とりあえずの住を手に入れたものの、期間は明確に決められていないがずっと校舎に住み続けられるものではないという事をわかっていたため金銭関係をどうにかしようと一日高専校舎内で寝泊まりした後、求人を探しに街へ繰り出そうと荷物をまとめる。と言ってもグリモワールくらいしか荷物にならないので一瞬ないのだが。
ふわあとひとつ欠伸。
「お前見たことない顔だな。新一年生か?」
そして後ろを振り向けば黒髪ポニーテールのメガネをかけた自分と同じかそれ以上の背丈を持った女子が私へ向けて声をかけていた。
一年生...たぶんこの学び舎における学生の話ね。なら全くもって見当違いだけれど。むしろ部外者よりの立場のはずね、私は。
けどそれだけで話を切ってしまうのは少しもったいなくも感じる。目の前の女子からは五条さんや七海さんと違って、さらに魔界にいた誰もと違って体内に魔力と呼べる何物もなかった。
「いえ、私は…そうね、五条さんの協力者よ」
私が感じる人の中に眠っている闇の魔力の中で一際大きかったのがあの五条悟という男だ。魔力量=強さではないがそれでも一つの指標になる。そして強さは尊敬の向く先だという事も私はお母さんから学んでいるわ。だからきっとここで一番強いであろうあの男の名前を出せばきっと好意的な態度になってくれるはず...!
「あ?あの馬鹿目隠しの協力者…だと?」
すすすと私から一歩離れる女子。ついでに嫌悪感にまみれた視線を寄越してうげえみたいな表情を浮かべてくる。え、いやなんで?突如吐瀉物でも見たかのような反応をされると悲しみとかよりも唖然しかできないのだけど...
実際私この女子と初対面よね。ならなにか私が吐瀉物に見えるくらい嫌な発言を私がしてしまったとか、かしら?
「え、ええと何故そんなに引いているの?貴方が不快に思うような発言をしたなら謝るわ」
「…いや、こっちこそ悪かったな。あの馬鹿の名前が出たから身構えちまってな」
「あの馬鹿…」
軽薄な態度だとは思っていたが、まさかそんなに嫌われているとは...アリス、驚き。人間界では強さ=尊敬ではないのね。そういえば七海さんも敬語を使っていたとはいえなにか疎まし気な視線を向けていた気がするわ。嫌悪とかではなかったから気のせいかとも思ってたけれど。
「ならあれか。冥冥さんとかと同じような一級術師か?」
「その術師、とやらがなにを指しているか私は知らないけれどたぶん違うわね。協力者っていうのはちょっとサバを読んだ表現になってしまったわ。どちらかというと重要参考人かしら」
そう言うと目の前の女子はわかりやすく頭の上にクエッションマークを浮かべきっと「どういうことか」と言おうと口を開きかけ、
「アリスさん」
眼鏡を人差し指でかけ直しつつ私たちに近づく七海さん。現在朝の八時。普段着でもおかしくないのに昨日見たような白いスーツ姿で登場する彼の姿はその質をわかりやすく表していた。
すこしだけ申し訳なく思いつつ事情聴取はまだ終わってなかったな思い出す。
「残念だけど時間みたいね。また会いましょう。ええと…」
「お、おう。そうか。そういや私の名前伝えてなかったな。禪院真希だ」
「アリス・マーガトロイドよ」
ひらひらと手を振ってその場を去る。そういえばなんで魔力がないのか聞けなかったわ。まあ次の機会でいいかしらね。それとも今知人から聞いてみようかしら。
「禪院さんから魔力が全く無いように感じたのだけど、人間ではあれが普通なの?」
「まるで自分は人間でないような言い方をしますね」
「あら、そう聞こえるかしら」
別にそういう意味を含んだわけではないのだけど、疎外感を出した言い方ではあったかもしれない。
それはただの事実であり、実感。私はお母さんより生まれた魔人だから。
「…禪院さんは天与呪縛のフィジカルギフテッド持ちの呪術師です。貴方の言う魔力と言うのはおそらく呪力のことでしょう。禪院さんは呪力を剥奪されたかわりに超人的な身体能力を手にしています」
「へえ。面白いわね」
天から与えられた、とくるならばおそらく原因不明の突然変異のような偶然の結果から起因することなのだろう。私の住む魔界では魔力を扱えなくなる代わりに身体能力が...なんて聞いたことがない。魔人なら魔力を持ちそれを操るなんて当たり前。個々によって何が得意かやなにに魔力を宿らせ媒体とし何を引き起こすかもバラバラだったがそれがなくなるなんて事象ははっきりいってあり得ない。
「彼女の生まれが禪院家でなければそうだったかもしれません」
ちらりと視線を向ければ瓶底眼鏡のせいでどこをみているかわからない。その言葉の真意は一体なんなのか。行きに使うであろう昨日の…車といったかしら?の中で聞いてみよう。
「それで、これから私はどこへ向かうのかしら?」
「…呪術総監部です」
あまり快くなさそうな表情を浮かべる七海さん。そんなに行きたくないなら行かなければいいのに。そう思う私はまだ権力とか利害関係とかがわかっていないだけなのか。大人になれば、お母さんのようになれば自然とわかるようになるのかしら。そう考えると漠然とした恐怖が私を包んでいくのを感じた気がした。
『この小娘が特級呪霊を祓ったと報告された野良の呪術師か』
『今しがた届いた報告によると人形を操り各々に持たせた呪具で呪霊を叩く。といった戦い方。夜蛾の呪骸操術と似たようなものか』
『いいじゃないか。そういうシンプルな術式で特級を打ち取れる将来有望な若者が現れる。昔を思い出すわい』
『さらに炎なんかも使うそうじゃないか。まさに古を重んじるという彼女の意思が感じ取れるねえ』
『今や複雑な術式が世を跋扈する時代。そんなんだから呪詛師に度々事件を起こされるのだ。昔ならそんなことは無かった』
アリスを上層部の連中が襖からのぞき見する悪趣味な場所へ連れていき僕も付き添いでそこへ入る。相も変わらず自分たちは目の届かぬ場所でこそこそこそこそと裏話。
反吐が出る。だが今回のアリスへの対応は予想外だった。
乙骨の時のようにさっさとこういう異分子は処刑する。それが上層部の考えだと思っていたが...
まるで正反対。好々爺のようにアリスをかわいがる上層部がとても気持ち悪い。
『まあ、彼女のことはこれからの経過を見て考える。という事で良いんじゃないか?』
『五条へ渡すのは気に食わないが教育を怠らせるわけではないだろう』
『うむ。決定だな』
そしてあっさりとアリスの処遇が決まり執行猶予。というよりは無罪放免。僕がどうこうせずとも上層部に認められた形で彼女は生きる事を許された。
「あらそう。ならもう用はないわね。私これから仕事探さないといけないからこれで失礼するわ」
すたすたと早足にその場から去っていく。僕も困惑しながらもこんな空間にいたいわけではないのでさっさと出ていく。
「貴方やっぱり相当嫌われているわね」
山奥の墓場へつながる道潜り抜け山を下りる最中アリスがそう口にする。彼女は山道にも関わらず昨日見た格好と変わらず青いスカートにワンピースを付け赤いヘアバンドを付けていた。
「どういうこと?」
「報告書にそれとなく『五条悟曰く、処刑すべき』みたいな内容を付け加えておいたのよ。どうやら貴方色んな人から嫌われてるみたいだからカリギュラ効果的なものを狙ってみたのだけど、まさかあれほど上手くいくとは思っていなかったわ」
「えー?伊地知の奴部外者に報告書改竄されてんじゃん。というか僕を出汁に使うとかよくやるね。僕これでも最強なんだけど」
「そうかしら?私からみればそうは見えないけど」
煽ってくるなあこのやろう。と言いかけたところでまたもアリスは口を開く。
「禪院さんの家があんな状態なのだから、どうせその界隈で上に立っている長も碌なもんじゃないと思っていたのよ」
吐き捨てるようにつぶやいたその言葉を拾い上げる五条の聴覚。
視覚では依然として人外染みた情報を脳内で捉え続けているが、仲良くなれそうだなと五条は少しだけ思った。
車の中でナナミンから禪院家について聞く→上の人たち絶対ヤバいやろ。報告書改竄だ!→遠隔操作で人形に報告書に書き加え。伊地知さんはそれに気づかず提出。伊地知後でマジビンタ