【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
スライムが教えてくれた道を小走りに進む。やがて地面を荒く削ってできた階段に差しかかった。一段、一段、下りていくうち、アランは口元を押さえた。軽く咳をする。
たいまつの灯りに照らされて、砂埃が薄く宙を舞っている。それら小さな粉塵がアランの鼻と喉をざらつかせた。
階段を降り切る。奥から微かに呻き声がした。『かしの杖』を抱え直し、アランは速度を上げる。
折れ曲がった道の先は広場になっていて、高い天井から時折細かな砂粒が落ちてきていた。周辺の砂埃は、これが原因だったのだ。
砂時計のように砂塵が落ちるその場所は、ちょうど広場の中央にあたるところだった。そこに大きな岩が転がっている。
呻き声は、何とその大岩の下から聞こえてきた。
慌てて岩に近づく。わずかに人の手足が見えた。人の気配を察したのか、岩の下の人物は「おーい、おーい」と呼びかけてきた。
「だ、だいじょうぶ?」
「おおっ。助けに来てくれたのか!」
アランの声を聞くなり、岩の下の人物は喜びの声を上げた。だがアランの方は冷静ではいられない。巨大な岩に人一人が下敷きになっているようにしか見えなかったのだ。
どうしよう、と真剣に頭を悩ませるアランを知ってか知らずか、岩の下の人物は「おお、心配しなくても大丈夫だ」と暢気に語りかけてきた。
「帰ろうとしたら上から岩が降ってきてなあ。ご覧の通りの有様で動けなくなっていたんだ。しかしわしは運がいい。ちょうどわしがいるところは窪みになっていてな、ぺしゃんこにならずに済んでるよ。ただ抜け出そうにも腹がつかえてしまって、どうにもならなくなってしまっていたんじゃ」
元気そうな声音に、ようやくアランは安堵の息を吐く。確認のため、尋ねた。
「えっと。お薬を作っているしょくにんさん?」
「いかにも。しかしその声は、どうやらお前さん、まだ小さな子どもかの? いやいや、意外じゃ。勇気のある子だ」
褒められ、アランは苦笑しながら頬をかいた。
岩の下敷きになっていたのであれば、村に戻れなかった理由もわかるが、それにしても道具屋の主人はすごい精神力の持ち主だと思った。
「それに比べ、見張りの者ときたら、いまだやってこない。そのために伝え置いたと言うのに。あー、お前さん。ちょっと頼まれてくれないか」
道具屋の手が岩の下から伸びる。太い指先が岩の下部をつかむ。
「地形を利用すれば、上手い具合に岩を転がせるはずじゃ。もう少しなんじゃが、お前さん、合図したらこっちから押してくれんかの」
「こ、これを動かすの?」
アランの背丈はゆうにある岩だ。すると道具屋は力を込め、岩を下から押し上げた。わずかに浮き上がる。彼は力も凄い。
感心するのも束の間、アランは言われた通りに岩に取り付く。
「いいか? いちにのさん、で行くぞ。それ、いち、にの」
「さんっ!」
渾身の力を込める。汗が一気に噴き出す。やがて岩は傾き、次の瞬間には大きな音を立てて転がっていった。
露わになった窪みから口ひげを生やした小柄な男が立ち上がる。
「ふぃー、助かったわい」
「よかった。ぶじで」
「おお。礼を言うよ。しかし、思った以上に小さくて可愛らしい坊主が助けに来てくれたんだなあ。しかも力が強い。わしは驚いたぞ」
「そんなことないよ。おじさんの方が力持ちだ」
「はっはっは。ま、腕っ節はわしの自慢じゃからな。おっと、こうしちゃいられない。急いで帰らなければ。ではな、坊主! お前も早く戻るんだぞ!」
「あっ、おじさん!」
言うが早いか、男はあっという間に走り去っていった。小太りな体型に似合わない俊敏な動きである。あれでどうして岩の下敷きになったのだろう、とアランは首をかしげた。
気を取り直し、アランも道具屋を追いかけ始めた。
そのとき。
男の短い悲鳴が洞窟内にこだました。アランは表情を引き締め、駆け出した。
階段のふもとで道具屋が立ち止まっている。その彼の前に立ち塞がっていたのは、見覚えのあるモンスターだった。
「おおきづち」
唇を噛みしめるアラン。
武器である木鎚を振り回し、威嚇するように地面を叩くおおきづち。アランたちを先に進めまいとしているようだ。
しかも、現れたのは一匹ではない。三匹だ。
道具屋が苦々しくつぶやく。
「まいったぞ。さすがにわしでも三匹同時は」
「さがって、おじさん」
武器を構えアランが前に出る。道具屋は驚く。
「まさか坊主、戦うつもりか?」
「うん。この子の仲間とは一度、戦っているんだ。そのときは、まけちゃったけど」
「だったら無理をするな。わしが何とか気を引くから、その間に逃げろ」
「だめだよ。にげてばかりじゃ、お父さんをがっかりさせちゃうから。それにおじさんも守る。決めたから」
アランは自らの身長よりも大きな『かしの杖』を振り上げ、切っ先をおおきづちに向けた。叫ぶ。
「今度こそ、まけないよ!」
アランの声に触発され、おおきづちがいきり立って襲いかかってきた。