【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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105.帰りを待つ騒がしい人たち

 

「はぁ~ぁ……」

 

 遠慮のないヘンリーの声と視線がアランに突き刺さる。

 

「はぁ~ぁ、ほぉ~ぉ、へぇ~」

「もう、何だよさっきから。気になるじゃないか」

「仕方ないだろ、他に何て言ったらいいのかわかんないんだから」

「ピキィ、わかんない?」

 

 アランの肩に乗ったスラリンが器用に跳ねながら言う。どうやら意味を理解してのことではなく、単にヘンリーの声を真似ただけのようだ。モンスターに性格があるのかどうかわからないが、とにかくスラリンは明るく声を出し続けていた。

 

「そいつ、スラリンだっけ。ついさっきまでパトリシアやお前を襲ってた奴なんだろ。どうしてこうも簡単に懐くかねえ」

「それは。僕にもよくわからないよ。言葉で説明できない」

 

 だろうなあ、とヘンリーは言う。後ろから規則正しい足音を響かせついてくる純白の馬を見やって、彼はぼやいた。

 

「パトリシアもすっかり大人しくなっちまったし。こう見せつけられると、何だか肩身が狭くなってくる気分だぜ」

「そんな、ヘンリー」

「ああ、悪い悪い。別にお前を妬んでるってわけじゃねえぜ」

 

 スラリンの頬をつつきながら、彼は言う。

 

「俺は思うんだけどよ。この十年、俺もお前もずっと苦労してきたじゃんか。他に友達らしい友達はいなかったし、遊びもなかった。辛い思いもたくさんした。それってのはひとえにこの時のためだったんじゃないかってな。広い世界で、たくさんの仲間に囲まれる時までの、なんつーか、神様が課した準備期間って言うかよ」

「それを言ったらヘンリー。君だって」

「ま、俺の場合はしばらく風来坊を続けるさ。お前にくっついてな。今はそうしたいんだよ。ラインハットに帰るかどうかは……もう少し考えてからにする」

 

 アランの心配げな顔にヘンリーは苦笑した。

 

「マリアを迎えに行くって言った手前、いつまでも故郷から逃げるわけにはいかない。とはいえ、国はデールの奴がうまく治めているだろうし、今すぐに俺が戻らなきゃいけないってこともないだろ。つーことで、俺は十年ぶりの自由を謳歌するつもりだぜ」

「マリアに言いつけるよ?」

「アランよ。お前って時々凄まじく意地が悪いな」

「いじがわるい? いじがわるい? ヘンリー」

「俺じゃねえ。お前の主人だ」

「アラン、アラン」

 

 とりあえず、アランとヘンリーの顔と名前は覚えてくれたようだ。無邪気なスラリンの態度に頬を膨らませる親友。アランは気軽な笑みを浮かべた。

 オラクルベリーの街が見えてきた頃には、すでに陽は暮れようとしていた。

 

 

 

「おお、よく戻ってきた。お兄さんたち」

 

 街に戻ると、モンスター爺さんの家に続く路地の入り口でオラクル屋が待っていた。妙に溌剌とした様子である。

 

「パトリシアもお帰り。っと、もう主人は決まっているんだっけか。うんうん。やっぱり俺の見込んだ通りだ。あの暴れ馬をこうも簡単に手懐けるとは」

 

 不機嫌そうにパトリシアは息を吐いた。どうやら本当にオラクル屋のことが気にくわないらしい。

 

「約束通り、この馬は兄さんたちのものだ。大事にしておくれ。おっと、それから。これから旅をしていくのなら、馬だけあっても心もとないだろ。すぐに荷車を用意するから、ここで待っていておくれ。幌付きに立派な奴だよ」

「荷車って、パトリシアに()かせるんですか?」

「そうさ。俺は兄さんたちが気に入ったから特別サービスだ!」

「そんな、いくら何でも――」

「三百ゴールドでご奉仕するよ! じゃ、ちょっと待ってな!」

「……タダじゃねえのかよ」

 

 憮然とするヘンリーのつぶやきなどどこ吹く風、オラクル屋は嫌がるパトリシアを連れてどこかへと歩き去っていった。

 アランはそっと、金袋を確認する。

 

「どうだ、アラン?」

「ぎりぎり」

「やれやれ……」

 

 そろってため息をつく。

 

 やがて助手のイナッツに支えられ、モンスター爺さんも路地から出てきた。日も暮れ、辺りは薄暗くなっていたが、彼は眩しそうに手でひさしを作った。

 

「ふぃー、しばらくぶりの外は眩しいわい」

「センセ、もう日は暮れていますよ。これはカジノの灯りですわ」

「どちらにしろ眩しいことには変わりないじゃろうて」

 

 彼らの会話を聞きながら、いったいモンスター爺さんはどうやって生活してきたのだろうとアランは疑問に思った。

 

「お……おおっ!?」

 

 アランの肩に目を留めたモンスター爺さんは、歓喜の声を上げた。暢気に欠伸をするスラリンを指差す。

 

「おぬし、さっそくモンスターを仲間にすることに成功したのじゃな! ほっほっほ、これはいい。素質はあると踏んでいたが、まさかこれほどとは嬉しい誤算じゃ」

「でも、体が勝手に反応したと言うか、うまく言葉にできないので、次も成功するかどうかは」

「なに、気にしなくていい。優れたモンスター使いとはそういうものだと、エルヘブンの書にも書いてある。おぬしは己の感じるまま、モンスターと接していけばええ」

「エルヘブン?」

「この地に太古の昔から存在しているとされる伝説の民とその集落を差す言葉じゃ。彼らもまた、モンスターと心を通わせる不思議な力を持っていたという。おぬしのような目の持ち主がモンスター使いに相応しいということも、その書に記してあったことなのじゃよ」

 

 エルヘブン、とアランは口の中でその言葉を繰り返した。

 

 

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