【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
腹の痛みを我慢しながら、アランは中腰になって身構える。しかし、スライムが襲いかかってくる気配はなかった。その場で何度も飛び跳ねながら、何かを叫ぶ。
「キュイッ! まって、いじめないで! ボクはわるいスライムじゃないよ」
「しゃ、しゃべった?」
突然のことに驚きを隠せないアラン。
だが、数歩先まで近づいてきたスライムの目を見て、驚きは消えていった。他のスライムと違い、どことなく優しそうな光を瞳に宿していたからだ。
スライムはなおも飛び跳ねつつ、アランを興味深そうに見つめた。
「うん。キミもわるいひとじゃないんだね。なんとなくわかるよ」
アランは構えを解き、再び腰を下ろす。スライムと視線を合わせる。
「えっと。スライム、くん? 君はどうして言葉がわかるの?」
「ボク、ときどきここにくるしょくにんさんたちとなかがいいんだ。ごはんをもらったり。ことばはしぜんにおぼえちゃった」
「そっか。じゃあ君はわるいスライムじゃなくて、しょくにんさんたちの友達なんだ」
「そう! ともだち! ともだちだよ!」
スライムは嬉しそうに一回転した。その愛らしい仕草に、アランは疲れを忘れて微笑む。するとスライムは少し声を落として聞いてきた。
「ところで、キミ、おおきづちにいじめられていたみたいだけど、だいじょうぶ? あのひとたち、ぜんぜんてかげんしてくれないから」
「うん。ひどいケガはしてないんだけど。見てたの?」
「ごめんね。ボク、とってもよわっちいから、たすけにいけなかったんだ。それに、ボクはひととなかよくしているから、おなじスライムからはきらわれているんだ」
「そんな。こんなにいい子なのに。ひどいよ」
「でも、ここにいればしょくにんさんがきてくれるから、さみしくはないよ。さすがにひとのすんでいるところまでは、いけないけれど」
「そっか」
アランはうつむく。モンスターと仲良くできることはアランにとってとても嬉しい発見だったが、そのせいで仲間の群れから離れてしまうのは寂しいと思ったのだ。
「ねえスライム君。僕と友達にならない? 僕はアラン」
「アラン! いいなまえだね! でもこまったな。ボクはきまったなまえがないんだ。しょくにんさんはいろんなよびかたをしてくれるし。スラリンとか、スラぼうとか。でもスライムくんってよびかたはいいな! それにしてね」
「う、うん。わかったよ、、スライム君」
笑顔で応えながらアランは思う。もし将来、自分にこのスライムのような友達ができたら、ずっと仲良くしていこう。
「そういえば、しょくにんさん、だいじょうぶかなあ」
「どうしたの」
「うん。ちょっとまえにね、しょくにんさんがこのどうくつにはいってきたんだけど、まだかえってきてないんだ。いつもならとっくにかえりのあいさつによってくれるのに」
「それって、お薬を作っているしょくにんさん?」
「そう! ひげもじゃだけど、とってもやさしいひとなんだ。しってるの?」
「会ったことはないんだけど、帰りを待っているひとがいるんだ。僕はその人を迎えに来たんだよ」
「そうだったんだ。たしかあっちのおくのほうにいったとおもうよ。ちょっとまえにらくばんがあって、おおきなあながあいているからあぶないよって、おしえてくれたんだ」
「わかった、ありがとう。スライム君」
アランは立ち上がる。奥に進もうとして、手に持ったままの『ひのきの棒』に気づいた。
「でも、僕にはもう戦うための武器がないんだった。どうしよう。一度戻った方がいいのかな?」
「ぶき? ぶきならあるよ」
「え? ほんと?」
「こっち」
そう言って、スライムはアランを水辺の先へと導く。やがて岩の陰に隠れるように、細長い木の棒が置いてあった。スライムは棒の周りで飛び跳ねる。
「これだよ。しょくにんさんがつかってたんだけど、もういらないからってボクにくれたんだ。でもボクにはつかえなくて、こまってたんだ」
「これって、『かしの杖』かな」
それはアランの身長よりも大きな杖だった。触ってみるとずっしりと重く、温かな木の感触に比べてとても硬い。これならば多少の衝撃では折れることはなさそうだった。
「いい感じ。もらってもいいの?」
「うん。アランにあげる」
「ありがとう、スライム君! これで先に進めるよ」
「どういたしまして。きをつけてね。あいつら、きっとまたおそってくるだろうから。しょくにんさんによろしくね」
ぴょんぴょん跳ねながらスライムが別れの挨拶をする。洞窟に入ってから一番の笑顔で手を振りながら、アランはその場を後にした。