【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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147.さまようよろいの選択

 

『さまようよろい』はアランたちをじっと見据えたまま動こうとしない。抜き身の長剣を片手に、もう片方の手には頑強な大盾を握っている。

 アランは周囲に散乱した残骸を見た。それはばらばらに砕かれた、何体ものさまようよろいの成れの果てだった。すでに息絶えた彼らは、光の粒子となって消えていく。

『さまようよろい』とアランの視線とが交差する。静かな緊張が辺りを包んだ。

 

「……疲弊している」

 

 アランはぽつりとつぶやいた。

 そして無造作に歩き出す。

 

「あ、おい! アラン!」

 

 ヘンリーが驚きの声を上げる。アランは振り返らずに一言「大丈夫」と応えた。しかしヘンリーは動揺を隠せない。

 

「いや、信じてるけどさ。いくらなんでも……って、おいってば!」

 

 ヘンリー同様、他の仲間たちもうろたえている。

 そんな中、ピエールだけが静かに声をかけた。

 

「我が主。あなたが何を心に決めようと、あなたの剣となり盾とならんとする者がいることをお忘れなく」

「ありがとう。それじゃあ君も頼めるかな、回復呪文」

 

 その一言で魔物の騎士はアランの意図を理解したようだ。

「御意」と短くつぶやき、ピエールはアランに付き従う。

 やがて『さまようよろい』の数歩手前まで近づいたアランは、立ち止まって問いかけた。

 

「君は、ここで何をしているんだい?」

「……」

「見たところ、さっきまでいたのは皆、君の同胞だ。戦っていたのかい? もしよければ、その理由を聞きたい」

「……」

 

 さまようよろいは無言だった。

 

 

 

「あの。アランさんはどういうおつもりなのでしょうか……?」

 

 おずおずとマリアが口を開く。

 彼女が気が気でなくなるのも無理ないことだった。目の前にいるのは、同胞を何体も屠った凶暴な『さまようよろい』かもしれないのだ。下手に近づけば斬られてしまう可能性は十分あった。

 しかし付き合いの長いヘンリーは気づいていた。アランが何かしらの確信を抱いていることに。もう何度目か数えるのも馬鹿らしくなったため息をつき、ヘンリーは苦笑した。

 

「マリア、ここはあいつのやることを見守ろうぜ。君も知っているだろ? 大海原でしびれくらげの群に出会ったときのこと」

「え、ええ……」

「きっとあいつは今、あのときと同じようにモンスターの気持ちを汲み取っているんだ。だからこそ、あんな無謀にも見える会話をしてる」

 

 ヘンリーの言葉に、しばらく不安そうにアランと『さまようよろい』を見比べていたマリアは、やがて深呼吸をひとつした。アランを信じると、腹をくくった表情だった。

 

 足元でスラリンが飛び跳ねる。

 

「で、でもでも。あのヒト、なんだか怖いよっ」

「そりゃあお前がビビりだからだ。スラリン」

「そっ、そうかもしれないけど。なんか、『邪魔するなら容赦しないぞ!』って感じでどなられているみたいなんだもん!」

「敵意はそんなにない。今のところ」

 

 ブラウンが言う。アランの意を察して、彼女は武器を地面に下ろしている。

 仲間たちが固唾を呑んで見守る中、アランはしばらく『さまようよろい』に語りかけ続けていた。

 

 そのときである。

 吹き抜けとなった空間の下から、ふよふよと小さな影が現れた。スライムのような目鼻立ちに加え、体からはいくつもの触手が生えている。――『ホイミスライム』だった。

 ホイミスライムはアランたちに怯えたように中空をうろついていたが、やがて『さまようよろい』の背後にぴったりと隠れ、ホイミを唱え始めた。

 

 ヘンリーが眉をひそめる。

 

「あの鎧の仲間か?」

「傷を癒しているようですね。けど何だか、とても一生懸命に見えます」

 

 マリアの言う通り、ホイミスライムは『さまようよろい』の背後で何度も触手を上げ下げしながら呪文を唱え続けていた。癒しの光がさらさらと『さまようよろい』に吸収されていく。

 だが『さまようよろい』はホイミスライムの呪文の詠唱を手で遮ると、まるで「まだ隠れていろ」とでも告げるように押しのけた。ホイミスライムは泣きそうな表情を浮かべる。

 

「まるであんたね、スラリン」

 

 メタリンが揶揄すると、途端にスラリンは頬を膨らませた。

 

「僕泣いてないよ! それにあの子、とっても一生ケンメイだよ!」

「頑張ってるのは認めるけど。あの鈍くさいところはあんたそっくりって言ってんの」

「もぉー!」

「おいおい止せよ、こんなときに」

 

 騒ぎ出す二匹をいさめつつ、ヘンリーは改めて『さまようよろい』たちを見た。アランがなぜ最初に説得を試みようとしたのか、その理由をおぼろげに察する。

 

 ――さしずめ、あの『さまようよろい』は誰かさんを守るために同胞に牙を剥いた、と。それにアランは気づいて、もうそんな無茶は止めろと説得している。そんなところかな。

 

「……まったく。ことモンスターのことに関しちゃ、どうしてこうもうちの大将は勘が働くかねえ」

 

 笑いながらぼやくヘンリーの前で、アランはベホイミの呪文を唱えていた。『さまようよろい』とホイミスライム、両方にかける。彼の顔にはすでに、ヘンリーと同じように笑みが浮かんでいた。

 

 アランと並んで回復呪文を唱えていたピエールが、主に告げる。

 

「この神の塔を出たい。彼らはそう申していますが、いかがされますか? 我が主」

 

 答えなど分かっているくせに――ヘンリーは思った。

 案の定、アランはピエールに向かってうなずきを返した。そして、さまようよろいたちに名前を与えた。

 

 さまようよろいの『サイモン』。

 ホイミスライムの『ホイミン』。

 

「よろしくね。ふたりとも」

 

 アランが言うと、さまようよろいとホイミスライムはアランの前に並んだ。

 アランの一行に加わることを受け入れた瞬間だった。

 

 

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