真・恋姫†無双~転生記~   作:ふかやん

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 申し訳ございません…仕事などが重なって思う様に小説製作の時間が取れず遅れてしまいました。この後も投稿の時間が遅れるとは思いますがどうかご理解願いたく思います。

 では、どうぞ…!


名剣と風雲急

 頓丘県。後漢時代における県の一つである土地の県令の屋敷…早朝で少しずつ日が差し込みつつあるその庭で一刀は長棒を手に素振りを行っていた。

 

 

「ふっ、ふっ、ふっ!」

 

 

「おお北郷!精が出るではないかー!!」

 

 

「っと、春蘭か。お前も鍛錬をしに来たのか?」

 

 

 一刀が声のした方を向くと、そこには動きやすい装束を纏い、木剣を手にした夏候惇が立っていた。そして手を止めた一刀に近づくと、手にした木剣を一刀に向けながら饒舌に語り始めた。

 

 

「決まっておろう!?私は華琳様の刃として仕える身。なれば日々の鍛錬は怠れぬ!それに貴様と言う超えるべき目標もあるのだから尚の事!!さあ北郷!!今日こそ私が勝たせてもらうぞ!!」

 

 

 夏候惇のあっけらかんとした返答に、一刀は苦笑しながらも得物である長棒を構えて迎え撃つ体勢となっていた。

 

 

「…全く、本当に底抜けに明るいんだな春蘭は。分かった…そっちがその気なら、俺も全力で迎え撃つ!」

 

 

「そうだ、そう来なくてはな!!では、行くぞおおおおおおお!!!!」

 

 

 陽光が空に昇る中始まる二人の対決。それが曹操孟徳に仕える事になった『天の御遣い・北郷一刀』が過ごす一日の始まりだった。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

「春蘭、強くなってるよなぁ。俺も頑張らないとな「むっ、北郷か?」あっ、秋蘭」

 

 

 春蘭との朝稽古が終わり、着替えを済ませて執務室に向かおうとしていた一刀に対し、鍛練場に向かおうとしていた秋蘭が声をかけてきた。

 

 

「ふふ……その様子では、また姉者がお前との鍛錬を挑んだようだな」

 

 

「まあね。けど良く続くよな、何度も何度も俺に挑んできてさ…」

 

 

「ああ。どれだけ負けようと何度でも立ち上がり、勝つその時まで何度でも挑む。それでこそ姉者なのだと思っている」

 

 

 秋蘭は一刀にそう答えると、一刀も納得せざるを得ない。不屈……夏候惇の在り方を表現するとしたらこれほどピッタリな言葉はないだろう。どれだけ屈しようとも何度でも立ち上がって挑もうとする…正直一刀はそれが嬉しくてたまらなかった。自分がいた世界………『天の世界』では、そうした相手がいなかったから。

 

 

「それより北郷、桂花の指導があるのではないか?」

 

 

「あっ、そうだ。悪い秋蘭、そろそろ行くよ」

 

 

「ああ」

 

 

 そうして一刀は秋蘭と別れて執務室に向かったのだが…。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・

 

「だからそこは違うって言ってるでしょう!?」

 

 

「ご、御免…!」

 

 

 執務室で一刀は猫耳のついたフードを被った少女に叱責を受けていた。その机には開かれた竹簡と筆が置かれており、一刀が学問に励んでいる様子が見て取れる。

 

 

「全く、会話とかは出来て文章の読み書きが出来ないってのがこうも困った事になるとは思わなかったわ。…ほらっ、早く筆を持ちなさい!まだ終わってないんだからね!?」

 

 

「ああ…分かったよ、桂花」

 

 

 一刀はそう言って筆を執り、勉学を再開した。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 さて、一刀に対して勉学を教えているこの少女。彼女の名は姓は荀、名は彧、字は文若……曹魏の覇王・曹操に仕えた参謀の一人であり、彼が曹操に仕える様になった際に曹操からは『我が張子房(前漢の高祖・劉邦に仕え、その天下取りを支えた名臣の一人)が来た』と絶賛された人物でもある。

 

 

そんな英雄もこの世界では桂花と言う真名を持つ女性であった事には一刀はこの世界の事実であるとして受け入れたのだが…今こそこの様に会話できるようになったが、出会った当初の頃は険悪としか言いようが無かった。それと言うのも…。

 

 

【3ヶ月前、一刀が曹操に仕える事を宣誓した直後】

 

 

「か、華琳様……今何と仰ったのですか!?」

 

 

「あら、聞こえなかったのかしら?ならもう一度命じるわ。桂花、貴女には私が登用した天の御遣いに政戦両略に優れる様に教育する事を命じるわ」

 

 

 天の御遣いとされる北郷一刀を臣下に加えた曹操は、自らが派遣された頓丘県の県令の屋敷に一刀を連れてきた。そして彼を邸宅の一室に止めた後に、自室に自らの腹心の一人として活躍する荀彧を呼び出すとその様に命令した。これに荀彧は思わず呆けたような顔つきになり、すぐさま疑問と反論を投げかけた。

 

 

「お、恐れながら華琳様!私が華琳様が連れてきたあの男風情に政戦両略を指導せよというのですか!?華琳様の決断を非難したくはありませぬがあの様な男が華琳様のお役に立てるとは「桂花」は、はい!!」

 

 

 荀彧がさらに反論を続けようとするも、その前に曹操の冷徹さを宿した視線と有無を言わさぬ圧力を宿した声が彼女に降りかかり、荀彧は黙らざるを得なかった。やがて曹操は諭すように彼女に語りかけた。

 

 

「私は前々から思っていたの。貴方はどうにも男嫌いな所と教養のない者ーーそれが男であれ女であれーーを見下す傾向がある。私の道は覇道…天を掴む事が我が天命、その為には才ある者の存在が不可欠なの。でもあなたのその傾向は教養が無いから、男だからと言う理由で才ある者を切り捨てかねない」

 

 

 そう言うと曹操は荀彧に近づくと、さらに語りかける。

 

 

「桂花、私は貴方の才も大いに認めている。だけど…その傾向によって才ある者を無下にしかねないとも限らない。だから桂花、この任を為す間にその傾向を改める様に務めなさい。貴方がこの曹孟徳の臣下であると誇りに思うのならば」

 

 

「…分かりました。不肖この荀文若、華琳様のご期待に添える様に尽力いたします」

 

 

 曹操が自身を信頼してこの任を命じた。ならば自分がするべき事はその任を全うする事…荀彧はそう察すると恭しく頭を垂れて、曹操の命を謹んで受ける事になったのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 それから荀彧は一刀の教師として行動する事になったのだが、やはりと言うべきか、生来男嫌いであった彼女は当初は男である一刀と行動する事に強い抵抗を示していた。

 

 

「近づくんじゃないわよ!?孕んじゃったらどうすんのよ!」

 

 

「あんたみたいな男と一緒に行動するなんて死んでも嫌なのに…」

 

 

 …とこの様な言動が続き、さしもの一刀も当初は心身が摩耗していったが、それでもめげる事無く勉学に勤しみ続けた。それを見て荀彧もまた少しずつ暴言が少なくなっていったのだが…ある時荀彧は一刀に問いかけた。

 

 

「…あんた、如何して華琳様に仕える事にしたのよ?」

 

 

「えっ?」

 

 

「華琳様から聞いたわ。あんた、こことは違う天の世界から来たって。そしてそこでは自分の身の回りでは戦が無かった事も。…帰りたくないの?自分の故郷に」

 

 

「それは……」

 

 

 一刀が返答に詰まる中、荀彧はさらに問い続ける。

 

 

「華琳様は覇道を歩み続ける御方。その道は決して安穏たるものではないわ、必ず無数の屍を積み重ねていくでしょうね。…あんたの世界では身近な場所では戦争が無かったんでしょう?あんたは耐えられるの?戦争を、殺し合いをした事が無いあんたに…無数の屍を作りながら歩んでいく華琳様の後をついて行く事が」

 

 

 桂花の問い掛けは、一刀にとっては『良言耳に痛し』と言うべきものだった。確かにこのまま曹操と共に歩むという事は血濡れた道を歩む事に他ならない。そしてその道を歩んだとしても、果たして自分は元いた世界に戻れるのかという事も分からない。一刀は文字通り言葉を返す事が出来なかった。

 

 

「………………」

 

 

 そうして暫く黙っていた一刀だったが、やがて重々しく口を開いた。

 

 

「……正直に言うと、怖いって思ってる。覚悟があるかと問われれば…心の中には躊躇している自分もいる事も」

 

 

「なら…『けど』っ!」

 

 

「俺は…もう決めたから。俺を前にしても目を逸らす事も、敬遠する事もしないで俺に手を差し伸べてくれた曹操の、華琳の作る世界を見たいと思ったんだから」

 

 

 そう言い放つ一刀の瞳には、僅かな迷いの色すらなかった。それを見て、桂花は目の前にいる男…一刀に対して抱いていた嫌悪感が薄れていくような気がしてならなかった。

 

 

「(…こいつ、今まで私が見てきたような男とは全然違う。真っ直ぐで、芯が通ってて…って何考えてんのよ私は!?騙されちゃ駄目よ桂花!男は獣、獣なのよ!!油断してたら孕まされるかも知んないんだから……!!)そ、そう。そこまでの決意があるのならいいわ…なら覚悟しておきなさい。この筍文若、私の智の全てをあんたに叩き込んでやるんだから。死に物狂いでついてきなさい」

 

 

「ああ、分かったよ荀彧「桂花」えっ?」

 

 

「一応真名を教えてあげる。華琳様も貴方に真名を授けたのならそれが当然だもの。ただし、この私が真名を貴方に授けたんだから、貴方も相応の活躍をしてみせなさいよ!」

 

 

「…分かったよ、桂花」

 

 

・・・・・・・・・・・・・

 

 そうしてそれからと言う物、一刀は桂花を教師として地理や兵法に戦術、内政などの基本や応用を叩き込まれる事になった。無論今回の様に間違いを起こして叱咤される事もあるが…。

 

 

「それより…あんた、その剣が気に入ってるのね?」

 

 

「え?…これの事か?」

 

 

 桂花の指摘に対し、一刀は自らが腰に差している()()を手に取った。

 

 

「当たり前じゃない?その剣は本来は華琳様の祖父で漢の大長秋に任ぜられた曹騰殿の為に作られたとされる名剣よ?本来あんたが持てる様な剣じゃないんだから。その剣を授けられたからには死に物狂いで励みなさいよね」

 

 

「…うん、そうだな」

 

 

 一刀はそう言って腰に差している長剣の柄を優しく撫でた。その脳裏にはこの剣を渡された頃の出来事が浮かんでいた…。

 

 

【2ヶ月前、一刀が曹操に仕え始めて少し経った頃】

 

 

 その日、春蘭達との鍛錬や桂花の講義を受ける日々を送っていた一刀は曹操……華琳の呼び出しを受けて彼女の元を訪れていた。

 

 

「何か用か、曹操?『華琳でいいと言ってるでしょう?』ご、御免」

 

 

「貴方、まだその棒切れを腰に差してるのね…?貴方も私に仕え始める様になって時間が経ったのだから、いい加減ちゃんとした帯剣をしなさい。一通り用意させたから好きなのを取りなさいね」

 

 

 玉座に座ってそう話す華琳の前には様々な形状をした刀剣が置いてあり、一刀はそれを手にとって振ってみたのだが…。

 

 

ーブンッ、パキンッ!

 

 

「…えっ?」

 

 

「ご、御免…折れちゃった」

 

 

「何を言ってるのよ…?刀剣をただ振っただけで折るなんてどれだけの膂力で振ってるわけ!?と、とにかく他にも試してみなさい…!」

 

 

 そう華琳に促され、一刀はほかの刀剣も手に取って振るってみるのだが…どれをとっても一刀が振っただけでまるで風に折れる小枝の如く折れる始末となったのである。

 

 

「…呆れた。まさかここまでの膂力の持ち主だったなんてね。と言うか、その様子だと貴方がいた天の世界での鍛錬も難儀したんじゃないの?」

 

 

「うっ…ごめん、実を言うとそうなんだ。実際俺が使ってた木刀は爺ちゃんが作ってくれた物を使っててさ」

 

 

「困ったわね…。…ふん、これはどうかしら?」

 

 

 そう思いついたように華琳は自身の玉座の傍に立てかけられていた一振りの剣を一刀に手渡す。一刀がそれを鞘から引き抜いて見ると…その剣は剣の鍔に近い刀身に翡翠色の宝石が填め込まれた、一見しても儀礼用の刀剣の様に思われた。だが、その刀身は非常に強固な造りをしており…一刀が試しに振って見ても折れる事が無かったのである。

 

 

「凄いな…この剣、誰が鍛えた物なんだ?」

 

 

「それは貴方と一緒に登用した徐晃の父…徐岳殿が私の祖父、曹騰様の為に鍛えた物よ」

 

 

「徐晃…香風のお父さんがこれを鍛えたのか?」

 

 

 一刀が驚きを見せて呟くと華琳は満面の笑みを浮かべながら頷いた。

 

 

「ええそう。私の祖父にして大長秋曹騰…私の父である曹嵩を養子に迎えた人物でもあり、朝廷においても確固とした勢力を持っていたわ。優れた人物を抜擢する事に長けた人物でもあって、私も尊敬していたの。徐岳殿はその曹騰殿が交友を結んでいた人でね、彼を抜擢しようと誘ったんだけど『富貴の道を歩むよりも地に足をつけた、人々と触れ合う日々を送りたい』って丁重に断ったらしいの」

 

 

「えっ!?す、すごい人だったんだな…大長秋って事は相当の権力者だったんだろう?その人の誘いをそんな風に返すなんて」

 

 

「ええ、私もお爺様からそれを聞いた時は驚いたわ。けどお爺様はそう言う気骨ある人がお気に入りでね…それ以降も彼とは個人的な交友関係を結んでいたの。この長剣はその時に徐岳殿が友誼の証として自分に送ってくれたものだって聞かせてくれたわ…」

 

 

「そうだったのか…けどいいのか?そんな人の剣を俺に与えて…」

 

 

「ええ。剣などの武具は自分を能く使ってくれる人に使われたいと願う物、貴方ほどの人物に使われるならば剣も本望でしょう?生憎私はこの『絶』を得物にしているから剣を使う事が無いでしょうしね…」

 

 

「…分かったよ。この剣の銘はなんていうんだ?」

 

 

「さあ?お爺様が徐岳殿から聞いた話によれば『この剣に名はまだつけていない、貴公に進呈するのだから貴公の好きなように名をつけてほしい』って言ってたらしいの。結局お爺様は思いつかなかったようだけど…貴方が好きなように名をつけたらどうかしら?」

 

 

 華琳がそうぼやくと、一刀は剣を握りしめながら脳裏に浮かんだ名を呟いた。

 

 

「『碧翠(へきすい)』……そんな名前にしてみようと思う」

 

 

 一刀がそう呟くと、長剣に填め込まれた翡翠色の宝石がまるで彼の言葉に応えるかのように一瞬光った様な気がした。

 

 

・・・・・・・・・・・・

 

「ほらボーっとしない!まだ講義は終わってないんだからね!?」

 

 

「わ、分かってるって!」

 

 

 暫しこの剣を手にするまでの出来事を思い浮かべていた一刀だったが、桂花の叱責を受けて再び講義の続きを受ける事になった。それから一刻立った頃…。

 

 

「…一刀、いる?」

 

 

「香風?どうしたんだ?」

 

 

「…お父さん達が来たから、会わせたいと思って」

 

 

「そうか。…えっと」

 

 

「…今日はこの辺にしときましょう。早く行ったら?」

 

 

「分かった!」

 

 

 桂花の許しを得た一刀は竹簡や筆などを片付けると香風の後を追って部屋を出て行った。そして屋敷から出た一刀の眼に映ったのは、先に外に出ていた香風が一組の男女を出迎えている光景だった。この二人こそ徐晃……香風の両親である徐岳と朱寧だった。曹操は徐晃を登用した際、その両親らを迎える事を考えており、徐晃に書状を送らせて対面しようとしたのである。

 

 

「…あっ、来た。父上、母上。あの人が一刀って人…」

 

 

「ほお…お前が香風が書状に記していた若者か」

 

 

「あらあら…中々どうして見どころのある若者じゃない、そうは思わない弧月?」

 

 

「はっは!それは俺も同じように思ってたぞ麟華。初めまして、と言うべきかな?一刀君」

 

 

「は、はい!北郷一刀です!よろしくお願いします!それと俺の事は呼び捨てで結構ですよ?」

 

 

「そうか?ならばそう呼ばせてもらおう。それにそう固くならずとも良い。とりあえず中で話をするとしよう…香風、案内してくれるか?」

 

 

「うん、分かった」

 

 

 香風はそう言うとまたのんびりとした歩きで屋敷内に戻り、一刀と徐岳たちもその後に続いた…。

 

 

・・・・・・・・・・・

 

 そうして屋敷内で徐岳と朱寧を出迎えた曹操と夏候惇らは談笑を始めた。

 

 

「まずはこうしてお会い出来て嬉しく思います、徐岳殿。『名器の作り手』と称される貴方の力量のほどは聞き及んでおります故に」

 

 

「いや、こちらも曹騰殿の孫娘である貴殿にお会い出来て嬉しく思っているぞ曹操殿。洛陽において北部尉に任命された時に宦官蹇碩の叔父を門限を違反したとして打ち殺した事は俺の故郷である陽県でも轟いている。聞いた時には痛快この上なかった。それに比べれば俺など武具を作るだけの鍛冶師、貴公には足元にも及ばぬさ」

 

 

「何をおっしゃるのです!?私も聞き及びましたが貴方が鍛えた矛は巨岩を貫いても穂先が歪む事が無かったとか、大刀に至っては騎馬の将を人馬諸共両断してなお刃毀れ一つなかったともされているではないですか!それに武を重んじる者達の間では『徐銀明の武具を手にし、使いこなしてこそ真に武人として一歩を踏み出したと言える』と語り草になっているのですよ!」

 

 

「全く落ち着きが無いわね…客人を前にしているのが分かってんのかしら?」

 

 

「姉者、興奮しすぎだ。…すまない朱寧殿、姉者は徐岳殿に会う事が出来て歓喜していてな」

 

 

「あら、別に構わないわ。寧ろ武を重んじる勇士であるのならば優れた武具を作る鍛冶師との出会いは何にも代えがたい物でしょうし…ねえ弧月、夏候惇殿の武具も手入れしてあげたらどうかしら?」

 

 

「ふむそうだな…曹操殿、近くに鍛冶場はあるだろうか?宜しければ夏候惇殿らの武具の手入れをしてやりたいのだが」

 

 

「っ!願ってもない事です…近場に鍛冶場がありますので。春蘭、喜びなさい。徐岳殿が武具の手入れをしてくださるそうよ」

 

 

「真ですか!?徐岳殿、感謝いたします!!!」

 

 

「良かったな姉者。では徐岳殿、私がご案内いたします」

 

 

「それじゃあ私も付いて行くわ。夏候惇殿の振るう武具を見てみたいしね」

 

 

 やがて徐岳は夏侯淵に案内されて領内にある鍛冶場に夏候惇らを連れて赴き、その姿を見て一刀と徐晃も付いて行った。

 

 

「あの人が香風の父親なんだ…。凄い器の大きな人だな」

 

 

「うん。私の自慢の父上…もちろん、母上も私の自慢の人」

 

 

「はは…あの二人を見ていたのなら自慢したくもなるだろうな。君の兄上って人も自慢できるのか?」

 

 

「うん。兄上も私にとって自慢できるし、大切な人。…行こう一刀、父上の鍛冶の技を見るのも久しぶり」

 

 

 そんな事を話しながら領内の町の鍛冶場に赴いた一刀と香風の目に映ったのは、夏候惇の使っている豪刀を研ぐ作業を行っている徐岳とそれを眺めている夏候惇だった。

 

 

「おおっ…見違える様に私の七星蛾狼が磨かれて行くぞ!!流石は徐岳殿だ!!」

 

 

「姉者、少しは落ち着け。鍛冶の技は慎重さを要するのだぞ?」

 

 

「あら大丈夫よ、この程度の会話で心が乱れるようでは『名器の作り手』なんて二つ名がつく事が無いじゃない?」

 

 

 夏候惇を窘める夏侯淵に対し麟華が口元を抑えながらコロコロと笑っている間に、徐岳は研ぎの作業が終わったのか七星蛾狼を丹念に磨き上げて鍛冶場から出て来た。そうして鍛冶場の傍に置かれていた数十本の薪を束ねてある物を持ってくるとその上で七星蛾狼を持つ手を放した。

 

 

ースカカカカカンッ!

 

 

 …その光景には夏候惇はおろか一刀も目を疑った。どう見ても数十本ある薪を束ねて纏めた物の上で徐岳が七星蛾狼を手放したかと思うと、そのまま落下して刃が纏めた薪の上に触れた途端、いとも簡単に両断し続け、そのまま地面に突き立ったのである。これが兵士達の使う様な剣で同じように束ねてあったとしても、同じように両断し続けるかもしれない。まさに神業…そう思ってしまうほどに見事な鍛冶の技量を目にしたのである。

 

 

「………お、おおおおおおっ!!凄い、凄いぞ秋蘭!!七星蛾狼が、七星蛾狼が!!!」

 

 

「姉者落ち着け。…流石は徐岳殿、『名器の作り手』の二つ名に恥じぬ鍛冶の技。しかと拝見いたしました。感服仕ります」

 

 

「はっは、この七星蛾狼と言う刀が名刀だっただけよ。俺はその力を引き出しただけにすぎん。良き刀をお持ちのようだな、夏候惇殿。むっ…香風も来ていたか?ちょうどいい、お前の霞切りも鍛えなおしてやろう」

 

 

「…!ありがとう…」

 

 

「何、お安い御用と言う奴だ。…むっ?一刀よ、その腰に下げているのは…」

 

 

「あっ…これですよね?」

 

 

 徐岳が自身の腰に下げてある長剣を見て首をかしげたのを見た一刀は腰に下げてある碧翠を腰から外し、彼に見える様に差し出した。

 

 

「ふむ…やはりこの剣は俺が曹騰殿に対して友誼の証として送った物だ。何故それをお前が持っているのだ?」

 

 

「それは…」

 

 

 徐岳の問い掛けに一刀はこの長剣を持つに至った経緯を話し始めた。やがてそれを聞いた徐岳は得心が行ったように頷いた。

 

 

「そうだったか…しかし一刀と言ったか?傍から見るとそこまで膂力が無い様に見えるが…ふふ、世は広いという物だ。それにその気性は見ていて気持ちがいい。壮也もお前と出会ったのならば気に入ると思うがな」

 

 

「壮也…それって香風の」

 

 

「ああ。香風の兄……徐来芳明の真名だ。分かっているとは思うが真名で呼ばぬ様にな?…あいつの鍛冶の技は俺をも上回っているかもしれん。現に香風が手にしている霞切りはあいつが鍛え作り出した物だ。だがあいつは常に切磋琢磨する事を怠る事は無い。まったくもってよくできた息子さ」

 

 

「そうですか…本当に、一度会ってみたいです。あの、話は変わるんですが…」

 

 

「はっは、剣の話であろう?分かっているさ。その剣に銘をつけてくれたのならばその剣はお前が振るうがいい。だが…その剣でもお前相手だと荷が重すぎるかもしれんな」

 

 

 徐岳が悩ましげに呟くと七星蛾狼を手にしてはしゃぐ夏候惇を宥める夏侯淵を見ていた朱寧も同意するように声をかけた。

 

 

「そうね。貴方の剣術は見た事が無いし、香風の書状に書いてあったのを見たけど…貴方の剣術と言うのは恐らく相手の技を躱しつつ一振りを以て決着をつける類ではないかしら?確かにその剣だと耐えきれないかもしれないわね…貴方、大丈夫なのかしら?」

 

 

「あっ、はい。大丈夫です」

 

 

「ふむ…ならばよいのだが。もしいつか壮也と出会う事があったのならば相談してみると良い。きっとお前にとって満足できる一振りを作ってくれるだろう。郷里に戻ったのならば壮也にも伝えておくとしよう」

 

 

「…ありがとうございます。俺なんかの為にそこまで」

 

 

 一刀が徐岳の心配りに心から感謝を示すと、徐岳はカラカラと笑いながら返答した。

 

 

「はっは!何、気にせずとも良い。曹騰殿に贈った剣に名をつけてくれたのだ、この位はさせてくれ。願わくば、その剣を大切に使ってくれ。鍛冶師にとって自身が作った武具を遣い続けてくれる事こそ本望なのだからな」

 

 

「…はいっ!」

 

 

「ふふ…。ねえ香風、改めて見たけど中々の好青年じゃない?貴方の夫にしてもいいんじゃないかしら♪」

 

 

「…母上、気が早すぎ」

 

 

「え、ええっ!?」

 

 

「…一刀よ、一応言っておくが香風を妻として迎えるのであれば俺のみならず壮也の許しを得るのだぞ?そうでなくば、分かっているな?」

 

 

 …こんな感じで締めくくられてしまった事もあったが、徐岳らと曹操たちの交流は双方にとって何よりも得難い思い出をはぐくんだのである。

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・

 

 それから数日経ち、徐岳と朱寧が故郷である陽県に戻る事になった日を迎えたのだが……。

 

 

「………………」

 

 

「貴方…」

 

 

「…徐岳殿」

 

 

 庁舎の客間に座っている徐岳は複雑そうな表情で顔を歪めており、朱寧はそんな夫を心配している。華琳もまた徐岳の姿に胸を痛めていた。それはどう見ても別れを惜しむ物ではなく、変事が起った事を暗に示していた。その証拠に彼らを挟む机には一枚の書状と、似顔絵が描かれたチラシが置かれていたのである。

 

 

―バンッ!!

 

 

「華琳っ!!」

 

 

「一刀、来たわね。…その様子だと、貴方も出来事を知ったという感じかしら?」

 

 

 その時扉が開け放たれて一刀が入ってきた。その貌には危機的状況が起った為に焦りが浮かんでおり、その後ろから入ってきた香風は青ざめていた……。

 

 

「…ああ」

 

 

「兄上…」

 

 

 そうして一刀が手にしていたチラシ…机に置かれていたのと同じものには一人の青年の貌が記されており、それに付け加える様にある文章が記されていた。

 

 

ーー『この者、十常寺の一人たる張譲の親族を殺めたる大罪人なり。この者を捕えし者には千金を与える物なり。咎人の名は徐来芳明』ーー

 

 

 そして徐岳の元に届いた手紙は、その徐来からの物だった。そこに描かれていたのは、要約すると次のような物だった。

 

ーー『この様な手紙をお送りする事、お許しください。故あって俺は大切な人を護る為人倫に背く行いをいたします。この手紙が届いたのであればどうか俺と縁をお切りになってください。そうすれば禍根に巻き込まれぬと思いますので。どうかお体を労わってください…。そして香風、願わくばお前の道に幸あらん事を。徐来芳明』ーー

 

 

・・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 咎人となってしまった徐来。いったい何故咎を犯してしまったのか?続きは次回のお楽しみ…。




 如何だったでしょうか?次回は何故壮也が罪を犯したのか…その出来事を綴ろうと思います。

 では、次の更新までお待ちください。
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