【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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140.モンスターたちの楽園

 

 隻腕のスライムナイト、ピエールを仲間に加えたアランたちは、神の塔の情報を得るために海辺の修道院を目指すべく、出発前の荷の確認をしていた。人数が増え、大きな馬車はだいぶ手狭になっている。

 

「そういえばさ」

 

 ふと、ヘンリーが言った。

 

「あいつら、どうするんだ?」

 

 あいつら、とはピエールが連れていた仲間のモンスターたちである。成り行きなのか、ドラゴンキッズ、イエティ、ダンスニードルは一緒になって馬車の整理を手伝ってくれていた。

 

「あなたについて行くと申しています。いかがしますか、アラン」

 

 ピエールがアランに尋ねた。忠誠を誓って以降、呼び名こそそのままだが態度は完全に臣下のそれになっている。

 

「君の仲間なら、僕にとっても大事な仲間だよ」

 

 そう言い、アランはモンスターたちに近づいた。まずドラゴンキッズの頭に手を置く。

 

「君は、ドラゴンキッズのコドラン」

「グル?」

 

 小首を傾げるドラゴンキッズ、コドランに笑いかけ、残る二匹にも手を添える。

 

「イエティのイエッタ、ダンスニードルのダニー。君たちの名前だよ。どうかな?」

 

 イエティとダンスニードルは顔を見合わせたが、やがてこくこくとうなずいた。

 満足気にうなずき返すアランの元へ、ピエールがやってくる。

 

「アラン、ひとつお伝えしたいことがあります」

「なに?」

「彼ら、イエッタとダニーは、手先が器用でご命令にも素直に従う性格ですが、あまり戦闘が得意ではありません。あらかじめご留意ください」

 

 再びイエッタとダニーを見る。二匹は仲良く頭をかいた。アランは微笑む。

 

「君は仲間想いだね、ピエール」

「そうですか。特に意識はしておりませんが」

「そうだよ」

「なあアラン。こいつらを連れて行くのはいいんだけどよ」

 

 ふと、ヘンリーが言う。

 

「馬車に空き、もうないぜ?」

 

 振り返ると、食料や道具類を積み仲間がくつろぐ馬車の中は、確かにごったがえしていた。アランは控えめに言った。

 

「……僕が外で寝ても駄目?」

「いけません。我が主にそのような真似はさせられません」

 

 即座にピエールに止められる。顎に手を当て考え込むアランに、ヘンリーは提案した。

 

「モンスター爺さんに頼んでみるのはどうよ。あれを使ってさ」

 

 顎をしゃくった先にあるのは『送り壷』であった。この壷はモンスター爺さんが管理する別世界に繋がっているということを思い出す。

 アランは少し表情を曇らせた。仲間モンスターの誰かをこの壷で異世界に送れば、それだけ馬車に余裕ができる。でもそうすると、異世界に送られた仲間は『厄介払いされた』と誤解してしまわないだろうか。

 

 難しい顔をして考え込むアランを見るなり、ヘンリーは肩をすくめた。親友の逡巡に気づいたようだ。

 

「ま、おおかた仲間外れにしてしまうじゃないかって心配してるんだろうが、よく思い出せよ。モンスター爺さんが作ろうとしている世界のことを」

「……良きモンスターたちが幸せに暮らせる世界」

「そ。これから出会う奴らが皆ピエールみたいな戦闘狂とは限らねえだろ」

「誰が戦闘狂ですか。我が剣は戦い、守るためにあるのですよ」

 

 ピエールが苦言を言うがヘンリーはさらりと聞き逃す。

 

「スミスやイエッタ、ダニーみたいに、戦闘は苦手だが気のいい奴らだってたくさんいるはずだ。そいつらに作ってもらうのさ。楽園って奴をさ。もともと俺たちは、その目的のために送り壺やら変化の石やらを譲り受けたんだ。それによ、考えようによっちゃあ、俺たちと一緒に戦闘しながら旅をするよりずっと大変かもしれねえぞ。楽園を作る作業ってのは。立派な仕事だと俺は思うぜ」

 

 アランはうなずいた。それから改めてスミス、イエッタ、ダニーを呼ぶ。併せて他のモンスターたちも集めた。

 

「みんな、聞いてほしい。これから僕たちが進むのは、幾多の戦いから逃れることができない道だ。けれどもうひとつ、みんなに託したい道がある。君たちが安心して平和に暮らせる、君たちだけの楽園。それを作る手伝いをして欲しいんだ」

 

 集まった仲間モンスターたちはみな一様に顔を見合わせた。自分たちだけの楽園と言われても、いまいちぴんとこない。そんな表情だった。アランは語気に熱を込める。

 

「僕の知人に、モンスター爺さんと名乗る人間がいる。ここではない異世界にモンスターの楽園を作ろうと努力している人だ。その人の力となって欲しい。これから先、多くのモンスターたちが安心して暮らせるような場所を作るために。これは、僕じゃあできないことなんだよ」

 

 アランはスミス、イエッタ、ダニーを見た。

 

「無理強いはできない。けれど、君たちが良ければモンスター爺さんに君たちのことを紹介したい。僕たちとは別行動になってしまうけれど」

 

 するとイエッタが身振りで何かを伝えようとしてきた。

 

「戦いがない世界なら、行ってみたい。そう彼は言っています」

 

 ピエールが代弁した。ありがとう、とアランは言った。

 

 それからアランたちは、一路南を目指して出発した。海辺の修道院を訪ねる前に、一度オラクルベリーへと足を運ぶ。今回、アランは送り壺を敢えて使わず、直接、モンスター爺さんと話をする方法を選んだのだ。異世界に住むことになる彼らに、少しでも安心してもらおうという配慮からだった。

 道中は非常に不便だったが、アランの意図を汲み取り、ヘンリーは敢えて何も言ってこなかった。

 

 何日もかけてオラクルベリーに辿り着く。かつて訪ねたときと同じ、あの暗い地下室で調べ物をしていた彼は、アランからの報告を聞くなり飛び上がって喜んだ。助手のイナッツとともにスミスたちと会い、感激しながら自らの理想を熱く語った。スミスたちは話の内容をあまり理解できていない様子だったが、それでもモンスター爺さんの熱意は本物と気づいたのか、素直に彼の指示に従った。

 

「よろしく頼むよ、三人とも。また旅先で新しい仲間が増えて、君たちの作る世界に住みたいという子がいれば、すぐに案内するようにするからね」

 

 アランの言葉に、彼らはしっかりとうなずく。三匹の手を順番に、しっかりと握った。

 

 そして――短い別れを済ませたアランと仲間たちは、海辺の修道院に向けて出発した。

 

 

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