【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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115.メタルスライムの空騒ぎ

 

 洞窟の壁面にせり出した岩にぶつかり、さらに地面で数回跳ねて、メタルスライムは動かなくなった。戦闘姿勢を維持したまま、ヘンリーが忍び足で近づく。モンスターの体表をさらりと撫でた。

 

「倒したか。くっそー、またアランに先を越された。俺ってばこの洞窟に入って良いとこないじゃん」

「ヘンリー。別に競争してるわけじゃないんだからさ」

「わあってるって。おいスラリン。ずいぶんこいつに痛い目に遭わされたみたいだが、大丈夫かよ」

「ぷんぷん!」

 

 頬(に当たる部分)を膨らませ、まだスラリンはご立腹だった。ブラウンが落ち着いて代弁する。

 

「まったく平気」

「そか。そりゃ良かった。で? 相変わらず無茶してくれた相棒はどうよ。素手で呪文を叩き落とすなんて初めて見たぞ」

「無我夢中だったからね。身体が勝手に動いたんだ」

 

 ぶらぶらと手を振りながらアランは苦笑する。痛みは残るが、我慢できないほどではない。回復呪文は他の仲間のために温存するつもりだった。ヘンリーは肩をすくめた。

 

「ぷんぷん、ぷんぷん!」

 

 まだスラリンは怒っている。落ち着かせるために抱き上げようとしたとき、突然、がばりとメタルスライムが起き上がった。ひどく悔しそうに跳び跳ね始める。

 

「キュルキュル、キュキューッ!」

「なんだよう! そんなこといわないでよっ!」

 

 スラリンもまたアランの掌の上で飛び跳ねる。どうやら口論を始めたようだ。

 

「キュキューッ、キュルル!」

「きみだって、ずっとぼくたちをバカにしてたじゃないか! アランはアランだよ!」

「キュルルル、ルルルッ!」

「もうっ、そんなことないってば! もーっ!」

「……まるで子どもの喧嘩だな。何話しているのかさっぱりだが」

 

 ぽつりと親友がつぶやくのを聞き、アランは苦笑した。

 

 と、メタルスライムが地団駄を踏むように大きく飛び跳ねた。そのまま脱兎の如く駆け出す。

 その先は、あの沼地だ。

 

「あっ、だめだよそこは!」

 

 真っ先に警告の声を上げたのは――意外にもスラリンであった。

 だがメタルスライムは聞く耳を持たない。癇癪を起こして前が見えていないのか、はたまた自分の力があれば沼地ぐらい問題にならないと考えているのか、とにかく速度を一切落とさず沼地に突っ込む。

 水しぶきが派手に舞い上がった。

 

「だめだよ! そんなことしたって!」

 

 スラリンが叫び、アランの手から飛び降りる。止める暇もあればこそ、彼はメタルスライムの後を追いかけた。

 

「つまらない意地の張り合い」

 

 ブラウンが彼らの会話を端的に翻訳する。

 

「自分の力を見せてやるから、そこにいろって。スラリンに」

「とにかく追いかけよう。このままではあのメタルスライムだけじゃなくて、スラリンまで沼に落ちてしまう」

 

 そう言ってアランは沼の様子を見た。忙しなく水を跳ね上げ、メタルスライムが遮二無二暴れていた。それは力を鼓舞するというよりむしろ、押し寄せる泥土を必死に振り払おうとしているように見えた。

 だがメタルスライムの体はどんどん泥に埋まっていく。ついには甲高い悲鳴まで聞こえてきた。

 

 スラリンが沼のほとりに辿り着いた。彼が何をしようとしているのかを察したアランは叫んだ。

 

「スラリン、止せ!」

 

 だが制止を聞かず、スラリンは跳躍した。メタルスライムのそばへ着水する。

 すぐに彼の体も沼に引きずり込まれていく。中心に進めば進むほど、沼は深く、粘度を増していた。それでもスラリンはメタルスライムの体を少しでも水面に出そうと奮闘する。

 

 チェーンクロスを構えかけて、アランは迷った。確かに彼らの元には届くが、この強力な武器は彼らをもろとも切り裂いてしまうかもしれなかった。

 逡巡を見せたアランの背をヘンリーが乱暴に叩く。

 

「しっかりしろ、まだ助け出せる」

「何か手があるのか」

「少々荒っぽいがな」

 

 手短に手段を聞く。その内容に驚いた。が、確かにその手は使えると思った。

 

 アランとヘンリー、二人同時に呪文の詠唱に入る。

 ヘンリーが力を解放した。

 

「――、派手にかますぜ! イオ!」

 

 爆発呪文。

 ヘンリーが狙ったのはスラリンたちの周辺にある沼。水面からごく浅い箇所が、次の瞬間大きな音を立てて爆散した。

 

「ピィィィーッ!?」

「キュルルーッ!?」

 

 小柄な二匹は仲良く悲鳴を上げながら、爆風で空中に浮き上がった。アランは慎重に呪文を唱えた。

 

「――、最小威力で……バギ!」

 

 風刃呪文。だが威力は極力抑える。木枯らしのような風がスラリンたちの周囲を包み、そのままアランたちの所へ押し流す。二匹はブラウンによって受け止められた。

 

「おい。大丈夫か、お前ら」

 

 ぐったりした二匹にヘンリーが声を掛ける。するとすぐにスラリンたちは起き上がった。

 

「う、う……こわかった」

 

 半泣きになるスラリンを横目に、メタルスライムがどことなく澄ました顔で鳴く。

 

「キュル、キュルル」

「なんだよぅ。じぶんだってひめいあげてたじゃないか」

 

 がっぷり。

 そんな音が聞こえてきそうなほど、容赦なくスラリンに噛み付いた。「いたいよー」と叫び始めるスラリン。ブラウンが引っこ抜こうとするが、まったく離そうとしない。

 

 ヘンリーがくさりがまを構える。

 

「ったく。懲りない奴だな、命の恩人に向かって。もう一度、今度は完膚無きまでにたたっ斬って――」

「待って」

 

 アランが制する。彼はじっとスラリンたちの様子を眺めていた。

 

「もう少し、このままでいよう」

「はあ!? いいのかよ、この有様だぜ」

「だいじょうぶ。もうこの子に敵意はないよ」

 

 微笑んでみせる。ブラウンもまた、興味なさそうに木槌をいじる作業をしていた。

 

 右往左往するスラリンの後頭部にぴったりとくっついている(噛み付いている)メタルスライムに、アランは言った。

 

「スラリンと一緒にいたいなら、どうだい。僕たちと一緒に来ないかい」

 

 メタルスライムが横目でこちらを見る。アランは手を差し出して、ゆっくりとその頭を撫でた。

 

「そうだね、君の名前は……メタリン、でどうだい」

 

 鋼色のスライムはこちらを見るだけで反応しない。さりとて逃げ出す気配もなかった。

 アランはやんわりと微笑んだ。

 

「よろしくね、メタリン」

 

 返事の代わりに、彼女はもごもごと口を動かす。その下でスラリンが言った。

 

「いたいってばー!」

 

 

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