【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
振り返る。舞い上がった粉塵に遮られ、モンスターらしき姿はない。
だが気配を敏感に捉えたアランが素早く松明を掲げると、闇を切り取った光が立ち止まったモンスターを浮かび上がらせる。
「キュキュルル!?」
戸惑ったような甲高い声。体はとても小さく、両手で抱えられるくらいしかない。特徴的な顔付きと銀色に輝く身体――。
「って、あれ『メタルスライム』じゃないか!」
ヘンリーが叫ぶ。興奮した様子だった。
「こりゃ珍しいモンスターだ。こんなところにいたんだなあ」
「色は違うけど、姿形はスライムと変わらないみたいだけど」
「知らねえのか。メタルスライムはな、倒した者に大きな力を与えるって信じられているんだよ。滅多に逢えないモンスターだ。倒せば縁起が良いんだろうぜ、きっと。よしアラン、奴が戸惑っているうちに仕留めちまおう!」
「頭!」
ほくそ笑むヘンリーの隣で、ブラウンが警告の声を上げた。
メタルスライムの姿は松明の光から逃れてしまっている。
「ピキィーッ!?」
スラリンの悲鳴。チェーンクロスを構え振り返ったアランは呻いた。
一瞬でアランたちを抜き去ったメタルスライムが、スラリンに襲いかかっていたのだ。
同じくらいの大きさにも拘わらず、メタルスライムは大口を開けてスラリンを頭からかじっている。
スラリンは涙目で叫んだ。
「いたいいたいいたいよー!」
「スラリン、待ってろ。今助ける!」
チェーンクロスを振るう。わざと狙いを外した威嚇の一撃が地面を抉った。メタルスライムの動きが止まり、こちらを睨む。
アランが近づいてくるとわかるなり、メタルスライムはスラリンから離れた。そのまま凄まじい速さで走り、瞬く間にチェーンクロスが届かない間合いに逃げる。
すんすん、とすすり泣くスラリンを抱えてホイミをかけながら、アランは呆然とつぶやいた。
「凄い。何て速さだ」
「ま、この頭抜けた素早さが奴らメタル属の真骨頂なんだろうがよ。ますます仕留めてみたくなったぜ。アラン、奴は俺に任せてくれ」
ヘンリーはくさりがまを構えるなり、ひとりメタルスライムに突進する。猪突猛進さというか、後先考えない無鉄砲さは子どもの頃から変わっていなかった。
「うっ、うっ」
「スラリン、大丈夫かい」
頭の部分にうっすらと歯形が残っている。大きな目に涙を浮かべるスラリンを、ブラウンは容赦なくおおきづちで小突いた。
「いたい!? ブラウンいたい!?」
「うるさいわ」
「待つんだブラウン。さっきのはひどくないかい?」
「頭、よく見て。べつにそこまでいたくない」
「え?」
ブラウンに諭され、もう一度スラリンの体を見る。ホイミをかけたためか、歯形はすぐに目立たなくなった。本人も泣いてはいるが、一応元気だ。
「遊ばれただけ」
と、ブラウン。すでに戦闘態勢を解いた彼女は自分の得物でヘンリーたちを指す。
「あっちも。あの『メス』はひさびさの人間に興奮して、うわー、ってなってるだけ」
ブラウンが冷静に指摘した通り、メタルスライムはヘンリーの周りを高速で動きながら挑発を繰り返していた。ヘンリーの方は何度か斬撃を当てたようだが、その何倍も空振りをさせられ、すでに肩で息をしていた。奴隷時代を生き抜き、体力にはそれなりの自信があるにも関わらず、である。
「くそーっ! いい加減倒れろよっ! この銀ぎら野郎!」
「キュルルルッ!」
ヘンリーの言葉に激昂したのか、メタルスライムの動きが激しさを増す。素早さだけでなく防御力も耐性もずば抜けて高い種族だ。単なる体当たりだけでも相当なダメージとなる。
援護に行かなければと思ったアランの胸の中で、ふとスラリンが一声鳴いた。今までと少し違い、怒ったような声音である。
――実際、彼は怒っていた。
同じスライム属にいいように弄ばれて、天真爛漫な彼も腹に据えかねたらしい。泣き止んだスラリンはアランの胸から飛び降りると、そのままメタルスライムに突進していった。
「もうおこったよ! みんなをばかにするな!」
「待て、スラリン!」
アランの制止を振り切りスラリンが走る。メタルスライムには及ばないものの、その足は意外に速い。
スラリンの姿に気づき、こちらを振り返ったメタルスライムが口をすぼめた。まるで龍が火を吐く間際のように息を吸い込む。
「――、メラ!」
「呪文!?」
驚愕するアランの前で、メタルスライムの口から小さな火の玉が飛び出す。狙いはスラリンだ。
慌ててスラリンの前に回り込み、かばう。目前に迫ってくる火の玉を睨みつけた。気合一発、自らの拳でメラの呪文を叩き落とす。
アランは歯を食いしばる。
皮膚が焼ける音が微かに耳に届く。
チェーンクロスの柄を握る。驚いたように目を見開くメタルスライムに向け、アランは吼えた。
「はあああぁぁぁっ!」
渾身の力で放った一撃は矢のように空気を切り裂き、メタルスライムの硬い体を弾き飛ばした。