【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
陽気なマーリンに、ブラウンとガンドフは顔を見合わせる。
「なんか心配」
「オォオ」
「それも同感」
意外に気が合うようだ。アランは安心した。
ピエールがアランの前に進み出る。
「それではここを脱出しましょう。長居は好ましくありません。『彼ら』に囲まれてしまうでしょうから」
視線の先にモンスターたちが集まっていた。皆、敵意をむき出しにしてアランたちを睨んでいる。
メタリンがげんなりとした声でつぶやいた。
「あんな数と戦うの? やだなあ」
「戦う。抜け出すために」
「オオオ」
ブラウンとガンドフが声を揃える。
チロルが一歩前に出て、アランを見る。
戦おう――彼女の意思を感じ取ったアランは、ひどく懐かしい気分になった。十年前の光景が脳裏に甦って来る。
口元が緩んだのは一瞬、アランはまなじりを決した。
「行くぞ、チロル」
「があぁう!」
キラーパンサーの凄まじい咆哮が洞窟内に響き渡った。アランとチロルは同時に地面を蹴り、敵の直中へと突撃する。
それはまるで、失われた時間を埋めるような動きであった。
敵も、巣を蹂躙されたまま見過ごすことはできないとばかり、気勢を上げる。だが個々の力の差は歴然としていた。その上、アランとチロルが息を合わせたときの戦闘力がいかほどのものになるか、荒くれ者たちは完全に見誤った。
呪文を織り交ぜ真正面から敵の猛攻を受け止めるアラン。
しなやかな体を縦横無尽に躍動させ、敵を翻弄するチロル。
勝敗は決した。仲間モンスターたちが呆気に取られる中、彼らはたった二人で幾多の敵を撃退してしまったのである。
マーリンの先導で洞窟を出る。そこで待っていた馬車組と合流した。増えた仲間、特にチロルの姿に仲間たちは驚いていた。
互いの紹介もそこそこにアランたちはカボチ村へ出発する。村の食物を奪っていたのがチロルであるということはすでにマーリンから聞いた。ならもう村が襲われることはない。依頼が達成されたことを村人に報告しなければならない。
村に辿り着いたときのことを想像し、仲間たちの表情は一様に晴れなかった。
そんな中、ガンドフとブラウンはマーリンの指示に従い、パパスの剣を鍛え直す作業に入っていた。
洞窟を出て数日後。
休憩場所に作った急ごしらえの鍛冶場で、マーリンは鍛冶屋の頭よろしくガンドフとブラウンの前にふんぞり返った。
「これだけの名剣じゃ。ちょちょっと手を入れるだけですぐに前の切れ味を取り戻すじゃろう。ほれ、まずはじゃな」
「ガンドフ、そっち」
「オォ」
「ガンドフ、あっち」
「オォ」
「……聞いとるか、お主等」
マーリンをよそに二人は自らの作業に没頭する。
ガンドフは手先の器用で、その上職人気質なモンスターだった。ブラウンとは相通じるところがあるのか、今も息の合った作業姿を見せている。
その様子をつまらなそうに見つめているのがメタリンであった。彼女はいつものように一緒にいるスラリンを相手に愚痴をこぼしていた。
「まったく、姐さんったらあのデカブツにかまってばかり」
「仲良いよねー、あのふたり」
「何ノンキなこと言ってんのよスラリン。このままじゃブラウン姐さんがただの腑抜けになっちゃうわ!」
何をそんなに怒っているのかとスラリンは目を瞬かせた。彼はメタリンの背後を見て、言った。
「そんなことないと思うけどなー。ねえブラウン」
「そうね」
ぴょん、とメタリンが飛び跳ねた。
「げげっ、姐さん!?」
「誰が腑抜け?」
顔を引っ掴まれ、いつものように折檻されるメタリン。ぎゃーぎゃー騒いでいたが、どことなく嬉しそうでもあった。
仲間の様子をアランは微笑んで眺める。彼の傍らには洞窟を後にしてからずっとチロルが寄り添っていた。
「がる」
「『乗って』とチロルが言っていますよ、アラン」
「はは。そうか、今はもうチロルの方が体が大きいんだっけ。うん、ありがとう。でも大丈夫だからさ」
アランは正面を見据える。視界の先には小さく、数軒の粗末な民家が並ぶ村が見えていた。アランの笑みが曇る。
「もうカボチ村につくからね」
「がるる、ぐるるぅ」
「それは駄目だ。君が行けば村は混乱するはず。ここは僕だけで行くよ」
いかにアランであっても人の言葉を喋れないモンスターとの意思疎通は難しいはずであったが、ことチロル相手に関しては驚くほどすんなりと互いの意志を通じ合わせてしまう。通訳不要な様子にピエールは肩をすくめた。
「あ、ああ……!」
声に顔を上げる。そこにいたのはカボチ村の住人だった。見覚えがある。アランが村に入って初めて出会ったあの男だ。背負っている籠を見ると、おそらく野草でも取りに来たのだろう。
男の目はしっかりとチロルを捉えていた。ピエールが小さく「不覚」とつぶやく。
「ひぃぃーっ」
「待って!」
アランが呼び止めるが遅かった。男は脱兎のごとく逃げていった。チロルたちにこの場で待っているよう固く言い含め、アランは村へと走っていった。