【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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169.彼女のが残る理由

 

『それでチロルさ――チロル。ご相談というのは?』

 

 ビックアイが尋ねると、チロルはゆっくりと岩場を降りてきた。表情は辛そうである。

 

『また食糧が足りなくなってきた。だから今度確保する量の相談と、私が留守にする間の監視をお願いしたいのだけれど』

『まーたー?』

 

 嘆息するドロヌーバをビックアイが殴る。まほうつかいは顎に手を当てながら言った。

 

「しかしのうチロル。毎度思うが、お前さんがそこまでする必要があるかい」

『爺の言う通りです。我らが食する分については十分なのですから、わざわざ貴女が人里に出て行く必要はない』

『それーにーぃ』

 

 殴打されて地面に広がっていたドロヌーバが言う。

 

『チロルはー、たべものーを奪ってくるとき、いつーもー辛そうだーよー。やめたほーがーいいよ』

『……そうね』

 

 チロルはうなだれた。落ち込む彼女を見たビックアイが再びドロヌーバを殴る。『貴様はもう少し時と言葉を選べ!』『えええー……』と騒ぐ二匹を余所に、まほうつかいが再び諭す。

 

「お前さんが来てから、ここはずいぶんと平和になったわい。それは間違いない。じゃがの、だからといってチロルが全てを背負う必要はないのじゃ。もっと言えば、ここに留まる必要もないじゃろうて。洞窟でキラーパンサーはお前さん一匹、じゃがほれ、お前さんぐらいの美貌なら、キラーパンサーの巣に行けばモテモテじゃぞ。古今東西の知を身につけた儂が言うのだから間違いない」

『ありがとう』

 

 チロルは髭を揺らして笑った。そして洞窟を振り返る。

 

『だけど、私はここを離れるわけにはいかない』

「それは、お前さんがここに来たときに持っていた『あの剣』が関係しているのか?」

『ええ。とても大事なものだから。あの剣を奥の奴らに押さえられている以上は、駄目』

 

 我知らず唸り声を上げるチロル。口角から牙が覗く。普段は思いやりに溢れる瞳が獰猛な獣の光を宿す。

 まほうつかいはため息をつき、チロルの首を軽く叩いた。

 

「頑固なところは誰に似たんじゃろうな。まあ、任せておけ。それにしてもままならぬもんじゃわい。チロルのためを思うならば無理にでも剣を奪うべきなんじゃろうが、今のこの状況だからこそ平穏が保たれていると考えると、皮肉なもんじゃ」

『口惜しい。あの剣さえなければ、チロルは自由なのに』

『ビックアイ』

 

 チロルが目を細めて職人気質のモンスターを睨む。普段強面の彼は途端に萎縮して頭を垂れた。

 

 それから四匹は一度住処に戻り、食糧調達の算段を始めた。奥に棲むモンスターの中で話の通じる者と情報交換し、必要な分をチロルが近くの人里――カボチ村まで奪いに行くのである。本当ならもっと大人数で行けば効率が良いのだが、村人を傷つけたくないというチロルの意志を通した結果、彼女一匹が骨を折る結果になっていた。『顔を立ててやるから、その分働け』というのが奥のモンスターの言い分なのだ。

 大まかな調達量を把握したチロルが出発のための準備をしているとき、突然洞窟内に警告が響いた。

 

『大変だ。人間が攻めてきたぞ。一匹だ』

『余所者もいるぞ。こっちは多い!』

 

 チロルたちは顔を見合わせた。『余所者』とは別地域に棲んでいるモンスターのことを指す。だがなぜモンスターが人間と一緒に攻めてくるのだろう。

 

「ほほう。なるほどこれは珍しい。魔物使いか」

 

 まほうつかいが意味ありげに言った。ビックアイが大きな目を細めて怪訝そうに老人モンスターを見る。

 

『何だそれは』

「読んで字のごとくってお前さんらは文字が読めなかったな。我らモンスターの邪気を祓い、味方に引き入れる能力を持った人間のことじゃ。おそらくやってきた余所者はみな人間の味方じゃぞ」

『要するに裏切り者ということではないか』

「ま、そうとも言えるが。良いのか、ビックアイ。お前がチロルの前でそのようなことを言って」

 

 凍りつくビックアイ。チロルがかつて人間と共に冒険していたことを彼も聞き及んでいた。恐る恐るキラーパンサーを見た。彼女は怒った様子はなかったが、表情は真剣だった。

 

『この時期に来るということは、やはり村の人間か、あるいは関係者と考えるべきかしら』

「じゃろうな。大方、村人が金で雇った傭兵といったところじゃろう」

『まほうつかい。傭兵というのは人を攫ったりする者のことか』

 

 チロルの口調に変化があった。

 眉をひそめながらまほうつかいは首肯する。

 

「そういうことをする輩もいるじゃろ」

『では洞窟の奥でたまたま剣を見つければ、躊躇なくそれを奪うこともあるか』

「あるじゃろうな」

 

 うなずくまほうつかい。

 

 そのとき、さらなる警告の声がした。

 

『奴ら手強いぞ。奥に行かれた』

『チロル!』

 

 ビックアイが声を上げたときには、すでにキラーパンサーは火炎色の鬣を翻して洞窟の奥へと駆け出していた。

 

 

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