【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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134.謁見の間、その一言

 

 通路を進んで行くと、入口の小部屋と同じような仕掛けがある部屋を見つけた。入口へと戻るための扉を開くものだった。

 アランはブラウンたちに指示し、筏でスラリンたちが待つ宿まで引き返させた。さすがにスミスを連れた状態で城内を移動するのは難しい。城内へはアランとヘンリー、そしてスライムナイトのみで乗り込む。

 スライムナイトはドラゴンキッズに言い含める。

 

「貴方は倉庫に侵入し、薬草を探すのです。ただし、あまり時間をかけないように。無理だと思えばすぐに飛んで戻るのです」

 

 ドラゴンキッズは一声鳴いて、城内の探索に向かった。スライムナイトはアランたちを振り返り、先へ進むよう促す。

 階段を上がる。その先は中庭の片隅に繋がっていた。どうやら地下への隠し階段になっているらしい。

 いつの間にか、空は薄く白み始めている。

 ヘンリーが腕を組んだ。

 

「さて、どうするか。この時間じゃ、まだデールも玉座に座っていないだろうし」

「かといって、城内をあんまりうろうろしていたら怪しまれるだろうね」

 

 二人で知恵を絞る。そしてほぼ同時に思い出す。

 

「そうだ。子どもの頃に使った秘密の梯子!」

「うん。あれを使えば倉庫から城内に忍び込めるね。じゃあまずはそこを目指そう」

 

 アランがうなずいたそのときである。

 すぐ近くの扉が開いて、中から女性がひとり出てきた。格好からしてこの城の下働きのようだ。桶を持って、井戸に水を汲みに行く途中なのだ。

 

「あら、あなたたち?」

 

 咄嗟に身を隠そうとするも、女性がこちらを振り向く方が早かった。怪訝そうな顔をする彼女に対してどうごまかそうかとアランが冷や汗を流していると、ヘンリーが前に出た。

 

「なあ、あんたこの城の使用人か?」

「え? ええ、そうよ」

「ああ、良かった。助かったぜ。実は俺たち、この城の雇われ兵としてここに来たんだが、何せこれだけでっかい建物なんて見たことなかったからよ。迷っちまって。相棒とあっちこっちうろうろしてる内に中庭で閉め出されてしまったんだ。おかげであんたが来るまで、ここで一晩明かすことになっちまったんだ。いやー、本当に助かった」

「まあ、そうなの」

 

 女性が気の毒そうに眉を寄せる。ヘンリーは彼女に見えないようにアランに向けて親指を立てた。このときばかりは親友の口の巧さにアランは感謝した。

 

 女性は、自分が出てきた扉を指差した。

 

「それならここから入るといいわよ。他の出入り口はこの時間だとまだ閉まってるはずだから」

「ほんとか? ありがとう、助かるぜ!」

「いいえ。でも、あなたたちが太后様に雇われた傭兵なら、急いだ方がいいわよ。今日は太后様直々に閲兵をされる日。遅刻すると大変なことになるわ」

「首が飛んじまうってか」

「その通りよ。わかってるじゃない」

 

 当然のようにうなずく女性。アランとヘンリーは、「首が飛ぶ」という言葉が比喩でも何でもないことだと理解した。

 

「それから、これもよくわかってると思うけど、今この国で実権を握っているのは国王陛下のデール様ではなく、太后様。逆らえば命はないわよ」

 

 アランとヘンリーは素早く視線を交わす。

 

「その閲兵ってのには陛下も来られるのか」

「さあ。でも、噂じゃデール様は国政に興味なさそうなご様子だから、お出でにならないんじゃないかしら」

「閲兵はどこで?」

「二階の大広間。デール様がいる謁見の間とは反対側だから、間違えないようにね」

「ありがと」

 

 手短に礼を言うと、アランたちは扉をくぐる。そこは厨房だった。いい匂いが部屋中に充満し、アランは思わずお腹を押さえた。

 

「飯は後だぜ、アラン」

「わ、わかってるさ」

「人間はなかなか不便な生き物ですね」

 

 それまでずっと黙っていたスライムナイトが言う。変化の石の効果か、彼が厨房を横切っても誰も気づかなかった。

 

 厨房を出て、使用人たちが使う通路を走り、さらに城内の回廊に出る。深い絨毯がくるぶしまでを包み込む。その感覚に、アランとヘンリーは十年前を思い出していた。

 

「この辺は変わらねえな」

 

 ヘンリーの顔に感慨がにじむ。

 

 それから二階に上がる階段を上り、まっすぐに国王の座す謁見の間へ向かう。途中、何人もの戦士とすれ違った。中には明らかに『まともじゃない』風貌の男も混じっていて、彼らが下卑た笑い声を上げながら城内を闊歩している様は異質だった。

 

 さらに走り、円形の大きな広間に出る。ここも記憶があった。このまま真っ直ぐ進めばヘンリーが住んでいた部屋、そして壁に沿って備え付けられた階段を上れば謁見の間だ。

 気になるのは人の少なさだった。ここに来てすれ違う人の数が極端に減った。見張りの兵すら見当たらない。スライムナイトが「不用心ですね」とつぶやく。アランはどこか、深い寂しさがこの広間に漂っているような気がした。

 

 謁見の間へと続く階段を上がり、さらに高台に設えられた玉座まで上がる。そこには出仕したばかりらしい国王と大臣のふたりだけがいた。

 

「何だお前たちは。謁見の時間にはまだ早いぞ」

 

 大臣が詰問する。アランたちは応えず、じっと国王を見た。

 まだ若い青年だが、身に纏う空気はひどく疲れている。表情に覇気はなく、豪華な衣装も借り物のようなよそよそしさがあった。

 痩せてるな、デール――ヘンリーがつぶやいた。

 

「デール陛下は特別な貴人以外、誰ともお話にならない。早々に立ち去るが良い」

 

 大臣の言葉にデールは目を閉じた。彼の言葉を肯定するような仕草だった。

 だが、敢えてアランとヘンリーは玉座の前に進み出た。焦る大臣を無視し、じっとデールを見つめる。

 

「……」

「……」

「……」

「……そこの大臣から聞いたであろう。特に今日は誰とも話したくない。下がるが良い」

 

 疲れたように、デールはそれだけを告げる。

 そのとき、ヘンリーが小声で囁いた。デールにだけ聞こえるような声で。

 

「ですが陛下。子分は親分の言うことを聞くものですぞ?」

 

 ――デールの目が、大きく見開かれた。

 

 

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