【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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135.兄弟の再会

 

 二人はしばらく無言で見つめ合った。

 

「……大臣」

「は」

「私はこの者たちと話がある。席を外すがよい」

「……は!? へ、陛下、何をおっしゃいますか!」

「大事な話だ。よいから下がれ。他の者もだ」

 

 デールは強引に側の者たちを下がらせた。警備の者すら遠ざけて、デールはヘンリーに向き直る。その表情には先ほどまでにはなかった喜色で溢れていた。

 

「兄さん! ヘンリー兄さん、生きていたんだね!」

「おう。この通りピンピンしてるぜ。しかしよくわかったな。さっきの一言で俺だって」

「それはわかりますよ。昔、さんざん聞かされた台詞だもの」

 

 デールは笑った。そうすると年相応のあどけなさがのぞく。痩せこけた頬に浮かぶ笑顔にアランは複雑な気持ちになった。

 

 上機嫌で口を開こうとしたデールは、ふと表情を引き締め辺りを見回した。

 

「……兄さん、まずは別室に行こう。ここだと大臣たちの目がある」

「わかった」

 

 すでに視線に気づいていたヘンリーはうなずく。デールの案内で、アランたち三人は玉座の後ろにある執務室に入った。デールは扉を閉め、しっかりと錠をかける。ヘンリーが眉をしかめた。

 

「大臣にまで目を付けられているとはな。しかし、いいのか? 気持ちはわからんでもないが、こんなところに俺たちを連れ込んだら逆に怪しまれるだろ」

「大丈夫だよ。情けない話だけど、僕がこの部屋にこもるのはそんなに珍しいことじゃないんだ」

 

 デールは目を伏せて答える。ヘンリーはそれ以上聞かなかった。その代わりにデールの細い体を抱きしめる。とても強く。

 

「長い間留守にしてすまなかった。デール。お前には言葉にできないほどの苦労をかけたな」

「兄さん……」

 

 震える声でデールも抱擁を返した。無言で兄弟は互いの存在を確かめ合う。

 

「羨ましいですか」

 

 ふと、アランの隣に立っていたスライムナイトが言った。「そうだね」と返す。アランには兄弟がいなかったから、二人の絆を見るのは微笑ましくもあり、少し寂しくもある。だがそれ以上に「良かった」という想いの方が強かった。

 

「ところで、そちらの方々は?」

 

 ヘンリーから離れたデールがアランたちを見る。

 

「ああ、俺の大事な親友だよ。アランさ。お前もガキの頃会ったことはないか?」

「アラン……ああ! もしかしてパパス殿のご子息の!」

 

 アランは頭を下げた。

 

「はい。あのときは不躾なことを言って、すみませんでした」

 

 十年前、ラインハット城を回っていたときに出逢ったあの小さな男の子。王妃――今の太后の陰に隠れるように小さくなっていた少年に「友達になろう」と言ったことはしっかり覚えている。今から思えば次期国王に対して失礼な態度だったかなと思う。

 

 顔を上げたアランは、目の前にデールが跪いていることに気づき目を瞠った。

 デールは静かな声で告げる。

 

「パパス殿のこと、そしてあなたがたの故郷サンタローズのこと、すべてこの私の不徳と未熟が招いたものです。ラインハット国王として、深くお詫び申し上げます」

「デ、デール様!」

「受けてやれよ、アラン。これはこいつなりのけじめなんだ。国を背負う者が、国王の名で謝罪の言葉を口にするなんて、よっぽどのことなんだぜ」

 

 口調は軽いが、ヘンリーの表情は真剣だった。

 いまだ視線を落としたままのデールに合わせて、アランは膝を突いた。

 

「デール様、顔を上げてください。確かに十年前のことは不幸な、つらいことでした。でも今はあなたの兄、ヘンリーのおかげで前を向いて歩いて行けています。あなただって、長い間苦しんできたのです。もういいじゃないですか」

「アラン殿」

「僕は父の意志を継ぎ、それを成し遂げるために生きています。あなたのその謙虚な気持ちは、これからの国作りに役立ててください。父もきっとそう言うはずです」

「ありがとう……ございます……」

 

 俯いたデールの目から涙が落ちる。深い絨毯は涙の音と染みを毛先で包み込んだ。

 

 彼が落ち着いた頃を見計らい、ヘンリーが口を開く。

 

「デール。お前と朝まで語り明かしたいのはやまやまだが、今はそれどころじゃない。いくつか聞きたいことがあるんだ」

「兄さんなら、ここに来たときからそう仰ると思っていました。この国のこと、ですね?」

「どうなってる? 他の街にもラインハットの黒い噂が届いているみたいだし、街の様子を見ればその噂も真実だと言わざるを得ない。お前がいながら、なぜ……?」

「今のラインハット国王はこの僕。この国で起きたことのすべての責任は僕が負うべきだ。でも、正直、どうにもならなくなっている」

「もしかして……義母上(ははうえ)か?」

 

 ヘンリーの言葉にデールは目を大きく見開いた。

 

「どうしてそれを?」

「噂にはたいてい『太后様』ってのが出てくるんだよ。こいつが無茶苦茶やっているってな」

「そう……」

 

 デールは再び目を伏せた。唇を噛んでいる。

 

「兄さんの言う通り、母上はもう僕でも制御できないほどの強い権力をお持ちになっている。無計画な強国強兵策に走り、得体の知れない傭兵たちを平気で城に招き入れているんだ。多額の報酬を渡しているから、今のところ皆従っているけれど、国庫だって無限じゃない。母上が進めた方針によって、ラインハットの財政状況は危機的になっているよ」

(いさ)めようとは?」

「したさ! 何度も! でも聞き入れてもらえなかった。前から気の強い方だったけど、今はもう別人みたいだよ。きっと兄さんがいなくなったり父上が亡くなったりしたことと関係があるんだろうと思うけど――」

「いいかデール。よーく聞けよ」

 

 ヘンリーは義弟の肩を強く掴んだ。そして、あのことを告げる。

 

「この城で無茶やっている義母上は――偽物だ。本物の義母上はこの城の地下に囚われている」

 

 

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