【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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18.繋がれた『猫』

 

 金髪のお下げが歩く度に弾んで揺れる。鼻歌まで歌って、ビアンカは楽しそうだ。その後ろを付いて歩くアランも心が躍る。思わず「ふふっ」と笑った。

 

「? どうしたのアラン」

「ううん。何でもないよ」

 

 振り返ったビアンカにアランは手を振った。まさかビアンカの後ろ頭を見ながら楽しんでいたとは言えない。

 もちろん、それ以外にもアランにとってアルカパは楽しいものばかりだった。

 

 まず、街を歩く人の数が違う。サンタローズも季節によって村人の服装は変化するが、アルカパの人々は色とりどりの、多様な衣服を身に付けていた。旅人も訪れるのだろう。時折、鎧兜に身を包んだ大男も通る。

 

 建物の立派さは案内される前にも目にしていたが、よくよく見ると大きさや形がそれぞれ異なっていることに気づく。平屋建て、窓も少ししかないこぢんまりした家もあれば、大きな煙突から引っ切りなしに白い煙を出し続ける家もある。ビアンカの家である宿屋は街の中で一番大きな建物のようだった。

 

 そして何よりアランが驚いたのが、道ばたに植えられた綺麗な花の数々だ。特に街の中心部にある教会には、建物の周囲を一周するように花壇が作られていて、アランの心をとらえた。

 春に似つかわしくない寒さに見舞われているのはアルカパでも同じだったが、少なくとも街の様子は寒々しさとは無縁だった。街と村の双方の空気を保った、不思議な街だった。

 

 道具屋、武器屋などに顔を出し、教会のおじいさんの長い話に苦笑いを浮かべ、酒屋のお姉さんに「逢い引きだ」とよくわからない単語を言われながら、アランはすっかりこの街に魅せられていた。

 

 だが、街の南にある小さな広場にさしかかったとき、初めて楽しい気持ちにかげりが差した。

 

 『猫』の唸り声が聞こえた。明らかに警戒し、威嚇している。

 声の方を見ると、アランと同じか、それより少し年上の少年が二人、猫を取り囲んでいた。

 彼らは手に持った棒で猫を突っついている。猫はさかんに威嚇の唸りを上げているが、いかんせん身体が小さい上、弱っているのか動きに力がない。首に巻かれたひもが広場に突き立てられた棒に繋がれ、猫は逃げることもできない状態だった。

 

 彼らの姿を見た途端、ビアンカが声を張り上げた。

 

「こらぁっ! 何やってんの!」

「げ、ビアンカ!?」

 

 少年の一人が狼狽える。ビアンカは鼻息荒く彼らの側まで近づいた。びし、と眼前に指を突きつける。

 

「そんな可愛い猫さんいじめて、何が楽しいの!」

「いや、だってなあ」

「こいつ、面白い声で鳴くんだぜ」

 

 言うが早いか、少年が棒で猫をつつく。すると「ふがなぁおう」という鳴き声が漏れる。

 

 やめなさい、とビアンカが言うより早く、アランは少年から棒をひったくった。むっとする少年を真正面から睨む。気圧された少年たちが一歩下がり、ビアンカが驚いた表情をする。

 

 アランは猫に目を向けた。全身泥だらけ、毛は乱れ放題、身体つきもどこかげっそりしている。

 だがアランはその姿に眉をしかめることなく、ただじっと猫を見つめた。

 猫もまた真っ直ぐにアランを見つめ返す。

 綺麗な目だな、とアランは思った。心の中で語りかける。

 

 君は、誰?

 どこから来たの?

 僕と友達になれるかな?

 

「アラン?」

 

 ビアンカに声をかけられ、我に返る。猫との間に少年たちが割り込んだ。

 

「と、とにかくこいつは俺たちが見つけたんだ。俺たちのだ」

「何言っているのよ。いまスグはなしなさい!」

「えー……」

「うーん。じゃあ、こうしようぜ!」

 

 いかにも名案、と言わんばかりに少年が手を叩く。

 

「お化け退治さ!」

「え?」

「アルカパの北にお城があるのは知ってるだろ? そこに出るんだってさ。夜な夜なお化けが。そいつらを追いはらったら、この猫はあげるよ!」

「それはいいな! お化け退治だ、お化け退治!」

「い、いいわよ。そのかわり、お化けを退治できたらちゃんと猫ちゃんをはなしてあげるのよ!」

 

 売り言葉に買い言葉か、ビアンカが怒り心頭に宣言した、その脇で。

 アランはじっと、猫の瞳を見つめていた。猫もまた唸り声を上げるのをやめ、アランの視線を受け止めている。

 

 ほら行くよ、とビアンカに襟首をつかまれ、引っ張られる。去り際、猫が「なぉん」と小さく鳴く声が聞こえた。

 

 

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