お母さんに勘当された。
何故かはわからない。けど「一度外の世界も見てみなさい」と遠回しに追い出された私にはそれを考える暇なんてなかった。…嘘。なんでなの?私、お母さんを怒らせるようなことしたっけ?えっぐ、ぐすん。おかあさぁん…
けれど実際、無駄なことを考える暇なんてないのも事実。その日暮らしすらままならない私に泣くなんて事に労力を使っていたらあっという間に体力がなくなって飢え死にしてしまうだろう。水分に関しては水の魔法を使えば幾らでも手に入るのでそこは問題ないのだけど魔法で生成できる食べ物は存在しないしあったとしても健康にとても悪そうだ。
食い扶持を作って衣食住の少なくとも食は満たさなければいけないということは明白白日。
なので抄訳の魔法を使いつつ働き口を探し、もしくは何に需要があるのかを探りながら街を散策する。
どうやら私が降り立ったこの街は科学的な技術が高度に発展しているらしくまるで魔法のような現象を科学のみで実現しているようなのだ。とても興味深いがそんな事をしている場合ではないので自動で開く扉を舐め回す様に見る程度に抑えアルバイト…つまり従業員の募集をしている小売店の扉をくぐり抜ける。
自慢ではないけれど私は能力が高いと自負している。だからどんな仕事でもできる自信がある。むしろ雇用主側が頭を下げるべきではないだろうか。そんなことを思いながら私はグリモワール片手にオーナーらしき男へと足を進めた。まあ、せいぜいできる限りの労働条件を用意することね。
すっかり辺りは暗くなりそんな時間になっても公園にいるのは私はくらいになった頃。私は現実逃避していた。
もぅマヂ無理。。。リスカしょ。。。どこかからの毒電波に侵されるくらいには憔悴していた私はベンチに横たわり陸に上げられた魚のように手足をバタバタさせながら言いようのない思いを体で体現していた。
どうやらこの街では自分の身分を証明する何かしらが必要らしくそれがなくては碌に働くことも出来ないらしい。さらに外国人は就労ビザなるものも必要でグリモワールしか持っていなかった私にそんなものを提示出来るわけがなく…
要は門前払いされたわけだが、私はこの街で働くことが事実上不可能になったということだ。抜け道とかないのかと聞いてみたが法に厳格なようであるわけがないと返されてしまった。いやでもその後私の体を、正確には胸部と下半身当たりを見た後個人的になら雇えなくもないと言っている辺りもしかしたらそうでもないのかもしれない。視線が何かすごく気持ち悪かったのでその時は断ったが。
その個人的は雇用とやらを受ける事も視野に入れたほうが良いかも…とベンチの上で身を捩りながら考えていると。
どろり
嫌な気配と共に鞦韆の影から化生の類が顔を出す。
2つの足で立ち2つの腕を持ってはいるが人にあらず。肌のような外装はズタズタに裂かれ頭から洪水のような血を噴出し地を濡らす。腹から臓器を垂らし引き摺りながらこちらに歩み寄ってくるその姿は痛々しく見えるが表情は愉悦に満ちていた。
びしゃびしゃと噴き出る血にさらされる木々は立ちどころに枯れ果てその生命を散らす。影響があるのは生物だけではない。相当に硬いであろう鞦韆は根本から溶け始めやがてぐちゃぐちゃになっていく。
「みっ…け」
私はそんな死を振りまく化け物に、八つ当たりに近い怒りを感じていた。
ああムカつく。人形の完全自律化にも最近停滞してきて、七つ目の色の習得も中々上手くいかず、お母さんと離ればなれにもなり、さらにはこんな‘‘雑魚’’が私を舐めたように勝てる気で殺しに来ている。
「雑魚の分際で…私の前に立つというのね」
私の怒りに呼応するように呼び出された人形達がランスや杖を持ち化け物にそれを向ける。この程度の相手なら上海一体で十分だけど…
悪いけど、今とても苛立っているのよね。
滅多打ちにしてやる。
グリモワールを捲りつつ私は額に青筋を立てながら笑みを浮かべた。
七海建人は一級呪霊の討伐のため目撃情報があるマンションに補助監督の案内の本訪れていた。なるべく一般市民にバレないよう深夜にやってきたのだが窓はポツリポツリと所々光っており油断はできない。あまり派手に戦うことは出来ないだろう。
なんでも最初二級術師が担当したそうなのだがその強さは明らかに過小評価。呪力に比例しない術式の強さに等級を見誤ったらしい。
呪術界の腐敗に反吐が出る。その誤りで未来ある二級術師は死亡したのだ。そしてこういった事例は自分が学生だったときから見覚えのあるものだった。いつまで経ってもここはやはりクソのようだ。
昨今の呪霊はレベルが高く例年よりもその数は増加傾向を辿っている。5年に一回出現するかしないか程度の特級呪霊も当たり前のように年に一回は闊歩しその下の一級ともなれば残業しなければ払いきれないほどの量が人々の呪いから湧いていた。
そしてその質も例年より高く一概に呪力量だけでは測れない狡猾さや術式の強さが例年より増していることを七海は今実感している。
帳を張っているにも関わらず出てくるのはせいぜい三級程度。目的の一級呪霊は気配を隠すのが上手いらしく中々その姿を現さない。
呪霊は通常、呪縛霊のように己が産まれたその場所をテリトリーのように守り留まる傾向がある。のであまり考えられないことだがもう別の場所へ逃げたのかと考え一度帳を解こうと外へ出ようとし…
「ッ!この気配は…」
既の所でその悍ましい気配を察知する。さらにそこから感じ取れる呪力量。これはもう限りなく特級に近い格を持っている。
自分一人では対処しきれないかもしれない呪霊に応援を呼ぼうと補助監督の下へ行こうとするが気配の本から鳴動や戦っているかのような衝撃が出ていた。もしかしたら一般市民が外出しようとしている所を呪霊が襲っているのかもしれない。
電話で手短に応援を呼びつつ呪霊のいるであろう強大な気配のもとに全速力で走る。七海の脳内には目の前でかつての友人である灰原が呪霊に胸元に穴を開けられ倒れる姿が映し出されていた。
『後は頼む』
死の際に言われたその言葉がいつまでも七海にとって呪いとなっていた。
たとえ格上だろうと、あんな思いは二度とごめんだ。その思いを胸に背中にかけられた使い慣れている鉈を片手に戦闘がおきていると予想されるマンションと隣接した公園に辿り着く 。
そこでは予想していた一方的な蹂躙が予想外な形で起こっていた。
「もう。、ヤメ…てぇ」
「…ふふ。滑稽なものね。あれだけ元気いっぱいに私を殺そうと息巻いていた貴方がこんなにもぼろほろにされてるなんて。ほら血液をもっと分泌しないと近づいて殴り殺しちゃうわよ?」
短いウェーブのかかった金髪。若いと窺え幼さが残っている綺麗な顔立ち。青い瞳から外国人であることがわかるその少女は式神と思わしき西洋人形を巧みに操作し呪霊からの攻撃を躱しながら人形に持たせた槍で呪霊を貫く。大量に血を巻き散らかしているにも関わらず人形にはシミ一つついていないのはその操作性の高さ故だろう。
大量の西洋人形が推定特級呪霊に纏わりつき槍や杖からの炎で攻撃し呪霊の体に穴が開きその身を焼く。
なんとか宙に浮かぶ人形の攻撃を掻い潜り本体である少女へ拳を振りかぶり鈍重な一撃を入れるが易易とそれを受け止めその拳を白く小さな宝珠のような手で握りつぶした。
「ギああ゛あ゛゛あ゛゛゛」
人形と違い少女は返り血を避けることなく髪や腕をベッタリと濡らす。だが溶けてその役割を失った遊具と違い全く影響を受けていないようで煩わしそうに髪をかきあげる。
「火の魔法は単にものを燃やすだけでなく一時的に術者の身体能力を上げる術も含まれているわ。まあ、貴方に言ったところでなんの意味もないけれど」
少女に付着していた呪霊の血が突然燃え盛り灰になる。青いスカートを払いながら怒りの籠もった表情で呪霊を睨みつけた。
「つまり、万に一つも貴方に勝ち目はないってことよ」
少女の拳に光が集まり、一閃。それだけで呪霊は霧散し消失反応を出し祓われた。
その様子を公園の入口で所在なさげに見ていた七海は安心と混乱が入り交じったような感情に揺さぶられていた。
少女の攻撃には一切呪力が込められていなかった。人形が扱う槍も呪具ではないし杖から射出された炎も呪力によるものではなかった。さらにいえば少女が最後に放った拳。白く光り輝いていたあれは紛れもなく反転術式による正のエネルギーだ。
なにがなんだが全くわからない。だが七海はひとつだけ確かなことがわかった。
一級呪霊を相手にするよりも確実に面倒なことになる。だがそれでも話しかけにいかなくてはならないわけで。
はあ…と残業が確定した七海はため息一つ付き帳を消しつつ少女へと足を進める。上やあの軽薄な先輩になんと説明すればいいのか。そう考えるとまたも頭痛がしため息が自然と出てくるのだった。
アリス・マーガトロイド
東方怪綺談の時よりは成長し東方妖々夢の時よりは発展途上。魔界から降りてきた。
神綺
勘当していない。