【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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170.現れた凜々しき獣の瞳

 

 時の流れによって風化した自然洞窟は、魔物の巣と呼ぶに相応しく、湿気と邪気に満ちていた。人の出入りが途絶えているため洞窟内に道らしい道はなく、不規則な形の岩場が延々と続いていた。風穴から不気味な音も聞こえてくる。アランたちは松明を使って周囲を照らしながら進んでいた。

 

「ここは粗暴な輩が多いですね」

 

 ピエールがつぶやいた。右腕の言葉にアランはうなずく。

 洞窟に到着してから一時間ほどが経過していた。

 

 内部はとても馬車が進めるようなところではない。アランは探索組と待機組の二つにパーティを分けた。彼に付き従うのはピエール、メタリン、ブラウン、コドラン、ドラきちの五匹。できるだけ闇目が利き、気配に敏感で、なおかつ狭い空間でも立ち回れる者たちを選んだ。

 これまでのところ、アランたちは難なく敵を退けている。ただ奥に進めば進むほど、魔物たちの攻撃は頻繁に、そして激しくなっていた。アランたちへの剥き出しの敵意は、確かにピエールの表現した通り、乱暴で荒々しかった。

 

 その一方でアランは違和感を覚えていた。魔物の騎士に尋ねる。

 

「何か変だと思わないか。洞窟の入口と奥では雰囲気が違うように感じる」

「そうですね。おそらく、戦いを好む者と好まざる者との住み分けがされているのでしょう。神の塔と同じように」

「それよか、目当てのバケモノってのはどいつよ。それらしい奴はいないんだけど。こんなところとっとのおさらばしたいのに。まったく」

 

 メタリンが怒って言う。襲いかかってくる敵がとにかく粗暴な言葉を吐き続けていて、いい加減うんざりしていたのだ。

 

「アラン。この様子じゃ、あんたが思ってるような説得はやるだけ無駄かも。こんだけ乱暴なヤツらが揃ってるんだもの。きっと例の奴もあたしたちの話なんて聞きゃあしないわよ」

「わかってる。どうしても説得が無理なら戦うしかない。カボチ村がこれ以上の被害を受けないためにも」

「やれやれ。あんな人間どものためにアランが頑張る必要なんてないんじゃない」

 

 メタリンが言うと珍しく彼女の意見に仲間たちは賛同した。彼らは少なからず村人に対して反感を抱いたのだ。

 しかし、アランは首を振った。

 

「放り投げるわけにはいかないさ。皆、もう少し頑張ってくれ」

「はいはい。心配しなくてもちゃんとやるわよ。で、どこまで進む気?」

 

 メタリンが尋ねる。アランはしばらく前方に目を凝らした。

 

「とりあえず一番奥まで行ってみようと思ってる」

「……マジ?」

「それが貴方の直感ですか」

「ああ。何だか胸騒ぎがするんだ。大きな、とても大きな気配を感じる」

 

 ピエールの問いかけに答える。メタリンがぶるりと震えた。

 

「ちょっとちょっとちょっとぉ。怖いこと言わないでよ。アランの勘はただでさえ当たるんだから」

「メタリン。ここは主の言う通りにしましょう。それに、何も悪いこととは限らないでしょうから」

「そうだといいけど……」

 

 やがて一行は洞窟の突き当たりの大きな空間に出た。敵モンスターを振り払い、松明で周囲を照らす。すると空間の中央部分に自然の(ほら)があることに気づいた。

 アランが額の汗を拭う。ピエールが声をかけた。

 

「ずいぶんと汗をかいています。気配が、近づいているのですか」

「わからない。さっきから心臓が鳴って仕方ないんだ」

「わかりました。ブラウン、コドラン、ドラきち」

 

 すぐさまピエールが仲間たちを振り返り、指示を出す。

 

「ここから先、最大限の警戒を。ささいな変化も逃さないように」

「ちょっとピエール。あたしには何の指示もないってどういうことよ!?」

 

 頬を膨らませてメタリンが抗議の声を上げる。ピエールとブラウンが揃って振り向いた。

 

「貴女の仕事は説得が失敗した後です。それまで大人しくしているように」

「わかった? メタリン」

「ね、姐さんまで。うう」

 

 ぶつぶつ言いながらも彼女は口を閉じ、アランの肩に大人しく身を寄せた。

 

 アランを先頭に慎重に進む。ピエールたちは襲撃や異常事態に備えて神経を尖らせていた。一方、アランは別の意味でひどく緊張していた。

 ――さっきから胸騒ぎが続いてる。何なんだろう、この胸を締め付けられるような苦しさは。

 

 洞の前までたどり着く。内部は大きめの山小屋ほどの広さがあった。隅に濃い闇が沈んでおり、中の詳細まではわからない。

 何かに導かれるようにアランが松明を洞の奥に向けたとき、ドラきちが甲高い声を上げた。すかさずピエールが言う。

 

「アラン、警戒を。敵が近づいてきます。一匹」

 

 直後、軽やかで力強い足音とともに何者かがアランたちの頭上から襲いかかってきた。咄嗟に飛び退き、その攻撃を躱す。

 

 戦闘態勢に入ったピエールに守られながら、アランは襲撃者に向けて松明を突き出した。橙色の光が闇を切り取り、一匹の魔物を浮かび上がらせた。

 

 黄金に見まがう体毛と炎のような(たてがみ)、力強さと美しさを兼ね備えたしなやかな体付き。凛々しい豹顔には鋭い牙がのぞき、敵意を剥き出しにしていた。喉から響く獰猛な唸り声は、並の人間ならば耳にするだけで卒倒してしまうだろう。

 

「地獄の殺し屋キラーパンサー。なるほど、おそらくこの者がカボチ村を襲った張本人でしょう」

「ひぃぃっ。こんなおっかない奴を説得すんの!?」

 

 メタリンが震える声で驚く。他の仲間も相手の迫力にひるんでいる。

 

 ただ。

 アランだけがまったく異なった印象を抱いた。

 ――綺麗な瞳をした()だな。

 

 

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