とこれからします。そういえば東方の人たちどいつもこいつもファーストネームで人のこと呼ぶのを思い出したので。
「仕事を貰えないかしら」
呪術高専の職員室にて、アリスはそう学長である夜蛾に頼み込んでいた。
アリスは現代人がそれを知っていたなら悲しまれるほどに無駄に仕事を探し続けていた。国籍がどう見ても日本人でないアリス。さらに言えば外国籍すらないまるでなにもない所から出現したようないで立ちの彼女に仕事など回ってくるはずもなかった。
だがそれはあくまでまともな仕事の場合。
例えば個人的な契約関係であればグレーではあるが身分証明書なんていらないしバレもしないだろう。
そしてそれはまともじゃない仕事の場合、黒い仕事にも適用される。
「ってわけでたぶんここの仕事って身分ショーメーショとかいらないのよね?」
「ナチュラルに黒い仕事扱いしてくるねー」
「…まあ否定はできないが」
そしてその場にはコーラを飲んでいる五条も同席していた。彼のような力持つ呪術師が本業である呪霊討伐もせず校舎でのんびりとだらけているのは教諭という仕事柄故かそれともその性格故か。彼を知る者なら問うまでもないことだが。
「なんでうちに仕事を頼むの?君の術式、いや能力なら呪術界に関わらず労力無しに金稼げそうなもんだけど」
「私、どうやら普通の仕事ができないらしいのよ。身分ショーメーショとやら持ってないから」
「今までどうやって生きてきたんだ??」
グラサンをつけているおじさんが心底疑問そうに私に問う。魔界で暮らしてた。と言っても混乱を引き起こすだけだから言う気はないけどこの世界目線だと突然どこからともなく現れたような感じに見えるのよね、私。
「それで、なにかお仕事ないのかしら?結構非人道的な仕事でもいいわよ」
「うーん…まあ仕事は腐る程あるけど。体裁はどうしようかな」
「悟はここでさぼってないでその腐る程ある仕事をしてこい」
「やだよ僕昨日恵に体術教えようと思ってたのに仕事めちゃくちゃ入れられてもううんざり。今日一杯はなにもしません。ストライキします!」
足を机の上にどかっと乗せて抗議の姿勢をとる悟。夜蛾さんはその様子に嘆息しているけどこれを見るに悟の手の付けられないっぷりは日常茶飯事みたいね。こんな人が同僚とか夜蛾さんかわいそう...
「まあそういうわけでうちって全然人手足んないんだよねー。だからアリスさ、高専所属の呪術師やってよ。そしたらここ一生住居にしていいし結構たんまり稼げるよ。死ぬかもしんないけど」
「…あまりお勧めはしない。呪術師はその役職柄凄惨な現場を見る事が多々ある。どれだけ自分が強かろうがいつしかその残酷な世界の一面を見て心が折れてしまう者も多数いる。だから金稼ぎを理由に呪術師をやるのは…」
「やるわ。そのジュジュツシとやらに」
「おおー随分あっさりと決めるね。後悔しない?」
「しないわよ。これでも精神力は人一倍強い自信があるわ。それに金稼ぎだけが理由ではないし」
?マークを頭上に掲げる悟と夜蛾さん。彼らの内には大量の闇の魔力が眠っている。呪術師、とやら所為闇の魔法使いなのでしょうね。そして闇のエネルギーよりいでし魔獣たちを祓う職業。彼らと共にいればもしかしたら、私が唯一習得していない七色の内最後の色、闇の魔法を使えるようになるかもしれない。
金銭問題も解消され住居も決まりさらに闇の魔法習得の機会も与えられる。呪術界は私にはもってこいの環境だった。
「はーい皆注目!今日から新しい君たちの先生が増えるからね!しっかり僕と同じように敬意をもって接するよーに」
「誰もてめえを敬ってねえよ」
「すじこ」
「真希、口悪いぞ。パンダの俺を見習うんだ」
「み、みんな一旦落ち着こうよ。一応僕らの教師なんだよ?」
教室に案内され教卓の前に立たされる。眼前に広がるのはこの学校の生徒たちとみられる人たち4人。なんというか、キャラが被ってないし濃い人ばっかりね。
一人は私が先日出会ったメガネ女子。口が悪いらしく、いやもしかしたら悟にだけかもしれないが毒舌が目立つ。何故か武器を教室内に持参しているようだ。私もグリモワール持ってるから同じだけれど。
一人は口をマフラーで覆っている少年。魔法で日本語をしっかり解読をしているはずだが彼の口からは発せられている言葉は魚の一種であるサケ科の魚体から取り出した卵巣が卵膜に包まれている状態の「すじこ」であると私の魔法は伝えてくる。私の魔法は壊れてしまったのだろうか。
一人はパンダ。
そして一人は一際大量の魔力を保有している少年。魔力量だけで判断するならこの中で一番強いかもしれない。
「この人は今日から呪術高専に勤務するアリスさんだよ。ちなみに今日から呪術師やるから色々教えてあげてね」
「紹介に預かったアリス・マーガトロイドよ。アリスって呼んでもらえれば幸いね。今日からよろしくお願いするわ」
「え、アンタ教師だったの?前あった時タメだと勘違いしてたし普通に新一年生かと思ってたんだけど」
「つーか今日から呪術師始めるって、むしろ俺らの方がこの人間に教える師になるべきじゃないのか?」
「明太子」
「???どういう…?」
「ほらみんな!アリスさんが混乱しちゃうでしょ!自己紹介!」
いやむしろ彼らの方が困惑しているように見えるけれど…
「ま、まあとりあえず、私は4級術師の禪院真希だ。苗字は嫌いだから真希って呼んでくれ」
「ツナマヨ!」
「俺はパンダだ。よろしくなアリス」
「僕は乙骨憂太。えーっと、さっきからおにぎりの具でしか喋っていないのは狗巻棘君で、術式の影響で下手に会話できないんだ。後パンダ君の事なんだけど、パンダ君は呪骸で、夜蛾学長の特別仕様だから自由に動き回っているんだ」
色々補足しつつされつつつつがなく終わった自己紹介タイム。にしても呪術界っていうのは変な人たちが多いわね。魔力保有量がゼロの人、言語が封じられた人間として致命的な弱点がある人、どうみても獣の人、さっきから後ろから殺気が放たれている人。
こんなにも特徴が多いとサンプルが多すぎて闇の魔法の習得方法の一般化が難しそうね。まあ一朝一夕で終わるものとも思っていないし、彼らに教師として色々教えながらそこら辺を探っていくとしましょうか。ところで私は一体全体何を教えればいいのかしら。
「じゃ、私からは魔力の操作性向上について教えればいいのね」
「魔力じゃなくて呪力ね。真希には僕の方から体術教えとくから。よろしくー」
男子三人を引き連れて私は校庭へ出る。パンダについては男かわからないけれど。
とりあえず私が教えられる内容と言えばもちろん魔法について。しかしこの世界では闇以外の魔法がとんと流通していないようで魔界なら生まれて十分の赤子も使える炎を射出する火の魔法さえも使えないらしい。もしかしたら人間と魔人では体の構造が大分違うのかもしれない。もし魔力を扱い方が根本的に違うのなら闇以外の魔法について教えた所で全くの無意味。そして闇の魔法は私が使えないのでまったく教えられない。これは詰みね。
しかし魔力自体の話なら別。魔力は生物なら誰しも持つ生命力に直結する重要な要素。その歴史は原子生命体から始まり未だに途絶えていない。たぶん、きっとおそらく魔力自体の話なら人間も私もたいして変わらないはず。
「憂太はともかくパンダと棘は魔力の操作がとても覚束ない。それじゃあ魔力の力を²・⁵√くらい弱体化された状態でしか使えていないわ。効率も頗る悪いし」
「すじこ…」
「えぇ、俺ら、今日呪術師始めた人からダメ出しされるくらいダメなのか…?」
「つまり僕たちに黒閃を打てるよう師事してくださる。ってことですか?」
「黒閃とやらは知らないけれど、まあたぶんおおむねそうね」
おそらく憂太が言っているのは魔力と打撃による衝撃が誤差なく起こった時に発生する閃光の事ね。閃光はなんの色の魔力を使っているかによって決まるから、異常に闇の魔力溢れる人間にとってはその閃光は黒色しか見たことがないのね。赤色とか綺麗なのに残念だわ。
「魔力の操作性を向上させるのはとても重要よ。殴打する場合なら衝撃と共に魔力をぶつける事でその力以上のパワーを発生させる事ができるし魔法の場合なら無駄な魔力の損失を防ぐことができるわ」
「魔力って呪力に置き換えていいよな?」
「ま、まあ多分」
「明太子…」
「例を出すなら悟ね。あの人はいつも魔法を展開しているけど無駄な魔力の損失をほぼゼロにすることでその持ち前の魔力量も相まって一日中一年中あの魔法を展開し続ける事ができるわ。それを抜きにしても黒閃に関しては経験しておいた方がいいわね。あれって野球で言うミートみたいなものだから一度経験するとその感覚を覚えられるのよ。バットの使い方もさらに理解できるから魔法の質も向上するわ」
グリモワールをめくり視覚的にわかりやすい魔法を探す。適当なページを開いて私は手を前に出した。
「火炎球」
火の魔力を源に弾幕を張る。それだけだが極限まで効率を極めたエネルギー弾は校庭の土を抉り爆発四散する。これが強化もされていない人体に当たったなら挽肉になって熱せられてハンバーグのようになることだろう。
(アリスさん…先生すごいな。この威力でほとんど呪力が減っていない。呪力量は僕や五条先生より少ないけどこの分なら五条先生に次いで呪力を持ってるといっても過言じゃないかも)
「というわけでこれから黒閃が出るまで私の人形[上海]相手にひたすらパンチしてもらうわ。獲物があるならそれ使ってもいいわよ」
「無茶だろ」
「すじこ」
「え、えーと、そんな簡単にできるものではないと思うんだけど…?僕も死にかけの極限状態で打てはしたもののそれからだし」
「シャンハーイ」
「別に今日中に打てるように、とは言わないわ。どうせ授業は明日も明々後日もあるんだから。攻撃した後各々の上海がそれを評価して攻撃よりも魔力の衝撃が遅かったら右手で、早かったら左手でパンチするわ。ほら打った打った」
それを皮切りにパンダと棘は拳で、憂太は背中にかけている刀で切りつける。全員遠慮なしに上海に攻撃しているが傷一つつかない。
「シャンハーイ」
「ぐげ」
「…ッ」
「痛っ!くない?」
「殴った力の強さはどの程度誤差があるかを示しているわ。せいぜい強くパンチされないように頑張ってね」
パンダと棘は尻もちつくくらいの力で殴り飛ばし憂太にはデコピン程度にとどめるよう操作する。やっぱり憂太が一番練度が高いようね。上海に傷一つついていない。とは言ったものの流石に素のままだとすぐに破けちゃいそう。魔力を纏わせないといけないわね。
そしてやっぱり私は未熟だ。人形使い、と自称しているけど詐欺もいい所。全ての人形を手足のように意識的に動かさないと風でも吹かない限り上海達は物言わぬ布の塊だ。
とても人形の自立化なんて果たせる気がしない。
この世界で、私はその糸口を見つける事ができるのだろうか。
現在の人形使いの技量について
全ての上海・蓬莱人形をアリスの五感や第六感で操っている。簡単な命令を言って洗濯させる。とかすらも不可能。いちいち洗濯物をもって、洗面所に行って、洗濯機に入れて…としないといけない。
追記:すじこって魚の名前じゃなかったんだ…あと編集の結果が反映されてなかったみたいでところどころ誤字脱字がありました。申し訳ありません