【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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163.情報を求めて

 

 アランが声をかける間もなく、デボラと思しき女性は船内に消えて行った。

 

「ちらっとしか見えなかったけど、やっぱりあの人はデボラ」

「何だいお兄さん、デボラさんと知り合いなのかい」

「ええ。小さい頃に、少し」

「そりゃ驚いた。男相手じゃたいてい奴隷扱いだからなあ、あの人は」

 

 目を丸くする行商人にアランは自分の記憶を探る。彼女の当時の言動を思い出すと、その評判もわかる気がした。

 

 デボラに続き乗組員たちが船内に入り、桟橋が上げられる。できるなら挨拶でもと思っていたアランは肩を落とす。

 

「元気そうなら、それでいいか」

 

 行商人に別れを告げ、アランたちは港を出た。

 

 目を細める。

 白い砂浜に白い壁。街全体が自然光の反射でまばゆく輝いている。風や波を防ぐため壁面は頑丈に作れられている。街の各所には深緑色の葉を繁らせた高木が立ち、爽やかな景観を彩っている。

 ポートセルミ中心部の道は、馬車が数台行き交えるほど広くゆったりと作られている。これだけ大きな港なのだから、交易が盛んなのだろう。大陸各地からやってくる荷馬車が円滑に、安全に進むことができるよう配慮されているのだ。人の多くは商人か船乗りだったが、まれに豪奢な衣服を纏った貴人も通りすぎる。アランはラインハットの目抜き通りを思い出した。

 

「さて、どうしようかな」

 

 広い街だ。物資も豊富である。旅の準備を整えるにはもってこいだが、さすがに長い船旅の直後で買い物に歩き回ることは躊躇った。仲間モンスターたちが根を上げてしまう。

 リーダー役のピエールもアランと同じ考えだったらしい。落ち着いて進言してくる。

 

「まずは宿を取り、皆に休息を与えましょう。街での情報収集、物資の調達は我々だけでもよろしいかと」

「僕も同じ考えだ。そうしよう」

 

 頼れる右腕の言葉にうなずき、アランは宿を目指した。

 

 街の北東部、一面から大洋を望む海辺の宿屋に到着する。馬車を預け、帳場で宿泊の手続きをして、あてがわれた部屋に向かう。

 室内に入ると、メタリンを始めとした面々はそれぞれが気に入った場所に陣取って体を休め始めた。油の切れた松明のようにぐったりとしている。アランは苦笑する。

 ピエールとサイモン、そしてブラウンに同行を頼む。残ったメンバーにアランは声をかけた。

 

「じゃあ皆、戻ってくるまでここで大人しくしているんだよ」

「ほぉーい。いってらぁ」

 

 完全に脱力しきったメタリンの声を背に、アランたちは部屋を出た。

 帳場に降りると宿の主人が顔を上げ、微笑んだ。

 

「おや、お客さん。お出かけですか」

「ええ。旅に必要な品を揃えようかと思って」

「それはいい。ポートセルミは物資の宝庫、きっとお客さんが必要とするものが手に入りますよ。ああ、そうそう。ここには酒場もございますので、そこでじっくりと情報収集することもできますよ。うちのマスターは物知りですから」

「ありがとう。後で寄らせてもらいます」

 

 宿を出ようとすると、ピエールに声をかけられる。

 

「アラン、よろしければ街での物資調達は我々にお任せください。貴方はここで情報収集をされるのがよろしいでしょう」

「いいのかい?」

「構いません。必要なものの目星はついております。変化の石があれば、街の者に咎め立てされることもありません。サイモン、ブラウン。貴女たちも問題ありませんか」

「任せて」

 

 ブラウンが請け負う。さまようよろいも静かにうなずく。

 パーティの中でも特に頼れるこの三人がいれば大丈夫だろう。

 

「わかった。じゃあ君たちに任せるよ」

「承りました」

 

 仲間モンスターと別れ、アランはひとり、酒場のカウンターに向かう。日中ということもあって人の数はまばらだった。好々爺然としたマスターの真正面に腰掛け、アランは飲み物を頼む。酒は苦手だった。

 

「お客さん、この街は初めてですか」

 

 柔らかな口調でマスターが尋ねてくる。

 

「ええ。仲間と一緒に今日着いたばかりで。ここは活気があって、良いところですね」

「ありがとうございます」

 

 話していて気持ちの良いマスターだった。アランは本題を切り出す。

 

「マスター。貴方は伝説の勇者について何かご存じではないですか」

「伝説の勇者、ですか」

「おとぎ話ではなくて、本物の勇者が今どこにいるか。それを知りたいのです」

「それはまた。大変なものをお探しだ」

 

 困ったように微笑みながら、マスターは手元の器を拭く。

 

「魔王と呼ばれる存在が滅びてからずいぶんと経ちますからね。私も仕事柄、色々な伝承、噂を耳にしますが、いまだかつて『勇者様を見た』という方にはお逢いしておりません」

 

 ただ――と、マスターは続ける。

 

「勇者様が使っていたとされる聖なる盾を知っているとおっしゃる方は、時々こちらにお越しになられます」

「本当ですか」

「お得意様です。その方はよく、夜のステージをご観覧なさるので、その時にまたおいでになるのはいかがでしょう。わたくしどもの宿の目玉ですよ。ほら、ホールの中央に舞台があるでしょう。あそこで定期的に、専属の踊り子たちが踊りを披露するのです。ちょうど今日はクラリス嬢、もっとも人気のある踊り子が出演する日ですから、お逢いできる可能性は高いと思いますよ」

 

 マスターは片目を瞑った。

 

「せっかくですから、その折はぜひ貴方もステージをご覧になってみてください。きっと楽しんで頂けます」

 

 

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