【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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19.小さな二人のたくらみ

 

 襟を引っ張られるままだったアランは、ビアンカが宿とは反対方向に歩き出したことに気付いて声をかけた。

 

「ビアンカ、もしかして今からいくつもり?」

「決まっているじゃない! 猫ちゃんを助けなきゃ!」

「それは、そうだけど」

 

 アランは言葉を濁した。怖じ気づいたわけではない。ただサンタローズでの洞窟探検の経験から、このまま何の備えもなく突撃することに不安を覚えたのだ。

 正直なところは――アランもビアンカと同じ気持ちだ。あの子を助けたいと思う。それも、とても強く。

 

「おや、おふたりさん。どこへ行こうというんだい?」

 

 街の出入り口まで来たところで、門番の兵が声をかけてきた。さりげなくアランたちの行く手を塞いでいる。ビアンカは両手を腰に当てて声を荒げた。

 

「猫ちゃんを助けるの。ここを通して、門番のおじさん」

「何を言っているのかよくわからないが、外は危険だ。子どもふたりだけで外へ出すわけにはいかないな。さあ、お家に帰りなさい」

 

 やんわりとした口調ながら、断固として通そうとしない。サンタローズのおじさんとは全然違うなとアランは思った。

 隣でビアンカが唸る。すると突然、彼女は駆け出した。あろうことか、門番の股の下をくぐって抜け出そうとする。

 が。

 

「こらこら。レディがそんなことをするのは感心しないな」

 

 ひょい、と首根っこを押さえられ、そのままアランのもとまで連れてこられる。慣れた手つきだった。

 

「まったく。相変わらずお転婆だなビアンカちゃんは。そんなことだと大きくなってお嫁にいけないぞ?」

「ほ、ほうっておいて!」

 

 頬を膨らませてビアンカが言う。顔を赤らめているところを見ると、本人は結構気にしているのかも知れない。

 押し問答も効果はなく、ふたりは渋々その場から引き下がった。

 

「どうしよう。これじゃあ外に出られないわ」

「大人の人にたのんだらどうだろう? お父さんと一緒なら、あのおじさんも通してくれるかも」

「ダメよ! 大人と一緒にお化け退治をしたら、あいつらゼッタイ猫ちゃんをはなしてくれないわ。どうせお前らがやっつけたんじゃないだろう、って」

 

 ビアンカの言うことももっともだったので、アランは黙り込んだ。

 ふたりして頭を悩ませている内にビアンカの家に辿り着く。彼女はため息をついた。

 

「こうなったら仕方ないわね。今日は何が何でも、パパスおじさまにうちに泊まってもらうよう、お父さんたちに言ってみる。当然、アランも泊まるでしょ?」

「そうなると思うけど……あ」

 

 あることに気づいたアランは口元を押さえた。

 

「まさかビアンカ、夜にこっそりぬけ出すつもりじゃ」

「うん、正解。よくよく考えたら、お化けって夜出るものじゃない? だったら退治も夜しかできないかなって」

「そう、だね」

 

 二人は真剣な表情で頷き合った。宿の扉を開き、フロントに入る。カウンターから「お帰りなさい」と声がかけられ、ビアンカは何事もなかったかのように笑顔を返す。

 

 ちょうどそのとき、奥の部屋からパパスが出てきた。アランとビアンカの姿を認めると微笑む。

 

「おお、帰っていたか。すまぬなビアンカ、アランに街を案内していたと聞いたぞ」

「気にしないで、おじさま。私、とても楽しかったです」

「このお礼はまたいずれしなければな。ではアラン、そろそろサンタローズに帰るとしよう」

 

 パパスの言葉に、アランもビアンカも固まる。何と言おうか二人が悩んでいると、思わぬところから助け船が来た。ビアンカの母親だ。

 

「そんな! もう帰っちまうのかい、パパスさん! 一泊ぐらいしていっておくれ」

「その厚意は嬉しいが」

「ビアンカにアランの話し相手になるよう言っとくからさ。お願いだよ」

 

 パパスがちらりとアランを見る。ビアンカに肘でつつかれたアランは急いでこくこくとうなずいた。パパスが再び笑う。

 

「では、ご厄介になろうか」

「はい! さあさ、こちらへどうぞ。ちょうど良い部屋が空いているからね」

 

 嬉しそうにパパスを案内するおかみ。パパスに付いて歩き出そうとしたとき、アランの耳元でビアンカがそっとささやいた。

 

(それじゃ、夜にね)

(うん。わかった)

 

 

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