【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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137.剣を、抜け

 

 それからアランたちは、いくつかの段取りをデールと確認した。

 去り際、デールに呼び止められる。

 

「兄さん、これを。通行証だよ。これでいつでも城内に入ることができるから。でも、無茶はしないでね」

「助かる。義母上を頼む。ただなデール。お前こそ無茶をするなよ。休めるときはしっかり休んどけ」

 

 心配そうに言うヘンリーに、デールはうなずいた。

 

 不審そうにこちらを見る大臣たちの横を歩き、アランたちは謁見の間を出た。

 すでに日は昇りきっている。廊下には人が増えてきた。アランはヘンリーに尋ねた。

 

「ここを発つ前に閲兵式を覗いてみるかい?」

「……いや」

 

 ヘンリーは首を振る。

 

「やめとくよ。偽物の顔なんか見たくもない。きっと抑えがきかなくなると思うんだよ、俺」

「そうか。じゃあ、地下のお母さんはどうする?」

「筏はもうあいつらが乗って帰っちゃったからな。わざわざ地下に戻る必要もない。義母上のことはデールに任せよう」

 

 アラン、ヘンリー、スライムナイトは堂々と正面口から城を出た。目抜き通りは相変わらず人がまばらだ。すぐに裏路地に入り、仲間の待つあの宿屋跡に向かう。

 

「あっ、アランお兄さん! ヘンリーお兄さん!」

 

 二人の姿に気づいたジュディが建物から出てきて手を振った。背後からはカイルや仲間のモンスターたちがぞろぞろと出てくる。アランは手を振り返し、ヘンリーは呆れて言った。

 

「こら、ジュディとカイルはともかく、お前らが出てきたとこ見られたら大騒ぎになるだろうが」

「細かいこと気にしないでよ」

 

 メタリンが口を尖らせる。彼女はスラリンとともに、早速アランの肩に登っていた。

 

「みんな、いい子にしてたかい?」

「うん。ぼくいい子にしてたよ、アラン!」

「まったくコドモなんだから、あんたは」

 

 スラリンが嬉しそうに体を揺すり、反対側でメタリンが大きくため息をつく。変わりはないようだとアランは微笑んだ。

 それから皆を集め、アランはこれからのことを話した。

 

「ラインハットは今、大変なことになっている。どうやらこの状況、太后の偽物が仕組んだことらしいんだ。偽太后の正体を暴き、そして倒すため、僕たちはまず海辺の修道院に向かう。そこで情報を得たのち、さらに南にある『神の塔』に行く」

 

「神の塔……」と幼い姉弟がつぶやく。

 

「とても遠いところだ。だからジュディ、カイル。君たちとはここでお別れだ」

 

 アランは二人の頭を撫でた。ジュディは俯きながらもしっかりとうなずいたが、カイルはアランの手にすがりついた。

 

「もう行っちゃうの、お兄ちゃん? スラリンや、メタリンや、みんなも行っちゃうの?」

「ごめんね。でも、この国を元に戻すためなんだ」

「うう……っ」

 

 半泣きになる少年の頭に、今度はヘンリーが手を置いた。

 

「泣くなカイル。男はそんな簡単に泣くもんじゃねえぞ。姉ちゃん守れるのはお前なんだからな。しっかりしろって!」

「まもる……?」

「そうだ。その代わりに約束する。お前がきちんと家族を守るなら、俺は必ずこの国を良くするって。偽太后をぶっ飛ばして、また前みたいに賑やかで平和なラインハットを取り戻してみせる。絶対だ!」

「ヘンリーお兄ちゃん」

「男と男の約束だぜ? カイル」

 

 ヘンリーは拳を差し出した。カイルは自らの小さな手を握り、おずおずとヘンリーのそれに当てた。

 ジュディもまた、アランの手を握った。

 

「アランお兄さん。私たち、信じています。だからどうか、無事でいてください」

「ありがとう。ジュディ」

 

 アランは立ち上がった。皆の顔を見回し、表情を引き締める。

 

「さあ、出発だ!」

 

 

 

 街の出入り口まで見送りに来た姉弟に手を振りながら、アランはパトリシアの首を叩いた。

 

「また頼むぞ、パトリシア」

 

 待ちくたびれた、といった様子で白馬はいななく。それからアランは、馬車から少し離れたところを歩くスライムナイトに声をかける。

 

「そういえば、君の仲間はどこに行ったんだい? 宿屋跡にはいなかったけど」

「あそこです」

 

 スライムナイトが指差した先に、ドラゴンキッズ、イエティ、ダンスニードルが佇んでいた。手には小さな袋が握られている。

 

「ドラゴンキッズが上手く薬草を見つけ出してくれました。これで当面は大丈夫でしょう。礼を言います、アラン」

「いや、仲間が無事ならそれでいいよ。それで、さ」

 

 アランは頬をかいた。前々からずっと考えていたことを打ち明ける。

 

「君には、これからも僕たちの旅の手助けをしてもらいたいと思っているのだけれど……駄目かな?」

「いけません」

 

 即答だった。ここまできっぱりと断られるとは思ってもみなかったアランは、衝撃を隠しきれない様子でうなだれる。

 

 周囲は広い草原地帯だ。ラインハットの傍らを流れる大河の他は、遮るものが何もない。スライムナイトは馬車から離れ、草原のただ中に立つ。

 

「あなたが英雄英傑の素質を十分に持っていることは、この度の冒険で確認しました。それに見合うだけの実力も持っています」

 

 その言葉にヘンリーが声を上げる。

 

「そう思うんだったら力を貸してくれてもいいじゃんかよ。アランを認めているだろ、お前」

「だからこそ、です」

 

 そう言ってスライムナイトは――剣を抜いた。

 

「もうひとつだけ、どうしても確認しておきたいことがあります。それはあなたが、我が剣と心を託すに足る人物であるか、この身をもって確かめることです。それができるまで、あなたとともに歩くことはできません」

 

 丈の低い草原は、風を受けてさらさらと鳴っている。それはとても長閑な光景のはずなのに。

 

 ――空気が、凍てついたように重くなっていた。

 

「抜きなさい、アラン。あなたのその覚悟と想い、確かめさせてもらいます」

 

 

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