【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
それから数日後。アランがラインハットを発つ日がやってきた。
別れの時、アランとヘンリーは互いに多くを語らず、ただ微笑み合うだけだった。そんな二人の様子をどことなく羨ましそうにデールが見つめていた。
アランは青年国王に頭を下げる。
「ありがとう。お世話になりました」
「またいつでもお越し下さい。僕も兄さんも、あなたを歓迎しますよ」
「はい。ぜひ」
それからヘンリーを見る。
「じゃあ、元気でね」
「ああ。お前もな」
「マリアによろしくね」
片目を瞑ってみせると、ヘンリーはわずかに顔を赤らめて苦笑した。
「それじゃあ皆、行こうか」
アランは仲間たちに声を掛け、馬車を進めた。デールが調べてくれた情報で、ここから南西にある大陸に、伝説の勇者ゆかりの品を持つ人物がいるらしいということがわかっている。
目指すは新大陸。
アランたちは一路、船が停泊しているビスタの港へと向かった。
アランたちがラインハットを出発して、またしばらくの後――。
静かな海辺の修道院の一室で、小さな女の子がペンを片手に書き物をしていた。彼女は最近、文字の練習を兼ねて日記を付けているのだ。
『きょうは とてもいい天気です。風がきもちいいです。
きのう しゅうどういんにお手紙がとどきました。とってもきれいなかみで いいにおいまでして とてもびっくりしました。
お手紙は マリアおねえちゃんからでした。
すごくきれいな字なんだけど わたしには ちょっとむずかしかったです。
でも あとでシスターにきいたら とってもだいじなお手紙なんだって。
おねえちゃんは ちょっと前にこのしゅうどういんから おでかけしてしまいました。さみしかったけど しかたないです。
だって おねえちゃんをむかえにきたのが 白いお馬さんにのった ラインハットのおうじさま だったからです!
よくみたら ヘンリーおにいちゃんだったので にどびっくりです。でもちょっとだけ なーんだ と思いました。だって おにいちゃんはまえに ぜったいマリアおねえちゃんをむかえにくるって言ってました。やくそくを守るのは とうぜんだと思います。だから おなじびっくりでも ヘンリーおにいちゃんがいたのは ちっちゃいびっくりです。おっきなびっくりは ヘンリーおにいちゃんがラインハットのおうじさまだったことです。ほんとだったんだね。
お馬さんきれいだった!
またあえるかな お馬さん。あえるよね。
だってきょうは みんなでおめかしして おしろにいくんだから。
ばしゃでおむかえなんて どきどきです。まるでおひめさまに なったみたい!
でもなんで シスターもおめかししているのかな。まちのおまつりにも ふつうのかっこうなのに きょうははじめてみるかっこうです。白くてぴかぴかなの。
きいたら これはぎれいようのふくよ って言ってました。
ぎれいよう、ってなに? むずかしいので あとでおべんきょうしないといけません。にがてだけど がんばります。
にっきはもっていこうと思います。おしろで いっぱいいろんなことをかくんです。どんなところかな。たのしみだな。』
「リリィ、リリィ。どこ? もう馬車が出発するわよ」
「はーい。いまいきまーす!」
少女は日記を閉じ、丁寧に綴じ紐で括ると小さな荷物袋に大事そうに入れた。修道院の教えで、自分のものは自分できちんと用意できるようにならないといけないのだ。彼女は忘れ物がないか指折り数えていた。
「あれ? どこまでかぞえたっけ」
「リリィ、大丈夫だから早く外に出なさい。みんな待ってるわ」
先輩シスターから諭され、少女はうなずく。
荷物を背負って戸口をくぐるとき、少女はふと首を傾げた。いつもは時間や規則にうるさいシスターなのに、今日に限って小言が少ない。それどころか穏やかな微笑みまで浮かべている。
少女はその理由がよく理解できなかったが、家族も同然のシスターが嬉しそうなのは素直に喜ばしいことだった。うきうきした気持ちでシスターと手を繋ぎ、修道院を出る。そこで待っていた、陽光に照らされた純白の馬車の数々に「うわぁっ!」と感嘆の声を上げた。
興奮で顔を赤らめながら、少女は先輩シスターに尋ねた。
「ねえ、お城でなにがあるの?」
振り返ったシスターは口元に手を当てて笑う。遠くを見つめるように目を細め、言った。
「マリアにとって大事な大事な、神の祝福を受ける日が来るのよ」
「神さま? しゅくふく?」
「だからリリィも、マリアを祝福してあげてね」
「うん! でもどうすればいいの?」
シスターは片眼を閉じた。
「こう言ってあげなさい。『マリアお姉ちゃん、結婚おめでとう!』って」