【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~   作:和成ソウイチ

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191.サラボナでの出逢い

 

 河岸を繋ぐ大きな橋を渡る。造りが強固なだけでなく、中央部が緩やかに楕円のアーチを描いていたり欄干に細かな意匠が施されたりと、見た目にもこだわりがあった。

 さすが商人の行き交う街だとマーリンが感心していた。

 

 もうすぐ街に入るというとき、アランは一人の青年が目にとまった。

 街外れにある大木の下で、なにやら落ち着きなく周囲を見回している。

 ゆったりとした貫頭衣と柔らかそうな金髪。商人や冒険者といった雰囲気は感じない。おそらくサラボナの人だろう。

 何やら困っているようなので、アランは近づいて声を掛けた。

 

「探し物ですか」

「え!? ええ、そうなんです」

 

 よほど集中していたのだろう。初めて気がついた、という顔で青年はうなずく。彼は、アランの背後に控える仲間モンスターたちを見て目を剥いた。

 

「あ、あの。申し訳ない。あなたが連れているのはもしかして」

「大丈夫。彼らは確かにモンスターですが、僕の心強い仲間です」

 

 穏やかな顔で答える。内心でアランは少し感心した。

 あらかじめ仲間には変化の石を持たせている。一般人の目には目立たないはずだ。それにもかかわらず、彼は一目でモンスターであることを看破したのだ。アランは青年に興味を持った。

 

「仲間……そうですか、仲間なのですか。それは羨ましい」

 

 青年が肩の力を抜く。目鼻立ちが、まるで細筆でひとつひとつ丁寧に描いたように整っている。やや頼りなさそうではあるが、「羨ましい」と言いながら微笑んだ彼の表情は優しげで好感が持てるものだった。アランと同年代のようだ。

 

「何か捜し物があれば、僕もお手伝いしますよ。日暮れまでなら時間がありますし。ああ、僕はアランと言います」

 

 名乗ると、青年は一瞬動きを止めた。眉根を寄せて考える仕草をする。アランは首を傾げた。

 

「どうしました?」

「あ、いえ。すみません。あなたのお名前をどこかで聞いたような気がして。気のせいかな」

 

 青年の言葉にアランは苦笑した。以前、ラインハットで大立ち回りをしている。ここは商人が集う街だから、そうした噂が届きやすいのかもしれない。

 

「申し遅れました。私はアンディといいます。この街に住んでいる楽師見習いです」

「楽師見習い?」

「ええ。将来音楽の仕事に携わりたくて。独学なのでなかなか厳しいですが。父と母にも無理をさせていますし。ほんと、親不孝な息子です。私は」

「そう、ですか。それで捜し物とは?」

「はい。あなたはリリアンを見ませんでしたか?」

「女性ですか」

「いえ、犬です」

 

 アランは思わず言葉を失う。アンディが苦笑した。

 

「サラボナでは結構有名な犬でして。私の腰ぐらいもある大きな犬なんですが、よく抜け出して家の者を困らせているのですよ。今回も私が見ている前で逃げ出して。しかも悪いことに私が大事にしている笛を取って行ってしまったんです。それで、リリアンがよく来る場所を探しているのですが」

「じゃあ、あなたが飼っているそのリリアンという犬を探せば良いのですね」

「そうなんですが、リリアンは私の犬じゃないですよ。ルドマンさんの家で飼われている子です」

「え!? ルドマンさんの?」

「さすがにあの方の名前はご存じですか」

 

 アンディは心なしか胸を張った。自分の故郷に有名人がいることを誇りに思っているのだろう。そういう感覚に乏しいアランは、彼のことを羨ましく思った。

 

「わかりました。とりあえず、リリアンの特徴をもう少し詳しく教えて下さい。空から探しましょう」

「空から?」

「仲間の力を借りるんです。ドラきち、コドラン。頼めるかい?」

 

 声を合わせて鳴く二匹。アンディからリリアンの特徴を聞いた彼らは一斉に飛び立った。アンディが呆けたように行方を見守る。

 

「よく懐いている」

「二人とも、とても素直な子ですから」

 

 アランは笑って応えた。

 

 ドラきちたちは意外に早く戻ってきた。彼らが言うには、街の入口近くでそれらしい犬が女の人と一緒にいるところを見たらしい。アンディは「行きましょう」とアランを促した。

 小走りになるアンディだが、もともと体力に自信がないのかすぐに息が切れてしまう。アランは彼に合わせてゆっくりと歩いた。

 

 街に入ると、目的の犬はすぐに見つかった。しかし、女性の姿はない。

 

「リリアン!」

 

 アンディが呼んでも、リリアンは顔を向けるだけだった。ため息をついてから、アンディはアランに頭を下げた。

 

「アランさん、ありがとうございました。危うく夜まで街の外にいるところでした」

「いえ。見つかって良かったです」

「アランさんはしばらくサラボナに滞在されるのでしょう。またお礼をさせてください」

 

 それでは、とアンディは踵を返す。微笑みながらその後ろ姿を見つめたアランは、やがて仲間を促して宿へと向かった。

 宿の扉に手を掛けたとき、アランは何気なくアンディの方を振り返った。

 ――アンディの元に、一人の女性が駆け寄る姿を見た。

 

 

 

「アンディ! どこまで探しに行っていたの? 心配したわ」

「フローラ!」

 

 駆け寄ってきた人物を見て、アンディが喜色を浮かべる。リリアンも嬉しそうに一声鳴いた。

 空のように蒼い髪を揺らし、華のような(かんばせ)に心配の色を浮かべたフローラが、リリアンとアンディの傍らに座った。

 

「もう。後先考えずに走るのは昔から悪い癖なのだから。はい、これ」

「あ、僕の笛!」

「汚れてしまっていたから、綺麗にしてきたの。それより本当にどこまで行っていたの」

「街外れの一本樹まで。リリアン、昔はときどきあそこまで行っていたじゃないか」

「あれはデボラ姉さんが無理矢理……」

「それで、辺りを探してたら親切な旅の人が力を貸してくれてね。空飛ぶモンスターを使って、君たちを見つけてくれたんだ。彼は凄いよ。モンスター使いなんて、まるでおとぎ話みたいだ」

「アンディったら。ちゃんとお礼は言ったの?」

「言ったさ。ほら、あの人だよ」

 

 今まさに宿に入ろうとした一団をアンディは指差した。

 

 先頭に立つ男と、目が合う。

 フローラの動きが固まった。

 

 彼女の様子にアンディは首を傾げ、それから思い出したように言う。

 

「そうそう。彼の名前を教えてもらったのだけれど、どこかで聞いたことがあるんだよ。フローラは知らない? アランさんっていう方なんだ」

 

 フローラは無言だった。じっとモンスター使いの青年に目を向けている。

 やがてぽつりと彼女は呟いた。

 

「アラン……さん?」

 

 その声を耳にしたように――。

 青年は小さくフローラに手を挙げると、そのまま宿の中へと消えて行った。

 

 

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