【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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12.水辺のスライム

 

 腹の痛みを我慢しながら、アランは中腰になって身構える。しかし、スライムが襲いかかってくる気配はなかった。その場で何度も飛び跳ねながら、何かを叫ぶ。

 

「キュイッ! まって、いじめないで! ボクはわるいスライムじゃないよ」

「しゃ、しゃべった?」

 

 突然のことに驚きを隠せないアラン。

 だが、数歩先まで近づいてきたスライムの目を見て、驚きは消えていった。他のスライムと違い、どことなく優しそうな光を瞳に宿していたからだ。

 

 スライムはなおも飛び跳ねつつ、アランを興味深そうに見つめた。

 

「うん。キミもわるいひとじゃないんだね。なんとなくわかるよ」

 

 アランは構えを解き、再び腰を下ろす。スライムと視線を合わせる。

 

「えっと。スライム、くん? 君はどうして言葉がわかるの?」

「ボク、ときどきここにくるしょくにんさんたちとなかがいいんだ。ごはんをもらったり。ことばはしぜんにおぼえちゃった」

「そっか。じゃあ君はわるいスライムじゃなくて、しょくにんさんたちの友達なんだ」

「そう! ともだち! ともだちだよ!」

 

 スライムは嬉しそうに一回転した。その愛らしい仕草に、アランは疲れを忘れて微笑む。するとスライムは少し声を落として聞いてきた。

 

「ところで、キミ、おおきづちにいじめられていたみたいだけど、だいじょうぶ? あのひとたち、ぜんぜんてかげんしてくれないから」

「うん。ひどいケガはしてないんだけど。見てたの?」

「ごめんね。ボク、とってもよわっちいから、たすけにいけなかったんだ。それに、ボクはひととなかよくしているから、おなじスライムからはきらわれているんだ」

「そんな。こんなにいい子なのに。ひどいよ」

「でも、ここにいればしょくにんさんがきてくれるから、さみしくはないよ。さすがにひとのすんでいるところまでは、いけないけれど」

「そっか」

 

 アランはうつむく。モンスターと仲良くできることはアランにとってとても嬉しい発見だったが、そのせいで仲間の群れから離れてしまうのは寂しいと思ったのだ。

 

「ねえスライム君。僕と友達にならない? 僕はアラン」

「アラン! いいなまえだね! でもこまったな。ボクはきまったなまえがないんだ。しょくにんさんはいろんなよびかたをしてくれるし。スラリンとか、スラぼうとか。でもスライムくんってよびかたはいいな! それにしてね」

「う、うん。わかったよ、、スライム君」

 

 笑顔で応えながらアランは思う。もし将来、自分にこのスライムのような友達ができたら、ずっと仲良くしていこう。

 

「そういえば、しょくにんさん、だいじょうぶかなあ」

「どうしたの」

「うん。ちょっとまえにね、しょくにんさんがこのどうくつにはいってきたんだけど、まだかえってきてないんだ。いつもならとっくにかえりのあいさつによってくれるのに」

「それって、お薬を作っているしょくにんさん?」

「そう! ひげもじゃだけど、とってもやさしいひとなんだ。しってるの?」

「会ったことはないんだけど、帰りを待っているひとがいるんだ。僕はその人を迎えに来たんだよ」

「そうだったんだ。たしかあっちのおくのほうにいったとおもうよ。ちょっとまえにらくばんがあって、おおきなあながあいているからあぶないよって、おしえてくれたんだ」

「わかった、ありがとう。スライム君」

 

 アランは立ち上がる。奥に進もうとして、手に持ったままの『ひのきの棒』に気づいた。

 

「でも、僕にはもう戦うための武器がないんだった。どうしよう。一度戻った方がいいのかな?」

「ぶき? ぶきならあるよ」

「え? ほんと?」

「こっち」

 

 そう言って、スライムはアランを水辺の先へと導く。やがて岩の陰に隠れるように、細長い木の棒が置いてあった。スライムは棒の周りで飛び跳ねる。

 

「これだよ。しょくにんさんがつかってたんだけど、もういらないからってボクにくれたんだ。でもボクにはつかえなくて、こまってたんだ」

「これって、『かしの杖』かな」

 

 それはアランの身長よりも大きな杖だった。触ってみるとずっしりと重く、温かな木の感触に比べてとても硬い。これならば多少の衝撃では折れることはなさそうだった。

 

「いい感じ。もらってもいいの?」

「うん。アランにあげる」

「ありがとう、スライム君! これで先に進めるよ」

「どういたしまして。きをつけてね。あいつら、きっとまたおそってくるだろうから。しょくにんさんによろしくね」

 

 ぴょんぴょん跳ねながらスライムが別れの挨拶をする。洞窟に入ってから一番の笑顔で手を振りながら、アランはその場を後にした。

 

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