【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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136.偽太后への対策

 

 ヘンリーから地下でのできごとを聞いたデールは、衝撃を隠せない様子だった。

 

「なんて……ことだ。母上が偽物にすり替わっていたなんて……! しかし、確かにそれならば母上が変わられたことも説明が付く」

「たぶん、モシャスじゃないかな」

 

 アランは言った。オラクルベリーでイナッツが使った呪文を思い出していた。

 重々しくヘンリーはうなずいた。

 それが事実だとすると、幼少からずっと姿を見てきたデールですら欺く力の持ち主ということになる。容易ならざる相手と考えるべきだった。

 

「しかしアラン殿、モシャスの呪文は長時間変身し続けることは困難を極めると聞いています。もともと人が修めることも難しい呪文だ。もしかしたら――」

「モンスターが化けている可能性もある、と?」

「それはあり得ますね」

 

 ふと、スライムナイトが言った。

 

「傭兵どもならともかく、取るに足らないただの人間の言葉に我らの同胞が従うとは考えにくい。より上位に位置する魔物が仕切っていると見た方がよいでしょう」

「わっ、おい! お前が喋っちゃ駄目だろが!」

 

 変化の石の効果が薄れることを恐れたヘンリーが慌てて制止する。スライムナイトは素知らぬ顔だ。

 デールは特に取り乱すこともなく、むしろ感心した様子でスライムナイトを見つめていた。

 

「……デール。お前、驚かないのか? スライムナイトが城内にいるんだぜ?」

「え? いや、てっきり僕はアラン殿が率いている魔物なのかなと。この世には魔物の邪気を祓い、心を通わせることができる『モンスター使い』なる稀有な力の持ち主がいると、昔本で読んだことがあるから。実際に見るのは初めてだけど」

「王よ。私はまだ従者となったわけではありません。アランの力は本物ですが、そこは誤解なきように」

「は、はあ」

 

 生返事をするデールにアランは苦笑した。

 ――『まだ』従者となったわけではない、か。

 スライムナイトが口にした言葉に心が動く。

 

 ヘンリーが腕を組んだ。

 

「とりあえず、まずは偽太后をどうするか、だな。地下に幽閉されている義母上を解放した上で、直接会って縛り上げてもいいんだが」

「そのやり方は得策とは言えないと思うよ、兄さん。母上――いや、偽太后はきっと、本物の母上を偽物だと断じて処罰してしまうだろう。今、彼らを問い詰めれば、母上の命が危なくなるんだ」

「てーことは、わざわざ義母上を生かしたまま地下にぶち込んだのは、いざというときの人質にするつもりだったってことか。ちっ、どこまでも汚い奴らだ!」

 

 ヘンリーが毒づく。アランは言った。

 

「何とか、偽太后の正体を暴く方法があればいいのだけれど」

「イナッツさんに聞いてみるか? モシャスの遣い手たるあの人なら、何か知っているかもしれないぜ」

「そうだね……少し時間はかかるけど、そうしたほうがいいかもしれないな……」

「正体を暴く……か」

 

 ふと、デールが口元に手を当て考え始めた。しばらく思考を巡らせ、彼はヘンリーに向き直る。

 

「兄さん。僕が昔読んだ本に記されていたことなんだけどね。ここから遙か南にある『神の塔』と呼ばれる場所に、真実を写し出すという不思議な鏡が安置されているらしいんだ」

「鏡? ……つーかデール。お前、昔に読んだ本の内容なんてよく覚えてたな」

「城の大書庫には面白い本がたくさんあったから、結構覚えてるよ。兄さん、まずあそこには近寄らなかったでしょ? 勉強が苦手だったものね」

「うっせ」

「僕の記憶が正しければ、その鏡があれば魔法によって姿を変えた者はもちろん、邪気を隠している魔物の姿も映し出すそうなんだ。もし、偽太后が僕たちの考えた通りの存在なら、その鏡があれば正体を皆の前で暴くことができる」

「なんだ。そんな便利なシロモノがあるのかよ。なら決まりだな」

 

 ヘンリーが指を鳴らす。

 しかしアランは表情を険しくしたままだった。

 

「でもデール様。神の塔というからには、攻略は容易ではないはずです。中に入る方法は明らかになっているのですか?」

「ええ、そのことなのですが」

 

 ふとデールが口をつぐんだ。じっと見つめられてアランは首を傾げる。

 

「何か?」

「いえ、大したことではないのですが。そのデール様という呼び名はちょっと……あなたは兄の大事な親友です。僕のこともデールと呼び捨てで結構ですよ。少なくとも、僕たちだけのときはそう呼んでいただけると嬉しいです。喋り方も、いつもの通りで大丈夫ですから」

「そうですか。わかりまし――じゃなかった、わかったよ。デール。その代わり、僕のこともアランでいいからね」

 

 アランは笑顔でうなずいた。懐かしい思い出が蘇ってくる。自分もまた、同じようなお願いをしたことがあったなと思った。

 

「それで神の塔についてですが。確かに文献でも入口は固く封印されているとありました。それを開くことができるのは、清らかな乙女のみ、と」

「清らかな乙女?」

「何かの()(ちょう)なのだと思うのですが、すみません。具体的なところまでは」

「清らか……清らか、かあ」

 

 天井を仰ぐヘンリーをアランは見た。親友には何か心当たりがあるようだった。しばらく考え、アランはおおよその見当をつける。

 

「もしかしてマリアに頼もうとしてない? ヘンリー」

「ぶっ!」

「やっぱり」

「マリア?」

 

 首をかしげるデールに、アランは簡単に説明した。奴隷生活を一緒に過ごし、ともに脱走したこと、今は海辺の修道院にいること。

 

 話を聞いたデールはうなずいた。

 

「なるほど、修道院ですか。オラクルベリーの南なら、神の塔にも近い場所にありますね。加えて女性ばかりが住んでいるとなると、何か情報を知っているかもしれません。兄さん、よければ護衛を出して迎えに行かせるけど、どうする?」

 

 デールが提案すると、ヘンリーは苦笑しながら首を横に振った。わずかに顔を赤らめる。

 

「自分の足で行くよ。マリアを迎えに行くのに、白馬はまだ早い気がするし」

「言うと思った」

 

 アランが笑うとヘンリーが背中を叩いてきた。

 何のことかわからないデールは首を傾げていた。

 

 

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