【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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117.隠された部屋

 

 落盤によってできた道をアランたちは慎重に歩いた。

 通ることができるようになったとは言え、あくまで沼の上に土が被さっただけの状態だ。足場を確かめながら進まないとすぐに足を持って行かれる。

 アランとヘンリーを除けばみな体重の軽い者たちばかりなのが幸いして、ほどなくして対岸へと渡ることに成功した。

 

 洞窟は、さらに奥へと続く。

 途中、何度かモンスターの群れに遭遇したが、アランのチェーンクロスとヘンリーのくさりがま、ブラウンの槌、そして何より、新しく加わったメタリンの素早い攻撃により、難なく退けた。

 

 何度目かの戦闘を終え、入り組んだ洞窟をひたすら歩いていたときである。

 

「あんたってほんとにのんびり屋ね」

 

 メタリンがスラリン相手に呆れたように言う。

 まだ力のないスラリンは、皆のお手伝いといった役回りだ。本人がさほどそのことを気にしていないどころか、むしろ皆の手伝いができて嬉しいと思っているところがメタリンは気に入らないらしい。

 

「もうちょっと前へ出ようとか、とっちめてやろうとか、そういうことを考えたりはしないの?」

「ぼくはアランやみんなの手伝いができればいいもん。まだ戦いにはじしんがないし」

「はあ。同じスライム属として嘆かわしいわ。あんた、やればもうちょっとできるはずなのに。よし、決めた」

 

 メタリンは飛び跳ねた。

 

「これからしばらく、私があんたの先生よ。戦いについて、いろいろ教えてあげる」

「いいよ、むりしなくても」

「無理ってなによ!?」

「だって、メタリンだってあんまり戦いのけいけんないでしょ? いつもましょうめんから突っこんでるだけで」

「う」

 

 図星を指されたメタリンが黙る。ううう、と唸った後、彼女は例によってスラリンを追い回し始めた。ここまでくるとスラリンも慣れたもので、わーきゃー言いながら逃げ回る。

 戯れるスライム二匹を見ていた人間たちは、それぞれ苦笑を浮かべた。

 

「まさにデコボココンビだな」

「うん」

「ちょっとソコ。何ニヤニヤしてるのよ!」

「メタリン、気にしないで遊んでていいよ。遠くに行かなければ、僕とブラウンで敵の気配はわかるから」

「あ、遊んで、ってそんなんじゃないって! えっとほら、スラリンの奴にもっと早く走るにはどうすればいいかを体で教えてあげてるだけなのよ」

「でも、ほんとにメタリンははやいね。すごいや」

 

 軽く息を上げながらスラリンが褒める。こういう素直なところはメタリンも認めているようだ。「もう」と諦めたように彼女はため息をついた。

 

 そのとき、メタリンは何かを思い出してアランに言った。

 

「そういえばアラン。あんたはここに捜し物に来たのよね」

「そうだよ」

「それだったら、この先にそれっぽいところがあるんだけど。隠れ家っていうか、ずぅっと昔に人間がよく通ってたっていう場所よ。ここのモンスターが、今でもあそこにだけは近づきたくないってぼやいてたから、よく覚えてるの」

「本当かい」

 

 身を乗り出すアランの横で、ヘンリーが肩をすくめた。

 

「そういうことはもっと早くに言ってくれよ」

「聞かれなかったもん」

 

 メタリンが口を尖らせる。

 

 彼女の案内でさらに洞窟の奥を進む。蟻の巣のように細い道が分岐しているところを右に行き左に行き、そうしてやがて比較的広い通路まで出たとき、正面に大きな岩が見えてきた。

 

「あれよ。あの岩の中が空洞になっていて、昔、外の人間が出入りしてたんだって。でもおかしいわね。前に来たときは気持ち悪くて全然近づけなかったのに。スラリン、あんたはどう?」

「ぼくもぜんぜん、へいき」

 

 スラリンが顔を振る。

 

「何かの結界でも張られているのか? 邪心を払ったモンスターには効果がないみたいな、そんな代物なのかね。おいアラン、お前はどう思うよ」

「……え?」

「え、じゃない。どうした、ぼーっとして。そりゃあパパス殿の遺した物ってのが気になるのはわかるけど」

「いや、それもあるんだけど。何か、感じない? こう、暖かいような、鳥肌が立つような、すごい気配」

「いや。俺は別に」

「そう……」

 

 視線を落とすアランにブラウンが近づいた。

 

「行けばわかる。頭」

「そだな。とにかくこの目で見てみないことには、気配だけじゃお前も何なのかわからないだろ」

 

 アランはうなずき、皆を引き連れて岩の外周を歩く。

 

 入り口は岩を回り込んだ反対側にぽっかりと開けられていた。少し奥まったところには扉まで設置されている。近づいて調べると、古びた錠がかかっていた。アランは久方ぶりに盗賊の技法を使い、解錠する。

 

「やっぱり便利だよな、それ」

 

 ヘンリーが感心するが、アランは無反応だった。心臓がわずかに早く、そして激しく鼓動し始める。

 

 なんだろう。この感じ。何かとても大切な物が、この先にあるような気がする……。

 

 アランはゆっくりと扉を開けた。

 

 

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