【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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114.珍しいモンスター

 

 振り返る。舞い上がった粉塵に遮られ、モンスターらしき姿はない。

 だが気配を敏感に捉えたアランが素早く松明を掲げると、闇を切り取った光が立ち止まったモンスターを浮かび上がらせる。

 

「キュキュルル!?」

 

 戸惑ったような甲高い声。体はとても小さく、両手で抱えられるくらいしかない。特徴的な顔付きと銀色に輝く身体――。

 

「って、あれ『メタルスライム』じゃないか!」

 

 ヘンリーが叫ぶ。興奮した様子だった。

 

「こりゃ珍しいモンスターだ。こんなところにいたんだなあ」

「色は違うけど、姿形はスライムと変わらないみたいだけど」

「知らねえのか。メタルスライムはな、倒した者に大きな力を与えるって信じられているんだよ。滅多に逢えないモンスターだ。倒せば縁起が良いんだろうぜ、きっと。よしアラン、奴が戸惑っているうちに仕留めちまおう!」

「頭!」

 

 ほくそ笑むヘンリーの隣で、ブラウンが警告の声を上げた。

 メタルスライムの姿は松明の光から逃れてしまっている。

 

「ピキィーッ!?」

 

 スラリンの悲鳴。チェーンクロスを構え振り返ったアランは呻いた。

 一瞬でアランたちを抜き去ったメタルスライムが、スラリンに襲いかかっていたのだ。

 同じくらいの大きさにも拘わらず、メタルスライムは大口を開けてスラリンを頭からかじっている。

 スラリンは涙目で叫んだ。

 

「いたいいたいいたいよー!」

「スラリン、待ってろ。今助ける!」

 

 チェーンクロスを振るう。わざと狙いを外した威嚇の一撃が地面を抉った。メタルスライムの動きが止まり、こちらを睨む。

 

 アランが近づいてくるとわかるなり、メタルスライムはスラリンから離れた。そのまま凄まじい速さで走り、瞬く間にチェーンクロスが届かない間合いに逃げる。

 すんすん、とすすり泣くスラリンを抱えてホイミをかけながら、アランは呆然とつぶやいた。

 

「凄い。何て速さだ」

「ま、この頭抜けた素早さが奴らメタル属の真骨頂なんだろうがよ。ますます仕留めてみたくなったぜ。アラン、奴は俺に任せてくれ」

 

 ヘンリーはくさりがまを構えるなり、ひとりメタルスライムに突進する。猪突猛進さというか、後先考えない無鉄砲さは子どもの頃から変わっていなかった。

 

「うっ、うっ」

「スラリン、大丈夫かい」

 

 頭の部分にうっすらと歯形が残っている。大きな目に涙を浮かべるスラリンを、ブラウンは容赦なくおおきづちで小突いた。

 

「いたい!? ブラウンいたい!?」

「うるさいわ」

「待つんだブラウン。さっきのはひどくないかい?」

「頭、よく見て。べつにそこまでいたくない」

「え?」

 

 ブラウンに諭され、もう一度スラリンの体を見る。ホイミをかけたためか、歯形はすぐに目立たなくなった。本人も泣いてはいるが、一応元気だ。

 

「遊ばれただけ」

 

 と、ブラウン。すでに戦闘態勢を解いた彼女は自分の得物でヘンリーたちを指す。

 

「あっちも。あの『メス』はひさびさの人間に興奮して、うわー、ってなってるだけ」

 

 ブラウンが冷静に指摘した通り、メタルスライムはヘンリーの周りを高速で動きながら挑発を繰り返していた。ヘンリーの方は何度か斬撃を当てたようだが、その何倍も空振りをさせられ、すでに肩で息をしていた。奴隷時代を生き抜き、体力にはそれなりの自信があるにも関わらず、である。

 

「くそーっ! いい加減倒れろよっ! この銀ぎら野郎!」

「キュルルルッ!」

 

 ヘンリーの言葉に激昂したのか、メタルスライムの動きが激しさを増す。素早さだけでなく防御力も耐性もずば抜けて高い種族だ。単なる体当たりだけでも相当なダメージとなる。

 

 援護に行かなければと思ったアランの胸の中で、ふとスラリンが一声鳴いた。今までと少し違い、怒ったような声音である。

 ――実際、彼は怒っていた。

 同じスライム属にいいように弄ばれて、天真爛漫な彼も腹に据えかねたらしい。泣き止んだスラリンはアランの胸から飛び降りると、そのままメタルスライムに突進していった。

 

「もうおこったよ! みんなをばかにするな!」

「待て、スラリン!」

 

 アランの制止を振り切りスラリンが走る。メタルスライムには及ばないものの、その足は意外に速い。

 

 スラリンの姿に気づき、こちらを振り返ったメタルスライムが口をすぼめた。まるで龍が火を吐く間際のように息を吸い込む。

 

「――、メラ!」

「呪文!?」

 

 驚愕するアランの前で、メタルスライムの口から小さな火の玉が飛び出す。狙いはスラリンだ。

 慌ててスラリンの前に回り込み、かばう。目前に迫ってくる火の玉を睨みつけた。気合一発、自らの拳でメラの呪文を叩き落とす。

 アランは歯を食いしばる。

 皮膚が焼ける音が微かに耳に届く。

 

 チェーンクロスの柄を握る。驚いたように目を見開くメタルスライムに向け、アランは吼えた。

 

「はあああぁぁぁっ!」

 

 渾身の力で放った一撃は矢のように空気を切り裂き、メタルスライムの硬い体を弾き飛ばした。

 

 

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