【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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112.サンタローズ洞窟の水路先

 

 ひんやりとした空気が、櫂を動かす体に心地良く触れる。ヘンリーとふたり、息の合った櫂さばきで水路を進む。

 

「ここがサンタローズの洞窟か。お前が最初にひとりで冒険したとこ、だっけ」

「うん。あのときは整備された鉱路を歩いたから、今みたいに水路を進むのは初めてだけど」

「そうか」

 

 それきり会話が続かない。

 筏と言えば、十年前の地下神殿を思い出してしまうためか、二人ともいつもより口数は少なめだった。

 

「ひえひえー」

「うるさいわ」

 

 スラリンとブラウンの二人は相変わらずだった。彼らは筏の前に座り、もの珍しげに周囲を見回していた。ともすれば転げ落ちそうになるスラリンを、ブラウンは乱暴な手つきながら支えている。

 

 やがて筏は、水路の真ん中に浮かぶ小島に辿り着いた。水路はそこから先細っていて、とても筏を漕いで進めそうになかった。

 小島には筏を横付けできるように係留用の杭が打ち込んであった。おそらくパパスもこれを利用したのだろう。

 

「頭、階段がある」

 

 まっさきに降りたブラウンがそう報告する。確かに、小島の真ん中には下におりる階段が造られていた。螺旋状に岩が削られているところを見ると、自然にできあがったものではないことがわかる。

 

 冷たい空気に乗って、微かにモンスターの気配がする。アランたちは武器を構え、慎重に階段を下りていった。次第に光は消えていき、足元すら覚束ない暗闇に包まれていく。

 

「ヘンリー。松明をお願い」

「おう」

 

 道具袋から簡易松明を取り出し、ヘンリーはそれに火を点けた。火打ち石も持っていたはずだが、彼は素早く呪文を唱えて掌に火の玉を作り出す。松明の先端に火を移し、彼は手に持った。

 アランは嘆息する。

 

「もう。火を熾すのにできるだけ呪文は使わないでって言ったじゃないか。いざというとき精神力が尽きていたら困るんだから」

「いいじゃねえか。暢気にカチカチやってるのは性に合わないんだよ。せっかく俺にも呪文が使えるようになったんだ。少しは練習させてくれよ」

 

 悪びれた様子がない。

 ヘンリーには魔法使いの才があり、修道院を出発してから研鑽を重ねた結果、今ではメラだけでなく爆発呪文イオまで使えるようになっている。

 初めて呪文を披露したときの喜びようは今でも思い出せる。アランは、自分もかつては同様だったことを思い出し、それ以上の説教を諦めだ。

 

 微かに粉塵の舞う洞窟内を歩く。松明の光に照らされて壁面の様子が露わになった。

 

「おい、壁に木がはめられてるぞ。あれ松明用のやつじゃないのか。あ、あっちにも」

 

 ヘンリーが言う。彼の言葉通り、垂直に整えられた壁には等間隔に松明の芯が据えられていた。明らかに照明用だ。

 

「こんな場所、何に使うんだろうな」

「わからない。けど父さんがこの洞窟を見つけて、何かの保管場所にしようとしたことは確かなんだ」

「アラン、アラン!」

 

 スラリンが飛び跳ねながらしきりに声を出す。かなり慌てている様子だった。

 

「なにかいるよ!」

「頭、敵」

 

 ブラウンもまた木槌を構える。

 

 通路の奥からゆったりとこちらに歩いてくる足音が聞こえてきた。その音はやけに重い。

 通路から姿を現したのは、巨大な亀のモンスターだった。太い四肢で地面を踏みしめ、龍の頭のような顔をこちらに向けている。――『ガメゴン』だ。

 牙を剥き出しにして威嚇するガメゴンに、アランはチェーンクロスを構えた。ヘンリーもまたくさりがまを持ちながら、軽口を叩く。

 

「奴も愛を持って戦うってか」

「真剣に戦うんだよ。スラリン。ヘンリーから松明を受け取って。この辺りの壁にある松明に火を点けるんだ。わかるね」

「ひをつける、ひをつける!」

 

 嬉しそうに繰り返すと、スラリンはヘンリーの手から松明を受取り、それをくわえて壁に走る。跳躍力があるスラリンによって、ひとつ、またひとつと通路に灯りが灯っていく。

 

「むーっ、むーっ!」

「頑張れスラリン、その調子だぞ」

 

 仲間を励ましながら、アランは眼前でチェーンクロスを張った。がしぃん、と鎖が鳴る。それを挑発と見たガメゴンが、地面を揺らしながら走ってきた。

 

「行くよ、ヘンリー。ブラウン」

「おおよ。任せとけ」

「お仕事」

 

 各々の得物を手に、三人はガメゴンに向けて一斉に飛びかかった。

 

 

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