【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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16.親たちの希望

 翌朝。

 

 アランはパパスから「出かけるので準備をしなさい」と言われた。まさかもう旅に出るのかと父に問うと、パパスは笑って首を振った。

 事情がわからないままついて行くと、村で唯一の宿屋の前でパパスは足を止めた。

 

「少し待っていなさい」

 

 そう言ってパパスは宿の中に入っていく。アランは不思議に思いながらも、戸口の横で大人しく待った。使い慣れた外套と帽子を身につけ、背中に『かしの杖』を背負っている。格好だけ見れば立派な旅装である。

 

 何があるんだろう。そう思っていると、さほど間を置かずパパスが出てくる。

 彼の後ろに誰かがいる。金色のおさげが勢いよく跳ねるのが見える。

 

「あ、アラン! じゃあアランもいっしょに行ってくれるの?」

「ビアンカ? いっしょに?」

 

 アランは目をしばたたかせた。ビアンカが父に連れられて出てきたのも謎だし、彼女が口にした言葉も意味がわからなかった。ビアンカに続いて彼女の母親であるおかみも出てくる。

 よく見れば、ビアンカもおかみも前に宿屋で見たときとは格好が違っていた。

 

 パパスは言った。

 

「親父さんが帰ってきたことでおかみさんも無事、薬を手にすることができた。これからアルカパへ帰るそうなのだが、やはり女二人では心許ない。そこで私が送っていくことにしたのだ」

「すまないねえ、パパスさん。いつもいつも」

「なに、気にしないでくだされ。その代わり、今回は我が息子も連れていこうと思うのです。構いませんかな」

「ええ。もちろん。よろしくね、アラン」

 

 おかみに笑いかけられ、アランは目を丸くした。

 

「アルカパまで、みんなといっしょに?」

 

 ああそうだ、とパパスがうなずく。疑問が解け、アランは喜びで胸がいっぱいになった。力を込めてうなずく。

 

「うん。わかったよ、お父さん! 僕、がんばる」

「やった。アランといっしょだ」

 

 無邪気に喜ぶビアンカ。はしゃぐ彼女につられ、アランはビアンカと手を合わせた。

 子どもたちの姿に親二人は表情を緩める。

 

「では早速行くとしよう」

 

 パパスの先導で、アランたちはサンタローズを出発した。

 

 

 

「ねえねえ」

 

 村を出てすぐ、ビアンカが声をかけてきた。その顔には何やら嬉しそうな、それでいて意地の悪そうな笑みが浮かんでいる。

 

「どうくつの奥で、おじさんを助けたってほんと?」

「うん。ほんとだよ」

 

 特に嘘をつく理由がなかったので、アランは素直に認めた。しかし、事実を耳にしてもビアンカの表情は変わらない。

 

「ほんとにほんと? わたしてっきり、おじさんがアランを助けたのかと思ってた。それでアランがえっへんって胸をはってるんじゃないかって」

 

 さすがにアランも気を悪くして、幼馴染みに抗議する。

 

「ほんとのことなのに。ひどいよビアンカ」

「えへ。ごめん。うん、すごいねアラン! ほんとにすごいよ!」

 

 今度は手放しで誉めてくれた。満面の笑みを見ると、今更ながらに恥ずかしくなる。

 

 それからしばらく、アランとビアンカは洞窟での話や、そこでアランが手に入れた『かしの杖』の話で盛り上がった。子どもたち二人が仲良くおしゃべりしている様子を見て、二人の親は穏やかに微笑む。

 ふと、アランやビアンカには聞こえないように、小声でおかみがパパスに言う。

 

「これは将来が楽しみだねえ、ふたりとも」

「楽しみ、とは?」

「大きくなったら立派で格好いい子に育つよ、アランは。親の私が言うのも何だが、うちのビアンカもあれで結構な器量よしだ。大きくなって、ふたりがずっと一緒になってくれたら私も安心なんだがねえ」

「はは。まだまだ先の話ですぞ」

「おや。子どもの成長なんか、親が考えるよりずっと早いものだよ。今から将来のことを考えたって、遅くなんてありゃしないさ」

 

 想像したのだろう。パパスの表情が複雑なものになった。

 彼は腕組みをして真面目に応える。

 

「確かに伴侶を持つことはとても大切なことだ。だが私はひとところに腰を落ち着けぬ身。おそらくアランも同様だろう。いかに仲がよいとは言え、それは相手にとってつらい思いをさせることにはならないだろうか」

「何を言ってるんだい。そういうのは余計なお世話っていうんだよ。パパスさん」

「う……むぅ」

「そんなに難しく考えなくたって、なるようになるもんさ。もしかしたら相手だって喜んで付いていくかも知れないじゃないか。大切なのはお互いの気持ちさ。ま、ビアンカはあれで結構なお転婆娘だから、トラブルや冒険には目の色輝かせるかもしれないがねぇ」

「それは、おかみさんからすればむしろ、気がかりなことなのでは」

「だから、さ。そのときはうちのビアンカをよろしく頼むよ。パパスさん」

 

 派手に背中を叩かれ、パパスはむせた。

 

 親の様子を、二人の子どもは不思議そうに眺めていた。

 

 

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