【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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15.無事に帰るという成長

 

 道具屋の主人とともに無事、洞窟から帰還したアラン。

 その夜のことである。

 

「聞いたぞ、アラン」

 

 少し切れていた口内の痛みを我慢しながら夕食のスープを飲んでいたアランに、パパスが声をかけた。アランは身体を震わせる。食器が触れ合い、高い音を立てる。

 怒られると、アランは思った。

 今から思えば、自分はずいぶん無茶をした。その上、モンスターから情けなく逃げ出したこともあったのだ。持ち前の勇気も、自らの失態を正直に告白するには足りず、アランはパパスに事実を告げられずにいた。

 

 恐る恐る顔を上げる。父は怒っていなかった。いつもの精悍な顔に、どことなく呆れた表情を浮かべていた。

 

「親父さんから聞いたぞ。ひとりで洞窟の奥まで入っていったそうじゃないか」

「ご、ごめんなさいっ」

 

 スプーンを持ったまま頭を下げる。するとパパスは目尻を下げた。

 

「まあ、無事に帰ってきたのだ。よくやったな」

「え?」

 

 てっきり叱責が飛んでくるものと思っていたアランは、目を丸くする。

 サンチョが困惑の声を上げた。

 

「しかし旦那様、私は気が気じゃありませんでしたよ。お昼になっても坊ちゃんは帰ってきませんし、帰ってきたら帰ってきたで怪我をされていたじゃありませんか。もう大慌てだったんですよ?」

「はっはっは。相変わらずお前は心配性だな。あの洞窟はモンスターこそ出るが、村人も入る整備された場所だ。確かにひとりきりで入ったのは感心せんが、ま、何事も経験だ」

「そ、そういうものでございましょうか」

「そうとも」

「あ、あの。お父さん」

 

 パパスが振り返る。しばらくうつむいてもじもじと手を合わせていたアランは、意を決して告げた。

 

「僕、実はね。モンスターから、その、にげちゃったんだ。こわくなって、痛くて……。お父さんなら絶対ににげないはずなのに。僕、お父さんのこどもなのに」

「それは本当か、アラン?」

「……うん」

「そうか」

 

 深くうなずくパパス。今度こそ、アランは叱責を覚悟した。

 パパスはスプーンをテーブルに置くと、目を閉じて言った。

 

「それはますます、お前のことを見直さなければならないな。アラン」

「お父さん……?」

「人間、誰しも怖くなるときがある。強大なモンスターの前には敗れ去ることもあるだろう。そんなとき大切なのは、命を粗末にしないことだ」

 

 目を開けた父は、自らを責めて小さくなっている息子を慈愛の眼差しで見つめた。

 

「逃げたことを気にしているのなら、それは筋違いというものだ。時には逃げて、自分の身を守る必要もある。生きていれば再戦の機会もあるだろう。それがさらなる成長へと繋がることもある。だが死んでしまっては、元も子もないのだ」

「僕が逃げたこと、怒ってないの? お父さん」

「うむ。アランよ。お前は敵に敗れてもなお、自らの目的を果たした。そして無事帰ってきた。お前の目を見れば、相応の試練を乗り越えてきたことはわかる。怒る気にはならんよ」

「それでも……ごめんなさい」

 

 アランは再び頭を下げた。その息子の頭をパパスの大きな手がなでる。父は言った。

 

「大切なのは生き残ること、生き残る意志を持つことだ。――しかし」

 

 ふと、パパスが遠い目をする。

 

「時には、たとえ命を捨てることになろうとも戦わなければならないときがある」

「旦那様」

 

 何かに思い至ったのか、サンチョの声が沈んだ。

 パパスがアランに向き直る。

 

「アランよ。逃げるなとは言わない。だが自分が何のために戦っているのか、何のために生きようとしているのか、それは忘れてはならぬ」

 

 アランは目を伏せた。言葉の意味はよくわからなくても、父がそこに込めた想いの深さは肌で感じ取ることができた。

 弱気も怖れも振り払い、アランは父の目を見つめる。「はい」と、力強くうなずいた。

 パパスが破顔一笑した。

 

「そろそろ、お前にも剣の稽古をつけなければならないな」

「え、本当!?」

「うむ。しかし、最初は稽古用の木剣からだぞ。おお、そうだ。子供用に短くする必要があるな。どこまで短くしようか?」

「お、お父さん。からかわないでよっ」

「はっはっは」

 

 頬を膨らませるアランの前で、パパスは気持ちよさそうに笑い続けていた。

 

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