【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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162.デボラの魅力

 

 その人物を一言で表すなら『豪華絢爛』。そして『豪放磊落』。

 そこらの海の男より豪快で押しが強いというのが、このデボラという女性だった。

 

「いーかい、アンタたち。あたしの言ったこと、ちゃーんと仕上げておくんだよ」

「任せてくだせえ、デボラ姐さん」

 

 屈強な男たちが揃って胸を叩く。その顔は満面の笑みであったが、どことなくいたずらを思いついた子どものような表情でもある。デボラは彼ら以上に『にんまり』とした笑みを浮かべていた。不思議と卑しさは感じられず、むしろ愛嬌を感じさせるのが彼女の人柄である。

 

 羽根飾りのように豊かな黒髪、深い谷間を作る抜群な量感の胸、柔らかさと張りを感じさせる脚――男性なら誰もが目を留める素晴らしいスタイルを、鮮やかな桃色の衣装で包んでいる。保養どころか目に毒だと思えるほど露出が多いのも特徴だった。

 デボラは自分の魅力を十分に知っていて、時折ポートセルミを訪れては夜のステージに冗談半分で参加することもあった。飽きっぽい彼女はすぐに止めてしまうのだが。

 

 デボラは今年で二十歳。生涯の伴侶を見つけてもよい時期なのだが、本人はまったくその気がなく、子ども思いなことで知られる父ルドマンは半ば諦めているため、この年齢まで浮いた話のひとつもない。

 彼女にかかれば大抵の男は伴侶ではなく、奴隷扱いされてしまうからだ。

 こうして単身でポートセルミまで遠出できるのも、彼女の行動力と押しの強さ、そして見た目以上の腕っ節の強さに寄るところが大きい。

 そんなデボラが今夢中になっているのが『船』であった。

 

「未開の陸地を行くのもいいけど、これからは海よ、海。大海原! 遙か彼方の水平線よ」

 

 デボラは拳を握る。

 

「いつかパパの船をもらったら、すぐに出発するんだから。それまでにあたし好みに改造しておかなきゃ」

 

 父ルドマンは、言わずと知れた大商人である。ここポートセルミの港を整備した功績を称えられ、港の一角は彼専用のスペースとして常時確保されている。今日、デボラが訪れたのはその一角、ルドマンが所有する遠洋航行船の停泊場所である。

 彼女は船員たちと個人的に親しくなっていた。もちろん、いざ航海に出たときに自分の手足として使うためである。

 

 船員のひとりが尋ねた。

 

「ですがお嬢。この船はゆくゆく譲り渡されることになっているとか聞きましたぜ」

「ああ、あれ? パパが言ってたのよ。『船は将来の嫁入り道具だ』ってね。あたしかフローラか……まああたしはないだろうけど、とにかく結婚相手に気前よくあげちゃう気なのよ、パパ」

「え、それじゃあ駄目じゃないっすか」

「馬鹿ね。そんなことさせるわけないじゃない。それに、あのパパが結婚相手と認めた男にわざわざお古の船を下げ渡すなんて考えにくいわ。きっと新しい船でも造るわよ。あたしはこの船でじゅうぶん。アンタたちもいるしね」

「お嬢ぉ!」

「あーはいはい、泣かないの。大の大人がみっともない」

 

 海の男の禿げ頭を叩く。この気さくさも彼女の魅力だった。商人の娘としてなかなかに頭も切れる。

 

「結婚相手といえば、やっぱあいつですかい。フローラさんの幼馴染の」

「アンディのこと? さあ、どうかしらねえ。あいつ影が薄いから、まずパパに取り合ってもらえるかどうか疑問ね。選ぶのはフローラだけど、あたしとしちゃあアンディはないわ」

「そらまた、どうして」

「だって下僕にするには頼りなさ過ぎるもの。アンディ」

 

 さらりと言ってのけるデボラに男たちは苦笑する。確かに、妹の婿となればまず間違いなくデボラにこき使われるだろう。

 船から若い船員が駆けてきた。

 

「デボラさん、お部屋にボトルシップの飾り付け、終わりました!」

「ありがと。早いじゃない」

「へへっ」

「しかし姐さん、ボトルシップがそんなに気に入ったんですかい」

「まね。あれって手作りでしょ。ひとつひとつ微妙に形が違うのよ。結構見てて飽きないし、何よりうちの船だし、気分いいのよ、並べて眺めてると」

 

 へえ、と船員たちはつぶやく。飽き性の彼女にしては珍しいことだった。

 ボトルシップといえば、と若い船員がつぶやいた。

 

「さっき、ボトルシップを買った若い男がデボラさんのこと見てましたよ」

「そうなの? ま、ほっときゃいいわ。いつものことだし。いちいち気にしてちゃキリがない」

「デボラさん、みんなの注目ひとりじめですもんねえ」

「騒ぎたい奴は騒がせておけばいいの。あたしはあたし。つまらない男ならこっちから願い下げだし」

 

 デボラは踵を返した。

 

「さ、立ち話はこれくらいにして、部屋の様子を見せてもらおうかしらね」

「あ、はい。じゃあこっちに。良い感じに仕上がってるんですよ」

 

 船員たちに連れられ、デボラは船の中に入っていく。海風が彼女の黒髪を撫で、そこから薫る匂いに船員たちは顔を緩ませるのだった。

 

 

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