【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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155.偽太后戦 2

 

 まるで薄紙を焦がし侵食するように、石畳の上を火炎が舐める。熱が通り過ぎた後も、焦げた空気の匂いが滞留する。

 余熱を放つ地面に、アランたちは突っ伏した。

 

「くくく」

 

 よろめきながらも偽太后が笑みを漏らす。その口から溢れた炎が小さく渦を巻く。

 

「なかなかしぶとい連中だったな。まあ、よく保ったというところか」

「まだだ」

「なにっ!?」

 

 驚愕する偽太后の前で、アランは膝に手を突き身体を起こし、醜き敵を強い意志を込めてにらみ据えた。彼だけではない。かたわらでアランを守っていたピエールとサイモンも同時に立ち上がる。

 ピエールが身体を揺すり、盾の熱を払う。炎に耐性のある彼はアランに比べて軽傷であった。

 

「アラン、大丈夫ですか」

「大丈夫。まだ戦える」

「油断しました。まさか火炎の息を使うとは。アラン、サイモン。動かないでください」

 

 ピエールが回復呪文を唱える。全身が鎧のサイモンはすぐに機敏な動きを取り戻したが、生身のアランは回復が遅かった。火傷を負った皮膚と、熱波に灼かれた肺が彼の体力を奪っている。

 

「アラン。あなたも回復呪文を」

「いや、僕はいい。それより皆は無事?」

 

 アランは仲間を振り返った。炎に強いコドラン、メタリンは無事だったが、ドラきちとヘンリーの火傷が酷い。彼らは地面で呻き声を上げていた。特にヘンリーは歯を食いしばり、必死に体を起こそうとしている。

 

「ち、くしょう。お前なんかに、負けるかよ。まだまだ、俺はお前を殴り足りないんだ」

「ヘンリー、待ってて。すぐに傷を」

 

 自らの治療を置いて友の元に駆け寄ろうとしたアランに、ピエールは鋭く警告する。

 

「アラン、いけません。次の攻撃が来る!」

 

 舌打ちしたアランが振り返る。忠義の騎士の言葉通り、偽太后は第二撃を加えようと再び身体を膨張させていた。

 

「しぶとい奴らめ。今度こそ消し炭にしてくれるわ!」

「しつっこいのはアンタの方よ! ムカツク!」

 

 メタリンが怒声を上げながら突っこむ。しかし、直前でがいこつへいたちに阻まれる。偽太后は再び魔物を呼び寄せていた。

 がいこつへいは、偽太后との間に壁のように立ち並ぶ。知能がない彼らは、自らのボスが何をしようとしているのか理解していない。偽太后はがいこつへいもろとも、アランたちを火炎の息で焼き払うつもりなのだ。

 アランが歯を食いしばった、そのとき。

 

「――、ニフラム!」

 

 どこからか呪文が響く。同時にがいこつへいの頭上に光の輪が現れ、その白く眩い光の中へ彼らを吸い込んでいく。

 目を瞠るアランたちの横を、何かが高速で過ぎ去った。

 

「クルルルルッ!」

 

 高らかに鳴き声を響かせ、クックルが偽太后にたいあたりを仕掛けた。腹に直撃を受け、偽太后の口から炎が切れ切れに吐き出される。

 クックルの背にはスラリンとブラウンが乗っていた。おおきづちを背負ったブラウンがひらりとクックルから飛び降り、地面に着地するなり得物を大きく振りかぶる。

 

「会心の――いちげき」

 

 目を剥く偽太后の腹目がけて、ブラウンの渾身の打撃が炸裂する。石畳を振るわせる衝撃で偽太后の皮膚はうねり、天に向かってまるで噴水のように炎を吹き出す。

 

「――、ホイミ」

 

 遅れてやってきたホイミンが、倒れ伏すヘンリーとドラきちに回復呪文をかける。おどおどした仕草ながら懸命に仲間を癒したかいあって、間もなくヘンリーたちは立ち上がることができた。

 

「助かったぜ、ホイミン。ばっちりだ」

 

 片目を閉じて笑みを見せるヘンリーに、ホイミンは照れくさそうに触手を動かす。

 頼もしい味方の登場に、アランは安堵の息を吐く。

 

 そこへ、ピエールとブラウンが同時に「前を」と言った。

 焼け焦げた石畳、サイモンによって斬り伏せられたがいこつへい。その奥に、歯がみする偽太后が立っている。

 

「道が開けました。突撃の好機です。ご命令を」

「ああ。わかった」

 

 アランは鋼の剣を構えた。ひとつ息を吸い、腹の底から叫ぶ。

 

「これで終わりにするぞ。全員、突撃ッ!」

 

 アランを先頭にヘンリーが、仲間モンスターたちが一気に偽太后に向かって駆けた。正面から、右から、左から、上から――偽太后を追い詰める。

 だが相手も一筋縄ではいかない。痛打を浴びながらも偽太后はその強靱な両腕を振い、迫り来る敵を弾き飛ばそうと躍起になっている。

 

 力を、権力を集中し、ひとりですべてを牛耳ろうとした者と。

 仲間と力を合わせ、それぞれの長所を生かしながら戦う者と。

 両者の違いは、やがて決定的な差を生んだ。

 

 偽太后が絶叫した。その腹には戦士たちの剣が三方向から突き刺さっている。両の腕はアランたちの度重なる攻撃で力を失い、さらに偽太后の視界は呪文によって奪われていた。

 身体に突き立てた剣の柄を強く握りながらアランは叫ぶ。

 

「今だ、ヘンリー。行けぇっ!」

「おうっ!」

 

 応えたヘンリーの姿はクックルの上にあった。偽太后の頭上高く飛び上がったクックルの背から跳躍する。偽太后の姿を捕捉し、くさりがまの刃を向けながら、ヘンリーは空中で吠えた。

 

「偽太后! お前がこの国で犯した数々の罪の報いだ。今ここで受け取れ!」

「こ、この小僧どもがっ。誰のおかげでラインハットはここまで強く……っ」

「お前が持ち込んだのは本当の強さじゃねえ!」

 

 風を切り、ヘンリーは体ごと刃を叩き付ける。その刃先は過たず、偽太后の眉間に深々と突き刺さる。

 目を極限まで見開いた偽太后の鼻面に、ヘンリーは握り拳を突きつけた。

 

「人、舐めんなよ?」

 

 その一言と同時に、偽太后は長い長い悲鳴を残して崩れ去った。

 

 

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