【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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132.地下牢の惨状

 

 襲いかかってくるモンスターを幾度か退けながら、アランたちはさらに地下の通路を進む。すると前方に複数の鉄格子が見えてきた。

 

「こんなところに牢屋?」

「……おかしいぜアラン。ちょっと見てくれよ」

 

 ヘンリーに促され、牢屋のひとつに近づく。内部には誰もいなかったが、その代わりに床には血の跡が色濃く残り、片隅には何者かの骨の欠片まで散乱していた。微かだが、目眩を催す臭気も漂ってくる。奴隷時代を思い出し、アランもヘンリーも顔をしかめた。

 

「ひでぇ有様だ。こりゃあただ単に閉じ込めただけじゃないな。くそ、ラインハットでこんな残虐な仕打ちがされているなんて」

「ああ……まったくひどいよ……。それでヘンリー。さっき言ってた『おかしなこと』って何のことだい」

「この鉄格子さ。汚れちゃいるが、まだ新しいぜ。これ。造られてから数年しか経っていないんじゃないか」

 

 大神殿で嫌というほど牢を見てきた二人である。不本意だが、その方面の知識は経験則として知っていた。

 だがそれが事実だとすると、この地下空間は比較的最近に牢獄に改造され、しかも短い期間に残虐行為が繰り返されたことを意味する。

 

「直接問い質さなきゃいけねえな。デールの奴に」

「青年はこの国の王と知己なのですか」

 

 スライムナイトがたずねてくる。アランはヘンリーに目で問いかけ、スライムナイトにうなずいた。

 

「彼はもともとこの国の王子だったんだ。事情があって、今まで別の場所にいたんだよ。僕と一緒に」

「なるほど。では彼がヘンリー王子なのですね。十年前に行方不明となった」

「知ってるのか、あんた」

「我らの住処を荒らす者たちの中には、彼の人の捜索を大義名分にしていた輩もいました。だから知っています」

 

 スライムナイトは言う。代わりに肩に乗ったドラゴンキッズが責めるようにぎゃあぎゃあと鳴いた。

 ヘンリーは目を伏せた。

 

「そう、か。今更かも知れんが……本当にすまん」

「いえ。とにかく先に進みましょう」

「そうだね」

 

 うなずいた後、アランは後ろの仲間たちにたずねた。

 

「ブラウン、ドラきち。スミスの様子はどうだい?」

 

 ブラウンとドラきちの後ろから、新しく仲間になったスミスが歩いてくる。ちらと彼の様子を見たブラウンが報告した。

 

「駄目。やっぱり苦手のよう」

「そうか。無理はして欲しくないけど、ここの状況を考えると今は我慢してもらうしかない、か」

 

 アランは腕を組む。スミスは申し訳なさそうに辺りを見回した。

 

 くさったしたいである彼はもともと動きが遅い。それに加え、邪気を払われた後の性格は一言で言うと臆病であった。戦闘が始まると決まって隅の方で屈み込み、身を守ってしまう。戦いは嫌だと彼はしきりに呟いていた。

 戦闘が終わればスミスはブラウンやドラきちを気遣う仕草を見せる。心根の優しいモンスターなのだとアランは思う。できれば早くここを抜け出し、戦いのない場所へ案内したいと考え始めていた。

 

 それからさらに歩みを進める。ふと、ヘンリーがスライムナイトに聞いた。

 

「そういえばお前、薬草の方はどうなった。いいのが見つかりそうか?」

「駄目ですね。貴方の言う通り、ここは最近人の手が加えられたようです。その際に根こそぎ排除されたのでしょう。影も形もありません」

「となると、やっぱり城まで侵入することになるか。じゃ、これを付けてろよ」

 

 ヘンリーは荷物の中から変化の石を取りだした。二つ、手に持って差し出すと、ドラゴンキッズがしきりに匂いをかいだ。

 

「これを身につければ、あまり人の目には留まらなくなる。効果は実証済みだぜ。城の中に潜入するなら必要だろ」

「よいのですか」

「おう。今は目的地を同じくする仲間同士だ。ただし、後でちゃんと返してくれよ。お前を信用して貸すんだかんな」

「わかりました」

 

 スライムナイトは変化の石を受取り、首にかける。見た目には何の変化もないが、これで一目には付きにくくなったはずである。ドラゴンキッズの首にはアランが変化の石をかけた。

 

 地下通路を進む。ふと、先頭を進むスライムナイトが動きを止めた。

 

「この先に誰かいます。ひとり」

「囚人かな」

「おそらく」

 

 慎重に歩を進める。直進する通路に一カ所、横にそれる別の道があった。気配はその奥からだ。

 武器を構え、アランを先頭に横道の奥に進む。すぐに鉄格子が見えてきた。しかし、どこか様子が違う。他とは牢の頑丈さと大きさが異なっている。

 

 牢の前に立ち、中の様子をうかがったアランは目を見開いた。そこには貴族の邸宅のような豪華な調度品で溢れていたのだ。驚きに言葉を失っていると、中央の椅子に腰掛けていた女性が立ち上がり、猛然とこちらに駆け寄ってきた。

 

「だ、誰!? わらわを、わらわを助けに来てくれたのですか!?」

「助けに……?」

 

 アランは首をかしげ、それから女性の顔をじっと見つめた。記憶の底に引っかかるものがある。それが何なのかに気づいたとき、アランは再び驚愕に固まった。

 

「わらわは……わらわはこの国の太后です! 早く、早くここから出して!」

 

 

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