【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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129.スライムナイトたちの目的

 

「君は、あのときの」

「覚えていましたか」

 

 隻腕のスライムナイトは剣を鞘に収めた。子どもの頃はとても大きな体だと思っていたが、今、こうして対面するとアランとほとんど背丈は変わらない。

 とりあえずアランも剣を引く。するとスライムナイトが言った。

 

「立派になられましたね。功こそ立てていませんが、その素質は十二分にあると言えるでしょう」

 

 いきなり賛辞を贈られたアランは戸惑いを隠せずにいた。まさかこのような形で再会するとは思ってもみなかった。

 ただ、スライムナイトの方はあらかじめこの出逢いを予期していたようだ。取り乱す様子もなければ、手放しで喜ぶ様子もない。静かに、そして威厳を持って接してくる。変わったモンスターだと改めて思った。

 

「あー、アランだ。アランが帰ってきたよ!」

「アランおにいちゃーん」

 

 スラリンとカイルが連れだって駆けてきた。さりげなく場所を空けたスライムナイトに代わり、アランの周囲をぐるぐると回る。スライムナイトを恐れる気配は微塵もなかった。

 二人の頭を撫で、他の仲間の様子を確認しようとしたアランはさらに驚いた。半壊した建物の中から、これもまた見覚えのあるモンスターたちが姿を現したからだ。

 

 イエティ、ダンスニードル、ドラゴンキッズ。ラインハットの道中で遭遇した、麻袋を持ったあのモンスターたちだ。

 

「彼らは私の連れなのです」

 

 スライムナイトが言うと、イエティたちは戸惑ったように顔を見合わせた。その姿からは、かつて対峙したときの闘志を感じることができなかった。

 

「みんなとってもいいひとだよ、おにいちゃん」

 

 腰にしがみつきながらカイルが言い、スラリンは彼の頭の上で飛び跳ねた。

 アランは頭を掻き、遅れてやってきたブラウン、メタリン、ドラきちに尋ねる。

 

「ねえ、これは一体どういうことなんだい。何があったの」

「そんなのこっちが訊きたいわよ」

 

 メタリンがため息をつく。どちらかというと好戦的な彼女が微塵も敵意を見せていないところから、やはりスライムナイトとその連れには敵対する意志がないと考えるべきだった。

 

「アランの言いつけ通りにここで待ってたら、いきなりコイツらがやってくるんだもの。そんでもって『しばらくここに隠れさせてくれ』ってさ」

「隠れる?」

 

 首を傾げる。

 

 そのとき、ジュディの手をしっかりと握ったヘンリーがやってきた。彼らもまた、スライムナイトたちの姿を前にして驚きを隠さなかった。カイルを始めとした仲間たちの無警戒ぶりにただただ目を丸くする。

 スライムナイトが尋ねる。

 

「貴方の仲間ですか? アラン」

「うん。あ、名前。覚えていてくれたんだ」

「言ったはずです。英傑たる者の姿、そうそう忘れるものではないと」

「僕は英傑なんかじゃないけれど……ありがとう。覚えていてくれて嬉しいよ」

 

 アランは改めて、スライムナイトたちがここにいる理由を尋ねる。

 

「拠点が必要なのです」

 

 スライムナイトは言った。ヘンリーらの好奇の視線にさらされてもまったく態度を変えない。

 

「我々の同胞が再び危機に瀕しています。それも、十年前とは比べものにならないほど大きな危機です。同胞を救うため、私はこの街に潜伏する必要がありました。目的地はあの建物です」

 

 彼が指し示したのは、何とラインハット城だった。

 

 スライムナイト曰く、ラインハットの大規模な軍拡によって、近隣モンスターの棲息地はひどく荒らされたそうだ。それまで調和を保っていた勢力図が大きく変わり、棲息範囲も様変わりした。争いが生まれ、中でも比較的人間と距離を取って生活してきた穏健派の集団は、人間による討伐と他のモンスター集団による縄張り争いの両方に巻き込まれ壊滅的な打撃を受けたのだという。わずかに生き残った同胞たちの傷を癒すために、再びラインハットの街に潜入し、薬を手に入れる役目を担ったのが、このスライムナイトと仲間たちというわけだ。

 だが、手に入る薬草にも限界がある。

 

「聞いたことがあるのです。あの城の地下には優れた効用を持つ薬草が自生していると。さらに城内に侵入することができれば、城に蓄えてあるより多くの薬を手に入れることができます。しかし運搬のための頭数が不足している。まとまった量を確保するには、それらを一時的にしろ保管する拠点が必要です」

 

 彼の話を聞き、アランとヘンリーは顔を見合わせた。

 

「するってえと、お前はラインハット城に地下から潜入するために、ここにいると?」

「はい」

「アテは? まさか正面から堂々と殴り込むつもりじゃないだろうな」

「同胞からの情報では地下へと繋がる入り口があるといいます。崩落していますが、こじ開けるのはさして難しいことではありません」

 

 彼の話を聞き、昨晩のことを思い出す。あの跳ね桟橋の下に見えていた穴は、やはり地下に繋がる通路だったのだ。スライムナイトの言う通りに崩れた岩をどかすことができれば、先に進むことができるはずだ。

 

「ねえ。えっと」

 

 スライムナイトを何と呼べばよいか思案していると、相手の方から申し出があった。

 

「私に名などありません。しかし、名は我らにとって非常に重要なもの。いかにあなたと言えど軽々しく名を付けるといった真似は止めていただきたい。私の事は『あなた』で十分でしょう」

「……『君』でも構わない?」

「ご自由に」

 

 素っ気なく彼は言った。アランとヘンリーは無言の意思疎通をする。

 アランは提案した。

 

「ねえ。もし良かったら、僕たちも同行させて欲しいんだ。君のラインハット城潜入に」

 

 

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