【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
きらびやかな衣装。
結い上げた髪。
刃物のように鋭い目。
すべてがうり二つの彼女らは、今にも噛み付きそうな表情で睨み合っていた。
太后の一方が、アランたちを指差して叫ぶ。
「デール、この者たちは一体何なのです。兵たちよ、何をしている。早くこやつらを引っ捕らえ、妾の前から追い払うのです」
国王であるデールを無視し、傲然と命令する。
一方、もう一人の太后は何かを言いかけて、ぐっと口をつぐんだ。
無言を貫く太后を、居丈高な太后が忌々しそうに睨む。
「言うまでもないが、この不届きな偽物も同様。いえ、この者には特別厳しい罰を与えなければ。さあ、早くなさい!」
「太后様……」
兵士たちはいまだ戸惑いの表情を浮かべたまま動かない。
太后は忌々しげに声を荒げた。デールを、そして周囲に控える兵士たちを睨んだ。
「そなたたち、妾に逆らえばどうなるかわかってるのか? 一族郎党、みな日の目を見ること叶わなくなるのだぞ。デール、あなたもあなたです。可愛い我が子ながら、あまりに無責任な態度。これは少し教育をし直さなければなりません」
太后の恐ろしさはこの場にいる誰もが肌身で知っているのだろう。皆、凍てつく空気に包まれたように体を硬直させ、目を伏せた。デールは怒りと迷いを混在させた表情で、母と名乗る女を見据えている。
アランはゆっくりと前に進み出た。いまだ言葉を喋らない太后を見る。彼女は静かに瞑目し、数歩、もう一人の太后から距離を取った。アランにすべてを任せると言うように。
「何なのです、そなたは」
アランを前にした太后は不機嫌さをむき出しにした。自らの恫喝にもまったく動じないアランに不快感を抱いているようだった。
アランは答えない。険しい表情のまま、彼は背嚢に手を入れた。中から出てきた鏡を見て、太后の表情が強張る。
怒りを腹の底に秘め、アランは静かに告げた。
「こうして前に立つとわかる。貴女からは、邪気がする」
「なんですって。何と無礼な!」
「無礼かどうかは、この鏡が示してくれる」
アランは鏡を高々と掲げた。陽光を吸い込み、鏡面は周囲の景色をはっきりと映し出した。しかし、そこに本来映るべき太后の姿はない。
あるのはただ、黄土色に膨らんだ醜い魔物の姿――。
「鏡よ。魔物の正体を暴き、真実を映し出せ!」
直後。
鏡はまばゆい輝きを放ち、目の前の太后を包み込んだ。
絹を裂くような悲鳴が、次第に野太く低い唸り声へと変わっていく。アランが鏡をしまっても、太后の変化は止まらなかった。
豪奢なドレスを内側から引きちぎり、太后の体はどんどん横に膨らんでいく。ドレスの切れ端と、その下から現れた鎧のように無骨な皮膚が、不均衡な服飾となってその異様さを際だたせる。豪奢な髪は何日も陽光に焼かれたように縮れ、不気味にうねった。
偽太后は魔物の姿となって皆の前に姿を現した。
どよめきが走った。息を呑み、衝撃を隠せないデールの肩を叩き、ヘンリーがアランの元まで駆け寄った。そして手にしたくさりがまの刃を突きつけ、怒声を上げた。
「貴様が義母上に化けてやがった野郎か。許さねえ!」
「……まさか我が変化が破られるとは」
悔しそうに偽太后は歯噛みする。醜く崩れた顔貌に怒りの表情が浮かぶ。それは岩の表面に無造作に粘土を貼り付けたような、とても人のものとは呼べないものだった。
「愚かで世間知らずな国王を傀儡とし、この国の実権を握る算段だったが……ええい、面倒だ。この場で全員食らってくれる」
「アラン、来ます。ご注意を」
側にたったピエールが鋭く警告する。腹に響く絶叫を上げた偽太后は、その巨体からは想像もできないほど俊敏な動きで突進してきた。
右手の爪が伸び、横凪ぎに振う。アランたちは何とかかわすが、偽太后は突進の勢いそのままに壁に向かって突っこんでいく。ラインハットの兵士たちが数人、悲鳴を上げながら吹き飛ばされた。
「ホイミン、クックル、スラリン! 皆を安全なところへ。ブラウン、君は彼らの護衛をしてくれ。残りは全員、僕に続け!」
アランの号令に仲間たちは素早く反応する。苛立たしげに偽太后は吼えた。
「小僧! そして魔物でありながら人間についた裏切り者ども! この場で全員滅ぼしてくれるわっ!」
「けっ! やれるもんならやってみやがれ、このデカブツが! 言っとくが、こっちは貴様に負ける気なんかさらさらねえんだよ。必ずぶっ倒す!」
ヘンリーが吼え返した。アランは鋼の剣を抜き放ち、偽太后に突きつけた。腹の底から声を絞り出す。
「突撃ぃっ!」
「がああああっ!」
アランたちの咆哮と偽太后の絶叫が真正面からぶつかりあった。