【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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100.怪しい仕事先

 

 宿に戻ったアランたちは、揃って寝台に横になった。

 

「やっぱ岩の上に藁むしろより、ふかふかの寝台だよなあ」

 

 何度も寝台の上で跳ねながらヘンリーが言う。おそらく修道院でもこうした子どもじみた態度を取っていたのだろうなとアランは思った。

 

「なあ、アランよ。お前、本当にあの婆さんの話に乗る気か?」

「うん」

 

 苦笑を浮かべながらうなずいた。ヘンリーの言わんとしていることがよく理解できたからだ。つまり、『騙されてんじゃねえの?』と。

 自分たちの懐具合を見事に言い当てた占いババは、あの後こう話を持ちかけてきた。

 

 ――あたしの知り合いに、ちょっと変わった事業をしている人間がいてね。そいつが腕に覚えのある奴がいたら紹介してくれと言っていたのさ。その点、あんたたちなら問題ないだろ?

 

「怪しいぜ」

 

 ばっさりとヘンリーが言う。

 

「そりゃあ金が稼げるなら願ったりだけどよ。あの婆さんの知り合いだ。どうもまともな仕事とは思えないんだよなあ」

「腕に覚えがある者を集めるってことは、力仕事ってことかな。それとも何かを採取するとか。モンスターの巣に行ってこい、なんて」

「その予想、当たってるかもしれないぞ。第一な、知り合って間もない人間に対して所持金をあっさり見抜いて暴露した上に、儲け話まで持ちかけるなんて、どう考えても普通じゃないぜ」

「ヘンリーが『普通じゃない』って言葉を使うと、何か違和感があるね」

「やかましいわ」

 

 アランは微笑んだ。

 

「でも、あのお婆さんは別に何かを企んでいるようには見えなかったよ。そりゃあかなり変わった人ではあったけどさ。悪い人じゃないんだよ、きっと」

「そりゃあ甘すぎるぜ、と、言いたいところなんだが、お前の眼力は馬鹿にならないからな。アランが悪い人じゃないって言うんなら、きっと本当に悪人じゃないんだろう。けどよ、それとこれとは話が別だぞ。どーすんだよ、とんでもない仕事ふっかけられたら」

「うーん……」

 

 腕を組み、しばらく考える。

 

 ヘンリーの言うことは一理あるが、残金が心もとないのは事実だし、占いババの厚意を無下にするのも気が引ける。

 奴隷時代に身体は鍛えているから、多少無茶な仕事であっても乗り切れるはずとアランは考えた。

 

「とりあえず、一度行ってみようよ。引き受けるか断るかは、そのとき決めよう」

「わかったよ。じゃ、今日はもう寝ようぜ。久々に街を歩いて疲れちまった」

 

 着替えもそこそこに大の字になる。すぐにヘンリーの寝息が聞こえてきた。場所を選ばず熟睡できる特技がここでも発揮されている。

 アランもまた寝具の中に潜り込み、心地良い疲労感に任せて目を閉じた。

 

 

 

 翌日。

 占いババから渡された地図を頼りに二人はオラクルベリーの街を歩いた。

 彼女の見た目に反して、地図はとても丁寧に記されていた。おかげで道に迷うことはなかったが、歩けば歩くほどアランとヘンリーの表情は曇った。

 

「おい。本当に大丈夫なんだろうな」

「う、うーん」

 

 さすがのアランも自信なさげに唸る。

 

 彼らが今歩いているのは、街の裏路地であった。

 道は未舗装で土がむき出しになっている。陽は差さずじめじめしていて、道端には名前もわからない謎の植物が生えている。

 毒の沼地を進んでいるような感覚だ。どうひいき目に見ても怪しい。

 

 苦労して進むことしばらく。ようやくひと心地つけるような場所に出た。

 小さな民家一軒分ほどの空間に、ぽつんと一箇所、地下への階段が設置してある。周囲は建物でほぼ遮られ、薄暗いままだ。

 西側の壁に錆びた鉄の扉があるところを見ると、かつてはきちんとした入り口があったのだろうと思われた。

 

 家も看板もなく、ただ地下階段の入り口が鎮座するだけの光景に、ヘンリーは顔をしかめた。隣に立つ親友を横目で見て、大きくため息をつく。

 

「怪しさしかないが……やっぱ入るんだろな、お前はよ」

「ねえヘンリー、何か感じない?」

 

 アランは言った。ヘンリーが首を傾げる。

 

「単に怪しいってわけじゃなく、か」

「うん。不思議な感じ。モンスターみたいな威圧的なものじゃなくて、もっと大らかな気配って言うのかな。人間にしては変な感じだ」

「人間にしてはって、マジかよ。勘弁してくれ」

「行こう、ヘンリー」

 

 言うなり歩き出すアラン。ヘンリーは天を仰ぎ、彼の後について階段を下りた。

 

 

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