【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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天空の花嫁編
190.仲間たちの不安


 

 洞窟内から外に出ると、強い日差しが目を打ち付けた。手でひさしを作り、見上げた空は抜けるように蒼かった。

 ルラフェン地方とサラボナ地方を結ぶ巨大な(ずい)(どう)洞窟に入ったのは朝方だった。予想以上に洞窟を通る人々は多く、情報交換を重ねながら歩いていたら昼近くになってしまった。

 

「『噂のほこら』の人に助言をもらって正解だったね。出発時間が遅れたら、街に到着する前に日が変わっていたよ」

 

 洞窟を振り返りながらアランは言う。この間にも、出入り口からはひっきりなしに人が吐き出され、また飲み込まれていく。

 

「アラン。少しよろしいですか。サラボナに行く前にひとつ確認をしておきたいのです」

 

 ピエールが隣に立つ。彼の肩に乗っていたメタリンが、アランの頭に乗り移ってくる。

 

「アンタ、ほこらを出てから妙にそわそわしてない?」

「そわそわ? どうしてそう思うんだい」

「だって洞窟にいる間中、いろんな奴に話を聞きまくってたし。そりゃあ、探してる何とかの盾の情報を集めたのはわかるわよ。けどそれにしたって、サラボナの街に辿り着いてからでも遅くなかったんじゃないの」

「目的地のことや、盾を持っている人の情報を集めるのは大切なことだと思うけど」

 

 仲間の様子に戸惑うアラン。ピエールは言った。

 

「その盾の持ち主とされるルドマンという男、あなたの知己だと聞きました。彼の愛娘である二人の女性とも親交があると」

「フローラとデボラだね。うん、そうだよ」

 

 別に隠す必要はないのでアランがうなずくと、メタリンが大きく息を吐いた。チロルまでもがどことなく不安げに喉を鳴らす。

 アランは彼らが何を心配しているのか理解できない。

 

「いったい、どうしたのさ」

「どうしたもこうしたもないわよ。アンタは何とも思わないわけ? これから絶対手に入れなきゃならないモノが、よりによって知り合いの手にあるのよ。そんでもって、そいつのとこには年頃の女が二人もいる」

「だから?」

「天空の盾を餌にして、あなたを婿に迎えよう。先方がそう主張してきたときのことを、我々は危惧しているのです。それについて、あなたがどうお考えなのか聞いておきたい」

 

 アランは首を傾げ、それから小さく吹き出した。

 

「何を心配しているのかと思えば。大丈夫だよ。ルドマンさんはそんな無茶は言わない」

「がうっ。がるる、がう」

「何だいチロル。君も心配してるのか。君だってルドマンさんには会ってるだろ。あの人がそんな人じゃないくらい、わかるじゃないか」

「『会ったことがあるからこそ心配だ』と、彼女は申していますよ。チロルに聞きました。かの御仁は気に入った者に対してかなり強引に話を進めるそうではないですか」

 

 アランは口を閉ざす。そういえば十年前にフローラがそんなことを言っていた。

 

「いや、だけど。たとえルドマンさんが押しの強い人でも、いきなり僕を婿になんて考えないよ。他に相応しい人がきっといるだろうし、第一、あれからもう十年以上も経っているんだ。きっと忘れられているさ」

「これだからあなたは。いいですか、あなたはご自身の魅力と、亡き父上の傑物ぶりを過小評価しています。私に言わせれば、ルドマンなる男があなたを縁談相手の候補に選ぶことは十分に考えられるのです。英雄は人の心と記憶に残るのですよ」

 

 しばらく考え、アランは表情を引き締めた。

 

「わかった。心に留めておくよ。でも天空の盾を手に入れることと、縁談の話とはまったく別物だ。それが僕の考えだよ。いいかい、ピエール」

「それを聞いて安心しました。あなたがそのように決めているなら、我らがやることはひとつです」

 

 再びきょとんとするアラン。忠実な魔物の騎士は力強く宣言した。

 

「相応しい女性が現れるまで、余計な虫からあなたを守りましょう」

「ま、そういうことね」

「がるる」

「ギャア、ギャア!」

「クルックー!」

 

 いつの間にか他の仲間たちまで集まってきて、ピエールに賛同していた。

 唯一スラリンだけが反論する。

 

「みんなー。だからボクがずっと言ってるでしょ。アランなら大丈夫だって。ピエール、チロル、前にボクが『止めて』って言ったら、良いこと言ったって、褒めてくれたじゃないか。あれ、何だったの」

「気が変わったのです」

「そんなあ」

「ほっほっほ。まあ気にしなさんなスラリン。こやつらは我らの主のことが心配で心配でしょーがないのじゃから」

 

 マーリンが笑う。

 アランは軽く頭を押さえた。

 

「僕はそんなに女性にだらしない人間に見えるのか?」

「だらしなくないから心配なのです」

「それってどういう意味なんだよ」

「アラン殿、アラン殿。それは自分で考えないといかんやつじゃわ。ま、儂が思うにピエールたちの不安は当たらずとも遠からずといったところじゃろうて」

 

 馬車に引っ込みながらマーリンが言う。アランは仲間たちを見回した。全員がアランをじっと見つめていた。

 

「もし迷ったならば、古今の格言を思い浮かべると良いですぞ、アラン殿」

 

 笑みを貼り付けて、馬車の幌から顔を出すマーリン。アランと目が合うと彼はしたり顔で、「英雄色を好む」と言った。すかさずピエールが凄む。

 

「ふざけるならば引っ込んでいなさい。爺」

「ほっほっほ。怖い怖い。しかしそれくらいの思い切りは必要なのではないですかな。儂はそう思いますですぞ、アラン殿」

 

 マーリンは再び馬車の中に姿を消した。

 

 とりあえず皆を落ち着かせて、アランは旅を再開する。

 東には峻烈な山脈と森林、西には河が流れる自然豊かな場所だ。整備された街道のおかげで馬車は順調に進む。

 ――何だか、妙に緊張するな。ピエールたちのせいだ。

 河の向こうに見えてきた巨大な塔と、その下に広がる街並みを視界に捉え、アランは小さくため息をついた。

 

 

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