姉者の力量は私が一番存じていますが、まさか姉者が手も足も出ないのを見るのはこれが初めてです。それだけあの男の力量が飛び抜けているのでしょう」

 

 

 夏侯淵は自らの姉である夏候惇を負かした青年の実力を称賛したが…華琳と名乗る少女は青年を凝視しながらも、不満そうな顔つきになって呟いていた。

 

 

「…果たしてそうかしらね?」

 

 

「えっ?」

 

 

「とりあえず春蘭たちの元に向かいましょう」

 

 

「は、はっ!」

 

 

 華琳はそう言い放つと青年の元へ馬を進め、夏侯淵たちもその後に続いた。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 一刀は自身らの元に近づいてくる一団の先頭にある少女から目を離せなかった。身長は自身よりも低く、小柄と言ってよい程なのだが…その体からは溢れんばかりの気品と雄々しさが感じ取れたのである。それは隣に立っていた徐晃も同様で、彼女の登場には目を瞠るばかりだった。

 

 

「…会えるなんて、思ってなかった」

 

 

「知ってるのか、春風?」

 

 

「うん…、曹操孟徳。夏候惇や夏侯淵って言う人たちはこの人の配下」

 

 

「!!彼女が…!?」

 

 

 徐晃の指摘に一刀は思わず目を瞠り、驚きを隠せなかった。曹操孟徳…三国志と言う英雄譚を語る際には外せない人物であり、三国時代を示す一国の一つ・魏を創始した英雄である。

 

 

 文武に優れた傑物であると同時に当時の既成概念にとらわれない画期的な政策(『才ある者であれば過去や家柄に関わらずこれを徴用する』と言う『求賢令』が有名)を行ったり、当時における兵法の大書である『孫子』に注釈を行い『孟徳新書』として現すなどその才能は留まるところを知らなかった。もし赤壁での大敗が無ければ三国時代と言う時代そのものを平らげるに足る英雄…それが一刀が曹操に抱いていた想いだった。

 

 

 『治世の能臣、乱世の奸雄』…平和な世であれば有能な臣下であるが、世が乱れれば奸智に長けた英雄となる。当時の人材評論家として名高かった『許劭』は彼女をこう評している一方で『清平の奸賊、乱世の英雄』…平和な世では狡猾な臣下であるが、一度よが乱れればそれを静めるに足る英雄であるとも称している。それだけ彼の才能が飛び抜けていたという証左と言えるのだが…。一刀は改めて目の前にいる馬上の少女に目をやる。

 

 

「(彼女があの曹操なのか…眩しいな。まるで彼女は太陽だ、大地をその強い光で照らししている…思わず畏まってしまいそうになるぐらいに凄い人だ!)」

 

 

「か、華琳様!!」

 

 

 一刀が目の前の馬上にいる少女に対して終始圧倒されている中、彼の隣で膝をついていた夏候惇が自身の主の登場に声を上げる。これに対し華琳…曹操は一刀に対して視線を向けて言葉を発した。

 

 

「それにしても…大したものね。春蘭は私の配下の中でも飛び抜けて武に長けているのに、それをあしらった末に下してみせるなんて」

 

 

「好きで戦った訳じゃないよ。賊に間違えられてその払拭の為に戦った様な物だからさ…」

 

 

「分かっているわ、貴方の様な剣の使い手が下らない賊徒に身を落とすなんて考えられないもの。大方春蘭の猪突猛進な所が災いしたというべきかしらね?」

 

 

「か、華琳様ぁ!私はただ純粋に華琳様の…」

 

 

 華琳の言葉に春蘭は必死に反論しようとするも、その前に華琳は彼女に視線を向けて叱責を行い始めた。

 

 

「春蘭、あなたもとうに分かっているでしょう?彼は確かに男ではあるけど、賊徒に身を落とすような男ではない。そもそも賊徒に身を落とすような男があなたを相手にして勝てる訳もないでしょう?私の為に刃を振るうのは別に悪い事では無い。けど…敵味方の区別も出来ぬ刃を欲しいとは思わないわ」

 

 

 曹操の叱責と夏候惇……春蘭に向ける視線に春蘭はただ縮こまるよりほかなかった。そうして曹操は再び一刀の方に視線を向けると、徐に頭を下げたのである。

 

 

「済まなかったわ、貴方ほどの剣の使い手を賊呼ばわりさせた事への謝罪をさせてもらう。春蘭は私への忠義は厚いのだけど、時としてそれ故に空回りする事があるの」

 

 

「いや、分かってくれれば何よりだよ。俺も言いがかりをつけられて戦うのは本意じゃなかったから」

 

 

「そう……。貴方、名前は?」

 

 

「北郷…北郷一刀だ」

 

 

「ふうん、変わった名前ね?姓が北、名が郷かしら?」

 

 

「いや。姓が北郷、名が一刀なんだ」

 

 

 先ほど徐晃が彼の名前を誤って読んだ際に訂正したのと同じように一刀が曹操に言うと、彼女は僅かばかり驚きの表情をした。

 

 

「あら、ますます変わった名前ね?それに貴方の装束も見た事が無い造りね」

 

 

「華琳様、もしやこの青年が近頃管路が預言したとされる『天の御遣い』では?」

 

 

 曹操の疑問を宿す声に、彼女の隣で同じく馬上にいる夏侯淵が声をかける。

 

 

「天の御遣い…彼がそうだというのかしら?」

 

 

「まだ分かりませんが、光を受けて輝く白の装束に姉者を打ち負かすほどの技量。只者ではない事は確かでしょう」

 

 

「ふん……」

 

 

 夏侯淵の意見に曹操は暫し思案していたが、今度は一刀の隣で霞切りを手に立っている徐晃に声をかけた。

 

 

「そう言えば、そっちにいるのは近頃噂になっている『大斧の徐晃』かしら?」

 

 

「?…私の事、知ってるの?」

 

 

「ええ、近頃賊徒の討伐や捕縛をしている最中に捕らえた賊の一人から聞いているわ。自分達の様な賊の集団をたった一人で壊滅させている戦斧使いの少女の話をね。…貴女、諸国を流浪しているのかしら?」

 

 

「うん。世の中を巡って、自分を磨く為に旅してる」

 

 

「そう…。貴女、もしよければ私の元で働く気はないかしら?才ある者を野放しにするのは私の矜持に反するの」

 

 

 曹操の勧誘とも言える問い掛けに対し、徐晃は暫く考えていたが…やがて首を縦に振って答えた。

 

 

「分かった。貴方の道の行く末、私にも見せて」

 

 

「ええ分かったわ。さて…貴方についてだけど」

 

 

 曹操は徐晃と言う勇士を得た事に満足した表情をしたが、すぐに気を引き締めると一刀の方に顔を向けて言葉をかけた。

 

 

「俺の事か?」

 

 

「ええ。私としては『天の御遣い』と思われる貴方を迎えたいとは思っているわ。けど…私は『己の力に迷いを持つ』人間を臣下に迎えたいとも思わない」

 

 

「っ!!」

 

 

 曹操の()()()()()()()()()()()()()()に一刀は思わず息をのんだ。今目の前にいる曹操と言う少女は…自分とあって間もないと言うのに、自分の心中に抱えている悩みを看過した。その事実は一刀を絶句させるには十分すぎたのである。

 

 

「……言っておくけど、だからと言って貴方を迎えない訳でもないわ。一応武将見習いとして登用はしてあげる。精々努力をしてみせなさい」

 

 

 曹操はそう言って馬首を返すと、そのまま夏侯淵達と手の痺れが回復して剣を鞘に戻し、馬上の人になった夏候惇達を連れて来た道を戻っていった。それに続いて徐晃も自身の愛馬に跨って続こうとするも、一刀は少しの間動く事は出来なかった…。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

 その夜…豫州にある規模が大きな町の宿屋。あの後一刀は気を取り直して徐晃達について行き、彼らが到着した町で合流。そこで曹操たちが停泊している宿屋で休む事になったのだが、その宿屋の庭で一刀は一心不乱に竹刀代わりの長棒を振り続けていた。夜空には満月が浮かんでおり、夜の闇を照らしていたが…今の一刀の眼には入っていなかった。

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ…!!」

 

 

 しかし…何度長棒を振るい続けていても、一刀の心は晴れない。あの時曹操が言った言葉…。

 

 

『私は『己の力に迷いを持つ』人間を臣下に迎えたいとも思わない』

 

 

 自分が抱えている悩みを、まだ会って間もない彼女に看過された事。その事が一刀をこの行動に誘っていた。振るう回数が千を超えても、それでも彼女の凛とした瞳に見据えられながら放たれた言葉が頭から離れないのである。

 

 

「…へえ、随分と念入りに鍛錬をしてるじゃない」

 

 

 …唐突に背後から声が響く。しかし一刀にはその声の主が分かっていた。一刀が長棒を振るうのをやめて背後に振り返ると、そこには寝間着らしい白の装束を纏った曹操が立っていたのである。

 

 

「…いや、こんなのは鍛錬じゃないさ。君が言った言葉にどうする事も出来なくて…やり場のない迷いを剣にぶつけているようなものだよ。……どうして俺が悩んでいる事が分かったんだ?」

 

 

 一刀の問い掛けに、曹操は軽く鼻をならずとさも当然という様な感じで返答した。

 

 

「あら、決まってるじゃない。あの時秋蘭が放った矢をいとも容易く斬り落としたのを見てたんだけど、その時にあなたの動きを見ていてわかったの。貴方は…剣を振るう事が好きであっても、『剣を振るい続ける事が苦痛でならない』様に思っているってね」

 

 

「…………」

 

 

 ぐうの音も出ない…そんな表現が間違いでないと言えるほどに一刀は返す言葉もなかった。だが、やがて曹操は一刀に対して疑問を投げかけた。

 

 

「あなた……なぜそれほどの才気を持っていながら苦痛に思うのかしら?それほどの才気を持つのであれば誇ってこそすれ、苦痛に思う訳がない。…良ければ聞かせてくれるかしら?」

 

 

「…分かったよ。今から言う事は信じられない事もあるだろうけど」

 

 

 そうして一刀は庭に置いてある長椅子に座っている曹操の隣に腰かけると語り始めた。幼い頃から天賦の才を宿し、自らも剣を振るう事が好きで暇さえあればいつも剣の鍛錬を怠らずに続けていた事。しかし、やがて大きくなるにつれて周囲の同年代の人間は自身の事を畏怖の目で見る様になり、遠ざかっていった事。それは自身が鍛錬を続けていくに従って益々拍車がかかって行った事…。そして己の祖父から『何かを護る為に刃を振るう事を覚えろ』と諭された事を。

 

 

 曹操は一刀の告白に一言も口を挟まず聞き入っていた。やがて一刀の告白が終わると、曹操は呆れたような溜息をついて切り出した。

 

 

「…呆れた。貴方がいた天の世界と言うのに興味があったけど、期待外れね」

 

 

「えっ?」

 

 

「だってそうでしょう?貴方は己の力で好き勝手していた訳じゃない。強くなりたい、上を目指したい…己の研鑽を何よりも重んじていたというのに、周囲の人間はそれを異常としか見なかった。私にはそれが納得できないわ。貴方のような人間が近くにいたのであれば、『彼の様になりたい』と羨望の目を向けて、彼に近づきたいと思うのが当然だと思うの。向上心を以て然るべきなのに…天の世界にはそうした思いが希薄なのかしら?」

 

 

「…随分『才能』を重んじてるんだな?」

 

 

「ええそうよ」

 

 

 一刀の疑問に対し、曹操は即答すると徐に立ち上がって天に対して手を広げて語り始めた。

 

 

「私はね、才覚こそが天下を安んじ統治する物であると思ってるわ。義や情、仁徳も人の上に立って国を治める人間には必要なのかもしれない。けどそれに偏り過ぎれば却って国を乱す元凶にもなりうる」

 

 

「貴方はこの地に降り立ったばかりで何も知らないでしょうけど、今この天下を統べている漢王朝はもはや枯れ逝こうとする大樹にも等しいわ。いずれ遠くない未来、漢王朝は斃れて乱世となるでしょうね。その中で私は覇道を以て乱世を終わらせ、天下を統一する!その為には才覚ある者達が必要不可欠なの。才覚こそが…乱れた世を正し、天下を真に安んじるのだから。」

 

 

 そう言いきって曹操は一刀の方に振り返り、一刀に対して宣告した。

 

 

「北郷一刀。貴方は言ってたわね?『自分の祖父から『何かを護る為に刃を振るう事を覚えろ』と諭された』と。なら……貴方の才覚、この曹操の為に使いなさい。私は才覚を持つ人間を誰よりも重んじる、例えそれが咎人であろうと、不仁不孝であろうとも!そして私は才覚を持つ人間に対して嫌悪も、畏怖も抱く事は無い。私は才覚ある者に対して与える物は三つしかない…それは堅き鎧と、鋭き鉾と、そして胸を張って帰れる場所よ。北郷一刀、汝の返答は如何に?」

 

 

 曹操の威風堂々とした宣言に、一刀は思わず聞き入っていた。そして同時に彼女の底知れぬ器の深さに強く惹かれ始めていた。そして一刀はぽつぽつと言葉を零し始めた。

 

 

「……俺は、剣を振るう事しか能がない」

 

 

「なら貴方に軍略に政略の手ほどきをするわ。私の元には軍師もいるから彼らにあなたを鍛えさせる。文武を兼ね備えてこそ私の臣下として相応しいのだから」

 

 

「っ……俺は、剣の腕を磨くのが趣味だ。強くなりすぎて他の皆が遠ざかったら…」

 

 

「それこそ有り得ないわ。春蘭は猪突猛進だけど、ああ見えて強い相手がいると越えたいと思う真っ直ぐな子よ。寧ろあなたが強くなればなるほどに春蘭は超え甲斐があると奮起するでしょうね」

 

 

 一刀が不安を零すたびに曹操は明朗快活に次々と意見を出す。それは傍から見れば自分勝手な言い分とも聞き取れる物だが、一刀自身は彼女の言い分がとても心地よかった。今まで剣の腕を磨けば磨くほど周りの人間は遠ざかって行った。だが目の前に立つ彼女は…。

 

 

 逡巡の末に、一刀はいつしか彼女の前で膝をつき、頭を垂れていた。そして…。

 

 

「曹操孟徳。俺は、北郷一刀は、今から君の元で力を尽くすよ。俺の持てる力の全てを以て、君の歩む道を共に往く。だから、君も俺に見せてほしい。君が作る天下の行く末を」

 

 

「しかと聞き入れた!ならば北郷一刀、その眼にしかと刻め。この曹孟徳が作る新たな天下を!!」

 

 

 月の光が闇を照らしだす中、かくして天の御遣いは後世においてその名を馳せた曹魏の覇王に忠誠を尽くす事になる。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 かくして曹操に仕える事になった北郷一刀。しかし彼女に仕える様になった彼であるが、ある問題が待ち構えていた。続きは次回のお楽しみ。




 如何だったでしょうか?前もって言っておきますが、ここでの一刀君は真・恋姫の魏ルートの様に天に帰る事はありません。そもそもご都合主義を掲げるこの作品においてあのような悲劇とも言える結末をしたいとは思いませんので。

 では!
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