【伝記】ドラゴンクエストⅤ ~天空の花嫁~ 作:和成ソウイチ
打ち解けた空気の中で、しばらく談笑した。その後、アランはここに来た目的を切り出した。
「ところで、アンディさんは今どこに?」
コールズ夫妻は顔を見合わせた。彼らの話だと、ルドマン邸から帰ってきて、またすぐにどこかへ出かけたらしい。
「アンディさん、出かけるときに何か言ってませんでしたか?」
「いや。特に何も言ってなかったよ。なあ」
「そうねえ。ルドマンさんとこに行くためにいっとう良い服を着て行ったんだけど、着替えもせずにまた出て行っちゃったからねえ。もしかしてまだルドマンさんところじゃないかい? フローラに会いに行ったとかさ」
ラズリが言った。アランはメルフェの言葉を思い出し、黙り込んだ。
ルドマンのことだ。いくら幼馴染みだとしても贔屓はしない。だからアンディはフローラに会っているわけではない。
なのに彼は、着替えもせずにすぐに家を出た。
そして、あの表情――。
「アラン君?」
コールズが首を傾げる。無意識のうちに眉をしかめていたアランはすぐに愛想笑いでそれを隠した。「留守なら、また寄らせてもらいます」と告げ、席を立つ。
ラズリに呼び止められた。
「ねえアラン、もしかしてアンディはとんでもなく馬鹿なことをやろうとしているのかい?」
わずかに体を硬直させ、アランは言葉に詰まった。
もしアランの予想が正しければ、アンディは単身、炎のリングが眠るという火山へ向かっている。それも着の身着のまま、ろくに準備もせずに、だ。無謀極まりない行為である。
「そんなことありません。大丈夫ですよ」
精一杯の笑みを浮かべて言う。ここで彼らを心配させてはいけないと思った。子を思う両親ほど、大切なものはないとアランは身に染みて理解しているから。
いつの間にか、老夫妻は真剣な顔付きになっていた。アランの視線が泳ぐ。
しばらくして、ラズリが肩の力を抜いた。
「あたしらはもうアンディと一緒に歩き回れる歳じゃない。もしあの子が、あの子なりの勇気を出して何かに挑もうとするなら、あたしらはただ祈るしかないよ。後は、アンディが無事に帰ってきたときに温かいご飯と寝床を用意しておくことぐらいさね」
ラズリは立ち上がり、「あの子の部屋、掃除をしてこようかね」と言って二階へと上がっていった。コールズもまた無言で立ち上がり、近くにあった棚から小瓶を取り出して、アランへと差し出した。薬草を煎じ、封じたものだった。
「もしアンディに会うことがあったら渡してくれ」
静かな声だった。アランは言われるままに受け取る。コールズは微笑み、「ありがとう。無理言ってすまんね。アラン君」と言った。
アランはアンディ宅を出た。戸口を振り返るとコールズが小さく手を振っていた。視線を上げると、二階の窓からラズリがハタキを手に笑いかけてくれていた。アランは二人に頭を下げると、仲間の待つ宿に向かって歩き出す。その足取りは怒りすら感じさせるほどに力強かった。
「アンディさん……!」
彼がフローラにどれほど心を奪われ、一途に想っているかはよく知っている。そのために行動を起こす勇気も理解できる。
――だけど、貴方には、両親がいるじゃないですか。貴方を心配し、それでも貴方のすることを認め、無事に帰ってくることを信じて今できることをしてくれる両親が。
「無茶をすることは、僕が許さない」
やや乱暴に宿の扉を開ける。きょとんとする宿の主を尻目に、アランは自室へと急いだ。
「皆、出発の準備を! 今日中にサラボナを発つよ」
「あ、アランだ」
スラリンとメタリンが飛び跳ねながら近づいてくる。二匹にも旅の準備をするよう言い含めようとして、アランは仲間たちの戸惑った雰囲気に気づいた。
「どうした。何かあったのかい」
「あれよ、あれ!」
メタリンが言う。視線を向けると、そこには二人の人物が立っていた。一人は漆黒の髪を豪奢にまとめ、派手で露出の多い服に身を包んで、部屋の壁に寄りかかっている。アランは驚きの声を上げた。
「デボラ! どうしてここに」
「はぁーい、アラン。遅かったじゃないの。おかげで待ちくたびれたわよ」
戯けて言うデボラ。
「申し訳ないけど、今君の冗談に付き合っている暇はないんだ」
アランが言うと、デボラは訳知り顔でうなずいた。
「知ってるわ。アンディのことでしょ」
「どうしてそれを」
「あのね、フローラの幼馴染ってことは、あたしもあいつとは付き合いが長いのよ。あいつのやりそうなことはよーっくわかる。顔を見ればどんな馬鹿な事を考えているかぐらい、察しが付くわよ」
「それなら話は早い。僕は今からアンディさんを追いかける。火山に単身で、それもろくな装備も無しで向かうなんて無謀すぎる。説得して連れ戻すつもりだ」
「本当ですか、アランさん!」
その声に、アランはまたも驚いた。フード付きの外套を頭から目深に被っていたために顔が分からなかったが、声は間違いなくフローラのものだった。
フードを外し、鮮やかな空色の髪を見せた彼女は、その顔に心配と希望を同居させて懇願した。
「アンディが無茶をしないかと、ずっと心配していたんです。お願いです、アランさん。私たちも連れて行ってください!」