【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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175.【仲間モンスター回】再出発の前に

 

 カボチ村を出発して数日後。

 一行は再びポートセルミの港を訪れていた。ボトルシップの支払い、天空の装備についてのさらなる聞き込みなどをこなすためだ。

 魔物の巣での探索を経てパーティが増えたため、宿の一室では到底全員収まりきらなくなった。モンスターたちは街外れの安全な場所で羽を伸ばすことになった。

 これはアランとピエール、そしてマーリンが所用で出かけていた間のことである。

 

 

 

『どうしたの、メタリン』

 

 魔物の巣にいたころの習慣で周囲の見回りに出ていたチロルは、戻ってくるなり首を傾げた。彼女の視線の先、木陰の下でメタリンが頬を膨らませて拗ねていた。その横では弟分のスラリンと、最近ようやく皆と一緒にいることに慣れたというホイミンが揃って寝息を立てている。ヌーバまでだらしなく体を広げていた。

 

 同じく木陰で休んでいたクックルがくちばしで海辺を示す。

 

『あれですわ、あれ』

 

 見ると、ブラウンとガンドフが武器を片手に熱心に話し込んでいた。パパスの剣の鍛え直しはすでに終わっており、新たな持ち主であるアランに渡してあるが、二人はその後も事あるごとに議論を交わしている。

 

『チロルお姉様、ガンドフという方はいつもああですの?』

『ええ。まあね。彼はとても手先が器用だから、戦いよりも道具や武器の作成に興味があるのは知っている。どうやらブラウンも同じ興味を持っていたようね。それよりクックル』

『はい? 何でしょう』

『その、チロルお姉様っていうのは止めてもらえない? 私はこの中では新参者なのだし。何だかこそばゆいわ』

『何を仰いますか!』

 

 何故かクックルは勢い込んで立ち上がった。

 

『誇り高く孤高の存在であるキラーパンサーでありながら、アラン様と深い絆で繋がっているお方、しかもこれだけの美しさを兼ね備えているとなれば、これはもう最上級の敬意を表するに値しますわ! お姉様という呼称すらまだ生ぬるいくらいです!』

『そ、そう。ありがとう……と言っていいのかしら?』

『クックルは綺麗なものに目がないんだな』

 

 ドラきちが木の枝にぶら下がりながら言う。彼はポートセルミの熱気と日差しが少々苦手らしい。

 

『ということで、チロルお姉様をより気高く呼び表すための表現を絶賛募集中ですわ!』

『ちょっとは落ち着いて下さい、クックルさん』

 

 クックルの頭上で羽ばたき、コドランが言った。騒ぐお嬢様に手を焼く付き人といった様子にチロルは苦笑した。

 

『本当に兄さんの周りは賑やかになったのね』

 

 深い感慨を込めてつぶやく。

 

 盛り上がる仲間たちからそっと離れ、チロルは停めてある馬車に向かった。パトリシアが顔を上げるが、すぐに足元の草を食べる作業に戻る。キラーパンサーの自分が近づいても小揺るぎもしない。無口で忠実な彼は、ある意味もっとも勇敢な者かもしれない。

 馬車の傍らにはもう一人の騎士が寡黙に佇んでいた。仲間たちを背に、侵入者がいないかずっと見張っているのだ。

 

『お疲れさま、サイモン』

『チロル殿。貴女も、見回りお疲れ様』

 

 さまようよろいは緊張を少し緩めた。凛とした立姿はまさに騎士の中の騎士。アランにとってピエールが将を兼ねた宰相ならば、サイモンは鉄壁の親衛隊長といったところだとマーリンが言っていた。

 

『周辺は特に異常なかった。そちらはどう?』

『ああ、こちらも。チロル殿が危惧していたような追跡はなさそうだ。油断はできないが、警戒水準はもう少し下げてもいいかもしれない』

『用心しておくに越したことはないわ。あの洞窟の魔物は気性がとても荒いから』

『同感だな。索敵能力は貴女の方が上だから、いざというときは遠慮なく報せてほしい。すぐに助力に向かう』

『お願い』

 

 性格的に近いものがあるからだろう。サイモンとは非常に気が合うし、話しやすい。ヌーバやガンドフ、マーリンとはまた違う友人関係と言えた。

 

『ところでチロル殿、貴女にひとつ相談したいことがあるのだけれど』

 

 ふとサイモンが言った。彼女には珍しく遠慮がちである。

 サイモンの視線の先にはブラウンたちの姿がある。

 

『彼女らがどうかしたの』

『もともとはブラウン殿から受けた相談なのだが……』

 

 サイモンは前置きした。

 

『ここに来る途中、ガンドフ殿が送り壺の話を聞いたそうだ。それでアラン様が造ろうとしている魔物たちの楽園に興味を持って、そこで自分の技術を生かしたいと言ってきたらしい』

『そんな世界を兄さんが? そうね、確かにガンドフなら興味を持つ話でしょうし、彼に似合っている』

 

 うなずきながらチロルは薄々話の流れを把握した。

 

『つまりブラウンは、ガンドフと一緒にその世界に行くかどうか迷っている、と?』

『戦いに関してはいくらでも助言できるが、私はこういう方面には疎いんだ。どう話をするべきか掴めない。チロル殿に相談をするのも難しいことだと思ったのだけれど、他にこういう話を気軽にできる相手がいなくて』

 

 サイモンは言葉を濁した。彼女もまた、チロルと自分が似たもの同士だと思ってくれているのだろう。つまりお互い『どうするのが最良かはわからない』ということだ。

 

『……やはり兄さんの判断になる、のかしら』

『貴女もそう思うのだな。わかった。私から――だと主様に伝えられないから、ピエール殿を交えて話を上げてみる』

 

 複雑な心境を抱えながら、二人はブラウンとガンドフを見つめた。

 

 

 その後。

 サイモンから報告を受けたアランは直接ブラウンとガンドフに話を聞き、彼らの意向を確認した。アランは「君たちの好きなようにしていい」と言ったが、「君たちが楽園造りに力を貸してくれるなら心強い」とも言った。チロルの隣でマーリンが「ブラウンの気持ちを後押しするために敢えて言った台詞じゃろうな」とつぶやいた。

 

 そして――ブラウンとガンドフ、ヌーバの三人がモンスター爺さんの元に送られることになった。メタリンは珍しく泣いて引き留めたが、ブラウンの決意は変わらなかった。

 

「迷惑、かけちゃ駄目よ」

 

 そう言い残し、彼女は送り壺の中に入った。光がブラウンたちを包み、そしてその姿を取り込んでからもずっと壺を見続けるメタリンがチロルの印象に残った。

 親しい者との別れは自分にも経験がある。その辛さはよくわかる。

 

「逢えなくなったわけじゃない。オラクルベリーに行けば、またいくらでも話ができるよ。そのときに君が頑張っている姿を見せてあげればいい」

 

 アランはそう言ってメタリンを慰めていた。

 

 それからしばらくの間メタリンの口数は極端に減ったが、スラリンの存在もあってやがて彼女は立ち直った。

 古参の仲間が抜けた一行は、一路西を目指して出発した。ポートセルミで入手した情報により、勇者が持っていたという『盾』が遙か西のサラボナという街にあるということを突き止めたからだ。

 まずは中継地点である街、ルラフェンが次の目的地となった。

 

 

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