【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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151.作戦開始

 

『運命は河の流れに身を任せるがごとし。

 幾星霜と続く巨大な営みの前では人の努力は小さな泡沫。だが、人の生もまたちっぽけであるがゆえに、大河の中でのわずかな努力が、その者の行く末を決める。

 ……お前さんたちには、心当たりがあるのではないかの』

 

 背を向けたままそうつぶやいた老人の姿が、アランの脳裏をよぎる。

 ラインハットの関所を抜け、草原をひたすら歩く道中のことである。

 

 いったい何時からそこにいるのか、ラインハット側の関所でじっと河の流れを見続ける老人。アランの記憶が正しければ十年も前からあそこにいる彼は、決意の表情で関所を抜けたアランたちに向かい、突然このように告げた。

 

 老人の姿も見えなくなったころ、ピエールがつぶやく。

 

「不思議な老人でした」

「あたしには何を言っているのかさっぱりだったけど」

 

 メタリンだけでなく、スラリンもむつかしい顔をする。

 アランは老人の言葉を反芻した。

 

「運命、か」

「アラン。今は俺たちにできることをするだけだぜ」

 

 真剣な表情を崩さないヘンリーが言った。ここ数日、彼は四六時中神経を張り詰めている。アランは言葉少なにうなずく。

 背嚢には、神の塔で手に入れた鏡が大切に保管されている。この鏡を使えば、偽太后の正体を暴くことができる。相手は国を乗っ取ろうと画策する輩だ。正体が見破られたからといって、大人しく引き下がるとは到底思えない。

 

 何より。

 無二の親友であるヘンリーを哀しませ、その弟デールを苦しませた。挙句、アランの故郷を、本当に大切な故郷を焼き払った。

 断じて許すわけにはいかない。

 

 ――やがてラインハットのくすんだ街並みが見えてくる。相変わらず、生気に欠けた姿を晒していた。

 アランたちは人通りがより少なくなる日没まで待つことにした。デール国王が発行した通行証があるため潜入自体は格段に楽になったものの、無用の混乱は避けるべきと判断したためだ。

 偽太后さえいなくなれば、現在の方針を改めラインハットの立て直しへと舵を切ることができる。

 

 だが、事態は予想外の方向に進んでいた。

 

「街が、騒がしい……?」

 

 目抜き通りを進みながらアランは眉をしかめた。以前来たときは人通りもまばらで、皆そそくさと家路を急いでいた感があったが、今は路地のそこかしこで人々が顔を突き合わせている。ひどく困惑した様子が見て取れた。

 

「どけどけっ! 邪魔だ!」

 

 背後から怒鳴られ道を開ける。見ると兵士たちの一団が慌ただしく城に戻っていくところだった。そういえば、先程から街を巡回する兵士たちの姿をほとんど見なくなっていた。

 

「今度は何が起きているってんだ」

「嫌な予感がする。ヘンリー、作戦を変えよう。このまま城内へ」

「そうだな。デールが心配だ」

 

 アランは仲間モンスターたちを振り返った。

 

「打ち合わせ通り、これから別れて行動する。僕とヘンリー、ピエールは正面玄関から、スラリンとメタリン、コドランは一足先にデールの元へ。ドラきち、君も一緒に。残りは地下通路から城内に入るんだ。ブラウン、筏の保管場所は覚えているね?」

「任せて。(かしら)

 

 力強く頷くブラウン。アランは彼女らに城の中庭で落ち合うよう伝えた。

 

「デールと連絡が取れ次第、次の行動に移るよ。城内では何が起こっているかわからない。十分に注意するんだ。特にスラリンたち、何か異変があったらドラきちを飛ばしてすぐに教えてくれ」

「まあ任せなさいって。あたしがいれば百人力よ」

 

 メタリンが請け負った。その答えに満足したアランは、仲間たちに行動開始を告げた。

 

 仲間モンスターがそれぞれ城へ向かったことを見届けて、アランたちも正面入口へと走る。衛兵たちに通行証を見せると、彼らはどことなく上の空で内容を確認していた。

 

「よ、よし。入っていいぞ。だが城内ではあまりうろちょろするなよ。用事が済んだら、さっさと出るんだ」

「慌ただしいようですが、何かあったのですか?」

「俺にも何がどうなっているのかさっぱりだが、太后様が――」

「おい、やめろ」

 

 口を滑らせた男を同僚がたしなめる。アランとヘンリーは顔を見合わせた。その場は敢えてそれ以上聞かず、彼らは足早に城内へと入った。

 

「まさか、こっちの動きを悟って何か仕掛けやがったのか?」

 

 周囲を見回す。以前城に侵入したときよりも人の数が増えていた。よく観察すれば、謁見の間へと続く通路を近衛兵が塞ぎ、城勤めの使用人や傭兵たちが締め出しを食らっていることがわかった。

 

「ここは駄目だ。一旦皆と合流しよう。中庭へ」

 

 アランが言う。幸い、厨房から中庭に抜ける道は閉鎖されていなかった。人の気配に注意を払いつつ、中庭の端に集まる。ちょうど地下から仲間モンスターたちが姿を現すところだった。

 

「頭」

 

 アランの姿を見るなり、ブラウンが駆け寄ってくる。冷静な彼女にしては珍しく、慌てた様子で報告をした。

 

「たいへん。本物の太后がいなくなってる」

「何だって!?」

 

 

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