【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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119.受け継がれる意志

 

 岩部屋を出たアランは、仲間たちに語った。

 

「子どもの頃、よく父さんがこの洞窟に入っていた。何をしているのかずっと教えてもらえなかったけれど、ここで伝説の勇者や天空の装備について調べていたんだね」

 

 天空の剣を手に入れた後、他にも何か情報がないかと部屋を探してみたが、本棚の書籍類は朽ちかけていて中身は読めなかったし、そもそも室内に必要なもの以外は置かれていなかっため、収穫はなかった。

 しかしアランにとってみれば、パパスが何を行い、何を目指していたのかがわかっただけで十分だった。

 

「つくづく、お前の親父さんは凄いよな」

「え?」

「だってよ。愛する妻を救うために伝説の勇者を捜すなんて、そうそうできることじゃないぜ。この剣だって、世界中探してようやく見つけたんだろ。あの人の凄さは十分わかってたつもりだが、やっぱり気になるぜ。旅をする前はどこで何をなさっていたんだろう」

「僕は物心ついたときからずっと旅をしていたから、何とも。父さんも過去のことはあまり話したがらなかったし」

「まあ、こういう事情なら仕方ないよなぁ。ふう……」

 

 妙に気落ちしている様子の親友に、アランは眉をひそめた。

 

「どうしたの?」

「ん? いや、何でもねえ。気にしないでくれ」

「アランが聞いてるのよ。黙りはよくないんじゃないの」

 

 メタリンが横から口を出してくる。すかさず小さな手が伸び、彼女を押さえつけた。

 

「少し黙ること」

「いたいいたい! 姐さん痛い!」

 

 相変わらずの仲間たちに微笑みを浮かべながら、アランはヘンリーの横顔をちらちらと見た。

 

 それからしばらく移動し、一行はサンタローズの洞窟を出た。川辺に筏を係留していると、グレイスが出迎えてくれた。

 

「おお、戻ったか。どうであった。ん? その背にあるものは……」

「天空の剣です、グレイスさん。実は」

 

 アランは事情を話した。老人は天を仰ぎ、昔を懐かしむように目を細める。

 

「そうであったか。パパス殿がそのようなことを。確かに昔、パパス殿がひどく悔しがっている姿を見たことがある。どうして私ではないのだ、と。あれほど悔苦に歪む表情を浮かべたパパス殿は初めてじゃった」

「天空の剣を装備できなかった。自分では母さんを救えないと思ったからでしょうね」

「うむ……それにしてもお前さん、大きな使命をその背に受けたようだ。今更わしが言うのも何じゃが、辛いと思ったのならもっと大きな力を持った者に預けるのも手じゃよ。お前さんはこれまで十分苦労してきた。そろそろ、身を固めて落ち着いてもいいのではないか」

「それはできません」

 

 アランは穏やかに、しかしはっきりと断言した。

 

「これは、僕が父から受け継いだものですから」

「そうか。すまんかったの。お前の気持ちを考えず無神経なことを言って。こうしてサンタローズに帰ってきたお前さんを見ると、どうも本当の孫のような気がしてきての」

「グレイスさん……」

「いや、たびたびすまん。おそらく長い長い旅路になるじゃろう。無事を祈っとるよ」

 

 老人の微笑みに、アランは深く頭を下げた。

 

 それからサンタローズの人々に挨拶回りをし、最後に教会のシスターの元で祈りを捧げてから、アランたちは村を出た。

 待ちくたびれた様子でいななくパトリシアの首元を撫でながら、ヘンリーが言う。

 

「いいところだな、ここは。あんなことがなければ、もっと素晴らしい場所になったかもしれない。アラン、本当にすまん」

「君が謝る必要はないさ。気にしていたのはそのことだったんだね、ヘンリー」

「何だかんだ言ってよ、故郷ってのは特別なんだって、ここを見てると思ってさ。俺にとってラインハットは特別な場所だけど、滅ぼした側と滅ぼされた側と、それぞれ同じ故郷なんだって考えるとよ、何か、運命は残酷だと思えてきたんだよ」

「うん……そうかもしれないね」

「やり切れないぜ、まったくよ」

 

 しばらく無言で出立の準備にかかる。人間たちの重苦しい空気の意味が理解できないスラリンたちは、そわそわと落ち着きなく辺りを見回していた。

 アランは微笑んだ。

 

「ごめんね、心配かけて。でももう大丈夫だから。さ、気分を入れ替えて元気に出発しよう」

 

 その言葉に安心したのかスラリンが肩まで登ってくる。負けじとメタリンも反対側の肩に飛び乗った。アランは苦笑した。

 

「メタリン、ちょっと痛かった」

「な!? 私は重いって言うわけ!?」

「そうじゃないけど、そんないきなり飛び乗ったら……いたた。飛び跳ねないで」

「むううっ。やっぱり私は重いってことなのね!」

「何でそうなるんだよ」

 

 呆れたヘンリーの声にパトリシアがいななきで応えた。

 

 アランは地図を広げる。現在位置を確認し、次の目的地を考える。

 

「天空の装備があるとしたら、やはりそれなりに由緒ある土地だろうね。情報も集められる場所じゃないといけないし。この辺りでそれに該当するところがあるとすれば」

 

 指先で地図をなぞる。ある場所で止めた。広大な国土と、そこに示されたラインハットという国名を見て、アランは顔を上げた。

 彼の意を察したのか、ヘンリーはしばらく悩んでからこう応えた。

 

「悪い、アラン。もう少し考えさせてくれ」

「……わかった」

 

 敢えて反論せず、引き続き地図を見る。その視線がある場所で止まった。

 自然と顔がほころぶ。脳裏に、金色のお下げを揺らしながら自分の前を歩く少女の姿が浮かんだ。

 

「それじゃあ、少し寄り道してもいいかな」

「寄り道?」

 

 うなずく。

 

「近くの街に僕の幼なじみがいるんだ。無事を伝えたくて」

 

 地図上を指差す。山と平原と森に囲まれた一角に街を表す印が付いていた。

 

「次の目的地はここ、アルカパだよ」

 

 

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