【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

126 / 227
126.変わってしまった空気

 

「わーい、わーい」

「ちょっとスラリン、あんた何遊んでんの!」

 

 カイルと一緒に飛び跳ねているスラリンに向かって、メタリンが怒声を上げる。その彼女はジュディと薪を焚いていた。メラの呪文で火がついた枯れ木を、ジュディは目を丸くして見つめた。

 

「うわ、すごい。呪文ってこんなこともできるんだ」

「ふふん。スゴイでしょ。ま、あたしにかかればこんなのに火をつけるぐらいカンタンカンタン」

「じゃあ、もっと大きなものは?」

「うえ!? で、できるに決まってんじゃない。ほほ、ほほほ」

「じょうだんだよ。そんなに無理しなくていいのに」

「無理なんかじゃないわよ。あたしはね、誇り高いメタルスライム属なんだから!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるメタリン。その様子がスラリンそっくりで、ジュディは口元に手を当てて笑った。その脇ではブラウンがむっつりと座っている。いつこいつらを止めようかと機会をうかがっているようだった。仲間が増えるに従い、彼女の苦労性なところが垣間見えるようになっていた。

 

 周囲は完全に夜の帳が降りてしまっている。街の灯りは非常に乏しく、その分、天空の星々は鮮明に見ることができた。今夜は運良く空の霞が切れてくれたらしい。満点の星空の下で、ジュディたちの楽しげな声が響く。

 初めはアランの連れている仲間モンスターに驚きと怯えを見せた彼女らだったが、もうすっかり心を許している。その顔は年相応の明るさに溢れていた。

 

 慈しみの視線でジュディたちを見つめていたアランは、おもむろに立ち上がる。ブラウンに目配せし、近くに寄ってきた彼女に小声で指示を出す。

 

「ちょっと歩いてくる。皆を頼むよ。特にジュディとカイルは早めに寝かせてやってくれ」

「わかった。頭、どこ行く?」

「ヘンリーのところ」

 

 そう言うとアランは踵を返した。パトリシアの首を撫で、廃墟となった宿を出る。月明かりで陰影の付いた裏道が、まるで異世界の入り口のような幻想的な光景を作り出していた。人気の無さ、静けさがその雰囲気をより強くさせる。

 

 しばらく前に、ヘンリーが席を外したことには気づいていた。行き先は想像がつく。

 夜道を歩いていると時折柄の悪い連中とすれ違う。彼らは地べたに座り込み、こちらを胡乱げに見つめていた。目の焦点が合っていない。アランは堂々と彼らの中を歩いた。

 

 やがて開けた目抜き通りに出る。周囲を見回し、王城が見える方向へ足を向ける。さらに歩くと、巨大な堀に出た。

 ヘンリーは堀の縁に腰掛け、王城をぼんやりと見つめていた。

 

「やっぱりここにいたんだ」

「ああ」

 

 アランも彼の隣に座る。王城の天辺は、それこそ顔を上げなければ視界に収められないほど大きい。月を背景にした尖塔が、昼間には見られない濃と淡のコントラストを生み出していた。

 

「ひでえもんだな」

 

 ヘンリーはつぶやく。

 

「ガキの頃はあんまり意識してなかったが、ラインハット城には活気が溢れていた。夜は夜で、大国に相応しい威厳ってもんが城からも伝わってきたって、客人の誰かが言ってたよ。だが、今はどうだ」

「そんな空気を感じない、か」

「廃れた臭いがするんだよ」

 

 がしがしと頭を掻く。

 

「アランよぉ。俺は自分が情けねえ。故郷がこんな状況になっているのも知らずに『世界を見て周りたい』だなんてよ。甘いったらないぜ」

「ヘンリー……」

「すまん。別にお前の旅がどうと言っているわけじゃないんだ。ただ、俺が故郷から逃げてきた結果がこの城の空気なんだって思うとよ、居たたまれなくなるんだ」

「君のせいじゃないだろ」

「だが俺はラインハットの人間だ。王族なんだ」

 

 二人の間に沈黙が降りる。アランは敢えて黙っていた。気持ちの整理がつくまでそっとしておこうと思った。

 

 やがて大きく息を吐いたヘンリーは、勢い良く自らの頬を叩いた。

 

「うし。へこむ時間は終わり。次だ、次」

「うん。とりあえず、どうやってデール国王にお会いするかだね」

「そうだ。見ろよアラン、城の入り口が跳ね桟橋になって、向こうに渡れなくなってるだろ? 俺が城にいた頃はこんな仕掛けはなかった。ありゃ意図的に閉め出してるんだぜ、きっと。参ったな。夜がこの状況だと、昼はもっと厳しいんだろう」

「何か、陛下と連絡を取る手段はないかな?」

「……。駄目だ、思いつかね。城の中を駆け回ってたから内部の構造にはちと覚えがあるんだが」

「手紙を出すとか」

「デールに届く遙か前に握りつぶされてしまうよ。仮に真正面から『ヘンリー様のお帰りだぁ!』てな感じに乗り込んでも、つまみ出されるのがオチだろうな」

「……ヘンリーならそうすると思ってた」

「茶化すな! どんだけ道化だよ、俺は!? とにかく、何とか城内に忍び込めればこっちのもんなんだが」

 

 二人して腕を組み、頭をひねる。だがどれだけ考えても良い考えは浮かびそうになかった。

 

「……あれ?」

 

 そのとき、アランが堀の違和感に気づいた。暗くてよく見えないが、堀の壁面に、空洞ができているように見えたのだ。

 ヘンリーにも見てもらうが、彼は首を振った。

 

「俺にはそうは見えないぜ。岩の影じゃないのか?」

「確かに人が通るには小さいけど……うーん」

「とにかく、一旦戻ろうぜ。明日、街の様子を探りながら手を考えよう」

 

 ヘンリーの提案にアランは曖昧にうなずいた。踵を返すとき、もう一度振り返った。確かに穴のように見えた場所は、跳ね桟橋のちょうど真下に位置していた。

 

「もし、あそこが抜け道だったら。いや、そんな都合の良い話はない、か」

「おい、アラン」

「今行くよ」

 

 ヘンリーの呼びかけに応え、アランは駆け出した。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。