【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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102.オラクル屋の頼みごと

 

「何かめんどくさそうだな」

「何を言うか。彼らの中には人間など及びもつかない強さを持つ者もいる。彼らが望むならば、心強い仲間として共に旅をすることも可能だろう。もちろん、そういう道を選んでもらっても構わん」

「んな人外の強さを持つ奴にどうやって戦って勝つって言うんだよ。なあ、アラン――アラン?」

 

 怪訝そうに眉をしかめるヘンリーの前で、アランはじっと考え込んでいた。

 

「仲間、か」

 

 ぽつりとつぶやく。脳裏にはいくつもの戦いを共にしたあのキラーパンサーの子と、ラインハットで自分を助けてくれたスライムナイトの姿が浮かんでいた。

 

「どうやら、おぬしの心は決まっているようだな」

 

 アランは顔を上げた。

 

「魔物たちが心を入れ替えることができるのなら、その力が僕にあるのなら、やってみたいと思います。僕の、心がけ次第というわけですよね」

「そうじゃ。見た目に違わずなかなか聡いの。なに、おぬしなら普通に旅をしていても、自然と仲間は増えていくじゃろうて。わしには見えるぞ。おぬしが大勢の魔物たちを引き連れ、堂々と草原を歩く姿がな」

 

 にや、とモンスター爺さんは笑う。どことなく、ヘンリーが悪巧みを考えたときの笑みに似ていた。ヘンリーも同じことを考えたのか、迷惑そうな表情をしている。

 

「さて。それじゃあ私は準備に入るわね」

 

 イナッツが闇の奥に消えた。

 

「準備?」

「おぬしが魔物を従えるにあたって必要なものがここには揃っている。それを用意するようイナッツに頼んでいたのじゃよ」

「そうそう。その品々こそ、このオラクル屋が用立てたもの。世界中のいろんな遺跡からかき集めてきた逸品だよ」

 

 上機嫌に言う二人。

 モンスター爺さんもそうだが、このオラクル屋の男もたいがいだ。

 世界中の遺跡を回ってきたというなら、実は凄まじく強い冒険者なのかもしれないとアランは思った。

 

 オラクル屋が、アランたちの前に立つ。

 

「『あれ』を用意するには少し時間がかかると聞いたからな。お兄さんたちにはその間、別の用事を頼むとしようか」

「別の用事?」

「お兄さんたちにも有益なことだよ」

 

 無意識に警戒するアランとヘンリーの前で、なぜか突然、オラクル屋は笑顔を引っ込めて今にも泣きそうな表情になった。

 

「実はよ、俺の大切な商品のひとつが逃げ出してしまってよ。街の外に出てしまったんだ。そいつを連れ戻して欲しいんだよ」

「商品? 逃げ出す?」

 

 首を傾げる。

 

「生き物なんですか?」

「馬だよ。パトリシアっていう」

 

 オラクル屋は言った。

 何でも、いつものように体を洗っていたら突然暴れ出して、逃げてしまったとのことだ。

 

「あの素晴らしい馬体だ。オラクル屋の店先に飾れば良い宣伝になると思って、大事に大事にしてきたのに」

「う、馬は看板じゃありませんよ」

「そりゃ逃げ出しもするわなぁ……」

 

 アランが抗議し、ヘンリーがぼやく。しかしオラクル屋はまったく気にした様子がなかった。

 

「軒先に飾るのが駄目なら、別の手で宣伝してもらわないといけねえ。ってことで、世界を行脚させてオラクル屋の名前を広めてやろうって考えたわけだ。たった今」

「た、たった今、ですか。いや、まあいいですが」

「おいオラクル屋さんよ。もしかしてと思うが、その役」

「おうよ。無事、パトリシアを見つけた暁には、あいつをお兄さんたちに譲ろう! その代わりと言っちゃあ何だが、世界を旅がてらオラクル屋の名前を宣伝してくれるとありがたい。『そこの馬、立派ですね。どこの馬ですか?』『オラクル屋です』ってな! どうよコレ、いい考えだろ? 期待してるぜ二人とも。がっはっは!」

 

 性格なのだろう。オラクル屋の表情はころころと変わる。これ以上ここに居てもまともな会話ができそうにないことを悟った二人は、諦めて彼らの要求を呑むことにした。

 

 

 

 草原の風は、相変わらず爽やかだった。上空は雲ひとつない青空である。

 

「やっぱ外の世界はいいなぁ」

「声に張りがないよ、ヘンリー」

 

 かく言うアランも一気に疲れが吹き出したようにぐったりとしていた。

 

 オラクルベリーを出た二人は、その足を西に向けていた。オラクル屋の話では、パトリシアという馬は西の方向に走っていったらしい。

 なぜ自分で捕まえにいかないのかと尋ねると、

 

『彼は凶暴だからねえ。機嫌が悪くて暴れると手が付けられないんだわ、ってことにしといてくれ』

 

 という実に適当な答えが返ってきた。その時の会話を思い出すだけでもため息が出る。

 

「なあ、こういう状況になってもまだお前、あの爺さんたちの話に乗っかるつもりか?」

 

 ヘンリーが言った。少し表情を引き締めて、応える。

 

「あの人たちの言葉に嘘はないと思う」

「けどよぉ」

「僕たちのやることは、そう変わりはしないさ。ただ、これまでより僕は真剣に魔物たちとぶつかろうと思ってる。モンスター爺さんの言う通り、もし魔物たちが応えてくれる時が来れば、それはとても素晴らしいことだと思うんだ」

「お前らしいぜ」

「ごめんねヘンリー。成り行きとは言え、妙なことに付き合わせてしまって」

「構わねえさ。爺さん云々より、お前が真剣に『こうしよう』って決めたことなら、俺に文句はないよ」

 

 ヘンリーは笑った。

 

 そのときだ。遠くから馬の(いなな)きが聞こえてきた。

 

 

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