【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
17.アルカパの大きな宿屋
「アルカパだーっ。お母さん、早く早く!」
「ビアンカ。あんまり急ぐと転ぶよ」
「お父さんに早くお薬持っていってあげなきゃ!」
まさに飛び跳ねるようにビアンカが走る。その後ろを、口では注意しながら笑顔で追いかけるおかみ。彼女らの視線の先には木々の深緑と、色鮮やかな民家の屋根がある。
サンタローズから南西へ歩くことしばらく。山と森と草原に囲まれた場所に、ビアンカたちの町、アルカパはあった。
先を行くビアンカとおかみの後ろ姿を見ながら、パパスがつぶやく。
「ビアンカは心優しい子なのだな」
「うん。ビアンカはやさしいよ」
アランがうなずくと、なぜかパパスは苦笑を浮かべた。首を傾げるアランに、パパスは「何でもない」と言った。
街に入ると、整備されたレンガ造りの道が延びていた。道沿いの建物はみな石造りで、サンタローズと比べると町の様子も規模もまったく違う。アランは素直に驚く。
「すごいね、アルカパって」
「この辺りでは一番大きな街だろう」
「ここよりもっと大きなまちがあるの?」
「あるさ。少し遠いが、ラインハットはここよりもさらに大きい。世界にはまだまだたくさんの街があるのだ」
「うわぁ。僕もいつか行きたいなあ」
物珍しさからアランは忙しなく辺りを見回す。晴れ渡った空から降りてくる風は心地よく、歩くたびにこつこつと鳴る石畳が楽しくて、アランは笑いながらスキップをした。
しばらく歩くと、道の突き当たりに大きな建物が見えてきた。敷地の中に建物が二、三軒入ってしまいそうな程だ。大人の背丈の半分ほどしかないアランは、目の前に現れた建物にあんぐりと口を開けた。
「これがビアンカのご両親が開いている宿屋だ」
「えっ!? ここがビアンカのおうち!?」
「待たせては申し訳ない。急ぐぞ、アラン」
パパスに連れられ、扉をくぐる。その重厚な音に再び驚く。
建物の中に一歩踏み入れた途端、外とは違う空気がアランの肌に触れた。どこか暖かみがある、不思議な感覚だった。
受付カウンターを横切り、奥にある部屋へと向かう。そこがビアンカたち家族の居室だった。
入ってすぐ、ビアンカがパパスたちを奥へと案内する。
「いま、お母さんがお薬をあげています。話もできるって、お父さんが」
「うむ。ありがとう」
ビアンカの案内で寝室に入る。おかみさんに介抱され、宿屋の主人が横になっていた。
「ごほ……おお! パパスじゃないか……ごほごほ」
「ほらあんた。まだ薬を飲んだばっかりなんだから、安静にしてな」
「ダンカン。具合はどうだ?」
「なに、ただのカゼさ。心配かけてすまなかったな……ごほごほっ」
「ウチのひと、気は大きいのに身体が弱くてねえ。まったく情けない」
「はは。しかし大事ではなくて安心した。サンタローズの薬はよく効く。おかみさんの言うとおり、安静にしているのがいいだろう」
「ごほ。それよりパパス、今度の旅の話を聞かせてくれないか――」
旧知の仲なのか、話に花を咲かせるパパスたち。邪魔をしては悪いとアランはそっと寝室を出た。同じように部屋の外で待っていたビアンカと顔を合わせる。彼女は肩をすくめた。
「やっぱり、大人たちのお話ってながいのよね」
「うん。でもしかたないよ。ひさしぶりに会ったんだから」
「お父さん、寝込んでからはあんまり笑わなかったけど、いまはとってもうれしそう。だからそっとしてあげましょ。あ、そうだ。アラン」
ビアンカが手を合わせる。
「もしお外に行くなら、いっしょに行きましょ。アルカパの街を案内してあげる」
「え? ほんと?」
「うん。お薬のお礼もしなきゃ」
満面の笑みを見せるビアンカに、アランは喜んでうなずいた。