【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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102.モンスター爺さんの野望

 

 アランがためらっていると、肩をつかまれた。

 あの獣がすぐ背後に立っていた。

 

「これ。これ以上客人を驚かせるでない」

 

 モンスター爺さんがたしなめる。すると巨大な獣は爪の先で器用に頭を掻くと、警戒するアランたちの前で身を屈めた。

 直後、その身体が虹色の煙に包まれる。顔を覆ったアランに、何か柔らかいものがまとわりついてきた。

 

「ばぁ。どう、びっくりした?」

 

 耳元で若い女の声が聞こえ、仰天する。煙の中から出てきたのは、妙齢の美女だったのだ。しかもその格好ときたら――。

 

「バ、バニーさんだ」

 

 と、ヘンリーが唸るほど奇抜なものだった。体にぴったりと張り付くレオタードに、髪飾りならぬ『うさぎ耳飾り』を頭に乗っけている。誰がどう見ても、酒場かカジノで目にする『バニーさん』であった。

 

「助手のイナッツじゃよ」

 

 事も無げにモンスター爺さんは言う。オラクル屋が言葉を継いだ。

 

「イナッツちゃんはよ、こう見えて呪文の達人なんだ。さっきのは変化の呪文モシャス。姿形だけじゃなく、相手の能力までも写し取ってしまう呪文さ。大陸中見回しても、これほどの遣い手はイナッツちゃんぐらいしかいねえだろうよ」

「もう、オラクル屋さんてばお上手なんだから」

 

 イナッツが満更でもなさそうに笑う。話の流れについていけなくなったアランとヘンリーは、とにかく唖然とするしかなかった。

 

 イナッツが背後からアランの横顔を覗き込んでくる。いつの間にかモンスター爺さんも間近に歩み寄って、こちらを見上げていた。

 

「センセ。やっぱりこの方、間違いないですわ」

「うむ。そのようじゃ」

 

 意見の一致をみて、ふたりはアランから離れる。イナッツの介抱を受けながらモンスター爺さんは再び椅子に腰掛ける。

 彼は言った。

 

「アランよ。おぬし、昔モンスターと親しくなったことはないか」

 

 いきなり図星を指され、アランは驚愕する。モンスター爺さんはさらに問いかけた。

 

「魔物と相対しているときも、不思議と相手の気持ちがわかる。魔物の意を察し、彼らの優しい心根を感じ取る。そういった経験が、おぬしにはないか」

「なぜ、それを」

「おぬしの目がそう伝えている」

 

 モンスター爺さんは指を突きつけた。

 

「おぬしはこの世に生きる人間の中でも非常に稀有な力の持ち主なのじゃ。お前さんの目、そしてそこに秘められた優しく強い意志は、必ずや魔物の心を開き、彼らを心強い味方として導くであろう」

「おい爺さん。まさかあんた、アランがモンスターを従える力を持つ人間だって言うのか」

「その通り」

 

 アランとヘンリーは顔を見合わせた。困惑顔のアランに対し、ヘンリーは妙に納得した様子だった。

 

「確かに、思い当たることはあるぜ。そうか、それがアランの持つ力だったのか」

「ちょっと、ヘンリー。僕は……」

「なにうろたえてるんだよ。お前なら胸を張って言えるだろ? モンスターの中にも良い奴はいるんだって。友達になれる奴はいるんだって」

 

 そう言われ目を閉じたアランは、やがてはっきりとうなずいた。

 

「うん」

「ほっほっほ。わしが求めていたのは、まさしくおぬしのような人間だったのだよ」

 

 モンスター爺さんは上機嫌に笑い出した。

 

「いや、占いババには大きな貸しができてしまったなあ! これであいつの借金はチャラじゃ!」

「センセ、お金借りているのは私たちの方ですよ」

 

 イナッツが答える。モンスター爺さんは咳払いをした。

 気を取り直したアランはたずねる。

 

「僕にそのような力があるとして、あなたは僕に何をさせるつもりなのですか」

「ふふふ。わしには大きな野望があるのだ。世間には公にできぬことゆえ、このような場所で穴蔵暮らしをしているのだがな。おぬしが協力してくれれば、わしはここにいながらにして野望を達成することができる」

「何だよ、その野望って」

 

 胡散臭そうにヘンリーが聞くと、モンスター爺さんだけでなくイナッツやオラクル屋まで満面の笑みを浮かべ、声を揃えた。

 

『ずばり、モンスターの楽園を造ること!』

 

「な……」

「はあああぁぁぁ!?」

 

 今日何度目かわからない驚愕。だが彼らは本気だった。

 イナッツが部屋の奥を指差す。

 

「あっちに異世界へ繋がる門があるの。普段は鉄格子で封印しているのだけれど。センセはね、そこにモンスターだけの街を造ろうとしているのよ」

「お、おいおいおいっ。爺さん、正気かよ!?」

「もちろん正気だとも。じゃが勘違いするなよ。わしは人間世界に反旗を翻したいわけじゃない。わしの調べで、あの異世界は邪悪なモンスターを一切寄せ付けないことがわかっている。つまり、わしの楽園に住めるのは心を入れ替え、平和に生きていくことを誓った者たちのみ。良きモンスターたちが幸せに暮らせる世界こそ、わしの目指すところなのじゃ」

「何でも、モンスター爺さんがこの道に目覚めたのは、とある古い文献を読んだからだそうだ。その文献を発掘し、彼に売り払ったのが、他でもないこのオラクル屋というわけさ。その縁があって、俺も爺さんに協力しているんだよ。いいじゃねえか、夢があってよ!」

 

 オラクル屋がしみじみと言う。ヘンリーが再び懐疑の目を向けた。

 

「それ、マジで言ってんだろうな?」

「もちろんだとも。魔物の楽園を作り出すのは何もわしが最初ではない。かつては同じような楽園がいくつかあったと文献にはあったぞ。世界を旅したオラクルさんの話でも、そういう遺跡は各地で見つかっているらしい」

「つまり話をまとめるとね」

 

 イナッツが言った。

 

「センセは、あなたに各地のモンスターを改心させ、楽園の一員になるよう導いて欲しいと言っているの。あなたにはそれだけの力がある」

「でも、いったいどうやって」

「なに。別に難しく考えることはない。モンスターと対峙するとき、愛を持って彼らと戦い、勝利すること。それだけじゃ」

「愛……?」

「さよう。そなたの思いをぶつけるのじゃ。さすればおぬしの剣は彼らの邪気を祓い、彼らは良き心を取り戻すだろう。あとは自分から仲間にしてくれと申し出てくるじゃろうて。ただし、そうは言っても元は魔物、彼らは自分より強い者しか尊敬せぬ。ともに歩けるのは、彼らとの戦いに勝った後であろうな」

 

 

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