【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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133.太后の懺悔

 

「太后……!? ということは、つまり……」

 

 ちらと仲間を見る。牢の脇に立っていたヘンリーは唇を噛みしめていた。親友と目が合うと、彼は首を横に振った。

 太后からヘンリーの姿は見えない。アランはさりげなく立ち位置を変えながら、彼女に話しかけた。

 

「あなたは、この国の王の母というわけですか」

「おお。そう、そうです! やっとまともに話ができる者に会えた……! 早速です、ここからわらわを出すのです」

「太后ともあろう方が、なぜこのような場所に?」

「……わらわのことが信じられぬと申すか? ええい、歯がゆい!」

 

 苛立たしげに叫ぶ太后に、アランの視線は自然と険しくなる。かつて父がつぶやいていた言葉が脳裏に蘇った。ラインハットが一枚岩でなかった原因が、もし、彼女にあるのなら。

 

「あなたは、何か罪を犯してここにいるのではないですか? その罪によって、たくさんの人を哀しませたのではないですか?」

 

 濃い疲労のせいか皺が目立つ顔を歪め、太后は忌々しそうにアランを睨み返していたが、やがて全身の力を抜き、うつむいた。

 

「どうやらそなたも、わらわの悪行で傷を負った者のようですね」

「悪行……」

「そうです。この国がかつての栄華を失った原因は、確かにわらわにある。十年前のあの日、ヘンリー王子を攫わせて亡き者としたときから、ずっと」

 

 太后は鉄格子を握りしめた。その手は十年という月日を考えても、あまりに細く、老いが目立っていた。

 

「ただ、これだけは信じておくれ。この国を強くしようとしたのも、ヘンリー王子を攫わせたのも、すべては我が子デールのため。あの子を国王とし、立派に務めさせてやりたいと思った哀れな親心なのです」

「……」

「今では、本当に反省している。こうして昼も夜もわからぬ生活をしているのも、わらわに課せられた罰、報いなのだろうと思っていました。しかし、もうこれ以上は耐えられぬ……。このままではわらわの可愛いデールが。せめて、あのことだけでも……」

「あのこと?」

 

 眉をしかめる。すると太后はすがるような目を向けてきた。

 

「わらわは、はめられたのです。何者かによってここに監禁され、地上ではわらわの偽物が権勢をふるっている。そのことに、誰も気づいていないのです」

「あなたの偽物!? じゃあ、今のラインハットの有様は」

「おそらく、その偽物の仕業。意図はわからぬが、このままでは国が滅びます。そうなればデールも……うっ、うっ……」

 

 太后は顔を覆う。重い沈黙が下りた。

 

 何と応えるべきか考えあぐねていると、太后は自分から牢の奥に戻っていった。中央の椅子に腰掛け、背を曲げる。

 

「人恋しさゆえ、そなたには無茶を言いました。ですが、おかげで少し気が楽になった……。もうここから出せとは言いません。誰か城の者が来ないうちに、早くここを出なさい」

「太后様……」

「今のラインハットは危険です。ですが、わらわにはこの国を良くする資格などないのでしょう。どこから来たのかは知りませんが、若者よ、もし今の話を信じてくれるのならば、デール国王を悪く思わないでおくれ。そして今は亡きヘンリー王子が眠る西の洞窟に、花のひとつを手向けて欲しいのです。わらわの代わりに……」

 

 

 

 太后が囚われた牢を離れたアランたちは、終始無言だった。特にヘンリーの表情はこれまでになく険しい。

 

「ヘンリー……」

 

 アランは親友に声をかける。彼を気遣ってのことだが、ヘンリーは下を向いたまま黙々と歩き続けていた。その唇はずっと引き結ばれたままである。

 

 通路を進み、上り階段を歩き、さらに奥の通路を目指す。そこでようやく、彼は重い口を開いた。

 

「アラン。俺な」

「うん」

「俺、必ずラインハットを元に戻すよ。昔の賑やかで、誇りある国を取り戻す。その邪魔をしている奴らを、俺は絶対に許さない」

 

 顔を上げたヘンリーの瞳には、強い決意の色が浮かんでいた。

 

「太后を、俺の義母を騙る奴は、この俺が必ず倒す。何としても城内に入って、デールにこのことを伝えるんだ……!」

「わかった。ヘンリー。僕も許せない気持ちは一緒だ。力を貸すよ」

 

 それからアランはスライムナイトを見た。彼とドラゴンキッズにはアランたちに付き合う義理はない。彼らの意向を確認したかった。

 スライムナイトはアランをじっと見据えた。そして短く告げる。

 

「巨悪を倒す姿こそ、英傑として望まれる姿です」

 

 それは遠回しにアランたちに協力することを伝えているようだった。

 アランは言った。

 

「僕たちに協力してくれないか。悪を討ち滅ぼすために」

 

 だがスライムナイトからの返事はすぐにはこなかった。背を向け、しばらく無言のままでいたスライムナイトは、やがてこう言った。

 

「私はあなたの従者となることを了承したわけではありません。もし、私に剣であれと、盾であれと命じるならば、私に見せてください。あなたのその器を」

 

 込められたわずかな殺気にアランは大きく息を吸った。そのまま、スライムナイトは先に進んでいった。

 

 

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