【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
飛び上がった一匹に追随し、残りのおおきづちもアランに突進してくる。
統制も何もない。ただただ怒りに任せてそれぞれが勝手に動いていた。
アランは彼らの動きを慎重に見極め、余裕を持ってかわす。勢い余ったおおきづちたちはたたらを踏んだ。
そのうちの一匹の背中に向かって、アランは力強く踏み込む。全身の力を使って、『かしの杖』を振り下ろす。
脇腹に痛み。あのときの痛恨の一撃がまだ身体に残っている。呻きが漏れそうになる口を真一文字に結び、アランは最後まで武器を振り抜いた。
『ひのきの棒』とは比較にならないほど鈍い音が立った。硬い杖の先端がおおきづちの身体を打ち据え、吹き飛ばしたのだ。おおきづちは壁に激突し、粉塵をまき散らす。
「坊主、危ない!」
道具屋が声を上げる。無事な一匹が横合いから木鎚を振りかぶっていた。
『かしの杖』はアランの身体よりも大きく、重い。一度大振りしてしまうと構え直すのに時間がかかる。その隙を突かれた。
嫌な記憶がアランの頭をよぎる。
だが今度は逃げなかった。自らを鼓舞し、無我夢中で『かしの杖』を振り回す。杖の先端がアランの頭上から弧を描き、木槌と真正面からぶつかる。
そのまま、木槌を弾き飛ばした。
『かしの杖』は、おおきづちの頭頂部を痛打した。衝撃で五指の先が痺れる。
動きを止めたおおきづちは、やがてゆっくりと前のめりに倒れる。動かない。そのまま、おおきづちの身体は粒子となって消えていった。
全身の力が抜けかける。
これでようやく二匹倒せたのだ。
「二匹……?」
あとの一匹は、どこにいったのだろう。
武器を構え直し、辺りを見回す。見つからない。
どこ。どこにいる――気を引き締めながら、杖を大上段にかかげる。
アランの周囲、広場に続く通路、荒削りの階段。
おおきづちの姿は、どこにもなかった。
「敵は逃げたぞ。ついさっきな」
道具屋の一言で、アランはようやく武器を下ろした。
おおきづちを撃退した。その事実を頭で理解するまで、少し時間がかかった。
「勝った……? 勝ったの、僕?」
「見事だったぞ、坊主。まさかその年で、おおきづち三匹を退けるとは!」
驚きと賞賛を込めて、道具屋がアランの背中を乱暴に叩いてくる。その痛みに涙目になりながら、同時に『これは夢や幻ではない』と確信した。
「あ、そうだ。おじさん、ケガはない?」
「おお。お前さんのおかげでぴんぴんしとるわ。世話をかけたの」
「よかった」
息をつく。すると今度こそ脱力で立っていられなくなった。尻餅をつき、『かしの杖』を地面に置く。自らの戦果を実感したとき、アランは両手で握り拳を作った。
道具屋の主人が手を差し伸べる。
「よく頑張ったな。ここから先はわしに任せろ」
「任せろって、おじさん、どうするつもり?」
「子どもひとりにいい格好ばかりさせられん。出口まで送っていく。それに、ほれ。なかなか言えんじゃろ。岩の下敷きになって子どもに助けられ、あげく帰りもその子に送ってもらいました、なんて」
そのときの道具屋の表情がとても可笑しくて、思わずアランは吹き出す。
目元の涙を拭いながら、差し出された道具屋の手を取った。
「よし、いいか坊主。そうれ」
かけ声とともに、道具屋がアランを背負う。肩車だった。『かしの杖』も拾い、アランに手渡す。最初は驚いていたアランも、かつてパパスに肩車してもらったときのことを思い出してからは嬉しくなって、身体を道具屋の背中に委ねた。
「モンスターから逃げ出したこと、これでお父さん許してくれるかな」
「はて。坊主の父親は、なんていう名だい」
「パパスだよ。とてもつよいんだ」
「パパス。おおっ!? 坊主、あのパパス殿の息子さんかい!? いや、どうりで強いわけだ!」
「えへへ」
アランは頬をかいた。後悔よりも嬉しさと誇りが胸の奥から湧いてくる。
道具屋の主人はしみじみとうなずいた。
「立派な親を持った子は、得てしてどこか難しい気質を心に抱え込んでいるものじゃが、お前さんは違うようじゃな。心配せんでもええ。パパス殿ならきっと許してくれる。胸を張って、強く生きる事だ」
「うん」
「よし。いい子だ」
道具屋は埃まみれの手で、同じく埃にまみれたアランの頭をなでた。
――こうして、アランは初めてのひとり冒険を無事、乗り切ることができたのであった。