【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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161.ポートセルミの港

 

「陸が見えたぞぉー! ポートセルミだ!」

 

 見張りのひとりが繰り返し声を上げる。

 モーリエから連絡を受けたアランは、船首部分に立ってその姿を捉えた。水平線に現れた陸地の帯。深緑の中で一際眩く映える建造物が見える。

 あれがポートセルミの港だろう。

 まだ距離が残っているこの場所からでもビスタ港とは比べものにならないくらい大きなところだということがわかる。

 アランの周囲に仲間モンスターたちが集まってきた。ここ数日で船旅にも慣れ、ようやく元気を取り戻した様子である。

 

 港に近づくにつれ、船影も増えてくる。ほとんどが小・中型の商船だが、ときおりセント・パルトネール号に匹敵するほどの大型船も見た。

 海上を行く船は皆、こちらに注目しているようだ。

 

「ふふん。注目されるのは悪くないわね」

 

 手すりの上に立ち、メタリンが得意げに鼻を鳴らす。隣ではスラリンが跳ねていた。そんな二匹をブラウンが引っ掴み、「落ちる。危ない」と言った。

 

 やがてセント・パルトネール号は入港した。洋上で確認した通りポートセルミは広大で、船着き場は一つや二つではなかった。大小様々な容積の船を受け入れられるように区画分けがされているのだろう。港の端には巨大な灯台も見えた。

 船はポートセルミ港の中央部にある屋根付きの船着き場に向かってゆっくりと進んだ。周囲のものとは明らかに造りが違うその建造物には、赤色でこう大書されていた。

 

『ようこそ 出逢いと旅立ちの街 ポートセルミへ』

 

 

 

 モーリエに礼を言い、アランたちはパトリシアと馬車を連れて埠頭に降りた。

 

「ようやく到着しましたね」

 

 ピエールが言う。若干の安堵が滲んでいた。歴戦の勇士と言えど、慣れない船旅は堪えたらしい。アランは微笑んだ。

 モーリエいわく、ここは大型船専用に作られた空間で、入港できる船は限られているらしい。建物の内装は豪華で、まるで天まで届く巨大な神殿の中にいるような錯覚を抱く。

 昔はただ風雨をしのぐためだけの設備しかなかったのが、とある大富豪が自らの所有する船をポートセルミに常時停泊させるために大規模な改築工事を行い、今の姿になったそうだ。当時、要した費用のほとんどをくだんの大富豪が負担したという。

 今ではポートセルミのちょっとした観光名所になり、ここに入港できること自体が一つの社会的地位を表すようになっていた。

 そんな状況で下船したのだから、当然目立つ。

 

 アランはあらかじめ変化の石を主だったメンバーに配っていた。ピエール、サイモン、クックルは馬車の外、体の小さな他のメンバーは馬車の中で大人しくしているよう言い含めている。

 初めて来る別大陸の港だから、スラリンたちは馬車の中から興味深そうに外の様子をうかがっている。「注意しましょうか」とたずねるピエールにアランは首を振った。馬車の中にはブラウンとコドランがいる。ちゃんと手綱を握ってくれるだろう。

 

 出口に向かって歩いていると、行商人の男に声をかけられた。

 

「そこの格好いいお兄さん。ちょっと寄って行きなよ。ポートセルミの新名産『ボトルシップ』。こんな精巧な品は他にはないよ。来港の記念に、どうだいひとつ」

 

 アランは『ボトルシップ』を見た。透明な瓶の中に白い砂が敷き詰められ、その上に豪華客船を象った精巧な模型が据えられている。帆は本物そっくりだし、舵まで備え付けられている。

 

「へえ。凄いね。これ」

 

 何よりアランが驚いたのが、瓶の口が細くすぼまっていて、そこから模型を入れるのは到底不可能な構造になっていたことだった。

 

「これ、どうやって作ったんですか」

「小さな部品をひとつひとつ、この口から入れて作るんだよ」

 

 自慢げに行商人は言った。彼自身の手作りらしい。ますます驚いた。

 

「おくらですか?」

「ひとつ一〇〇〇ゴールド。安いものだろう」

 

 結構な金額である。旅の支度のことを考えると、あまり金は使えない。スラリンたちが喜びそうだから、余裕があれば買おうと思っていたのだが。

 行商人はアランの迷いを見抜いたようだ。

 

「じゃあお兄さん、こういうのはどうだい。今日のところは三〇〇ゴールドで構わないよ。その代わり、金に余裕ができたら残りを払っておくれ」

「え、いいんですか」

「普通なら駄目だが、ここを訪れるお客さんはみな『それなり』の方ばかりだからね。お兄さんが乗ってきたあの船、普通の客船や商船とは違う気がするし」

 

 アランは曖昧にうなずいた。結局、行商人の言う通り三〇〇ゴールドで購入する。隣でピエールが小さくため息をついていた。

 

「毎度あり! 欲しい物を欲しいときに買う。これも立派な買い方のひとつさ。後で後悔しても遅いからね」

「まあ、そうですね」

「そんなしょぼくれた顔しなさんな。本当、お金はいつでもいいから。幸い、ウチにはお得意様がいるから、売り上げにはそう困っちゃいないし」

「お得意様?」

「ほら、あそこだよ」

 

 行商人が指差した先に数人の人だかりができていた。セント・パルトネール号の隣に接岸した巨大な船の下である。そのうちの一人は派手な格好をした女性で、彼女が中心になって指示を出しているようだ。

 行商人は言った。

 

「あの色っぽい女性がわかるかい。彼女がボトルシップを購入してくださるお得意様だよ。模型の元となった豪華客船の持ち主、ルドマンさんのご息女、デボラさんだ」

 

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